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帰って来た

ある日の事


「アリィ様!エル様!瞬様達が!」

「!!」

ガタン!と椅子を跳ね飛ばし、玄関へと走るエルと灯

途中吹き抜けの階段があるが構わず飛び降りる


「・・・で、」

「そう、無事で良かったわ・・・」

母リリスと瞬が話をしていた

「瞬兄!」

思い切り瞬の胸へと飛び付く灯

「お!あか、んぐっ!?」

「瞬兄!、ん、ちゅ、瞬に、瞬にぃ・・・」

瞬の返事も待たず、熱烈なキスをする灯

元々人として生きていた時点で瞬にはベタ惚れだった

今では完全に獣人となった灯

獣人の愛情表現はとことん直接的で肉体的、しかも激しい


恋人となってその場で旅に出て別れた人間が約一年の後に目の前に現れた

言うなれば一年間お預けをくらったようなもので、獣人になった灯の自制が効く筈がなかった・・・


「あか、おちつ、んっ」

「や!、ちゅ、」

尻尾は千切れんばかりにブンブンと振られ、再会の喜びがどれだけか周囲には伝わる

額に、目尻に、頬に、首に、そして口にキスをする灯

「ん、、ンン」

引き離そうとする瞬、しかし腕力は完全に灯の方が上でどうにもならない


「おお・・・、灯熱烈だね・・・」

「凄いわね・・・」

呑気な陸と鈴の声が瞬の耳に届く

「助けろよ!」と言いたいが灯に口は塞がれている

別れ際に舌を絡めたキスを教えたが

あの時は不慣れでしかも灯は苦手そうな印象だったのに

これは・・・

「ジュ・・・、ンン・・・」

口から食べられてしまうんじゃないか、そう思う程熱く激しい口付けがずっと続いていた・・・


5分経ったか、10分経ったか

「ぷは、はぁ・・・、瞬兄、おかえりなさい・・・」

「はあ、はあ、おう・・・、ただいま・・・」

一先ず満足した灯か落ち着いたようだ、が!


「瞬兄さん・・・」

「お、エルもただい、んぐぅ!!?」

横から声を掛けて来たエルが瞬の頬を両手で掴み

グイッと強引に自分の方を向かせ、そのままキスをした

(次は、エルか!!)


灯の熱烈で強引なキスとは違い、エルのキスは深く、ねっとりじっくり口の中を貪られた・・・

胸に抱き着いている灯は、まさに猫のようにゴロゴロと喉を鳴らしてスリスリと全身を擦り付けている


約一年ぶりに会った恋人幼馴染は大人びて、身長もいくらか伸びていて

そして胸の感触が、やばい・・・

エルは前からスタイルが良く、灯もやはりリリスの血を引くだけあってドンドン育っていた

そんな二人が抱きついてキス、しかも身体をピタリと寄せて来る


男の子な歳頃の瞬は、エルと灯から与えられる刺激に余裕が無くなるが


「やあ、瞬君、幸せそうで何よりだよ・・・」


ギギギと、血の涙を流したサイリが現れた事でなんとか事なきを得た・・・

ありがとう!サイリさん!と思うと同時に、やべえ勘弁してくださいと引き攣る思いでもある

救いの神が自分の首を落としかねない死神でもある、瞬に逃げ場はない。

因みにリリスはニコニコと見守るだけだった

子供はまだ?とまで思っていそうだ。






「ゴリさん、陸、鈴姉もおかえなさい・・・」

顔を真っ赤にして灯が漸く陸と鈴に話し掛けた

我に返って、皆の前でキスをした事が恥ずかしいようだ

「おかえりなさい、グレゴリさん、瞬兄さん、陸さん、鈴さんも!」

エルは特に何とも思わないのか、普通な表情である。

「ただいま・・・」

「ただいま戻りました」

「ただいま、です」


「みんな無事で良かった」

「サイリさん、これを、ありがとうございました」

「ああ、役には立ちましたか?」

「はいとても、本当にありがとうございます」

「いや、少しでも助けになったなら何よりだよ、さあ今日は歓迎会をしないとな、セバス」

「はい、準備は整っております」

「うん、じゃあ皆さん、以前使っていた離れはそのままだから一度身支度を整えるといい」

「「「「ありがとうございます!」」」」



「で、瞬君、結婚はいつにする?子供は?」

「ブボアッ!!」

「汚っ!!」

「げほ、ごほ!リリスさん何を!?」

「あら、あんなに熱い口付けを私達の前でしておいて結婚しないの?」

「「お母さん!」」

「い、いや、そう言うわけでは・・・」

「それに、チキュウには帰らないのでしょう?」

「え!?そうなの?瞬兄!」

「あ、ああ・・・、俺は、いや俺らはみんな地球には帰らない、旅をしている時に散々考えて、みんなとも相談したけど、残るよ」

「本当に?」

「ああ・・・」

「一応聞きたいんだけど、灯、魔法は・・・」

「完成したよ、地球には行ける、但し一方通行で一回限り」

灯は瞬達に魔法の全てを説明した

座標や情報を絞込み世界を渡る魔法

世界と世界を繋げるその魔法は膨大な魔力を必要とする

その魔力は神龍の瞳を代償にする程のもので、神龍の瞳はひとつしかない

なので、一回切りの魔法という事。


「そう・・・、その、ごめんね、大変だったでしょ?無駄にさせてしまって・・・」

「ううん、大丈夫だよ、それに多分無駄にはならないから」

「どういう事?」

「実は・・・」


灯は最近アヤコに出会い、あったことの全てを話した

そして、何故かは分からないが確信した

「多分、アヤちゃんに帰れる事伝えたら帰ると思う」

性格、思考が自分と離れ過ぎて全く行動原理が理解出来ないが

それでも半ば確信として灯はそう思っていた。


だが・・・



「私は反対、灯がそこまでする必要ないわよ!」

「俺も反対、だってパーティーで酷い事言われたんでしょ?灯」

「俺は賛成」

「俺も賛成だな」

鈴と陸は反対、瞬とグレゴリは賛成

ここまで迷惑を掛けてきた相手が一番得する様な、施しにも近い灯のお人好しに呆れ反対するみんな。


「いくら灯が優しいと言っても!」

「いいの、それに私も善意だけじゃないから・・・」

「灯?」

「お城で会って思ったんだ

きっとこれからも仲良くなれることは無い、って

だから・・・」

もうきっと、顔を会わせない方がいいのだ・・・


「はあ・・・、最終的に決めるのは術者の灯だ、俺はそれを尊重するよ」

「仕方ないか・・・」

「ん、灯が言い出したらきかないもんね」

「意外と頑固だからな、それにアイツが帰るならもう二度と会うこともない、関わらないのが一番だ、そうだろう?灯」


「うん、ありがとう・・・」


「で、どうするの?アイツ王国に帰ったんでしょ?」

連れて来るにしても王国に異世界へ行く魔法を知られるのは得策ではない

単独で接触して、迅速に事を終わらせる必要が有る

更には、仮に魔法の存在をアヤコに教えて帰らないと言われた時の対処だ、絶対に災いの種となるのは目に見えている

皆、黙り込むが


「皆様、よろしいですか?」

「セバスさん?」

「私に考えがございます」

「何?」

「私が連れてきましょう、聖女様と勇者様を人知れず、転移魔法に関しては誓約魔法で縛り付けます、他人に教える事が出来ない、と誓約を掛けてしまえば問題有りません」

「場所はアレクに言って城の地下を使おう、限られた人間しか入れない儀式用の地下がある」

「お父さん・・・」

「でもアリィ、あの子に会うのは私は許しません、これ以上嫌な思いを重ねさせる訳には行かないわ」

「それは賛成!灯、絶対顔を合わせちゃダメ!」

「そうだね、アリィ!もう二度と会わせないよ」


「でも、私が術者だし・・・」

「ネルス翁に協力して貰おう、儀式の間の隣に控えの部屋がある、壁に透視を掛けてそこから転移魔法を使う

儀式の間にはアレク、ネルス翁、私が立ち会う、アリィと他の者は控えから様子を伺う、これでどうだ?」

「ん、分かった・・・」



概ね流れは決まった


セバスが聖女と勇者を捕獲


情報秘匿の為、セバスが二人に誓約魔法を掛けて縛る


転移帰還魔法は城の地下で灯は顔を出さずに行う


勿論、二人には前提条件を伝える


世界を渡るのは一度きり


帰っても恐らく自分を知る人が居ない可能性が高い

そもそも戸籍や存在自体が怪しい


持って行ける物は、こちらで準備した木綿100%の服とその身ひとつ

魔法鞄の中身は全て没収


地球に無いものを持ち帰ってパンデミック等の問題は出来るだけ避けたいし

魔法鞄の中身を誤魔化されては堪らないので、これも誓約魔法で縛り、きっちり吐き出させる



「では、一週間程で戻ります」

そう言ってセバスは姿を消した・・・



「い、一週間って王国に行くだけでもギリギリじゃ・・・」

「セバスなら何でも出来るから多分大丈夫だよ、瞬兄さん」

「お、おお・・・」

相変わらず人外な人である・・・




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