出会い。
「あれ?視界が暗転したから、VRギア落ちたと思ったのにまだアークに居るの?」
皆、居ない、パーティーは解散されているからログアウトしたか、シャットダウン食らったのか。
「って、あーっ!魔法陣、消えてる・・・」
黒龍討伐後に出現した脱出魔法陣が消えている
「まさか!装備はっ!?」
黒龍討伐フラグが無くなった事を懸念してドロップアイテムを確認する
「あった!良かった・・・、でも魔法陣消えるなんてバグじゃない!ダンジョンだとログアウト出来ないし、死に戻りか徒歩かあ・・・」
折角黒龍討伐を成したのに死に戻りは何か悔しい気がして、徒歩で戻る事にする灯。
通常エンドコンテンツ級のダンジョンをソロで逆踏破など出来ないが、そこは補助魔法特化のバフデバッファー
「透明化、気配遮断、無臭化、良し!コレで完璧!」
魔法で視覚、聴覚、嗅覚全てを遮断、これで敵に接触する「触覚」を刺激しない限りは戦闘は無い。
戦えば即死の敵の横を悠々と歩いて行く、特に魔力と運に極振りしている灯は戦闘能力に乏しいので細心の注意を払う。
ステータス
名前 灯 年齢 14
職業 魔法学士 加護 幸運の女神
称号 異世界探訪者
Lv 100/100
HP100/100
MP328/1000
STR 力1
VIT 体力1
AGL 敏捷1
MAG 魔力1000
MND 精神1000
LUC 運1000
通常アークオンラインのステータス振りは万能型、つまり職業適性の高いステータスを平均的に上げるのが強いと言われている。
攻撃魔法使いなら、魔力と精神にステータスポイントを優先的に振る、次に強力な杖を装備する為に力を少し上げる、体力にも多少振り分ける、これには理由があり、ステータス800以上の恩恵が少ない事が挙げられる。
魔力に800以上振っても魔法攻撃力の伸びがかなり鈍化する、魔力800で杖無しファイアーボールで1000のダメージ、比較して魔力900で杖無しファイアーボールで1020程のダメージとなる、上が伸びないのである。
逆に言えばステータス800未満は伸びが大きく、恩恵があるという事になり、魔力と精神に800振り分け、残りを力と体力に、という事になる。
運はアイテムのドロップ確率や魔法成功率、また魔法威力に係る係数が伸びるようなシステムであるが未だ解析は済んではおらず、だがその恩恵は低いと見られ避けられる方向にあるのが現状、であった。
なら、何故灯は魔法系統と運に極振りしたか
魔法を使う人に力は要らないわ!
体力?エンドコンテンツでは多少ステータス振っても紙切れも同然よ!
と、防具は伝説級、武器は街売り装備と何ともアンバランスな組み合わせになっていた。
伝説級武器は力もある程度要求される仕様で、必要ステータスを満たさないと、装備出来なくはないが性能に強烈なマイナス補正を受ける事になる。
だが、それらは全てゲーム内の仕様であって、現在は・・・
「はあはあ・・・、何でゲーム内で疲れてるのよっ、ふう、ふう、喉も渇いてきたし・・・」
異変はそれだけでは無い、いつも10分程で効果の無くなる魔法の効果が10分を遥かに超えて持続しているが気付かない。
「ひっ、ひぃ、はあ、ヒールポーションでも、飲んでみる?」
魔法鞄からヒールポーションを取り出し、一気に飲み干す
「んっんっ、んっ、はぁーっ、美味しっ、て、え!美味しい!?味!?あ、まさかノイズって裏アプデの仕込みだったのかな、凄い、味覚と疲労実装なんて」
歩きながらヒールポーションの瓶を投げ捨てる
パリンッ
瓶が割れ、ガラスが散乱
通常のアークオンラインではオブジェクトが破壊された場合、すぐに消滅するのだが破片がそのまま残り、消えない。
味覚と疲労実装に驚いている灯は、捨てた瓶を気にも止めず先を急いで歩いて行く。
「・・・」
「えっ」
人が倒れている、箱庭型で登録パーティーしか入れない仕様なのに「私以外が存在している」目の前の事実に混乱する
「ぐっ、うっ・・・」
「あ、大丈夫ですか?えっと、怪我?」
新イベントなのか?疑いながらも放っておけないので話し掛ける
「えっと、ヒールポーションはさっき飲み切っちゃったし、霊薬はちょっと初見さんには・・・、うーんと、えっと、、あ!」
生命促進
本来は植物の成長促進で素材回収の時短に使うものだが、人ならほんの少しだけ自然治癒を促進するので試してみる。
バッファー、補助魔法使いであって、ヒーラー、回復魔法使いではないのでコレくらいしか出来ない、霊薬は正直勿体ないと思っている灯。
「更に三倍加でどうだ!」
1hp/3sec程度の回復効果でも三倍なら3hp/3sec、戦闘中で無ければ20分も掛からずに全回復する筈、疲れたし休憩して待つ事にした。