過去①
灯が中学生になり、同じ学校に行く事になった。
入学式、瞬は在校生代表で挨拶をしたのだが
「ねえ、あの先輩カッコ良くない?」
「カッコイイよね」
瞬はその容姿から新入生からは評判となっていた、二年生からは成績優秀の憧れの先輩として人気があり、同じ三年生内では、どんな人に告白されても断っている双璧の1人として既に観賞用として認識されていた、因みに双璧のもう1人は陸である。
「ねえ灯ちゃんは部活動入るの?」
話しかけて来たのは小学校からの友達
「ううん、何も入る予定は無いかな」
「そうなんだ」
廊下がキャーと黄色い声援と共に騒がしくなる
「灯!一緒に帰るぞ」
一年生の教室へ迎えに来る瞬
「瞬兄、来ないでって・・・、あ、ごめんね」
友達に謝るが気にすることも無く
「だよねえ、小学校の時も必ず迎えに来てたもんね!気にしないでバイバイ!」
「うん、バイバイ!」
「灯、早くしろ」
「待って!もう勝手に来て急かさないで」
急かす瞬に呆れた様子を見せるも、その顔は満面の笑顔の灯。
教室の入口に立っている瞬に駆け寄る灯、瞬は手を握って歩き出す
「ほら、行くぞ」
「う、うん・・・」
少しだけ照れて顔を赤くするも、黙って着いていく。
それが日常であった
「これは、ほら!灯が寂しいと思って・・・」
「わざわざ一年の教室に迎えに?」
「いや1人だと可哀想だろ?」
「三年生の瞬が教室に行って灯に構う方が孤立すると思うけど?」
「う」
言葉も無い、事実瞬の卒業後は色々と問題があった。
「他にも・・・」
体育祭、灯が怪我をした。
徒競走で盛大に転んだのだ、膝を擦りむき、足首を捻ったようで中々立ち上がらない
クラスには必ず保健委員が居る、体育祭においては自クラスの委員が怪我人や急病人を保健医の所へ運んだりするのだが・・・
「あ、灯さん大丈夫?立てる?肩貸すよ」
灯のクラスは男子が保健委員で、転倒した灯にすぐ駆け寄り助け起こそうとしていた、そこへ
「大丈夫か灯!」
「瞬兄!?」
例の如く瞬が来て
「俺が運ぶ、お前は先に行って保健医に伝えておいてくれ、傷口を洗ってから向かうから」
「は、はい!」
と、保健委員を追っ払う瞬、灯の膝裏と背中に手を回すとスっと持ち上げる、俗に言うお姫様抱っこである
ぎゃーーー、と周囲から叫び声が女子生徒からも男子生徒からも上がる
「ひゃっ、瞬兄、歩け、歩けるから!」
「駄目だ、じっとしていろ」
「汗!汗くさいから!下ろしてっ」
「んー?」
瞬は徐ろに灯を抱き上げたまま首筋に鼻を近付け
「大丈夫、灯は汗くさくない寧ろいい匂いが」
と思い切り匂いを嗅ぐ。
「な、しゅ、にい、、な」
顔を真っ赤にして口をパクパクさせる灯
その後、鈴に思い切りどつかれた瞬だった
「あんた人前で何やってんのよ!」
「いや、灯が汗の匂いを気にしたから確かめて」
重ねて失言を放つ瞬に更に一撃
「せめて人が居ない所でやりなさいよね!本当に馬鹿なんだから!」
「ぐあっつ!」
「馬鹿だ、本当の馬鹿が居る・・・」
こうはならないと心に誓う陸であった。
「いや、あれは」
「同じクラスの保健委員を押し退けてまで自分で世話焼きに行く必要が?」
「ない、かな?」
「かな、じゃない、ない!更に」
「そ、そんなにあったっけ・・・」
夏休み、みんなで海に行くとなった時には
「水着?」
「うん、去年のキツくて・・・」
「灯も育って来たわね、良いよ一緒に買いに行こ」
「ありがとう鈴姉」
「集合はモールの噴水前で良いかな」
「うん!」
「俺達も欲しいものあるから一緒に行くわ、な!陸」
「え、あ、うん・・・」
この時、大して急ぎでもなかったのに何故自分がと思った陸だが、後から考えてみれば瞬が灯を心配しての行動だった、結果その勘は当たったのだが・・・
「可愛いねー、キミ名前は?」
「あ、あの・・・」
「買い物?俺ここら辺詳しいから一緒に行こうよ、荷物持つし」
「ごめんなさい、待ち合わせしているので・・・」
灯は待ち合わせ場所で、高校生位に見える男からナンパを受けていた。
多分初めてのナンパに困っているようで、やんわりと断る灯、男は押せば行けると思っているのか引き下がらない。
「灯ナンパされてるね」
「言ってる場合か行くぞ、灯!」
少し離れている場所から名前を呼ぶと、瞬達に気付いた灯は困っている表情から一変、パァっと花開くかのような眩しい笑顔になる
「瞬兄、陸!」
「すまん、待たせたな」
「お待たせ灯」
その様子を見たナンパ男は、そそくさと退散して行った。
「助かったよー、断っても諦めなくて・・・」
そう言う灯は、白いワンピース姿でとても似合っていた
この姿で一人立っていたら目立つしナンパも来るだろう、それだけ可憐な魅力に溢れていた。
「ほら、陽射しが強い、少し移動するぞ」
そう言って自然と手を繋ぐ瞬と灯
「うん、ありがとう・・・」
顔が赤いのは、決して陽射しの元に居たからでは無いだろう
薄々と以前から感じていたが、何でこの二人付き合ってないの・・・
少し経ってから鈴姉が来て、瞬と一緒に前を歩く灯を見て言っていた
「陸、白いワンピースはね、選ばれし者しか着れない代物よ」
「灯の?」
「そう、可愛い娘な事は当たり前、容姿と空気感が合わないと浮いて仕方が無い服なんだけど・・・」
「似合ってるね」
「灯、恐ろしい子っ!」
鈴姉の様子が若干おかしいけど、それはおいといて。
後で聞くと、どうやら灯の母親が着せたらしくて
「瞬君も一緒に行くの?あらー、灯コレ来て行きなさいよ、似合うから」
白いワンピースを差し出す母親に
「えー、私地味だからそんな派手なの似合わないよ」
「良いから着てみなさい」
「うー」
ワンピースを押し付けられて渋々着替える灯
「・・・どう?」
「うん、やっぱり可愛い、こっちに来なさい」
「何?」
ドレッサーの前に座らせられて、軽く化粧を施されたらしい、確かにうっすらと化粧をしている灯
「そろそろお化粧も覚えないとね、瞬君も喜ぶわよ」
と言っていたらしく
(おばさん全部お見通しじゃん!)
「鈴姉、灯、まずくない?」
言葉足らずだが、長年の付き合いがそれを補う
「最近更に可愛くなってきたからね、あの子自分が可愛い意識無いから心配」
「は?気付いてないの?」
「多分私達のせいよ、瞬も、陸あんたも顔面偏差値高いし、自分で言うのもなんだけど私も高いから、それに囲まれて過ごして来たあの子自身は普通と思っているみたいよ」
「いや、灯だって十分可愛いでしょ、何でそんなに自己評価低いのさ」
「瞬のせいね!アイツ派手にモテてるでしょ、何回も何回も呼び出しされて告白されてるし、そんな瞬がやたらと構うから男は誰も灯に近付かないでしょ、だからよ」
瞬は正にモテる男の見本だ、容姿良し、頭良し、運動良し、性格良し、しかも本人は驕った所がなく気さく、モテない訳が無い。
そんな男が灯の周りをうろつく、無理だ誰もが最初に諦める。
つまり、灯はモテないと思っている、か。
「これについては?」
「いや、その、・・・」
黙り込む瞬、いい加減気付け・・・
「あとさ、」
「まだあんのかっ」
まだまだ話は続いた。




