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模擬戦

「騎士と?」

「ずっと私達とばかり組手でも良くないと思ってね、それに私とセバスで定期的に騎士の訓練をしていたんだ、最近行ってなかったからどうかな?」

「手加減の練習と治癒功、ヒールの練習にもなりますし、騎士も最近弛んでいて陛下からも依頼が来ておりますから」

「行ってみよっか、アリィ」

「うん!」


騎士達の地獄の幕開けである


城の騎士訓練所


「皆様、お久し振りです」

「少し引き締めに来たから」

「あの、サイリ様・・・、そちらの」

「私の娘達エリューシアとアリエットだね、皆、心して手合わせするように」

定期的な戦闘指導にはサイリとセバスが来ていた

今回は傍らに獣人の戦装束を着たエルと灯が来ている

女性騎士が全く居ない訳では無いが、総数は少なく

そんな男所帯の騎士団訓練所にショートジャケット、ヘソ出し、戦闘用とはいえサンダル姿の貴族令嬢が居るのは違和感しかない・・・


「は、はあ・・・」

「いや、待ってください!もし怪我でもさせたら・・・」

「その心配は無用だ、セバス」

「はい、お嬢様準備は?」

「うん、良いよ」

「では・・・」

セバスが徐ろに黒檀の木刀を取り出し、灯に振り下ろす

ゴウッ!手加減の欠片もない一振りに騎士一同は呆気に取られる、が


バギンッ!!


「は?」

灯に当たったと思われる木刀は砕け、折れた

無傷である、イージスを掛けて防いでいた。


「皆、見ての通り魔法によってエルとアリィは護られている、余程の一撃でない限りは破壊不能の防御だから遠慮する事はない、存分にやるといい」


「そ、それは良いのですが、逆に近接の掴みや投げが・・・」

それを聞き、サイリはエルと灯の頭を撫でる

「見た通りだ、素手なら触れられる様になっている、他に質問は?」

「いえ、大丈夫です・・・」

魔法に限定条件を付加している、一定の攻撃と判断される行動には防御遮断、掴みや投げに対しては発動しないように調整されていた。



「一応無いと思うけど、故意的に不埒な真似をしたら、皆分かってるね?」

「「「はい!」」」


「では、私が審判を務めさせて頂きます」

「アリィ!負けたら承知しないわよ!」

マーガレットが野次馬に

「後で私とも手合わせお願いします」

マールは戦装束を纏って近くに居た

辺境伯領地に居る時は森で訓練を

魔法都市に居る間は腕が鈍るとして騎士団の訓練に定期的に参加していた

流石に今回の様に男性騎士の訓練には参加していなかったが


「うん、あとでね!」


「では、始め!」

セバスの掛け声に、黒いグローブを握り締め構えをとる灯

対峙する騎士は人族、特にグローブも何も着けていない素手


(お、意外と様になってるな・・・)

と感心した瞬間、姿を見失った

「は?」

ズバンッ

一瞬にして距離を詰めた灯の掌底が綺麗に入った

「ぐはっ!・・・って、お?」

灯の速度に面を食らった騎士、反射的に痛いと思ったが・・・

「・・・軽い、いや、そりゃそうか!」

灯の身長は145そこそこ、細身なので体重は重く見積もっても50もいかない、対して騎士は190以上の身長に130kgの体重

その体重差は簡単に覆せるものではない

ヒュッ、再び騎士の視界から灯が消える


バシッ

「ぶっ!?」

足下を払われバランスを崩され鼻筋に拳を叩き込まれた

が、やはり軽い、鼻血は軽く出たかも知れないが

身体の芯に響く様なサイリ、セバスの打撃と比べるとダメージなどほぼ無い

スピードは確かに凄い、全くついていけないし捉えられない

しかし、殴られたと言う事は手の届く所にお嬢さんが居るということだ


「わ」


ガシリと灯の左手首を掴む騎士

「よし、ふう、ってー、お嬢さん負けを認めて下さい」

「え、なんでですか?」

「なんで、って、掴まれてるんですよ、此処からどうすると・・・」

体格差を考えるなら押し倒してマウントを取ってしまえば終わりだ

リーチと体重差からして灯にひっくり返せるはずが無い、そう思った騎士

「??」

「お嬢さん、俺が貴女を押し倒して馬乗りになったらおしまいですよ、貴女の力では俺の下からは抜け出せない」

「私、まだ押し倒されてませんけど・・・」

「いえ、ですから、これから倒したら終わるので負けを認めて下さいと・・・」

というかサイリ様の愛娘を押し倒した後の方が怖い・・・

チラリとサイリを伺う騎士、サイリはその視線の意味に気付く

「マーク構わない、押し倒してマウントが取れたならそこでアリィの負けにしよう、私も何も言わない、全力でやるといい」

「う、はい・・・、お嬢さん行きますよ」

「どうぞ」

グッと力を入れて押し倒そうとするマークだが


!?


(ビクともしねえ!嘘だろ!?)

左手で灯の右手首も握り、完全に両手を封じて力と体重に任せて倒すだけだ、なのに・・・


「へいへーい!マーク何やってんだよ!滅多にない機会だ、とっととお嬢様を押し倒しちまえ!」

ギャハハハ!と品のないヤジが飛んでくるがマークはそれ所ではない

身体のバランスを崩すどころか握った腕さえピクリとも動かない

「嘘だろっ!?」

灯の手首は細く、マークの片手で両手を握れる程差がある

力を入れるとポキリと折れてしまいそうな細腕が全く動かない

この大木を相手にしているかのような重さ、覚えがある・・・

サイリ様と手合わせした時もピクリともしない、そのもので


「もう良いですか?」

「は?」

全力で力を込めていたマーク、灯は騎士に左手首を握られたまま何の抵抗も無く相手の左手を握る

押さえ付ける力をものともしない様子で手を動かされ驚愕する、そして軽く力を入れる灯


メキ

「ぐあっ、っ!!」

マークは左手を握り潰されるかと思い、反射的に左手を灯の手首から離して距離を取ろうとした

瞬間、天地が逆転する

ドスンッ

背中に衝撃が走った

マークは気付くと空を見上げていた

投げられたのか?とぼんやりしていると

「そこまで、アリエット様の勝ちです」


シンと周囲の騎士達が黙り込む、口汚いヤジも消えた


マークは近くの騎士の所へ行き、地面に腰を下ろす

「おいおい、随分お優しいじゃねえか、マーク!」

「・・・バカ言うな、普通に負けたんだ」

「はっはっは!冗談キツイぜ!接待上手だなお前はよー!」

「コレが嘘に見えるか?」

マークが灯に握られた左手首を友人騎士に見せる

「・・・は?、嘘だろ・・・」

その手首は赤黒く腫れ上がっている、どう見ても無事な手首の様子ではない、もしかしたら折れてるかもしれない・・・

騎士は絶句して固まり、マークの所へ灯が来た


「あの」

「うわっ!」

「おう、どうしたお嬢さん」

「ごめんなさい、力加減間違えちゃって、怪我してますよね・・・、治しますから」

「かまやしねえよ、怪我は付き物だ」

「ヒールの練習も兼ねているので・・・、ごめんなさい」

灯はサッと治して去っていった、治癒の時間からしてどうやら折れていた訳では無かったようだ

「加減だとよ・・・」

「は、は、マジかよ・・・」


治療に来た灯の代わりにエルが戦っていた

こちらも灯よりは身長があると言っても、やはり騎士と並ぶと男と女の体格差がある

だが・・・


「はあっ!!」

ドッ!エルの回し蹴りを受け、騎士はガードごと吹き飛ばされる

「ぐ!!」

ザザザッ

衝撃を殺し切れず数m後退していた

貴族、しかも女性の放つ蹴りの威力ではなかった


「アッチもか・・・」

「マジかよ・・・」

「次!」

「げえっ!!」

マークの隣に居た騎士が顔を真っ青にして組手に向かって行った・・・




「げうっ!!」

結果は見るまでもない。



次々に騎士達と組手をしていく様子を見ているサイリとセバス

「ふむ、予想はついていましたが下級、中級騎士では相手になりませんね」

「そうだな、上級、いや団長クラスでないと」

「本気を出したら騎士団では誰も相手になりませんし、今回は手加減の実践でもありますから」

「だな、私達では経験にならないし」

セバスとサイリ相手ではタフ過ぎて、並の力加減を上手く学べない

騎士相手ならば確実に人並な加減を覚えられるし、怪我も怖くない

騎士も鍛えられる、と利点が多い



「アリィちゃんお願いします!」

「うん」

マールと灯の組手、マールはショートソード型の木剣を持って対峙していた

「や!」

「ふっ!」

ヒュンヒュンと軽快に剣を振るマール

それを躱し隙を探す灯、隙を見つけて打撃を当てに行くが

「は!」

スルスルと受け流し無理なく回避していくマール

「ふむ、流石フォース家の方ですね」

「ああ、上手い」

マール相手で灯が手加減している事を差し引いて見ても

力と速度に勝る相手のストロングポイントに付き合わず、のらりくらりと間合いを保つマールはとても上手い

惑いの森で「足止め程度しか出来ない」と自信なさげに言っていたマールだが

その戦い方は時間を稼ぎ、味方の到着を待って安全に敵を排除する堅実な戦い方だった。


「やあっ!」

最後は一段ギアを上げた灯に木剣を掴まれ、空いている片手が首筋に手刀としてピタリと添えられて終わった

「はあ、はあ、アリィちゃんやっぱり強いね」

「マールちゃんもスルスル回避してやりにくかったよ」

「え、へへ、私弱いから辺境隊(みんな)が来るまで時間稼ぐのが一番無理がないの」

「そうなんだ、確かに一対一より一対多の状況を作った方が危なげないもんね」

「うん、お父さんも敵を倒す事より時間を稼ぎ、逃げる事を第一に考えろって、まず一人になった時点で己の判断ミスだから、って」

「退路は常に幾つか確保しておきたいよね、殿も必要になるし」

「そうそう!私は殿を立場上したらいけないから出来るだけ速く離脱出来る様にって、逃げ足だけはイヤと言う程鍛えられちゃって・・・」

「あはは!でも戦わないで済むならそれが一番だよね」

「うんうん、お父さんもみんなもいつも言ってる、「辺境隊(おれたち)が暇であるのが一番だ、平和って事だし、睨みだけで他国が来ないならそれで十分」ってね」

「抑止力だね」

「あなた達、令嬢の会話とは思えないわね・・・」

「わ、メグどうしたの?」

「暇だから近くに見に来たのよ、それにしてもマールさんも中々やるじゃない見直したわ。

あ、見下していた訳じゃなくて、格好良さの上乗せみたいな感じね」

「あ、ありがとうございますメグさん」

「ちょっと、アリィもマールもサボってないで騎士の相手してよー!」

「あ、ごめーんエル、今行くから!

メグ、また後で!」

「ええ、頑張って」


訓練に戻る灯とマール


「私も、剣を少し覚えようかしら・・・」

武闘派が増えつつあった。




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