森の戦い
クラスメイトはフィーネ先生に任せ、灯達は森の中を駆ける
森から煙が上がっていたのだ
恐らくオーガと戦闘になっている、しかも火魔法を森で放ってしまう程に追い込まれている可能性が高い
先頭は索敵に優れるマール、次にマーガレットを背負ったエル、最後尾に灯
マーガレットはあまり森の移動に慣れていない、身体能力的には灯が背負った方が良いが身長差があって無理があった
結局エルが背負い、灯が後ろから援護出来るような体制で森の中を急ぐ。
マールは使い慣れたショートソードを片手に索敵魔法、指向性を高めて先行
灯の様に全周広域展開は負担が大きい、前方の見えない範囲を魔法で、あとは兎族の優れた聴覚で十分だった。
エルは手が塞がっているのでマーガレットが片手杖を持ち突然の接敵に備えて魔法待機状態で運ばれる
灯はグングニルを手に、皆に防御魔法を掛けている
「居ました!この先、大型反応3、火災、煙あり!」
「任せて!」
灯はグングニルの補助で魔法を加速詠唱させる、神龍の瞳程ではないが即座に耐火、耐煙、視界支援を皆に施す。
耐火は文字通り熱や火に強くなる、耐煙は呼吸しても煙を吸い込まず目を保護する、視界支援は煙の中で味方とモンスターの判別の為に
「出ます!」
「マーガレット下ろすよ」
「ええ!ありがとう」
少し開けた場所に出る、周囲は焼けた木々に炎、そして煙
怪我をしている人1、戦っている人3、オーガは赤2に黒1
「マールちゃん、南側のオーガを止めて!
エルは北側のを!終わったらマールちゃんの援護、黒いのは任せて!」
「分かった」
「うん!」
怪我をしている人の所にエルはマーガレットを降ろし、すぐ様近くのレッドオーガに飛び掛った
「はああ!!」
ドォンッ!!
「ギオオオオ!!」
エルの強めの蹴りを受けても一撃では倒せない、オーガは総じてタフである
マールは死角から初撃でレッドオーガの片目を斬った
わざと音を立てて自分の方へと誘導する
あとは死角に廻り続けて、隙を見て攻撃を加えるだけだ
自分ではオーガを倒すのに時間も掛かるし、体力も使ってしまう、離脱する時の体力も温存したいのでエルが来るまで安全に余力を残す、自分が倒す必要は無い。
灯は黒いオーガに向かう、気で肉体強化、イージスを纏う
黒は枠外の強さを持つ、青、黄、赤と強くなるモンスターの中で黒は規格外なので気を引き締めて戦闘に入る
槍を突き込むが・・・
ゴ・・・、鈍い感触が返ってきた
「やっぱり硬い・・・」
火の対処もしたいから直ぐにでも倒して終わらせたい
即座に光槍に魔力を注ぐ
ヴヴヴヴッ!と蒼白く輝く、レッドオーガ以上のモンスターなので更に魔力を込める
バヂバヂバヂッ、槍から魔力が逆流するかのような抵抗を感じたが身にまとったイージスで無理矢理押さえ付けてブラックオーガに投げ付けた、狙いを定める必要は無い
投げれば必中の槍。
元々加減をするつもりは無かったが。やはり過剰攻撃だった・・・
ジュ、とオーガの頭部が消し飛ぶ
「よし!」
振り向くとエルが丁度レッドオーガを蹴り倒した所だったので、マールの所へ援護に入る
手には自動的にグングニルが戻って来る
今の魔力が残っているのか未だに蒼白く光っている
「マールちゃん!」
マールは灯の声を聞き、即座に灯とレッドオーガの射線から外れ、距離を取った
マールが離れたのを見計らい槍を投げる
「えい!」
槍が一閃、胸を貫く
あっという間に倒したが、まだ気は抜けない
周囲を見渡すとマーガレットと王子様が話をしていた
「マールちゃん周囲の警戒を、エルは私を守って、魔法で火と煙消しちゃうから」
「はい」
「安心してアリィ」
強引な加速詠唱も身体に負荷をかける、見える範囲にはモンスターも居ないのでゆっくりと普通に魔法を使った。
範囲消火、煙除去、周りに延焼防止で水魔法を雨状にして撒いた
「こんなもんかな?エルありがと」
「お疲れ様アリィ、マールそっちは?」
兎耳に手を当て周囲をグルっと確認していたマール
「大丈夫、近くには大型モンスターは無し、でもあっちの方向に多数の足音が聴こえるよ」
「黒居たからコロニー化してると思うんだよね・・・」
「アリィ索敵は?」
「まだ範囲絞ってないから禁止されてる」
「そか、じゃあ此処からは戻った方が良いね」
「あの、アリィちゃん索敵魔法じゃなくて千里眼、遠見系の魔法は使えないんですか?
索敵だと感覚拡大させてるから神経使うけど、遠隔視は視界を飛ばすだけなので負担が少なく済むと思うんだけど・・・」
「そうなんだ、使えるけど使ったことないや」
「あちらはまだ話が長引きそうですし、今の内にコロニーの規模だけ確認しておいた方が城からの応援もやりやすいと思うの」
「分かった、やってみる」
目を閉じて千里眼魔法を起動、何やら変な感覚だ
身体は此処に有るのに目玉だけが飛んでいってるような・・・
うん、グロいから考えないようにしよう
マールの言っていた方角に視界を飛ばす灯
「居た・・・」
「規模は?」
「青が10、赤が5、キングとクイーンも居る」
「出来たばかりみたいだね」
「うん、他には居ない、かな・・・?」
スーとゆっくり遠隔視を解いて目を開くが、クラリと視界が歪む
「アリィ!?」
「お、わ・・・、気持ち悪っ」
エルが支えてくれたが、視界は揺れたままだ
「お、おお、揺れる・・・」
「遠隔視の影響だね、大丈夫、少し休めば収まる筈だから」
「アリィ、目瞑ってて良いよ、ほら手」
「ありがと」
「地図にマーキングして、と、コレを騎士団に渡せばかなり楽に討伐出来ると思う」
敵の数と位置が割れているだけでも偵察の手間が省ける
「取り敢えずメグさんの方に行こう、なんか揉めてるみたい・・・」
「うん、わ、っとと」
エルに手を引かれているといっても森の中、足元が怪しいので灯はズッコケる
「よいしょ、アリィ掴まってて」
「ありがとうエル」
灯を抱き上げるエル、灯もエルの首に手を回して身体を密着させた
身体をくっ付けた方が抱き上げた側が楽に運べるからだ
「お兄様!早く避難を!」
「五月蝿い!サクッとオーガを倒して帰るだけだ、邪魔をするな」
「サクッと?怪我人を出して何を言っているのですか!」
「大した傷じゃない、ヒールで治る、それに女に倒せたんだ、男に出来ない道理はない」
「もう一歩で死にそうになってた人が言う事ですか!
アリィもエリューシアもマールさんも鍛錬しているからこそ戦えるのですよ、何もしていないお兄様が何を出来ると言うのです」
「っ!五月蝿い!ちっ、どいつもこいつも、殿だよ殿、避難するのに後ろから襲われたら堪らないだろ」
「王子が殿などその頭は飾りですか!」
なんかアレだ、話にならない・・・
ああ言えばこう言う、なんだろ、王子なんだから現場は現場の人に任せたら良いのに、上の人が「俺の方が上手くやれる」とでしゃばって混乱させてるようなものだ・・・
と言うか、横に居るマールちゃんからの殺気が凄いことになっている・・・
目を瞑っていてもヒヤリと突き刺す様な空気が感じられる
「ま、マール、落ち着いて、ね?」
エルの声もヤバいものを見てしまったとばかりに引きつっている、どんな顔してるのマールちゃん
「チャンスなんだ、オーガの首のひとつくらい持って帰らねば・・・」
ロウラーがチラリと灯の方を見て言った
エルは何となく察した
(アリィ、ちょっと)
(ん?なに?)
(王子様と何かあったの?)
(何か?接点なんて、初めて城に言った時に顔を合わせただけで特には・・・)
(本当に?)
(うん、客間で待っている時に、部屋に入って来て「茶は美味いか?それは俺が選んだ物だ」って言って、それだけだけど・・・)
(あ、ふぅん・・・)
大体の状況が目に浮かぶ、王子の評判はあまり良くない
イタズラや人を試すような事をしているとクラスメイトからも聞いている。
優しい、とか
紳士で、とかは全然聞かない
ひとつ可能性があるとすればアリィに一目惚れした可能性だけど、今チラリと見た視線の中には恋慕というよりは焦燥や負い目といった色が強いと思う。
つまり、何かしたんだ、アリィに・・・
でもアリィはそれに気付いていない、お父さんは把握してるだろうけど教えていない
でも、アリィにそんな事をしておいてお父さんが黙っている訳もないから
きっと何か裏であった、筈
なるほど、ね・・・
エルの視線が冷たく鋭くなって行く
マールも頭にきていた
戦場に男も女も無い、チャンスなんてものも無い
ただ命のやり取りがあるだけだ
理由は知らないけど、王子様はこの場を戦場として自分の活躍を示したい事が伺えた
ふざけるな・・・
王族の現場介入は辺境隊の中でも厄介な問題だ
現在辺境伯の独自権限が強く認められているといっても
実際王族が現場に来て口出しされると完全に無視は出来ない
命を張っているのは辺境隊のみんななのに
指揮官が変わって好き勝手されては堪らない・・・
マールが黙っているのはマーガレットの顔を立てているのと
正論を言うマーガレットに対して子供じみた言い訳を繰り返す王子に呆れて物を言うのも馬鹿らしくなっただけだ。
それに、女に出来るなら男にも出来る?
鍛錬も録にしていない人間が、騎士団に護られている人間がそれを言うのか?
私はそれなりに鍛錬をしている、アリィちゃんもエルちゃんもだ
特にアリィちゃんの戦い方は熟練の思考と判断力、戦闘能力も兼ね備えていて一石二鳥で身に付けたものでないと一目で解る
先程の戦いの指示についても的確で、私ではブラックオーガの相手は出来ない
エルちゃんには可能だと思うけど、物理耐性の高いオーガ、さらに上位種となれば格闘が攻撃手段のエルちゃんでは相性が悪く
沢山の攻撃手段と武器、魔法が使えるアリィちゃんが相手をするのが一番危険が少ない
怪我人の近くに居たレッドオーガにエルちゃんをぶつけたのは力で押し切って、怪我人から引き離せるから
私は膂力が無いのでどうしても力押しは出来ない
間合いを取り、地形や広さを使って戦うから
少し間合いの取れたレッドオーガにと指示された事が解る。
実際、アリィちゃんはアーティファクトらしき槍の力を使ってあっという間にブラックオーガの頭部を消し飛ばしていた
騎士団一小隊で戦うようなモンスターを単騎圧倒、流石S+の冒険者だと思った
でも私は知っている、アリィちゃんは決して闘争を好む子じゃない
エルちゃんも森で危険な目にあったからと護身の武力を身に付けているだけだ
サイリ様の指導というだけあって多少、いやかなり過剰ではあるけど・・・
強いと言っても怪我をしないというわけじゃない
みんな、危険が分かっていてもメグさんのお兄さん、王子様を連れ戻しに来たと言うのに、当の王子と来たらっ!!
以前お父さんに言われていたっけ・・・
「王族とはあまり関わるな、これは我が家に伝わる教訓だ、人となりを知って「あんな奴の為に命を賭けるのか、となると途端に馬鹿らしくなる」」
って、こういうことかぁ・・・
じゃあ、どうして今も辺境伯家を継いでいるの?って聞いたら
「王家ではなく、領民を、家族を守っているだけだ、結果国を守っているだけの事」
って、今なら解る、その通りだ。
友達の為にエルちゃんアリィちゃん、メグさんが平和に暮らせる、と思えば戦える
王子様の為になんて、少なくとも今は真っ平だ。