討伐へ。
「灯」
「良いよ」
「まだ何も言ってないが・・・」
「ゴブリンとオークのコロニー潰しに行くんでしょ」
「ああ、聞こえていたのか」
「うん」
「良いのか?これは別に、」
「関係無くないよ、お姉ちゃん達も街道使うんだし、生きてるなら助けないとね」
「そう、だな・・・」
助けないと、と言っても己も生身の可能性がある事は先程提示したばかりで、灯が進んで戦闘をこなそうとする姿勢に何か違和感を感じるグレゴリ。
「じゃあギルドで確認、クエスト発注されていれば受注して明日出発?」
「ああ、灯言っておくが、無理はするなよ」
「無理も何も戦うのはゴリさんでしょ、私は肩に乗ってサポートするだけだし・・・」
「いや、サポートも十分一緒に戦っていると言えるさ、お互いリスクは一緒だし、防御が薄い分囲まれた時は灯の方がリスクを負っているとも言える」
真っ直ぐな評価に灯は照れる、グレゴリは裏表がなく彼のそういった態度は灯を無意識ながら救っていた。
「えへへ、そうかな?」
「ああ、頼りにしている相棒」
「うん、頑張るよ、宜しくねゴリさん」
そんな話をしながらギルドへと向かう二人、途中街着から戦闘用に装備を変える。
「・・・」
ボソッと魔法を発動させる灯
「ん?今何か掛けたか?」
「うん、ゴリさんには防御向上、私には分身」
「何か攻撃受ける前提の対応だな・・・」
「ゴリさんは良いけど私はこういう容姿だからね、此処が現実というのならテンプレ的に「お嬢ちゃんここはお嬢ちゃんが来るような場所じゃ無いよ、こっちにおいで飴玉をあげる、ヒヒッ」なーんて事、有りそうじゃない?」
確かにパッと見て灯は、幼い印象ながらとても可愛らしい容姿だ、将来性もある、ギルドは正直荒くれ者の溜まり場である事は否定出来ないの、良からぬ事を考える者も居るだろう。
「灯、俺から離れるなよ絶対」
「うん、ついでにっ!魔法待機、麻痺」
通常、魔法は詠唱開始から発動まで時間差がある、魔法待機しておけばスキルと同じく即時発動出来るので灯は常に戦闘中2.3個程の待機をしてある。
当然デメリットもあり、待機させた魔法は消費MPが倍
になる、並のサポート魔法ならばそこまでの消費にならないが魔法製作している灯のバフデバフは総じて燃費が悪い、そこへ待機で消費が倍となるとMPが足りなくなるのでマジックポーションの消費が大量になる訳だ。
杖も問題で、上位ランクの杖になればなるほど魔法系ステータスに強烈な補正が乗算される、ステータスを魔法系と運に極振りしている灯はSTRを要求する上位の杖を扱えず下位の杖を使っている為に一般的な魔法使いとは相対的に燃費が悪い事になる。
ギイイイ・・・、音を立てる扉を開けて中へ入る
当然中に居る者から視線を集める事になるが気にせずカウンターへ
チラリと一瞬周りを見渡す、ニヤニヤ笑っている輩が何人か確認出来た、お願いだから絡んで来ないでねと祈る灯。
見た目が圧倒的なグレゴリの肩に乗っているとは言え絡む輩は大抵計算が出来ない、自分より強い筈がないといった具合に自信過剰な者が多い。
「コロニー討伐のクエストは有るか?」
2mを越えるグレゴリに若干怯みながらも強面相手には慣れているのか、受付嬢が対応する
「は、はい、現在複数パーティーに因る大規模作戦が計画されておりますが・・・、あのう、お二人共受注するのでしょうか?」
「ああ、この子は・・・」
お二人共と断ってはいるが、明らかに灯を見て言っている
「ゴリさん降ろして」
流石に2m上からやり取りは出来ないので降りると、横にグレゴリが居るせいか余計に華奢に見える灯。
「はいギルドカード」
金色のカードを差し出す、冒険者ギルドはランク制を執っており下から青銅色がEランク、銅色がDランク、鉄色がCランク、銀色がBランク、金色がAランクより上を示す。
勿論、アークオンライン廃人の灯は金色のカードで、グレゴリも金色である
「えっ、Aランっんん!?」
「しーっ、目立つから言わないで!」
「んっ」コクコク
グレゴリを壁にして死角の中でのやり取り、驚いて声を上げる受付嬢の口に手を当てて黙らせ話を進める。
念の為真贋を確かめるが本物であり、気を取り直し対応を改める受付嬢。
グレゴリもギルドカードを取り出す
「し、失礼しました、えと、グレゴリ様Sランク、灯様S+、えっ!S+!?」
「ちょっ!!」
ビターンと音を立てる勢いで口に手を当てるが、時既に遅し
ザワザワ・・・
「嘘だろ、あの小娘がS+だと」
「はああっ!?」
「おいおい・・・」
「・・・」
ジトーと受付嬢を睨み付ける、受付嬢は涙目になって
「ご、ごめんなさぁい・・・」
「灯、バレたものは仕方ない、堂々といこう」
「はあ、お姉さん、手続きと作戦概要を」
「は、はい、現在コロニー討伐は複数のパーティーが受注しております、ゴブリン側は中級冒険者までを、オーク側は熟練者をメインに配置、ゴブリン側は十分な人数が揃いましたのでグレゴリ様、灯様にはオーク側の担当をお願いしたいのですが」
「構わない」
「良いよ」
「ありがとうございます、簡単なブリーフィングが本日夕方に行われますので参加よろしくお願いします、また討伐開始は明日からとなりますので準備の方もそれまでに終わらせるよう重ねてお願い申し上げます」
「ああ」
「はーい」
「さて、これからどうするか、夕方までは少し余裕があるな」
「うーん、一度戻ってお姉ちゃんに明日戦いに出るから消耗品有るだけ下さいって言っておこうかな?」
「灯は・・・」
「おい!そこのてめえ」
如何にもな態度の冒険者が近づいて来て高圧的に言ってくる
早速来た!と予想を裏切らないテンプレに呆れる二人。
「おい、無視すんじゃねえ、お前だチビ」
イラ。
「私?何ですか?」
「何ですかじゃねえ、お前みたいなチビがS+な訳ねえだろ、寄生してランク上げした雑魚なんか足手まといだ、大人しくゴブリンでも狩ってろ!」
「チビだからS+じゃないってどう言った根拠ですか、そもそも私は寄生なんてしていませんし」
「ザッコさん!灯様の言う通りです、その態度は余りにも失礼ですし、ギルドカードの真贋は確認されています、彼女はランクを偽装しておりません」
受付嬢のお姉さんが絡んできた冒険者を宥める、だがこの程度で引くようならわざわざ絡んで来ない
この人ザッコって言うの?ぷ、と顔に出たのか、それともこれまで同じ経験をして来たのか
「てめぇ名前を笑ったな!来い、世間の厳しさを教えてやる」
手を伸ばしてくるザッコ、グレゴリは動かない
助けを出して場を収めても今後コイツは絡んで来る、それこそオーク討伐中に絡まれても面倒だ、ならば灯がここで力を示した方が後々面倒は少ないだろう、との考えだ。
勿論、灯もその辺りは承知しているので自分で対処する
「麻痺」
一言呟く灯、ザッコは手を伸ばした体勢で硬直する
「て、めえ、な、に」
「麻痺と言いましたが?」
「ま、ほ、、唱、・・・」
「魔法詠唱無しで即時発動への疑問ですかね?
ギルドに入る前から魔法待機してました、貴方の様な方がきっと私を見掛けで判断して絡んで来ると予想出来ましたから」
「この、やろっ」
「野郎じゃありませんし、もう良いですか、仮に私のランクが偽装なら格上である筈の貴方に魔法が簡単に通る訳無い事くらい分かりますよね?」
灯がそう言った瞬間
「キュア」
外部からの干渉、ザッコへと状態異常回復が掛けられる、仲間であろう者の参戦、グレゴリも即座に動く
ガシ
ザッコの頭を鷲掴みして、持ち上げる
動けるようになったザッコが口汚く罵りながらグレゴリへ拳と足を振り回す。
が、麻痺が解けても関係無いと言わんばかりに全くびくともしないグレゴリに焦り、腰の剣に手を掛けるが
「動くな」
スキル威圧を発動しながら、ザッコ、そして飛びかかろうとしていた彼の仲間達に言う、その重圧と迫力に皆一様に固まる
「そこの奴らが来るなら俺も灯に加勢するが、ザッコとやらそれでも構わないかな?」
選択肢をザッコに与えているようだが、実際は違う
握られた頭に掛かる力に悟る、この男には絶対に勝てない、と。
「い、いや、すまない、俺達の目が曇っていたようだ・・・」
流石に生死を掛けてまで難癖を付けるつもりは無いのか、すぐに諦める。
「良かろう、そして言っておく、その娘、灯に手を出すな、彼女に何かあれば問答無用でお前らを潰す、間接的にも関わるな、分かったな?」
威圧を更に強めて言う、ギルド内で静観していた他の者達も顔が青ざめている
「ああ、分かった約束する、その娘に手は出さない・・・」
その言葉を聞くと威圧を解き
「そうか、お前らも明日のコロニー討伐に参加するのだろう?頼りにしている、よろしく頼む」
変わって笑顔で言い、ザッコを解放するグレゴリ
「いや、俺達こそあんた達が味方で安心した・・・」
見事に引き攣った顔で答えるザッコであった。
その後、ギルドによるブリーフィングを受けた灯達。
ゴブリンコロニーの規模が約150、オークコロニーが約100、双方上位種の存在は確認されていない、こちらの参加者は初級者が30程、中級者が50程、上級者が20程となっていて、初級30中級35上級5がゴブリンコロニーへ、中級15上級15がオークコロニーへ。
戦力比がオーク側が大きいが上級以上の者はオークなど物の数にならないので、かなり余裕のある振り分けになっている。
ゴブリン側もゴブリン単体なら初級の者が1対1で勝てる程で、そこに中級上級合わせて40居るので、数が多くても十分に対応出来る。
次の日、森までは自分達で移動で、ある者は前日移動で野営、灯達は準備の都合上街で過ごし時間を見て現地へ向かう。
「さて行くか、来い黒帝号」
どこからともなく現れる漆黒の馬、それはグレゴリの体格に誂えたかのような巨大な馬
「大きい馬だねー」
「ああ、灯は?」
「私は猫ちゃんだよ、おいでシロにゃん」
シロにゃん!?なんだその名前はと無言で突っ込むが大人のグレゴリが黒帝号と名付けるのも大概である・・・
そして現れる白猫、もとい
「白虎・・・」
「久しぶりシロにゃん」
「ぐるぐる」
ぐるぐるいっているが身体が大きいせいか唸っているようにしか聞こえない
「あっちの森まで乗せてくれる?」
「・・・にゃーん」
立派な体躯に鳴き声は子猫、なんともアンバランスな虎であるが、道中何度か遭遇したモンスターに対しては「グルォォォッ!」と威嚇して追い払っていたので、やっぱり虎だった。
「シロにゃん・・・」