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緊急戦闘

フィーネはテントを出てトイレへと向かっていた

早寝早起きは研究の効率も良いし、お肌にも良い

生徒達はまだ寝ているようで先に準備を整えていつでも動ける様にしておこう、と考えていた。


トイレが視界に入る、その時

茂みから巨大な人型の影が飛び出して来た

「え?」

有り得ない、此処は結界内で

有り得ない、はじまりの森に

有り得ない、赤い肌に3m程の巨体

赤き鬼人と呼ばれ、ベテランの冒険者、騎士も警戒するモンスター、レッドオーガがこんな所に居るなんて・・・


モンスターは色で概ね危険度が判断出来る

ブルースライムが最弱で、少し強いのがイエロースライム、危険なレッドスライムと

青に近い程弱く、赤に近い程強く危険なモンスター


瞬時に生徒達を守らなければと土を使いゴーレムを創り出す

だがレッドオーガを倒せない事は知っている

足止めして、その間に生徒を起こし避難を・・・

と、思考を巡らせたその時

レッドオーガがトイレを破壊した、大丈夫、まだ朝は早い誰も居ないはず・・・


「え、きゃっ!」

フィーネの耳に女の子の声が届いた

人が!?

マズイ、マズイ!近過ぎる、人は見えないがトイレに居たのなら、もうオーガの間合いに接近していると言う事

オーガと接近戦するなど愚か者と同義、基本は近付かれる前に魔法で焼き殺してしまうのが定石

急いでゴーレムを組み上げるが完成にはあと30秒は掛かるだろう

かと言って自分が間に入る訳には行かない

戦闘用の防具を身に付けていないし、仮に身に付けていてもオーガの前では魔法使い系が纏う軽装は無意味

この場で自分が倒れては野営地に眠る生徒達には誰が知らせるのだ、どうする、どうする・・・


フィーネが悩んだ時間は数秒にも満たない

オーガは無慈悲に鋭い爪を振り下ろした

「っ!!」

なんて事だ、生徒が・・・

見れば、オーガの爪先には衣服が、恐らく女生徒の物と思われる

「くっ、早く、早く!」

焦るフィーネ、今の一撃で生徒は死んだかも知れない

だが生きてるかも知れない

焦りながらも確実にゴーレムを組み上げ、よし!と改めてオーガの方を見ると・・・


「や、ちょっと、もう、待って、、」

アリエットさんがピョンピョンとオーガの攻撃を躱していた

無事だ、しかも彼女なら大丈夫と一瞬安堵するが

よく見ると反撃もせずに逃げ回っている

キャミソールとショートパンツが切り裂かれ、片手で胸を隠し、もう片手でショートパンツが落ちないように押さえていた

アレでは反撃出来ない、いやレッドオーガを前にして羞恥を気にしている分ある意味余裕なのかとも思うが・・・


「ん、もう!」

見えてしまうのも諦めたのか、胸から手を離し

空いた手には古ぼけた小さな槍

あんな槍で何をすると言うのだ、と彼女を知る前なら笑っていただろう

しかし彼女は素手でルナメタルの鎧を破壊する馬鹿ぢか・・・、もとい優れた力を持つ冒険者

並の槍ではない、絶対・・・


短槍を手にした瞬間、アリエットさんの目付きが変わった

いつもニコニコと優しく穏やかにクラスメイトと付き合う姿とは似ても似つかない獅子としての、戦士の横顔だった。


「ん!」

槍に魔力が込められた、何をするのだろうかと思った次の瞬間

「えっち!」

気の抜ける掛け声にズッコケる、確かに服を切り裂いて襲われたならそうなのだが・・・

軽く、そう、とても軽くオーガに向けて槍を投げたように見えた

槍は蒼白く輝いたと思えば、ヴンッと一筋の光となってオーガを通過していた

ピタリと止まったオーガが膝を付き地面に倒れる


やっぱり規格外だ、この子・・・

呆れつつも襲われたのが彼女で良かった、他の人が襲われたなら

こんな呆気なく戦闘は終わらない、トイレを破壊した最初の一撃で死人さえも有り得た

不幸中の幸いとは正にこの事


「アリエットさん!」

「あ、フィーネ先生!」

フィーネが声を掛けると普段の灯の様子でニコリと笑顔を向けて来た

うん!この子絶対怒らせちゃダメね!

フィーネは灯と話し、今後の対応を決める事にした。





「アリエットさん怪我は!?」

「あ、大丈夫です、服破られちゃったけど」

「そう、良かった・・・、トイレに他の人は?」

「居ません、私だけです」

安全確認して、倒れたオーガの様子を見ると胸にポッカリ穴が空いていた

光槍が穿いた結果である


「アリエットさん、少し相談したいのだけど、先ず着替えて来て?

出来れば貴女達のパーティーみんなもお願い」

「分かりました、オーガはどうしますか?」

「このままではマズイから、何とか隠すか処理しないと・・・」

「じゃあ、しまっておきます」

ヒュンと灯の魔法鞄に巨体が消える

「さ、流石ね、みんな起きる前に色々決めたいから後はお願い」

「はい、スグに先生のテントに行きます」

「ええ」


レッドオーガ討伐はフィーネには出来ない

他にも居るかもしれない

今の状況を考えると生徒であっても戦闘能力の高いエルと灯の協力は必須

マールも戦闘経験が豊富で団体行動に慣れている

マーガレットは王女で、クラスメイトとの関係も良好

マーガレットが中心で指示をすれば皆大人しく聞いてくれる

この時点でフィーネは新緑会の終了、避難撤退を決めていた。




「なるほど、では早急に帰還の準備に移りましょうか」

「先に私達だけ食事を済ませてしまいましょう」

「はい」


マーガレットが指揮を執る

エル、灯、マールは念の為周囲の哨戒に出て安全を確認、近くにはスライムとコボルト以外居ないことを確認した。

その間にクラスメイトは起きてきたので、フィーネ先生とマーガレットで事情を説明して帰還する旨を指示する。


騎士団や冒険者志望はオーガと聞き青ざめ、それ以外は危険性が分からないのか

もう終わりかぁ、と言った様子であった。


帰還の隊列は先頭にマーガレットとエル、間にマール、最後尾は灯といつ襲われても大丈夫な様にした。


フィーネ先生は

「他のクラスの教師に伝えて来ます、今回の日程ではもうひとクラス別の野営地に来ているので・・・」

「なら私達は先に行きましょう」


フィーネがオーガと遭遇してもゴーレムを囮に離脱出来る

クラスメイトは灯達が居れば万全の護衛


「マーガレットさん」

「大丈夫、わかってますわ、森の外に騎士団と冒険者ギルドの混成部隊のキャンプがある事くらい」

緊急時対応の為に、必ずはじまりの森の外近くには部隊配置されている

流石にオーガとの戦闘は想定していないが、そこから城への応援とオーガの足止め程度なら先に動く事が出来るだろう。


「お願いします、では!」

フィーネ先生はゴーレムの肩に乗って森の中へと消えた・・・



灯達クラスは何も無く無事に森の外のキャンプまで辿り着く

キャンプにはジョーさんが居たので灯が委細説明をすると

「おう、良い対応だ、無事安全が一番よ」

と、ぐしぐしと頭を撫でて騎士団の代表の方と話し始めていた。


「ふう、とりあえず一安心といった所ね」

「うん」

「アリィ、お父さんには・・・」

「ん、朝見廻りした時に連絡入れてる」

公爵邸に設置した通信用魔法水晶に灯から一報は入れてある

恐らく城から騎士団が昼過ぎには到着する筈だ

「そこまで必要あるかしら?」

「うーん、近くには他のオーガ居なかったけど、嫌な予感するんだよね・・・」

「私の耳にも何も捉えられなかったけど、もしかしたら森の奥の方に居るかもしれませんし」

「まあ国の管理地だから確認は必要かしらね」

「うん、とりあえずお昼を何とかしよ、今から魔法都市に向かうとお昼跨いじゃうし、お昼食べて帰還で」

「それには賛成、でも何作るの?」

「豚汁とかどうかな?」

「トンジル?」

「私の故郷の料理なんだけど・・・、少し作って味見してもらって、大丈夫そうなら大鍋で作ろうか」

「分かったわ

皆さん、集まって下さいまし」

森を抜けて安心したのかクラスメイトはみんな立ち話をしていた、マーガレットが声を掛けるとサッと集まる

「これからの予定ですわ、こちらのキャンプで昼食後に帰還とします

お昼はアリィの故郷の料理を作りますが、最初に少量作って味見しましょ?

苦手な人が居れば別の物も追加で作る事でよろしいかしら?」

「はーい」

「いいよー」


「ん、じゃあ、ササッと・・・」

大根、人参、じゃがいも、ねぎ、豚肉をサッと炒めて

小鍋でお湯を沸かし、煮込んで味噌で味付け、最後に料理長に言って作ってもらった豆腐を入れて完成。

こんにゃくはまだ開発中だ、


サッと30分足らずで豚汁を作り、みんなに少しずつ味見してもらう

「あら、美味しいじゃない!」

「温かい、優しい味・・・」

「この、ミソ?良いな、俺好きだよ」


どうやら好評なようで灯はホッとする

「では皆さん!」

マーガレットが率先して皆に指示を飛ばす

森に入らず木の枝を集める人、寸胴に水魔法を注ぐ人

調理する人と配置を決めて皆キビキビと動く

「メグ、仕切るの上手いね」

「王女ですもの、指揮系統は必要よ」

「仲良くなったもんね、みんなと」

「ええ、そうね」


「マーガレットさん、火お願いしますー!」

「任せて」

ボッと組まれたかまどに火を灯す

エルとマールは木の枝を集める班で護衛も兼ねていた

しっかりと考えられた配置であった。


「どうせならキャンプの部隊の人の分も作ろっか?」

「そうね、代表者に話を通して来るから調理の方はお願いね」

「分かった」


こうして手際良くクラスをまとめるマーガレットには騎士団も驚いていた

少し不慣れな面もあったが皆役割を果たし、食事を準備する貴族子息令嬢達は中々見られるものではない。



お昼前には豚汁も仕上がった

「少し早いけど食べてしまいましょうか、応援も時期来るでしょうしお腹も落ち着けていた方が移動もスグに出来るわ」

「うん」

「それに、こんないい匂いが傍にあって我慢も難しいしね」

「ふふ、ねー、こういう所は辺境隊のみんなも貴族も関係ないね」

と、少し早めの昼食を取っていたキャンプに

ゴーレムに乗ったフィーネ先生が慌てて飛び込んで来た

「あ、先生ちょうど豚汁出来てますわよ、食べますか?」

「マーガレットさん!こっちにロウラー様は来ている!?」

「お兄様?来てませんが・・・」

「そんな・・・」

「どうしたんですか、先生」


フィーネ先生が説明した話はこうだ


別クラスの野営地に到着

随行していた教師に状況説明すると

直ちに野営を中止帰還するとなったらしいが

一部の人が居なくなっていたと言う


朝と夜、必ず点呼を取る決まりになっていたので昨日の夜には居た

朝も他の生徒に確認すると食事を取っていた姿は見たと言う

周囲の見回りもしたが発見出来ず、かと言って見つかるまでこの場に留まる訳にもいかない

随行の教師は避難の開始を指示、フィーネ先生はゴーレムで突っ切ってキャンプまで確認しに来たのだと言う

そしてキャンプには来ていない、つまり・・・

「オーガの話を聞いてお兄様が煽動、森の奥へ討伐しに行った可能性が高い、と言う事ですわね?」

「マーガレット、煽動って・・・」

「事実よ、マールさんならその意味分かるでしょう?」

「あ、うん・・・」

「ん、どういうこと?」

「昔の話だけど、辺境隊の慰問に来た王族が居て

タイミング悪く隣国の部隊と戦闘になった事があったらしいの・・・

その時、慌てた王族が辺境隊の指揮官を叱責して無礼打ちしちゃって、指揮官に取って変わったんだけど・・・」

「ズタボロにされて部隊は壊滅、王族だけのこのこと生き延びたのよ」

「えー・・・」

「馬鹿なの?」

「エル、そんなハッキリ言っちゃ」

「良いのよ、事実だもの、馬鹿なのよ」

王族には強大な権力と共に責任も発生する

この教訓から辺境伯は独立した力を持ち、戦時には王族の命令さえも拒否出来る仕組みが作られた

今回の王子の事も、次期王太子の言葉を止められる者が生徒の中にはマーガレット以外に居ない事から、独断の行動は同じ様なものである


因みに当時の王族は処刑された

戦時の辺境隊は生命を賭けて国の為に戦う勇士

民衆には絶大な人気があり、現場を混乱に陥れ数多くの勇士を失った責任は王族の名を持ってしても、本人の命でしか贖えなかった・・・


「身内のしでかしなんだけど、アリィ・・・」

「良いよ、迎えに、説得しに行くんでしょ?」

教師に判断を仰がず姿を消した時点で教師の話は聞き入れないだろう

つまり今この場にいる唯一の王族マーガレットが話をして連れ戻す必要があった

せめて騎士団長クラスが居たなら力づくで連れ戻すのも可能なのだが

キャンプには将来の騎士団長候補を筆頭に、ベテランと新人の混成部隊、ロウラー王子を殴ってでも・・・とは中々いかない。


救出は早けれは早い程良い、オーガと遭遇しない内に、遭遇していても何とか耐え忍んでいる内に合流出来る時間との勝負である。


「ありがとう・・・」



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