街歩き②
「鶏串は美味しかったね」
「ね」
「牛・・・」
「だから牛は・・・って言ったでしょ」
「や、逆にどんな味か気になるじゃん、マーガレットの好みに合わないのか、それとも普通に不味いのか」
「まあ、今回は美味しくなかった方だけど」
「気を取り直して次ね!」
「次はどこ行くの?」
「次は服屋よ、貴女達服が目立つもの」
「いやいや、マーガレットも・・・」
皆、着ている服は街着なのだが
生地は上等、作りもデザインも庶民が選ぶ様な服ではないので目立つ
そもそも金髪獣人2人、白い髪獣人1人、黒髪獣人1人の四人組で全員が見目美しいとなればどうしても目に付くので服装の問題では無い。
髪もマール以外は全員長い
労働者層は総じて髪は短くまとめるので、基本的には髪の長さはそのまま地位の高さを示している
「此処はアリィのセンスに任せましょうか」
「え!?私?なんで」
「庶民出身だから、1番感覚は近いでしょ」
「う、うん、多分・・・」
「さ、服替えましょ!」
「えー・・・」
とある服屋の女性スタッフ、ミミは暇を持て余していた
「誰も来ない・・・」
いつもならポツポツと人が来て、そこそこ売れるのに今日に限っては誰も、人っ子一人影さえ見えない。
そこへ、カランカランと来客を告げるドアベルの音が響いた
「いらっしゃいませー!」
来た来た、お客様!さあどんな人達か、・・・な?
「こんにちは」
「少し服見せて下さい」
現れたのは四人組の獣人美少女集団、貴族だ、うん、貴族だね!
お忍び?
忍んでないけど、全然忍んでないけどね!
服!おいくらですかねそれ!
肌、超美しいです、どうやったらそんな肌になるんですかね!
髪!輝いてます!金髪!眩しい!
「ど、どぞ・・・」
「街に合わせるって言っても、マールちゃん以外全員髪長いから・・・、隠すなら帽子だけど絶対収まらないし、そもそも耳引っ掛かって絶対気持ち悪いし・・・」
おや、忍んでない事に気付いてらっしゃる?
確かに、その髪の長さは忍べないですね
「私に至っては髪解いたら、詰む・・・」
黒髪のちっちゃい子は一番髪が長い、キッチリ編み込まれ
よく見ると髪と同じような糸か何かが使われていて一見どうやって髪を留めているのか分からない程だ
凄い・・・、あんな留め方有るんだと感心する。
「あ、エルちゃん、これ似合いそう」
「え、どれどれ?」
「あら、良い色」
「可愛いね、小さな花の刺繍が入ってる」
白兎ちゃんが手に取ったのは青いチョーカー、私の自信作ですよ!
素材も出来るだけ良いものを使って、丁寧に刺繍しましたからね
その分お値段が少し高いので、街の娘さん達が買うには手が届きにくく中々売れませんが・・・
うん、似合うと言われた金髪獣人ちゃんに合う色です
そちらの金髪獣人ちゃんもどうですかね、きっと似合うと思います。
て言うか、毛先が茶色の金髪獣人ちゃん、マーガレット王女様にそっくりなんですけど・・・
「みんなでチョーカー買う?
あ、でもあまりイメージよくないんだっけ?」
そうなんですよ、隣国の王国が奴隷制度を布いているせいでチョーカー=首輪=奴隷、って印象が強くてウケが良くないんですよ
特に年齢層が高くなればなるほど露骨に嫌そうな顔をします
逆に若い子達はあまり気にしないのか最近は少しずつチョーカーも売れてますが、それでも獣人の方は避ける傾向があります。
「うーん、そうねえ・・・」
「私は、気にしないけど」
「それよね、自分が気にしなくても周囲が気にするみたいな」
「あ、この花の刺繍の部分を横に持ってきて、反対側に家紋を付け足すのは?」
「それなら、街歩きとか遊ぶ時くらいなら良いかも」
「流石に公的な場ではチョーカーは着けられないものね」
「マーガレットが着けて出て来たら、知らない人全員ひっくり返るんじゃない?」
なるほど、家紋!それは良いアイデアです!
使用人が着けていては流石に奴隷感がありますが
見るからにお嬢様!って人達が着けるなら忌避感は薄い気がします
そのアイデアいただきです、魔法国の国旗でも刺繍しましょうか、それだと堅苦しいですかね?
って、マーガレット?
「・・・はえ?」
「え?」
「ままままま・・・」
「ままま?」
「マーガレット王女様!?」
「何か?」
「何か?じゃなくて、バレて驚いてるんじゃないのかな・・・」
「メグ、何処に行ってもバレるね」
「そもそも暗黙の了解じゃなかったの?マーガレットがぶらぶらしていたのって、今回はどう見ても何故此処に!って反応なんだけど」
「この店は初めてだからじゃない?気になっていたけど入った事無かったから」
「王女様にチョーカーなんて畏れ多い!」
「良いじゃない、刺繍も上手いし買うわよ」
「ひえっ!?」
「メグが良いなら私も買おうかな」
「やっぱりアリィは赤じゃない?ほら、これとか」
エルが明るい赤のチョーカーを取って灯の首に着ける
「私も、赤、かな?」
「マールさんも赤が似合うわね、白い髪との対比に瞳の色と合っていて良いと思うわ」
「メグもエルと一緒で金髪が眩しいから青かな、」
「落ち着いていて似合うと思います」
「そう?じゃあ着けてくれる?」
「はい、よっと、、どうかな、キツくない?」
「大丈夫よ、ありがとうアリィ」
「マールのは私が着けてあげる」
「ありがとうエルちゃん」
「うん、可愛い!宝石はかたっ苦しいし、街歩きの格好としてならワンポイント利いてて丁度いいわね」
「そうだね!」
「いくらですか?」
「は、はい、ひとつ3000カネーになります」
「今度こそ私が払うわよ、払わせて!」
マーガレットは歓待する者としての意識が高いのか、何かと奢りたそうな様子だった
「あ、じゃあメグは私の分払って、私はメグの分払うから」
「それじゃ意味ないじゃない!」
「意味はあるよ、メグのチョーカーは私からのプレゼント、私のチョーカーはメグからのプレゼント、ね?」
「あ、じゃあエルちゃんのは私が払います」
「そういう事ならマールの分は私が払うから」
「ほら!」
「むう・・・、上手く丸め込まれただけな気がするけど、その考え方は良いと思うわ、仕方ないからアリィにプレゼントしてあげる」
「ありがとうメグ」
「大した事ないわ・・・」
フイッと顔を逸らすマーガレットだが、その横顔は満更でもない様子だった。
「メグって可愛いよね」
ふにふにとマーガレットの頬をつつく
「もうっ、次よ、次!」
「あ、待ってメグ」
マーガレットは照れてしまい、先にスタスタと店の外へと出て行ったので慌てて追い掛ける
店先ではチラチラとこちらの方を気にして待っていた
「メグって本当に可愛い、ツンデレだ」
「意外と口を開くと幼いよねマーガレットって」
「エルちゃん聞こえるよ・・・」
「アリィ、貴女くらいなんだからね、私がここまで許すのなんて!」
「ほらツンデふぇ、はにふんほふぇぐ
「良いから黙ってついて来なさい」
マーガレットは灯のほっぺたをムニムニと引っ張って口を封じ、手を握って歩き出す
「そう言えばメグの武器って杖になるの?」
「そうね」
「どういうの使うの?」
「宝物庫にあった炎天の欠片っていう杖」
「メグさん、森を灰にするつもりですか・・・」
「ダメ?」
「強過ぎるんじゃない?スライムとコボルトだよ?」
「そういうアリィこそ神龍の使うつもりじゃ」
「流石に学園では禁止って言われたし、スライムに必要ないし・・・」
「マールさんは自前のショートソードでしょ、エリューシアは?」
「私は蹴り主体だから、それなりの装いであれば何も」
「ならアリィは殴り主体で良いんじゃない?」
「いやあ、モンスターって臭いからあまり手では触れたく無いんだよね・・・」
「臭いからって、何の為にあんな格闘術覚えたのよ・・・」
「護身の為?」
「フィーネ先生の魔導鎧を素手でバラバラにする護身がどの世界にあるのよ!ルナメタル製よ!?鉄より遥かにかったいものを・・・」
「でも、スライムを格闘で倒すのも粘液ねっとり付くし・・・
コボルトは臭いし・・・」
嫌そうな表情の灯、マールも頷く
「ゴブリンとかオークなんて考えたくないよね」
「絶対近寄りたくないよね、近くても30mで限界・・・」
灯が人族の時に感じた臭いでさえ悪臭レベルは振り切っていたゴブリン、オーク
獣人になった今、優れた嗅覚でヤツらの臭いを嗅いだらどうなるのか、恐ろしくて試すことも出来ない・・・
「そ、そんなに?」
「臭い、と言うより痛い」
「痛い!?ニオイなのに痛いってどういう事!」
「玉葱を刻むと鼻がツーンとして涙がボロボロ出るんだけど、あれを強力にした感じ?」
「ああ!確かに系統としてはそんな感じ!グールとかの相手した方が100倍マシだよね」
「ね、グールなんて、ただ腐ってるだけだから覚悟しておけばまだマシだもんね・・・」
「どれだけなのよゴブリンオーク・・・、玉葱刻んだ事ないから分からないわ・・・」
「兎に角!格闘は護身、モンスターとは別の手段を考えるの!」
「そ、そう、マールさんもそこまで言うくらいだから本当に危険臭なのね・・・」
「アリィはなんでも持ってるから片っ端から使ってみたら良いんじゃない?
セバスなら一通り扱えるし、基本は教えて貰えると思うけど」
「うん、そうしようかな」
「待ちなさい、貴女達はどこを目指してるのよ・・・
令嬢でしょ・・・」
「それはそうだけど、アリィは冒険者に戻る可能性だってあるし、ねえ?」
「うーん、そうだね・・・」
「なに?今の立場に居ながら貴族辞めるつもりなの!?」
「いや、それも分からないけど・・・」
「何よ煮え切らないわね、貴族は嫌なの?」
「嫌、と言う程貴族を知らないし、だからこそ今勉強してる面もあるから」
「リリス様とサイリ様は何も言わないの?」
「お父さんとお母さんは「好きにしなさい」って、ただ道を決めた時にどちらも選べる様に未来の選択肢を増やす為に、って」
「なるほどね、まあ、らしいと言えばらしいか・・・」
「ああ、でも「寂しいから近くには住んで欲しい」って」
「それ、サイリ様でしょ、言ったの」
「よく分かったね」
「あのねえ、遊びに行ったらアリィを膝の上に乗せて毛繕いなんてしてたら、誰だってそう思うわよ・・・」
何度も公爵家を訪れ、必ずエルと灯本人がマーガレットとマールを迎えていたのに
ある日エルだけが出迎えに居て
「アリィは?」
と聞けば
「・・・毛繕いしてる」
と、微妙そうな表情のエル、いつもの様に部屋へと案内されて入ってみれば
「お父さん、そろそろメグが来るんだけど・・・」
「大丈夫、もう少しだけ」
「・・・」
全然大丈夫では無い・・・
公爵様のデレデレな姿、見たくなかった
「う、それは・・・、だって最近構ってくれなくて寂しいって言われて・・・」
子供か!公爵家当主が娘に構って欲しいとか!
マーガレットは呆れる
「貴女もいい歳なんだから断りなさいよ、もう15でしょう?」
「お父さん毛繕い上手だから・・・、つい」
「そうだね、凄いよねアレ」
「エリューシア、貴女も男親に毛繕いされてるの!?」
「これまではしてなかったんだけど、やられているアリィがやたらと気持ちよさそうにしているから・・・
試しにやってもらったら、ねえ?」
「エル、最初立てなくなっちゃったもんね、腰抜けて」
「何やってるの!?」
「「毛繕い?」」
そんなやり取りの最中、マールがハッとしてボソリと呟いた
「そう言えば、毛繕いの上手い人は夜の・・・」
「止めなさいマールさん!それは口にしてはいけません!」
「あ、ご、ごめんなさい・・・」
獣人族内の俗説のひとつ
毛繕いの上手い獣人は夜の生活も上手い・・・
俗説である
人族で言う、サクランボの茎を口の中で結べるとキスが・・・
といった類の俗説。
仲のいい四人と言っても流石に往来で下の話はしたくない
マーガレットが無理やり話を打ち切り、次の店へと案内を勧めた。