再会、街歩き。
セバスさんを交え、お爺ちゃんに装備の見た目変更の意図を伝える
「なるほどな、異界還りで獅子になったか、確かに獅子ともなれば身体能力を考えたらあの大和服では動きにくいだろう」
「うん、ちょっとね」
「それに今なら神龍のも軽過ぎて扱いづらいんじゃないか?」
「最近はあまり杖自体を握らないからわからないけど、多分・・・」
「無重力スライムの仕掛けも取っちまうか、力強くなってんだろ?」
「力は、そうだね」
「杖は?」
「ウチで寝てる」
「もしかして噂でどっかの貴族がえらい貴重な杖を手に入れたってのは・・・」
「アリエット様の事ですね、神龍の瞳については所有者を明確に示しましたので」
「あー、ならそっちは直接家で作業した方が良いな」
「いつでもどうぞ」
「良いの?」
「かまやしねえよ仕掛け自体は簡単なもんだからな、それより黒龍の方の素材だが、強度を維持するには同じ素材を使うしかねえ、つまり黒龍のそざ、」
「はい」
どさどさ・・・、無造作に出される黒龍の素材
「・・・だよな、持っていると思ってたぜ・・・」
皮、鱗、牙、爪、血液、内臓まで全くの無傷の素材が大量に
通常、これだけの大物の討伐で素材の無傷は有り得ない
戦闘になるので焼けたり斬れたり叩かれたりと、龍の体表を持ってしても傷は入るのだ
討伐するだけの手段が有るので当然なのだが
灯が手にしている素材は全てゲーム時代に入手したドロップ品なので、その質は一定の状態、現実の物として見れば最高品質であった。
「すげえな・・・、黒龍素材が無傷か、一撃で首でもハネたのかよ・・・」
「あはは・・・、まあ運良くて・・・」
「申し訳御座いませんが、当家でこちらの作業をお願い出来ませんか?」
「え?」
「あー、まあ仕方ねえな、こんだけの物だからな」
「ありがとうございます、それと同様の装備をもう1セット」
「なにぃ!?」
「あ、もしかしてエルの?」
「はい、とても素晴らしい装備ですから」
「素材が足り、」
「はい」
どどどど・・・・・・っ!追加で大量の素材を出す灯
「だよな・・・、もう驚かねえよ」
「では、準備が出来次第移動しましょうか
お嬢様はこちらから散策でしたね?」
「うん、あとはお願いします」
「はい、かしこまりました」
「おいジョー、そういう訳だから何かあれば公爵家の方に連絡を寄越せ」
「ガハハっ!貴族嫌いのおめえが貴族仕えかよ!」
「うるせえ!貴族に仕える訳じゃねえ、嬢ちゃんの装備を作るだけだ!」
「ガハハハッ!その嬢ちゃんが既に貴族なんだが?」
「こいつは特別だ、本人も、持ってる素材も一級品だ、楽しい仕事なら場所は問わねえよ」
「違いねえ!粗相して追い出されるんじゃねえぞ!ガハハハ!」
「では、お嬢様お気を付けて」
「うん、行ってきます」
「お待たせー!」
「時間掛ったわね、仲良かった人なの?」
「うん、お世話になった人達」
「そう、良かったわね会えて、獣人化してから初めてでしょ?」
「そうだねえ、王国からは逃げて来たようなものだったから、あっちも心配してたみたい」
「それはそうよ、王都から出たのに出国した様子が無かったら最悪捕まったって事になるもの」
「ジョーさん達もそれを気に掛けてたみたい、私達は森を抜けて魔法国に入ったって言ったら、結果的には王国にも出国が把握出来てないから良かったって」
「そうね、全くこんな少女を!王国の奴らに会ったらお尻に火を着けてやるわ!」
「メグさん、程々に・・・」
「マール止めないんだ・・・」
「え?だって、失礼な人ならやり返しても・・・」
「あはは、でも大丈夫、良いんだありがとう、足を沼に沈めて固めて逃げて来たから」
「何それ!アリィ貴女のお話本当に飽きないわ、詳しく教えなさい!」
「あれ、前何処まで話したっけ?」
「青汁の所までだよアリィ」
「長くなるから今度ね、かなり先の話、最近・・・と言っても半年位前になっちゃうか・・・」
「あらそうなの?まあとっておきだから又ゆっくり話は聞きたいし、今日は街を歩くわよ着いてきなさい?」
「お願いしますメグ」
「任せて、こっちよ」
灯の手を引いて歩き出すマーガレット
後をエルとマールが着いていく
「ねえ、マーガレットってそんなに案内する程街のこと知ってるの?」
「分かんないけど、先頭きって行ったから多分・・・」
実はマーガレットはお忍びの名の元に頻繁に街に繰り出している、一人で・・・
尚、正体を隠しているつもりの本人だが、街の人々にはバレている
今日に至ってはお忍びの格好でも無いので王女が街を歩いているぞと喧伝している様なものだ。
「あそこのアイスは美味しいわ、食後に来ましょう
あっちの串焼きは牛肉はイマイチだけど、鶏肉は最高なの
そこの露天の店主の銀細工は安く売ってるけど造りがしっかりしていていい物よ、それと・・・」
「メグ詳しいね、結構来てるの?」
「私は魔法国の王女よ、首都の、街の事を知らないでどうするの!」
「へえー!」
「・・・詳しいみたい」
「意外・・・、マーガレットその様子だと結構街に来てたの?」
「ええ!お忍びでターニャを連れてね、だから案内は任せなさい」
と胸を張るマーガレットに露天商の一人が声を掛けた
「やあ姫様、今日は友達と一緒かい?」
「ええ!って、あら?私の事知ってるの?」
「何言ってるんだよ、いつも来てるだろう、今日は侍女は連れてないのか?」
「・・・」
「メグ?」
「ば、バレてたの?」
まさか、と一人驚いているマーガレット
横に居た別の露天商が慌てて口を挟む
「バカ!姫様の事は知らないフリをするって決めてただろ!あっちはお忍びのつもりなんだから!」
「しまった!?ってお前も声でけえよ!」
「・・・」
バレてた事を黙っていた事がバレた・・・
マーガレットは赤面する
「メグ、街の人とも仲良いんだね」
「そ、そうよ!ほほほっ、か、顔見知りなんだから!」
「お、おう、そうさ、姫様は色んな店に顔を出していて此処らでは知らぬ者は居ないくらいさ!ははは!」
「バカっ!シーっ!シーっ」
「皆、知ってるのね・・・」
折角の灯のフォローが台無しだった・・・
「ふ、ふふんっ!良いわ別に、今日の私は機嫌が良いの、貴方!今日は友達を連れてきたの商品を見せてもらうわ!」
「はいどうぞ!毎回一人で来ていたから友達居ないのかと心配してたんでさぁ」
「お前は、もう黙ってろ!」
「・・・ひとり」
王女マーガレットは悲しい事にボッチ認定されかけていた
「あ、でも本当に凄い銀細工・・・、これなんか宝飾店に置けると思う出来なのに安い・・・」
「おう!兎耳の嬢ちゃん良い目してるな、自信作だぜ」
「なんでこんなに安いの?」
「簡単な事さ、銀の質が良くない、材料費が高くないからこの値段で良いのさ」
「でも見た目には殆ど店に置いてあるものと差がない・・・」
「うん、同じだよね」
「ありがとよ!」
「さ、ガンガン行くわよ!高い店から安い店、店じゃない店まで沢山あるから」
「そ、そんなに回るの?」
「勿論!」
「メグ一気に回らなくても、また来れるからじっくり見て行こうよ」
「そうよ、落ち着きなさいマーガレット、今日しかないって訳じゃないんだから」
「あ、それはそうね!フフッ、またね!」
また、テンションの高かったマーガレットは更に御機嫌になった。
友達と出掛ける機会が「また」あると言われてとても嬉しくなっていた
「じゃあ一先ず何か軽く食べましょうか」
「あ、じゃあさっきの串焼き屋さんは」
「魚あった?」
「鶏肉が美味しいけど、魚もあるわよ、逆に牛は本当にダメだけど」
「それは逆に気になるんだけど、そういうのにお金払うのもねえ・・・」
「みんなで別々の串を買って少しずつ食べたら?」
「え!?」
「え?」
マーガレットにとっては回し食いは有り得ない
王女である、そしてそれ以前にマナーを叩き込まれているのでシェアして食べるという考えが出てこない。
「だめ?」
「ううん、良い、やってみましょ」
「おじさん、魚と牛と豚と鶏の串をひとつずつ下さい!」
「あいよ!なんだひぃ様の友達かい?」
「え、ええ、まあ・・・」
「ほいよ!四本で1000カネーだよ」
「はーい」
「はい」
「はい」
ジャラジャラとみんな250カネーずつ出し合う
「え、私が払うわよ?」
「皆で食べるんだからいいじゃん」
「ね」
「ほらメグも受け取って」
「え、ええ、ありがとう」
「エル、ちょっと串持ってて」
「はい」
サッと大皿を魔法鞄から取り出す灯
「皆、ここに串置いて、皆で皿持っててくれる?」
屋台なのでテーブルも何も無い
串を四本大皿にのせ大皿を言われた通りに皿を持つ
灯は小さいナイフを取り出し、サッと切り分け一本の串に四種類の肉を刺し直す
「よしっ!」
「慣れてるわね」
「立ち食いだと流石にそれぞれ回し食べするのもアレだし、これが良いかなって」
それに灯は瞬達と四人で分け合って食べる事があったので慣れているのも当然だった
「そうね、ありがとう」
「ありがとうアリィちゃん」
「ありがとうアリィ」
「うん、食べよ」
それぞれ串を受け取り、ナイフと大皿は魔法鞄に消えた
串は上から魚、豚、鶏、牛の順番になっている
魚
「ん、塩が利いていて美味しい」
豚
「タレが美味しいね、お肉も柔らかい」
鶏
「何これ、これが250カネー!?安すぎない!?」
「香草焼き?」
「これだけレベルが違いすぎるね」
最後に、牛
「これは・・・」
「うん・・・」
「肉、いつまでも噛みきれない・・・」
「スジがね・・・」
「だから言ったでしょ、不味いって!」
「あー、そうだねえ、これは不味いね・・・」
「うん、不味い・・・」
「美味しくない・・・」
「お嬢さん達、店の前で不味いは止めてくれないかな・・・」
「あ、ご、ごめんなさい、あまりにも、」
不味いので・・・、という言葉はなんとか飲み込んだ
肉は中々飲み込めない・・・
が、しかしである
灯達四人組は周囲から浮いていて、目立っていた
容姿、服装、どれをとっても皆いい所の娘が串焼きを食べているだけでも目を引くのに
店の前で、やれこれは「美味しい」だの「不味い」だのと言って楽しそうにしていれば、余計に目を引くというものだ。
興味を惹かれた周囲は灯達の四人組が屋台から離れるのを見計らって続々と串焼きを購入していった
その日牛串は店を始めて以来、初めての完売となった
だが・・・
「鶏串が美味いって話だから鶏串しか買ってなかったけど、これは・・・」
「あー、これは不味いわな」
「うん、まじぃ・・・」
「鶏は次元が違うな、こんな美味い串打てるのに、なんで牛はこんな不味いんだよ」
「スジ切れよ・・・」
「鶏うめえ!」
と口々に不味い不味いと連呼されて散々だった
「牛、止めようかな・・・」
そんな悲哀に満ちた考えが頭を過ぎる次の日
何故か牛串が売れまくる、しかし不味い美味しくないと言われていく、何故だとある客に理由を聞くと
「逆にどれだけ不味いか興味があるから」
などと言われてしまう始末
それに比例するように鶏串がドンドン売れて、売り上げは過去最高を記録したのだった・・・