出立まで。
オークの討伐から数日、ギルドから報酬の支払いは事前情報とコロニーの規模が違った事から遅れていた。
オークの件が無ければすぐにでも出発する予定であったが、これは好都合であった
「ぐ、つっ!」
「ゴリさん大丈夫?」
「何とか・・・」
森から帰還後、グレゴリは身体がガタガタになりまともに動けなかったのだ。
「やっぱり万能強化かな?」
「いや、全身と言うよりは肩、腕、背中、腰を中心にだな、多分魔法の影響では無い」
「・・・歳?」
「俺はまだ34だ」
「お父さんと同じ歳だね」
「・・・お父さん、、、」
静かに傷付くグレゴリ。
「うーん、じゃあ自然破壊?」
「大地崩壊な」
「運動して筋肉痛なら、やっぱりと、」
「歳じゃない」
「そんな強がり言ったって、剣を杖にして歩く姿は完全におじいちゃんなんだけど・・・」
「・・・」
ムスッとしたまま口を利かなくなる、灯は呆れて
「私、外に」
「「ダメだ(よ)」」
マリとグレゴリ二人から止められる
「お姉ちゃんも、何で?」
「灯が可愛いから、1人で外出はダメ」
「私、大して可愛くないよ?」
そんな事を言う灯にマリはため息を吐く
「はあー・・・、灯、ナンパのひとつやふたつ、3つ4つあるでしょ?学び舎でモテるとか」
「?、ないよ?」
「1度も?告白されたり」
「ない」
「ち、見る目の無い男共ね、私ならいの一番に口説いて押し倒すわよ」
「押し倒っ」
「何を言ってるんだ・・・」
舌打ちしながら過激な事を言うマリ
顔を赤くして俯く灯、呆れるグレゴリ。
実際の所、学校で灯は好意をかなり集めていた、気付いて居なかったのは本人が以前言った通り鈍さもあるが、当時色恋沙汰など頭の片隅にも無かった事、そして瞬達とよく一緒に居た事で見守られていた事が原因でもある。
「兎に角!1人で外出はダメ!このゴリが一緒じゃないなら許容出来ないわよ!」
「ゴリ・・・」
またも地味に傷付くグレゴリ、扱いが雑過ぎた。
「分かったよ、久々に魔法創って遊ぶから・・・」
「そうそう、大人しくって!魔法を創れるの!?」
「うん?うん・・・、まあ、言ってなかったっけ?」
「言ってない!あ、いや、この場合言ってない方が良かったわね」
「??」
何か1人で納得するマリ、グレゴリと灯は置いてけぼりである。
ブツブツと考え込んでいたマリは真面目な顔になり真剣な声で話始める
「ねえ灯、貴女が魔法を創れる事誰が知ってる?」
「え?ゴリさんと、陸と鈴姉、瞬兄かな?」
「このゴリは兎も角、他の子達はどんな子?」
「幼馴染、みんな仲良いんだ」
笑顔で答える灯に安堵するマリ
「信頼出来る人間のようね、良かった・・・」
「どうしたと言うのだ、魔法を創れたら問題でもあるのか?」
1人で納得するマリ、魔法を創れる事に過剰に反応している気がする。
「問題は無いけど、有るわ」
「え?」
「何を言っているんだ」
「今、このユグドラシル大陸で魔法開発者何人居ると思う?」
「表に出ているかどうか別にして、2,3000人と言った所じゃないのか?」
アークオンラインでは四半期毎に職業人口やアクティビティ等々、統計データを公表している、それに依れば魔法開発者は3000人届かない位だった筈、とグレゴリは答える。
だが、
「そんなに居ないわ、この大陸に10人程、世界で見ても30人居るか居ないかと言われているのよ、勿論ゴリが言った通り表に出ていない開発者も存在するでしょうけど、それを見積もっても100にも満たないわね」
「え!そんなに少ないの?」
「居ない、と言うより失われた技術なのよ、誰も解明出来ていない、古代の超技術って感じね、最近公開された魔法も数年前に久々に公開された位で、それも既存の回復魔法の効果を上げたという物で、新規の魔法なんて長い事表には出ていないわ」
「ねえ、そのヒールの構成術式見たい!」
「新聞に載ったから、多分図書館に記録は有ると思うけど・・・」
「借りに行く!」
「待ちなさい!1人ではダメ!お父さんに借りて来て貰うから、その前に言っておきたい事もあるし」
「言いたい事?」
「魔法開発者って周囲に知られないようにしなさい」
「え、なんで?」
「貴重だから、囲い込み・・・、ううん監禁も有り得る・・・」
「え・・・」
灯の顔色が青ざめる
「おい、脅かすな、そこまでする程のものなのか?」
「噂しか知らない、けど、良い話を全く聞かないのよ・・・、開発者には2種類居て長年研究して来た者とある日突然神の恩寵を手に入れたかの様に力を振るう者」
「神の恩寵?」
「稀に居るの、その仕組みは解っていないけど開発者に限らず突如特殊な力、秀でた力を突然発揮する人間がね、それで特別な存在として国や教会が保護の名目で・・・」
「事実上の拉致、か」
こくりと頷くマリ
「親兄弟でさえ中々会えなかったり、会いに行った身内が行方不明になったり、噂として聞くにはあまりにも黒い話しか出てこない、だから」
だから、灯が魔法開発者と知り顔色を変えた。
カタカタと震える灯、異世界に来たと思われる状況でさえも理解の外であるのに、その世界で狙われる可能性もある、不安に思っても仕方が無い。
「ごめんなさい灯、怖がらせるつもりは無かったのよ、でも魔法開発を周囲に知られるのは・・・」
マリが優しく灯を抱き締める
「う、うん、心配するのも無理無いよね、ありがとう大丈夫、少し怖いけど・・・」
そう言う灯は、やはり顔色が悪い
「灯、安心しろ!俺が傍に居る限りはどのような輩からも護ってみせる!」
だからそんな顔をするな、と安心させるように言うグレゴリ。
「そうね、聞く所によると件のコロニー討伐で200ものオークを八つ裂き血祭りにあげたバケモノが居る、って噂が流れているし」
「ば、バケモノ・・・」
「何をショック受けているの、たったの一撃で森の地形を変える人間をバケモノと言わずになんて言うのよ」
事実であるがバケモノ扱いは心外である
「ふふっ、こんなに優しいのにねゴリさんは」
マリとグレゴリのやり取りに笑う灯
そうだ不安に怯えていても何も解決しない、今は前に進み、王都を目指すのみ!
そう心に決めたのであった。
その後、マリの父が図書館から当時公開された魔法の記事を借りて来た。
「どう?」
「古い・・・、これサービス開始時の構成術式だ」
「分かるのか?」
「うん、最初に魔法弄りを始めた頃は元々あった魔法の術式を模倣したから、でもこれで最新?」
「ええ、その筈、当時凄い騒ぎになったのよ、他の国からも留学生として人が沢山来たみたい」
「・・・」
それを聞いて黙り込む灯、何か難しそうな顔をしている。
「どうした?何か問題でも?」
「問題は、無いけど」
「けど?」
「効果は多少上がるけど消費も上がってる筈、実際使ってみないと分からないけど」
「微妙か?」
「びみょう」
「これを微妙と言うなら灯、貴女はやっぱり魔法開発者の事をバレたらダメよ、しかも新しい魔法も創れるのでしょ?
初めて会った、空から降りてきた魔法のような・・・」
「う、うん。」
「お願いだから捕まらないで、折角出来た妹分、友達を失いたくないから・・・」
マリがそこまで言うのは道具屋として父について回っている土地の先々で話を聞くからだろう、つまりそれだけ魔法開発者の身の回りは何かが起こっている証明である。
魔法開発者が居た1つの街のとある話で済めば良いが、それが次の街、他の街ともなると偶然で済ますには無理がある。
「お姉ちゃんありがとう、気をつける」
「うん。ゴリ!アンタは灯をしっかり守りなさいよ」
優しい顔から一転、グレゴリには厳しい
「ああ、この身に替えると灯が気に病みそうだからな、二人無事に何とかするさ」
「よろしい!」
それからグレゴリの身体が元に戻るまで更に数日
灯は魔法の隠蔽に力を注ぎ、また対策として新しい魔法を創り上げたのだが、その事を平然と熟す灯は、マリには逆に呆れられてしまうのだった。
「そういう所よ!気を付けなさい!」
「ごめんなさい・・・」