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旅⑥

診療所に運び込まれてから丸一日以上経ってから灯は目を覚ました

たま婆さんの見立てでは「出血と体力の低下による睡眠、腹を空かせば次期に目を覚ます」との事だった。


「っ、!?」

目を覚ますも身体が上手く動かない、辛うじて首がなんとか動かせるが声も出ない事に慌てる灯

「動くんじゃないよ、まだ完治してないし、かなり血を流したから貧血でぶっ倒れるよ」

疑問に答えたのはたま婆さん、状況からしてどうやら医者のようだと判断する。

ありがとう、そう口を動かすとたま婆さんは照れくさいのか

「あたしはたま、灯デカイのに話は聞いてるよ、それより自分がどうなったか覚えているかい?」

えっと、雪山でアイスベアーに襲われて、戦っていたら思い切り滑り落ちて、背中に衝撃を感じてから記憶が無い・・・

「?」

「覚えてないのか、アンタは氷の柱とデカイのに挟まれたんだ、死にかけてたんだよ、喉、いや胸を中心に潰されてた」

「!?」

そう言えば最後の記憶に、身体の内側からなにか嫌な音がしたような・・・

灯が驚いているとたま婆さんは続けた

「運が良かったね、他の治癒師(ヘボ)の所だったら傷痕残ってたよ、ここに来た時あんたはボロ切れより酷かったんだから」

ありがとう、改めて伝えるように口を動かす。

「気にすんなこれが仕事さ、それよりデカイのから聞いてるよ霊薬持っているんだって?」

僅かに首を縦に動かす、何をするにも重労働だ

「出しておきな、使いたいのに当の本人が意識無いんじゃどうしようも無いからね」

たま婆さんが手を差し出したので、その上に霊薬を出す。

魔法()と言っても本当の鞄では無く、異空間収納、持ち主の意思で物の出し入れが可能だ。

「確かに受け取った、けどこれは当分使わないよ、体力が落ち過ぎて今のアンタには毒と同じだからね、先ずは食って寝て血を作る、出来る事はそれだけだね」

こくこくと首を動かす灯、言われてみれば酷く眠気がある

「ゆっくり休みな、此処は安全だ」

ぶっきらぼうな口調から一転、そっと撫でてくるたま婆さん、その手はしわがれていたがとても温かかった。

そのまま目を閉じると眠気が勝り、ゆっくりと意識を手放した





ガチャ

「婆さん薬草」

無造作に部屋に入って来るグレゴリ

「あんた、女の部屋に雑に入って来るんじゃないよ、次やったらその身長30cm縮めてやるからね!」

「あ、ああ、すまない・・・」

婆さんの傍らに寝ている灯を見ると穏やかな寝息をたてていた

スー スー・・・

ずっと耳元で聴こえていたあの痛ましい呼吸音では無い事にホッとするグレゴリ。

「まだ、起きないのか?」

「さっき起きていたけど疲れて寝たよ」

「そうか・・・」


それから数日は安静に過ごした灯、たま婆さんの作る薬湯を何も言わずに飲み干していた、いや、まだ話す事が出来ないので当たり前か・・・

食事は薄い粥のみ、それでも胃と喉に負担を掛けるのか疲れたように寝付く。

「粥や薬湯が飲めるなら、霊薬で治るんじゃないか?」

「馬鹿だね、時間を掛けて治せるならそっちの方が遥かに良いんだよ、何でもかんでも魔法と薬に頼るんじゃない、それに体力が・・・、いや疲労だよ、随分疲れていた様だが?」

しまった、薮蛇だったかもしれない

そう思ったが後の祭り。

「旅の行程は?何処から来て、ここまで何日で来た、移動手段は?」

「・・・ハジッコから、五日程で、麓の森までは使い魔に乗って、後は徒歩で・・・」

そう言うと「何言ってんだこいつ」という顔がありありと浮かんだのが分かる

「アンタ、馬鹿なのかい?ハジッコから五日でここまで?そりゃあ不慮の事故も起きるし、疲れも溜まるよ、通常の足取りなら一週間、山越えにも三日か四日使うのに・・・」

「むう・・・」

「灯も黙って着いて来たのか呆れるね、疲労を自覚していたのか黙っていたのかは分からないけどね、そういう事も含めてアンタが気を回す所じゃないのかい?」

あまりに体力差があり過ぎて灯の疲労を見落としていた、そう指摘される。

「アンタら、立派な物身に付けている割には随分旅慣れて無いね、どっかの貴族か王族なのかい?」

「いや・・・」

流石に他の世界から来ました、なんて言える訳がない。

「まあ良いさ、あたしが言いたいのは、大人のアンタが舵取りしてやらないとダメだって事さ、そんな立派な身体なんだ女の子は守ってやらないと男が廃るってもんだろ?」

ポンとお腹を軽く殴って来るたま婆さん、その通りだと思った。

いつの間にか灯の魔法に、灯自身に頼り切って彼女への配慮を失っていた、どれだけ魔法の扱いが上手くても彼女は14歳の少女、そもそも旅をする様な体力も精神も持ち合わせていないのだから。

改めて深く反省したグレゴリであった。




二、三日後には動ける様になった灯だが、たま婆さんがまだ診療所に居ろと言ったので滞在していた。

「もう大丈夫だろう、霊薬飲みな」

コクリと頷き霊薬を飲み干す灯

「ん、はあ・・・」

「どうだい?身体は」

「あ、、ケホッ、コホッ、、だ、大丈夫です、たまお婆ちゃんありがとう」

「あたしゃ大した事はしてないよ、この子は声も可愛いねえ」

「そ、そんなこと・・・」

「あるんだよ、さて霊薬だから大丈夫だとは思うがね、一応身体を確認したいから脱いでくれるかい?」

「あ、はい」

上の服を脱ぎ下着も外す

「ココ、どうだい?」

グッと押して触診しては確認していく

「痛くないです」

「ここは?」

「大丈夫です」

「ふむ、傷痕も残らなかったし、良さそうだね」

「ありがとうございます」

「良いんだよ、まだ血は足りないだろうから、もう少しこの村でゆっくりしていきな、身体も疲れてるからね」

「うん」

そうして診断が終わろうとした時、


ガチャリ

「婆さん、薬草・・・」

「ひ」

ノックもなしにグレゴリは部屋に入って来たのだった・・・


そのせいで村へ叫び声は響き渡ったのである。

「すまん」

「えっち」


「すまん・・・」


良い所なしのグレゴリ、反省ばかりであった。

「二度目だ、とんだドスケベ野郎だね、本当に身長30cm縮めてやろうか?」

たま婆さんの後ろに修羅が見えた気がした。




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