入学式
講堂には学生、保護者、そして来賓が集まる
「皆、楽にしてくれ
学園が再開した事、嬉しく思う
魔法事故で一時閉鎖されたが、これからも失敗を恐れず挑戦して欲しい・・・」
壇上ではアレクさん、アレクサンダー国王陛下が挨拶をしている
どの世界も挨拶は長いのかなと、ポケーとしている灯
国王陛下の次はネル爺の挨拶
「ほっほっほ、皆校舎を破壊しない程度に遊びなさい・・・」
なんか、現れる人物が片っ端から知り合いだ
アレクさんの護衛にはクインさんや、騎士団の訓練に参加した時に居た騎士団長、騎士さん達が来ている
ネル爺もだし、来賓席を見てみると何故か冒険者ギルドのマスターのジョーさんも居る
「ガハハッ!冒険者目指す奴も、そうでない奴も新緑会に参加する者は相談に乗るからいつでもギルドに来てくれ、口の悪い奴らしか居ねえが学園で学ぶ基礎知識から更に踏み込んだ話も聞けるだろう・・・」
あー、新緑会の連絡も兼ねてるんだ
はじまりの森がブルースライムとコボルトしか出ないと言ってもモンスターはモンスター、指導監督は騎士団と合同でギルドも加わっているって話だったっけ。
騎士志望と冒険者志望は参加して経験を積む
貴族の参加者の大半は中々経験の出来ない野宿と冒険って事で、思い出作りに参加が多いってメグが言ってたなあ
今年は入学式から二週間後に開催されるって話だから
あの魔法も仕上げておかないと・・・
灯は現在新しく通信魔法を開発していた
やはり電話の便利さを知っていると、手紙だけのやり取りには限界を感じた為だ
元々、近中距離用の会話魔法は使っていたのだが、長距離会話となると中々難しい
会話のラグ、安定、距離が伸びれば伸びる程難易度が高くなる
灯の大魔力で強引に通信しても良いのだが、たかだか電話するのに消耗なんてしてられない
長距離安定かつローコストを目指す必要がある
現状では魔力水晶を電話機として媒体に、水晶間で会話は可能となっていた
問題は魔力水晶がレアアイテムという点で、どうしても安価にとはいかない
試用版として王家と公爵家間に魔力水晶を設置してサンプリングしていた
因みに灯は魔法式の開発、ネル爺が魔法式を水晶に刻んで完成させている
灯とネル爺は開発者だけあってどちらの水晶にも通信する魔法を備えていた
水晶の方には使用者設定を組み込み、王家側にはアレク、サーシャ、マーガレットの登録を
公爵家側にはサイリ、リリス、エクス、エル、灯、セバスの登録をしている
もし盗まれた時に誰でも使える様ではセキュリティ一上問題があるからだ
使い方は簡単、水晶に触れて魔力を通すだけ、消費は極微小。
あとはコスト削減と小型化出来れば完成となる
ボーとしながらも頭の中で魔法式の改善、転移魔法の事を考えているといつの間にか式は終わっていた
「アリィ、行くよ」
「あ、うん」
生徒は再び教室へ、保護者は解散となるが先に帰る保護者も居れば子供と一緒に帰る保護者も多い
サイリ達は勿論一緒に帰るので子供達が来るまで講堂内でアレク、サーシャと少し話をしていた。
「ねえ!アリエットさんは新緑会参加するの?パーティーは決まってる?決まってないなら一緒に組もうよ!」
「ごめんなさい、もうパーティー決めててエルとメグ、マールちゃんと一緒に・・・」
「え!?マーガレット様も参加するの!?」
その言葉にクラスメイトは皆驚く
「うん」
ザワザワ
王女様が参加するなら、俺達も・・・
マーガレット様が新緑会に?わたくし達はどうしましょう・・・
元々マーガレットは残ってお茶会を主催する立場だったのが、今回は野宿するとなれば話は変わる
王族はほぼ居残り組になる、野営に参加する変わり者は最近は殆ど居ない
そんな中、王女マーガレットが野営実地訓練となる新緑会に参加となれば・・・
騎士志望なら良いところを見せるチャンスかも知れない
令嬢にしても共に野営に参加したという、ちょっとした忠誠を示すものになる
この話は、あっという間に同級生の間に広まり、過去例にない人数が新緑会に参加する事となった。
「あれ?そう言えば王子様は?」
「お兄様ならSクラス、別のクラスよ」
「私とエルは一緒なのにメグは違うんだ?」
「まあお兄様はお兄様で色々あるみたいよ、最近は様子が少しおかしいし・・・」
「おかしいって?」
「そうねえ、真面目に勉強し始めたわ」
「ん?それは普通じゃないの?」
「アリィみたいに何でも真面目に取り組める人なんて中々居ないものよ、コレには力を入れて、アレは手を抜いて、って感じ」
「あ、そうなんだ、でもそれならいい事じゃないの?」
「なんか、焦ってる様に見えるのよねぇ・・・、気のせいかも知れないけど。
あと、新緑会にも参加するみたい」
「へえー、そうなんだー」
「あの、アリエットさん、よければ手合わせして貰えませんか?」
今は護身術の授業中、マーガレットと灯は二人でストレッチしていた
運動着は指定の物は無く、獣人なら伝統の戦装束、エルフも伝統的な軽装に胸当てと、亜人組は皆伝統の戦闘衣装だった。
人族は各々が用意した装備で、身を固めている
「え、私?」
「う、うん、ダメかな?」
「いいじゃない、クラスメイトに力を示しておきなさいよ」
「うん、まあ良いけど・・・」
「ありがとうアリエットさん!じゃあ早速、武器は使っても良いかな?」
「良いよ、何でも」
男の子、確か冒険者志望の子だ、木の棒を構える
灯はグローブ着けて構えた
他のクラスメイトも興味津々なのか手を止めて二人の模擬戦を見守る
「はじめ!」
「はああー!」
ブン!と袈裟懸けに切り付けて来る
灯は片足を少し引いて半身になって躱す
「く、でや!」
袈裟斬りから横なぎに変化するも、灯はゆっくり丁寧に捌いた
サイリやセバス、騎士団との組手が普通の灯にとって
アマチュアとも言える冒険者志望の攻撃は遅い
隙を見付けては、手を開いてペチン、ペチンと軽く打ち込んで行った
流石に模擬戦と言ってもクラスメイトをぶん殴る訳にはいかない・・・
左頬、ペち
空振りを誘い、胸部にぺちん
振り切って腕が伸びた所に、手をぺちん
ポニーテールがサラサラと舞い、余裕を持って動く灯の動きは戦っているようには見えない
周囲から見れば闘牛を相手にするマタドールのような優雅なものに見えた
「はあ、はあ、はあ、参った・・・、全然当たらない・・・」
「ありがとうございました」
「本当に強いんだねアリエットさん、皆S+は嘘だって思ってたから、こうして初めて向かい合うと手も足も出ないのが分かるよ・・・」
「そ、そんなこと・・・」
「ねえ、俺どうだった?」
「え?えっと、少し大振り過ぎるかな・・・、相手にもよるけどあそこまで振り回さなくても真剣なら切れるだろうし・・・」
「そっか、ありがとう!」
「私も刃物はあまり分からないから、そんなに・・・」
「いや!冒険者の意見は有難いよ!」
「次、俺とやってくれよ!」
「いや、俺と!」
「う、うん」
得意分野ではクラスメイトに教え、そして貴族関連の事ではクラスメイトに教えて貰い、と概ね関係は良好で学園生活を送る灯
マーガレットの方も、最初クラスメイトは遠慮しつつだったが
いざ話してみると
「これは、こう・・・、そうそう、良いわ、やるじゃない」
「マーガレット様、実は・・・」
「あら、そうなの?ふふ、頑張ってね」
などと、意外と面倒みの良さを発揮していて
仲のいいクラスとしてまとまっていった。