過去③
それからは本当にキツかった、無理して引き攣った笑いを浮かべる灯を見るのが。
1番辛いのは本人だが、痛々しくて・・・
話していても「うん」「そっか」「分かった」と兎に角会話が続かない、何かを隠しているのは明白だったが無理に聞こうとは思わなかった。
夏休みに入り、あまりの距離の取り方に顔を見せない方がいいかも知れないと思い始めた頃、転機は訪れた
夏休みの課題を皆で解いていた、灯もいつまでもこのままでは駄目だと思っているのか、参考書を片手に問題集を解いていたりしていたのだが
「、っひ、、く、」
ふと、聞き慣れない音がして課題から顔を上げると、灯がぼろぼろと大粒の涙を問題集に零し泣いていた。
問題集に涙が落ちて歪んでいく
皆、無言だったが
「灯、どうしたの?」
鈴が努めて優しい声を掛ける、それが引き金となったのか
灯が大泣きする
「う、ぐぅっ、う、、、ううっ、あああっ」
「灯・・・」
そっと抱き締めると、灯が力いっぱいに抱き着き返す
「ごめっ、なさ、、ごめんなさいっ!」
誰に向けたとも分からない謝罪、泣き疲れて眠ってしまうまでずっと謝り続けていた
「わたし、ひっ、、わる、いの、」
鈴はずっと灯の髪を優しく撫でていた。
どれくらい経ったか部屋が静かになる
「泣き疲れて寝ちゃったわ」
「ベッドに運ぶ」
起こさない様に優しくベッドへと運び寝かせる
誰だ、灯をこんな風に追い詰めたのは
誰が、ここまで灯を泣かせた
灯が何をした?
腫らした泣き顔を見ながら、そんな事を考えていた瞬に
「瞬、ちょっと」
鈴に呼ばれて部屋を出る
「何?」
「光さんが話あるって」
光さんからの話は驚きの内容だった
本人が行きたいと言うまで学校行かせるつもりは特にない
今プログラマーの簡単なアルバイトをやっていて頑張っている
学校行かなくて良い、って・・・、と絶句していると
「今、灯が学校へ行く事はあの子を幸せにしないもの、大丈夫灯は頭が良いから今のままで良いとも思ってないし、少し寄り道するだけよ」
すげえなこの人、そこまで灯を信じてるのか。
「でも、ありがとう瞬くん、陸くん、鈴さん、あの子頑固だから、上手く吐き出せなくて、せめて当たり散らしでもしてくれたら良かったのに・・・」
何もしていない、ただ一緒に過ごしていただけなのに礼を言われても困る。
光さんはお見通しなのか
「一緒に居る存在はそれだけでありがたいのよ、本当にありがとう」
その後、光さんから大きな茶封筒を渡された。
「これはクラスのお友達が持って来てくれたのだけど、私達からコレを灯に見せるつもりは無いから」
何やら意味深に言われて気になるが、素直に答える。
「分かりました」
瞬達の家へと移動して中身を確認する。
「色紙、と手紙だ」
「色紙は、寄せ書きね」
「・・・」
そこには、元気になってね、来るのを待ってる、寂しいです、と、教師に言われて書いた物なのか月並みな言葉が名前と共に書かれていた。
「瞬、この手紙瞬に宛ててる」
「何で俺?灯へじゃないのか?」
灯の同級生と特定の付き合いのある子は居ない
「瞬先輩へ、って書いてある」
その手紙には全て書いてあった、灯が虐められ始めた事、手紙の主を含め、友達やクラスの男子も何人か助けようとした事、更にはそれさえも気に食わなかったのか、知らない所で虐めが酷くなっていた事、それに気付いた時には灯は学校へ来なくなってしまった事、そして虐めていた人間はことある事に瞬と陸を引き合いに出していた事。
最後にごめんなさい、と。
「灯が何も言わない筈だ・・・」
「何て書いてあったの?」
「・・・、読め」
手紙を鈴と陸に渡す。
ふと、手紙に書かれていた虐めていた奴の名前「アヤコ」が、色紙にも・・・
「いけしゃあしゃあと、まあ、」
あまりの怒りに気が狂いそうだ、光さん達が自分達からコレを灯に見せる事は無いと言う意味が解る。
虐めた人間が、学校に来なくなった灯に送る色紙に寄せ書き?
胸糞悪い。
この後文字通り怒り狂った鈴を止めるのに苦労する事になる瞬と陸。
そんな事があってから、以降・・・
灯は思い切り泣いて吐き出した事でスッキリしたのか、少しずつ元の明るさを取り戻して行った。




