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旅⑧

灯の貧血も治り、先へと急ぐ事になった。

「あまり皆を待たせられないから」

灯はそう言ったが名残惜しそうだった

「デカイの、あんたがしっかりするんだよ」

たま婆さんはそう言って送り出してくれた、さっぱりした対応は歳の成せるものか

「餞別だ持って行きな」

そう言って渡してきたものは

「青汁・・・」

「ありがとうお婆ちゃん」

「良いんだよ元気でやりな・・・、デカいの、心配するな只の薬湯だよ」

灯とたま婆さんは抱擁を交わす、

「デカイのと居るのが嫌になったらいつでも来な、田舎暮らしも良いだろう?」

「うん・・・、また来るから」

「ババアが死ぬ迄に顔見せてくれたら嬉しいね」

「お婆ちゃん・・・」

「ほら、行きな、先を急ぐんだろう?」

「ありがとう」

「ああ、怪我と風邪に気を付けるんだよ灯」

「うん!」

大きく手を振って別れる、たま婆さんの対応がグレゴリと灯に対して差があるのは気のせいではない。


「たま婆さん、俺の扱い酷く無かったか?」

「息子みたいに思ってたんじゃない?遠慮が無いと言うよりは身内に対する接し方だと思ったけど・・・」

「いや、あれは使い勝手の良い奴が来たとうまい具合に使われた気が・・・」

「そうかなぁ?」


そんな話をしながら、歩いて遠ざかる二人の背中を見えなくなるまで見送っていたたま婆さん。

「あの二人気に入ったのか婆ちゃん、珍しく世話焼いていたようだけど?」

見張りの一人が言う

「娘を思い出していただけさ、男はついでだ」

「婆ちゃん子供居たのか」

「何処に居るんだか・・・」

「知らないのかよ、子供が居る場所」

神の恩寵(ギフト)なんざ要らなかったのに・・・」

「マジかよ、国に召し抱えられるあの話本当だったのか」

神の恩寵(ギフト)を手に入れた者は、保護の名の元に国や教会に拉致される、そんな噂話は昔からあったが当事者がこんなに近くに居るとは、驚く見張り。

「召し抱えるなんて大層な話じゃないさ、ほれ」

たま婆ちゃんが金貨を三枚取り出して見せる

「なんだ、随分古い金貨だな」

「娘の()()だとさ」

「は?嘘だろ」

「嘘言ってどうする、忘れもしないよ、あの騎士の顔、言葉、「金が欲しいんだろう?取っとけ、娘の代金だ」って」

「胸糞わりい・・・、なんだよそれ」

「30年も前の話さ、抵抗した旦那が目の前で斬り殺されて、それっきり・・・」

「・・・っ!!」

あまりの話に手に力が入る

「アンタが怒ってどうすんだい、昔の話と言っただろ」

「でもさ、酷すぎるだろっ、騎士なら身元とか・・・」

「無駄さ、平民の話が届く国じゃない」

そう言うたま婆さんの目には諦めが浮かんでいた

「その騎士は・・・」

「さあね、多分王都に行ったんじゃないかね、生きていれば騎士団長位にはなっているかも知れない、貴族の血筋らしいからね・・・」

「特徴は?」

「聞いてどうするんだよ、仇討ちでもしてくれるのかい?」

「ああ!」

「馬鹿だねえ、貴族を斬ってただでは済まないし、下手したら村が地図から無くなるよ・・・」

「う、、くそっ!なんだよ、それ!」

「あたしら平民は待つしかないのさ、天罰って奴をさ」

あの青い目をした騎士が生きているなら天罰を、死んでいるなら地獄で苦しみを、だがそんな事より何よりも娘の無事を。


灯、娘っ子のせいだ、血塗れの瀕死でこの村に来たから、斬られた旦那と連れ去られる娘を一緒に思い出しちまった。

「あの娘も何も無いと良いけどね」

「あの娘って灯ちゃんか、あの子もギフト持っていたのか」

「さてね、ギフトかどうかは知らないが国が欲しがりそうな気はするね、ま、デカイのが何とかするさ、その為にわざわざ発破掛けてやったんだ」

「婆ちゃん、だからグレゴリさんに厳しかったのかよ・・・、この事言ったのか?」

「王都に大切な人に逢いに行くって言ってるのに、そんな事言ったら不安を煽るだけだろ、デカイ方にしか言ってないよ」

「よりにもよって王都・・・」

「巡り合わせかね、あの娘の道がどうか穏やかなものである事を願うばかりさ」

その目はどこまでも優しく、灯の無事を案じていた。


「所で婆ちゃん、グレゴリさんに渡していたアレ、薬湯って言ってたけど特製のアレだよな?」

「ひひひ、よく見てたね」

「婆ちゃん、ありゃねえよっ!」

そう、グレゴリに渡した薬湯とは全くの嘘、中身はエグ味のエグいアレである。



グレゴリと灯は森を出ると相棒を呼び出す

「灯、今後移動は相棒で、夜は出来るだけ町に宿泊しよう」

「ん?うん」

「野宿は気が休まらんからな」

「お風呂とベッドある方が良いよね」

「ああ」

勿論、理由は灯の疲労を考慮しての提案である、入浴して屋根のある所でベッドで眠る、グレゴリは元々野宿や野営の経験があるので気にしていなかったのだが灯はそうはいかない、たま婆さんに指摘されたが

「あの年頃の娘が野宿で熟睡なんか出来る訳ないだろ、仕方ないから何も言わないだけで風や茂みの音だけでも寝れやしないよ、ましてや結界張っててもモンスターが居るんだよ、壁のあるなしで精神的疲労も違うんだ」

何処でも寝れそうなあんたと一緒にすんな!と言われた・・・

失礼な、まあ寝れるけど・・・


「あ、ゴリさん私もそっちに乗せて」

「どうした、シロにゃんは?」

「シロにゃんは大丈夫なんだけど、ちょっと移動中に魔法で詰めておきたい所があって・・・、ダメかな?」

「いや、構わないが・・・」

「ありがと!、って」

乗れない?

230cmのグレゴリを乗せる黒帝号、当然並の体格ではないので灯は足元にも及ばない、身長が・・・

仕方ないので灯の脇を抱えて馬に乗せてあげる

「ありがとうゴリさん、馬って高いね」

「ああ、具合悪くなったら言えよ」

「うん、ありがと!」

灯は礼を言うとポンと背中を預けてくる、娘が居たらこんな感じなのだろうか?などとくだらない事を考える

いや、この歳の娘だと

「お父さん臭い来ないで」

なんて、言われるのだろうか・・・

「ぐ・・・」

灯に言われたらきっと辛い、冷たい瞳で、心底嫌そうに、臭い、なんて言われたら・・・

一人で勝手に考えて、一人でダメージを受けるグレゴリ。

いや、灯はそんな娘にはならない筈だ、この子は優しい・・・

「?、行かないの?」

「あ、ああ、行こうか・・・、灯、そのままの君で居てくれ・・・」

「??、うん」

グレゴリの一人相撲である。


走り出して徐ろに灯は魔法を開発し始める

相変わらずグレゴリの目には暗号としか映らない

「何を創るんだ?」

「結界を戦闘中に使えないかな、って」

「結界?なんでまた・・・」

結界とは、野宿をする時に使う魔法で文字通り結界を張って外部からの干渉を遮断するものである。

モンスターや許可の無い人間のシャットアウトをする、それにより安全な野宿が保証される、だが

「アレは、戦闘中に使う様な代物じゃないだろう?」

「うん、消費も詠唱時間もそうだね、でも、もしアレを戦闘中に使いこなせたら強くない?」

結界魔法の効果は半日継続する、強度は術者によって変化するが下手なものでも並のモンスターの突破は難しい程だ、だが消費は激しく、詠唱時間も5分程と戦闘に使う魔法ではない。

「まあ、灯の魔力で使えたら無敵の盾になるんじゃないか?」

恐らく、魔法系極振りの灯と杖・神龍の瞳の組み合わせで使われる結界は誰にも破れないものとなるであろう。

「でしょ?だから、(シールド)と混ぜて、最高硬度の戦闘用結界を創ろうかなって」

盾は魔法で盾を創り出す、堅いが後ろからの攻撃をカバーする様なものでは無い

「何故そんな事を・・・」

「ほら、私今回怪我しちゃったでしょ?」

「いや、あれは・・・」

「ゴリさん、お婆ちゃんが全部ゴリさんが悪いって言ってたけど、やっぱり私のせいもあると思うんだ、地形の把握をして無かったし、私の紙装甲も問題だと思うの」

「・・・」

「私が弱点で有り続けるのは嫌だし、ね!」

「あまり無理はするなよ、寝不足なんて以ての外だからな?」

「うん!頑張るよ!」

笑顔で開発作業に戻る、灯は目標を定めるとそれに一直線だ、食事や休憩も忘れて魔法を弄っていた事もあり、それこそグレゴリが気を回さないといけない点でもある。


グレゴリの要求努力量がどんどん増えている気がしていた。

灯、あまり頑張ってくれるな、俺の立つ瀬が無くなる・・・

サポート魔法に相当助けられているのに、更に何かをしようとする姿勢には本当に頭が上がらない。



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