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旅⑤

診療所に運び込まれた灯、診療台に寝かせられる。

「で、何がどうしてこんな怪我したんだい!」

「実は・・・」

一から説明する

雪山を徒歩で越えていた事

途中でアイスベアーに遭遇、戦っていたのは良いがアイスベアーの体当たりで自分の後ろに居た灯を氷柱に挟んでしまった事。

その時の速度、氷柱は半分程に砕けて折れた事


「この娘、よく生きていたね・・・、この服のお陰かね」

見た目は和装、その中身は黒龍装備で固めてある、恐らくこの装備で無かったら即死も有り得た。

「喉、消化器官、、骨に、内蔵もいってるかも知れないね」

「この娘を、頼む」

頭を下げてお願いするグレゴリ

「分かってるよ、取り敢えず出て行きな(あんた)が居たんじゃ治療も出来ない」

「はい・・・」

「この娘の名前は?」

「灯」

「そうかい、行きな」

怪我の確認には服を脱がす必要があり、男のグレゴリは邪魔になる、黙って診察室を出る。


外に出たグレゴリは見張りに声を掛けられる

「おい、あんたの連れが大変なのは分かるが話を聞かせて貰うぞ、悪いがこっちにも責任がある」

「ああ、出来ることも無いし構わない・・・」

そうして村長の家へと向かった

その間灯はたま婆さんの治療を受けていた。



「さて、灯とやら意識無い所すまないが、こっちも仕事でね、脱がすよ」

テキパキと服を脱がし、魔法と触診を併用して診断を進める

「・・・、いけないね、、ヒール」

やはり内蔵も損傷していた、取り敢えず内部の出血を止める、ぐっ、とある所を押すと

「ゲホッ、ゴホ、っ」

びちゃびちゃと血を吐く灯

「胃、食道、肺もか・・・、ヒール。」

命に関わる所から優先的に治していく、少しだけ顔色が良くなる灯

「骨も、折れて刺さってるね、あのデカイ奴のせいだね、可哀想に」

ヒールを掛けながら悪態を吐く余裕が出て来る、当面の危機は脱したようだった。

「ったく、こんな可愛い子を怪我させるなんて、後で説教だよデカイの」

ブツブツと文句は言っているがその手は止まらない、黒くなった痣も丁寧に痕が残らない様に綺麗にしていく、たま婆さん。

その技術は一流のものと比べても遜色ないレベルであった。


グレゴリが村長の家で事情を説明して診療所に戻って来た時には治療の殆どが終わっていた

「一日では治せないよ、身体に負担が掛かるからね、まあ一先ず死にゃしないから安心しな」

たま婆さんの言葉を聞き安心する

灯の顔は未だ白かったが、それは血を失ったからであり現在は表情も呼吸も落ち着いていた。

魔法と言えど限界はある、死人は生き返らない、死に掛けを治すのも限界がある、失った血は戻らない。

スー スー 規則正しく胸が上下しているのを見て力が抜ける

「ありがとう、恩に着る婆さん・・・」

「礼なんか要らないよ、それよりこの娘が起きたら謝るんだね、アンタ下手を打っただろ」

「・・・ああ」

「この娘、あたしの所に来なきゃ死んでたよ、自慢話じゃないがここら一帯の治癒師の中で()()()を引いて良かったね」

この事、実はウソだ。

他の治癒師でも治せた、けど傷痕は残っただろう、嫁入り前の・・・、いや女の身体に傷痕なんてたまったもんじゃない、その怒りからたま婆さん流の脅しだった。


「ありがとう・・・」

感謝してもし足りない、最敬礼で頭を下げる

「さて、こんな可愛い娘に怪我させたんだ、説教だよ坊や、来な」

ちょいちょいと指を動かし、奥へとグレゴリを誘導するたま婆さん、グレゴリ反省会が始まる。


「そこ、座りな」

「はい・・・」

何とも言えない迫力がある婆さん、自分がやらかした事もあり気分は下降線である

「説教だ、勝手に言わせてもらうよ」

もう、この時点で絶対ヤバいと思ったグレゴリ、勝手な事と分かっていて尚言わせてもらうと言う事は遠慮など皆無だと。

「アンタがあの娘を守んないでどうすんだい、そのデカイ身体は飾りか?盾役なら自分の後ろに何があるかくらい確認しな!」

正論だ、何も言えない。

事実、グレゴリは失念していた吹っ飛び(ノックバック)はゲーム時なら、ただ後方へ動かされるだけだった、後ろに壁やパーティーが居ようが物理ダメージ判定は無かったので特に意識を持っていなかったのだ、背中に灯が居て、後方へと吹き飛ばされる事の意味に。

当の灯も考えていなかったからこそ今回の怪我へと繋がった訳だが、通常のパーティーであれば盾役が敵を引き受けて直線上に他の人間は立たない事が基本、敵を確認しなければならないし、それぞれの動線を確保しなければならないからだ。

灯は低VIT低体力からグレゴリの肩に居る事を選択、グレゴリもそれを了承した以上、背中の灯を守るのは当然の責務と言えた。

「・・・」

「アンタ、山でアイスベアーに押し込まれたと言ったね、常に上を取っていればこんな事にならなかったんじゃないか?」

その通り、幾ら変異種で身体能力が優れたアイスベアーで体重があると言っても、グレゴリが山頂側に位置していれば十分止められたし、そもそも下から上へと登る為、体当たりの勢いも落ちて、受けるまでも無かった可能性さえあった。

「・・・」

「あの娘の服がどんなものかは知らないが大した物だね、並の装備だったら即死だったよ、気を付けな!ヒールポーションも霊薬も万能じゃない、飲めなければ効果は無いんだ、喉を裂かれた、胸、胃や腹を裂かれた人間は魔法と気功でしか救えない、回復薬を飲めないんだからね」

その事も失念していた点だった、ゲームでは薬を掛けても効果があったが今はそうでは無い、飲むしか方法は無い。

雪山で灯にヒールポーションを飲ませようとしたが、血と共に吐き出して無理だった・・・


「さてと、アンタ名前は」

「グレゴリだ」

「グレゴリ、アンタに仕事だ、あの娘の為に薬草取ってきな」

「薬草?」

「灯は血を流し過ぎた、血を作るには食べなきゃならない、だが内臓が一度傷付いたから食べ物をそんなに消化出来ない、体力が落ちているし身体を整えてやる必要がある、分かるね?」

「ああ」

「指定した薬草取ってきな、根も一緒にだよ」

「分かった、任せてくれ」

そうしてグレゴリは毎日薬草を取りに行く事になった。




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