過去④
「夏祭り?おお、行こうぜ」
「いってらっしゃい」
「楽しんで来て」
「何言ってんだよ、お前らも行くだろ?」
そんな事を言う瞬に鈴と陸二人共ため息を零す
「バカ」
「バカ瞬」
「いや、なんでだよ!?」
「良いから、灯と二人で行って来なさい」
「そうだ、こっちはこっちで行くから」
「という訳だ、灯行くぞ」
「え・・・」
何が、という訳なのか訳が分からない、取り敢えず夏祭りに行く事しか理解出来なかった。
「(外に出るのは)嫌か?」
「あ、その、(瞬兄と行くのは)嫌じゃないけど・・・」
幼馴染で大体察する間柄と言えど、全てを理解する事は出来ない
「なら行こう」
「うん、楽しみ・・・」
何処か不安そうな灯
「大丈夫、暗いし人も多い、花火が上がれば誰も気にしない」
「うん、そう、だね・・・」
そして夏祭り当日、迎えに来た瞬は灯を見て言葉が出なかった
「ゆ、浴衣か」
「変、かな」
「いや、似合ってる可愛い」
「ありがとう」
似合い過ぎる!今年になって背中まで有った黒髪が、今は肩までの長さでそれをアップにしてうなじが・・・
外に出て居ない事もあって、白い肌が、って何を俺は!
二人が顔を赤くして照れている所を、生暖かく見られている事は気付いて居なかった。
「若い、って良いわねぇ」
「瞬くん、灯の事お願いね」
「はい」
「あ、瞬くんなら良いからね」
「?、はい」
「うふふっ」
何やら意味深に光さんが言ったが意味は分からなかった。
「行こうか・・・」
「うん」
どちらともなく手を繋いで出掛けていく、それを物陰から陸と鈴が見ていた。
「アレで付き合って無いんだから驚きよね」
「瞬、鈍いから・・・」
「灯が可哀想」
「なんか、ごめん」
「なんで陸が謝るのよ」
「いや、弟として情けないな、と」
「情けないのは瞬でしょ」
「そだね・・・」
幼馴染の間で瞬の評価は下がるばかりであった、学校の評判とは真逆である。
たこ焼きを分けて食べ、射的をしたり、あそこの屋台は重りを入れてる、あっちの金魚掬いは金魚が元気過ぎる、等、くだらない話をしながら歩く。
それでも灯は楽しそうで、連れて来て良かったなと思う
「マジで?」
「マジマジ」
「嘘だろー」
同い歳くらいの会話がふと聴こえて来る
「っ!」
ビクリと灯が反応する、同級生か?
顔を合わせる訳にもいかない、そう思って木陰に引っ張る
「灯、こっち」
灯が予想以上に軽く、咄嗟の事もあり勢い余って瞬の腕の中に収まる
「お、っと、ごめん強過ぎたな」
「う、ううん・・・」
「・・・?」
「・・・!」
こちらに気付く事もなく同級生達は遠ざかって行ったようだ、と周りに意識を配っていた事で、今自分が何をしているのか遅れて気付く瞬
右手は灯の細い腰に、左手は後頭部に添えて、自分の胸に押さえ付けるようにしていた。
当然密着している事で、浴衣越しに体温と柔らかな感触が伝わっている、フワリと瞬へと届く柔らかく甘い匂い、灯は耳まで真っ赤にして固まっていた。
それはどこからどう見ても抱き合っている恋人同士である。
「っ!ごめん」
「ううん、大丈夫、ありがとう・・・」
慌てて手を離すとゆっくり離れる灯、その温もりが離れた事にどこか残念と思う自分に困惑する
(何考えてんだ俺、灯は妹みたいなものだろっ!)
何処か気まずくなるが、花火の時間が近い事を思い出し
「花火が始まるな、行こう」
「う、うん」
ぎこちなく手を握って見晴らしの良い場所へと向かう
ドーン・・・パラパラパラ・・・
ドドーン ドーン・・・
場所へと辿り着くと丁度花火が上がり始める
「綺麗・・・」
「ああ・・・」
先程の気まずさもいつの間にか霧散していて、手を繋いだまま無言で花火を見上げる二人。
ヒュルルルルル・・・ドーン・・・
ドーン ドーン ドーン・・・
「瞬兄」
「ん?」
「ありがとう・・・」
「ああ・・・」
一緒に過ごす穏やかな時間、久しくなかった気がする
二人で見上げる花火は綺麗で、握る手はとても温かかった。
ヒューー・・・・・・ ドーン
最後の一尺玉が上がり、花火が終わる。
「寂しいな・・・」
ぽつりと、誰に言うでもない、灯が小さく呟いた
多分俺に言うつもりではない程、か細い声だった
夏休みが終わる、ずっと灯の家へ集まって居たけどそれも休みが終われば難しくなる、そんな思いからだろうか。
その横顔は本当に悲しそうで寂しそうで、そんな顔を見たくなくて
「灯、俺がずっと傍に居る、だから灯も俺の傍にずっと居ろ、・・・な?」
しっかり言葉にして伝える、すると灯は目を潤ませて言う
「っ、ありがとう瞬兄、好き・・・」
「ああ、俺も灯が好きだぞ!」
安心しろ!もう二度と苦しい思いなんてさせない、そう決意して灯に応える。
灯の肌が全て真っ赤に染まっていた事は、花火も終わり暗闇もあって瞬は気付いていなかった。
そして
「あんのボケ瞬がっ!」
「鈍すぎ・・・」
「嘘でしょっ!?ずっと傍に居るって言っておいて、灯が好きって言ってるのに何アレ!信じらんない!」
ロケーション、タイミング、雰囲気、どこからどう誰が見ても告白のそれであると言うのに、アレ!
「陸!」
「はい・・・」
「陸はアレを見て、まさか瞬と同じじゃないでしょうね!」
「いや、そんなまさかでしょ・・・、灯の告白、瞬が完全に煽っておいて」
「そう!あのボケ!自分でアレだけ煽った癖にっ、灯の告白を、」
「・・・」
ボロカスに貶される兄、瞬だが全く持ってフォロー出来ない陸
鈴の形相は瞬を呪い殺さんばかりだ。
その日、瞬の評価は地を這った、流石に灯の中でも下がった、少しだけ。
「鈴姉、俺は鈴姉の事好きだから」
唐突に言い放つ陸
「っ!何言ってるのいきなり!」
フイと顔を逸らして歩き出す鈴
「私も・・・」
ポソリと鈴が口から零す
「え?」
「何でもない!」
先を行く鈴の耳は赤く染まっていた
うん、これは伝わっているから大丈夫、そう思う陸であった。




