愚か者。
「開いた!開いた!日本よ!パパ!ママ!」
アヤコは半狂乱に近い歓喜の声を挙げる、そのまま周囲を気にもせずゲートを潜り、地球、日本へと消えて行った。
ほどなくしてゲートが閉じられる
儀式の間には国王アレク、サイリ、ネルスのみ
「ネルス」
「ほいほい、じゃあまたのアリィ!」
透視を掛けた壁に向かって笑顔で手を振り、ネルスは透視を解除した。
「さて、どうなるかの」
「空間魔法の影響は?」
「完璧じゃの、歪みの欠片も無い、流石アリィじゃの」
「アリィが失敗する筈無いだろう!」
「ああ、だな」
「しかし、偉いぶっ飛んだお嬢さんだったのう・・・、儂引いたぞい」
「あそこまでのは中々居ないでしょう」
「サイリ、よく耐えたな」
「アリィの決着に水を差してられないさ、あの子なりの答えだ」
「優しいのう・・・」
「アレにまで、な」
「どうなると思う?」
「知れたこと、愚か者の行き着く先は・・・」
帰還?
否、追放だ
アレクは冷淡に独りごちた
「はあっ、はあっ!」
やっと帰って来た!最初は聖女様聖女様と崇められていたけど、戦いに参加しろだなんて馬鹿じゃないの!?
スマホもパソコンも無い、車も、不便ったらありゃしない
まあ、ちょっとした旅行と思えば楽しかったかな
一年ぶりだから学校はどうしよう、なんとかなるかな?
久し振りの見慣れた道を走る
アヤコは真っ直ぐ家へと飛び込んだ
この時間ならリビングに・・・
「パパ、ママ!ただいま!」
リビングに飛び込むとパパとママが私を見て固まった
ふふふ、一年ぶりだもん驚いて当然よね
次の瞬間にはきっと喜んで抱き締めてくれる、そんな未来を思い描いたアヤコ
だが、現実は・・・
「誰だ、お前!」
「あなた・・・」
警戒する様に立ち上がる父、怯える様子で父の後ろに隠れる母
「え・・・」
「勝手に人の家に入って来て、パパ?ママ?」
「あなた知ってる人?」
「いや、母さんは?」
「知らないわ・・・」
「え、ママ、私だよ、アヤコ!パパも!」
「それ以上近づくな!母さん、警察に電話を、」
「はい」
「なんで、パパ、ママ・・・、私、娘のアヤコ・・・」
「ふざけるな!なんて悪質なイタズラだ、一人か、二人か?何が目的だ!」
「も、もしもし、警察ですか?はい、はい、い、家に、不審者が入って来て・・・、そうです!今目の前に、早く来て下さい!住所は・・・・・・」
「そ、そんな・・・」
「そこを動くな、警察に突き出してやる」
「っ!!」
反射的に家を飛び出すアヤコ、いや、昔家だった場所
そんな、なんでなんで!帰ってきたんじゃないの!?
父、母は見た事のない眼差しを向けていた
警戒、恐怖・・・
どうしよう、どうしよう!
そうだ流星!流星の家に取り敢えず!
走って流星の家へと向かうアヤコだが
「そ、そん、な・・・」
流星の家はあった、しかし
売家
大きな看板が建てられて、人の住んでいる気配は無い
なにこれ、おかしい、どうして!
呆然と立ち尽くすアヤコに後ろから声がかけられた
「君!ちょっと良いかな」
ビクリと振り向く、二人組の警察だ・・・
「たった今、この近辺で不審者の通報があってね、ちょっと身分証明書か何か見せてくれないかな?」
「は、はい・・・」
学生証を取り出そうとするも、
「あ・・・」
そうだ、地球に帰る時、荷物は全てあっちに・・・
「君、名前は?」
「あ、アヤコ、です・・・」
「身分証明書は無いの?学生証とか、家は?親は?」
「あ、う、その・・・」
警察官が目を細めて見合わせる、そして目付きが厳しいものに変わっていった
「少し、時間良いかな?話を聞きたいんだけど・・・」
「時間は取らせないよ、いいね?」
「は、、い・・・」
ガラガラと足下が崩れていくようだった
目の前が真っ暗になり、警察官が何を言っているのか耳に入って来ない
どうして?
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!
「帰れば二度とこちらには戻れない、チキュウとやらでは君達の存在は無いかもしれない、いいね?」
あぁ、そう言えば・・・
あの、偉そうな男が言ってたっけ・・・
帰れば二度と戻れない、って・・・
最初に私達を攫いに来た執事みたいな奴も・・・
「貴女の世界では貴女を知るものが居ない可能性がございます、両親、兄弟姉妹、ありとあらゆる繋がりが無く、産まれたという事実さえも、それでもよろしいですか?」
そんな・・・
全てを理解した瞬間、プツリとアヤコの意識は途切れる
過剰なストレスにより現実を拒否した結果だった
しかし、再び目を覚ましても現実は変わらない
この世界に自分は存在していないのだと、事実を突き付けられて生きて行くしかない。