新たな力と御守り。
グレゴリの身体がまともに動くようになってから、翁の店へと向かった。
3日と言う製作期間のマヌマヌ猫の御守りを取りに行く為である、無論グレゴリが歳のせいで動けない間に完成はしていたであろうに、やっと取りに行けたのであった。
「こんにちはー」
「邪魔するぞ」
「おう来たか、忘れて行っちまったのかと思ったぜ」
相変わらず口が悪い翁だが、棘のあるものでは無い。
「マヌマヌ猫は忘れないよ!出来た?おじいちゃん」
「お、おじいちゃん・・・」
前来た時のお爺さん呼びがえらく親しみを込めた呼び方にズッコケる翁
「ん、んんっ!ああ、とっくにな、ほれ確認しろ」
翁は御守りをカウンター下から取り出し灯へ渡す
それを受け取り鑑定する。
「・・・うんっ!完璧、ありがとうございます」
「何、物自体は簡単な物だ、あとはほれ!」
灯が忘れて行った杖、神龍の瞳。
「あ、忘れてた、ごめんなさいおじいちゃん」
「こんな代物忘れんな・・・」
一生見る事も叶わないような杖を平然と忘れて行く灯に呆れる。
「へへへ・・・、って、あれ?」
「どうした?」
杖を手に取った灯が驚く
「軽い・・・、何で・・・」
その場で杖を振り回す、自分より大きい杖を両手で、更には片手で、取り出す時は他人の手を借りなければ難しかった杖を灯は軽々と振るう。
「翁、これは?」
翁はしてやったりとばかりに、にやりと笑う。
「お前らが帰った後、知り合いの付与術士が来てな、素材と杖を見て」
「面白そうなもの持っているなジジイ、俺に弄らせろ」
「って言って勝手に軽量化の付与を施して、ついでに知恵も借りてな、無重力スライムの核を取り付けたんだ、ほれ龍眼の下の所」
「あ、本当だ」
龍眼は宙に浮いている、杖との間は空いていたが、杖部分にビー玉大の物が取り付けてある。
「龍眼からの魔力を拝借しているから、半永久的に軽いぜ」
不機嫌が常の翁をして、どうよ!と言わんばかりの顔である。
「凄い・・・、ありがとうおじいちゃん!」
屈託ない笑顔で灯は礼を言う
「お、おう、大した事はしてねえけどな」
照れてそっぽを向く翁、実際は大した仕事なのだが、暇で死にそうになっていた本人にとっては滅多に巡り会うことのない仕事で十分楽しみを得たのだった。
「おら、ついでに自動追尾も付いてるからな、もう忘れんじゃねえぞ!」
「うん!ありがとう!」
手を離して灯が歩いても、後ろを着いて回る杖。
「わんこの散歩みたい、可愛いっ」
「犬、か、かわいい・・・」
最上級の杖、神龍の瞳をして、可愛いと言わしめた灯に男二人は苦笑していた。
「所で、その付与術士さんは・・・」
「もう森に帰ったよ、滅多に街には来ないが、来る時は見計らった様に絶妙な時期に顔を出すんだ、あいつァ」
「森と言う事はエルフか?」
「ああ、まあ縁があれば会えるだろう、そこら辺をブラブラしてるからな」
「そっか、名前は?」
「名前は・・・、本人に聞きな、その杖を持ってりゃあっちも分かるだろうさ」
「?、そう、だね、本人に聞くのが礼儀だよね」
今後必ず会うと確信しているかのような翁の言葉に違和感を覚えるも、特に気にする事もなく店を出る事にした。
杖を流石に街中で持ち歩く事はしない、マリの店へと戻ると早速灯は隠蔽し始める。
「見ててもいいか?」
「良いよ、面白くもないと思うけどね」
グレゴリも興味はある様で、同じ部屋で話しながら作業を進める。
「んー、龍眼から魔力を貰って杖の見た目を変えて、と」
コンソールを立ち上げ、何やら打ち込んで行く灯
目が追いつかない早さで表示が切り替わっていく
「凄いな、何やってるか全然分からん」
「ん?簡単だよ、見た目を指定したいから、隠蔽の魔法に追記しているだけ」
「追記?」
「うん、普通の隠蔽魔法だと「印象に残らない」程度なんだけど、この印象の部分を特定の物にして、そう思い込ませるように付帯条件の・・・」
説明しながら、その手は止まることなく作業を進めて行く灯、グレゴリは説明の半分も理解出来ない。
「??」
「えっと、つまり一種の付与術式みたいな?」
「な、なるほど・・・」
「でも、魔法開発辺りの機能は生きてて良かったよ、ゲームシステムコンフィグ辺りは、もう何も使えないもんね」
「だな、恐らく、この世界に落とし込める機能だけ生きているんじゃないのか?
メールやボイスチャット類はゲーム機能だからダメで、魔法は実際の技術としてのカテゴリとか。」
「あー、そう言われると納得だねえ、と、コレでどうかな」
灯が手を止めると、傍で浮いていた杖が見た目を変える
「宿り木の杖か良いんじゃないか?」
これなら何処にでもあるし、違和感も無い。
「で、こうして、こう」
宿り木の杖がまた神龍の瞳へと戻る、そこから更に見た目が変化して白い猫になる
「猫?」
「うん、おいで神にゃん」
足音もなく灯に歩み寄り身体を擦り寄せる猫。
「か、神にゃん・・・、いや、それよりこれはどういう事だ?」
「自動追尾が付与されたから、放っておいても付いて来るでしょ?杖が浮いていると目立つから猫にして、えいっ」
手を伸ばす灯、すると白猫が光り、すぐさま神龍の瞳となり手に握られている。
「宿り木の杖は?」
「これね、ゴリさんには神龍の瞳に見えているけど、他の人・・・、私が許可していない人には宿り木の杖に見えているんだよ」
「ふむ」
いや、それにしても神にゃんはどうかと思うのだが・・・
「そう言えば、マヌマヌ猫の御守りはどうして、アレより性能高いものはいくらでもあるだろ」
「マヌマヌ猫が好きだから?あと寒さに強くなるんだよコレ、私寒さに弱いから今後を考えて、山越えあるでしょ?耐性系の装備は少なくてさ」
「なるほど、取り敢えずコレで準備は整ったか?」
「うん、大丈夫」
「なら、明日出発するぞ」
「うん・・・」
明日出発をマリに伝えると、寂しい、もっと居て、と言い
最終的には今日一緒に寝る事と必ずまた来る事を条件に何とか納得させることに成功した。
ベッドに入ると
「灯・・・」
「ん?」
「いつでも帰って来なさい、無理しないで」
「うん、ありがとう・・・」
「短い間だったけど、灯は何か我慢してそうに見えるから、辛い事は辛い、嫌な事は嫌、って言うのよ、あんなゴリでも話すだけでもスッキリするから」
「うん・・・」
「灯」
「何?」
「抱き締めても良い?」
「うん」
ギシとベッドが軋み二人は寄り添う距離に
「温かい・・・」
「灯、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
灯はマリの優しさに泣きそうになった、この先どうなるかも分からない、不安と後悔を抱えていたのをマリは見透かしたかなように優しく温かかったから。
先行きは不安しかなかったが、なんだったらここに住んじゃいなさいと言いそうな存在はとても心強かった、元の場所には多分帰れない、でも新しい場所があると思えたから。
最近はよく眠れなかった、ダンジョンから飛ばされて疲れて眠る、間を開けずにオーク討伐、忙しさと疲労に任せて眠っていたのだが、ここ数日は何もなく、これからの事を考えてしまい、それが逆に眠れない理由となった。
優しさに包まれた灯は久々に穏やかに眠る事が出来た。