過去②
クリスマスの時には・・・
初詣には・・・
バレンタインの時には・・・
卒業の時には・・・
「すまん、もう勘弁してくれ・・・」
己の行動を人の口から言われると気付くものもある、瞬の顔は赤く、ぐったりしていた。
「あと、最後に」
「いや、もう・・・」
「灯が学校に行かなくなった時」
その言葉を聞いた途端、瞬の顔は引き締まる、勿論陸の顔も真剣そのもの。
鈴と陸が高校一年生、瞬が高校二年生の時。
鈴と陸は新しい環境の為に、瞬は生徒会に入り忙しく、久しく全員で集まる事が無かった、ある日、夏休み前の話だ。
「おはよう、久し振りね瞬くん」
朝、灯の母親、光さんとゴミ捨て場で偶然会う
「おはようございます、光さん」
「大きくなったわねー、ふふ、昔はこんなに小さかったのに、子供が大きくなるのはあっという間ね」
「はは、まあ17歳になりますからね」
「もう17歳なのね、早いわぁ、あ、ごめんなさい、学校遅れちゃうわね、いってらっしゃい」
「いってきます!」
「あ、そうそう、」
踵を返してすぐに、付け足すように言われる
「?」
「灯、学校行ってなくて暇してるから、偶に遊びに来てね、じゃあ」
「は?」
世間話でもする様に、サラリと聞き流せない事を言って去って行く光さん
驚きのあまり硬直していた瞬は、詳しい話を聞きそびれる。
「灯が学校行ってない?」
その日、学校の昼休みになるとスグに陸の所へ行く瞬
「陸、ちょっと良いか」
学校内ではあまり接点を持たない二人、珍しく昼休みに顔を出したと思ったら、何か切羽詰まったような表情
「何?わざわざ」
「灯、学校行ってないって?」
「は?」
朝、光さんから聞いた話をすると、流石兄弟、似た反応で固まる陸。
「その反応だと、陸も知らなかったのか・・・」
「え?何、灯学校行ってないの?なんで?」
「それを知りたいからお前に聞いたんだが・・・」
「知らない・・・、なにそれ」
「朝、光さんに会って「灯学校行ってなくて暇してるから、偶に遊びに来てね」ってサラッと言って行っちゃうから」
「待って、鈴姉に聞いてみる、灯はスマホ持ってないから」
スマホを取り出し鈴に電話を掛ける陸、昼休みだから出る筈だ。
「はい、もしもし」
「あ、鈴姉?陸だけど」
「どうしたの?こんな時間に珍しい」
「灯、学校行ってないって?」
「は?」
同じ反応、幼馴染だからだろうか・・・
話の流れを説明すると
「知らない、灯からも聞いてないし・・・」
「今日、放課後瞬と灯の家に、」
「私も行くわ!」
「分かった、皆で行こう、うん、うん、じゃあ放課後」
スマホを仕舞い陸が言う
「という訳で皆で行こう」
「ああ・・・」
そして放課後、皆揃って灯の家へと向かった
ピンポーン、呼び鈴を鳴らす
「はーい」
灯の声が聞こえて、扉が開かれる
「どちら様ですか」
扉を開け俺達を認識した瞬間、灯の表情が凍り付く
「久し振り、灯」
「ひ、久し振り・・・、瞬兄、鈴姉、陸も・・・」
視線を落とし、顔も見ずに言う灯、明るい笑顔は無く、どこか陰気な様子が見て取れた。
玄関で立ち尽くす四人、そこに光さんが出て来て
「あらー、瞬くん早速きたのね、陸くんも鈴さんもありがとう、さあ上がって」
と、全員を灯の部屋へと通す
「ゆっくりしていってね」
麦茶を置いてそそくさと行ってしまう光さん、せめて何かフォローが欲しかった。
「灯、学校行ってないって聞いたんだけど、どうしたの?」
鈴が口火を切る、灯の様子を見に来たのだから話さなければ進まない
「別に、学校つまんないから行ってないだけ・・・」
「つまんない、って」
鈴が言葉を失う、それもそうだ灯が「つまらない」という理由だけで学校に行かなくなる程不真面目では無い事を知っている、嘘だ。
「灯、学校で何かあったの?」
更に続ける鈴、だが
「何も・・・」
何も無い筈がないのに話そうとしない灯、それに痺れを切らした瞬が
「学校行ってないのに何も無い訳ないだろ!」
思ったより大きな声になってしまい自分でも驚く瞬、話して欲しい、相談して欲しい、別に灯を責めるつもりは無かったが、しまった!と思うも既に手遅れ。
灯はビクリと身体を震わせてスカートを握り締めて、目に涙を浮かべ口を引き結び堪えていた、隣で「バカ」と陸の声が聞こえた。
その後は灯も完全に自分の中に閉じこもってしまったのか、無言で首を横に振るばかりで会話にならず、家を後にした。
少し家を離れてから鈴に責められる
「瞬、どういうつもり!?怯えて何も聞けなかったじゃない!」
「いや、あんなに強く言うつもりは」
「つもりが無くても怒鳴って委縮しちゃったじゃない!初めから灯が明らかに様子がおかしいの分かってたでしょ!」
「う、ごめん・・・」
「灯、真夏なのに長袖・・・」
言い争う鈴と瞬が、陸の言葉にハッとする
「襟も深くて首まで見えない、スカートもロングだったわ、まさか」
家でエアコンが効いているにしても夏の格好ではない
「おい、まさか虐められたのか」
しかも肌を出せない様な怪我も?
何故話さない、話せない理由が?
「ちょっと後輩の子に聞いてみる」
「俺も」
鈴と陸が誰かと電話を始める、瞬は流石に卒業して一年以上経っているから難しい。
「ええ、そう、うん・・・、うん・・・、、、ありがとう、ええ、またね」
「どうだ?」
内容が気になりスグに聞こうとする瞬だが、鈴はため息を吐いて中々話そうとしない
「おい」
「虐められてたわ・・・」
「こっちも、そうだった」
陸も話を聞けたらしい、その顔は普段ポーカーフェイスで冷静な陸らしくなく、険しい顔をしていた。
「四月から、、四月の終わり辺りから行ってないみたい、学校・・・」
「なに?」
鈴の言葉が信じられず聞き返す瞬
「同じ事を聞いた、四月、遅くても五月には居なかったそうだ」
陸も同じことを言う
「四月?今七月だぞ、嘘だろ?」
「嘘を吐く子じゃないわ」
「・・・」
「いやいや、四月末から行ってないとして、服装は?2ヶ月半経ってて未だに長袖って・・・」
「痕が残ったか、まだ治ってないか」
「っ!」
鈴の言葉に瞬の表情が怒りに染まる
結果として言えば、灯の怪我は治っていないだけで痕は残らなかった。
同じ様な箇所をモップの柄で繰り返し殴られた事で鬱血痕が中々消えなかったのである
「ちょっと、その顔灯の前では止めてよね」
「瞬、ひどい顔してる」
「お前ら、よくそんな落ち着いてられんな」
「落ち着いてなんて無いわ」
大切な妹分がそんな目に遭って、平気で居られる程薄っぺらい関係では無かった、瞬も陸も鈴も。
「今の問題はそこじゃない」
「灯、か」
「うん」
「明日から・・・」
「行くよ」
「行く」
三人の考えは相談するまでもなかった、次の日から皆灯の所へと行くようになる。




