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休日。

「スー、スー・・・」

「気持ち良さそうにお眠りになっていますね」

「ええ、色々と急がせたから当分ゆっくりしましょう、好きにさせてあげて」

「はい」

リトラはブランケットをそっと灯に掛けて部屋を出て行った

リリスの膝に頭を乗せて眠る灯

サラサラと髪を撫でるリリスはとても幸せそうにしていた。



編入試験の次の日、やはり灯は深く眠りに入っていた

朝も中々起きられず、目を覚ましたのはお昼前

昼食兼朝食を食べ、ひと息ついたので試験の時にも課題となった単語の書き取りでもしようかとリトラに相談すると

「アリィ様今日はお休みください、疲れていますでしょう?」

「疲れている訳じゃないんだけど・・・」

「ダメです、はいホットミルクでも飲んで」

「う、はい・・・」

リトラにピシャリと言われ取り付く島もなくマグカップを渡される、リトラは意外と押しが強い

ここで頑張ってもきっと引かないと知っているので素直に従った

温かいミルクに口を付ける

「美味しい・・・」

「それを飲んだらお休み下さい、今日は読書も娯楽以外は禁止ですよ」

「ん、分かった・・・、このミルク何か入れた?」

後味と風味が知っているホットミルクと違う

「はい、ハチミツを数滴入れてます」

「そっか、優しい味がする」

時間を掛けてちびちびとミルクを飲み干すとお腹も落ち着き再び眠気が襲ってきた

「ベッドで眠りますか?」

「ここで良いよ・・・」

いつものソファーに身を預け微睡む

隣の部屋の寝室に行くのも億劫になっていた

灯の今の格好はとてもラフなもので

上下共に下着を着けていない、上はキャミソール、下は尻尾周りが余裕を持って抉られた形状の獣人用ショートパンツ、完全部屋着仕様である。



ウトウトと微睡みの中に入り掛けの頃合に

トントントン・・・、部屋にノックの音が響く

「はい、あ、リリス様」

おかあさん?

「アリィは?」

居るよ、ここ

「丁度お昼寝するところです」

「そう」


グッとソファーが沈む、横に誰かが座る気配が・・・

眠い・・・

「アリィ、おやすみなさい」

「・・・・・・」

おやすみなさい・・・





ガチャリと部屋の扉が開きエルが入って来た

「あれ?お母さん、アリィ起きて・・・、やっぱり寝てるか」

「どうしたの?」

「マーガレット達と出掛ける日どうしようかと思って相談に来たんだけど」

「それならセバスから報告があがってるから、そっちと相談してみて」

「セバスが?何かあったっけ?」

「アリィの知り合いがギルドに居たらしいの、ほらアリィの装備に手を加える為の職人を探していたでしょう?

ただ本人を確認しないと受けて貰えないみたいで」

「あ、じゃあ今回の冒険者ギルドに行くのもちょうど良かったね、分かったセバスと話してくる」

「ええ」



トントントン、ガチャリ・・・、今度はエクスが来た

「母上、エルとアリィは、っと、一人は居たけど寝てるのか」

「どうしたの?エクス」

「いや、そのプレゼントを・・・」

エクスが取り出したのは小さな巾着

「香り袋?」

「はい、二つ作ったんですけど、起きてから二人に渡します」

「そうね・・・、エクス他の女の子にプレゼントしてもいいのよ?」

「う、それはまた後日・・・」

妹ばかりに構ってないで紹介出来る人は居ないのかと暗に聞かれて

エクスはバツがわるそうにそそくさと退室して行った。



トントントン、ガチャ・・・、次はサイリが来る

「リリス、エルとアリィは・・・」

「あらあらこういう時に限って大人気ね」

「ああ、いや大した用事ではないんだ毛繕いでもと思って」

サイリは片手にブラシを持って来ていたが眠る灯を見て懐に仕舞った

「ふふ、そう」

「出直すよ」

「ええ」


その後も代わる代わる人がやって来る

離れに滞在している祖父母、庭師のガードナー、侍女達、御者のダンまで・・・

祖母シルフィは姉妹にと尻尾の根元に巻くテールレースを編み上げたと

祖父エドはただエルとアリィの顔を見に、と


庭師のガードナーは大和国の花の種を仕入れたので好きな花はないかと相談に


侍女達は地球のオシャレの話を聞きに


あの寡黙な御者のダンは鳥の紙細工を大量に置いて行った

、糸を通してひとつにまとめてあるので吊せるようになっている

「お嬢様の、国、願いを込める、千の鳥・・・」

ボソリと呟いて行ってしまった

後程リリスは灯に話を聞く、どうやら平和や幸せの願いを込めて千羽の鳥を紙で折るらしい


「モテモテねアリィ・・・」

膝に頭をのせてすやすやと眠る娘、ブランケットがズレていたので静かに掛け直す

そして音もなく扉が開かれサイリが再び部屋に来た

「どうしたの?サイリ」

「いや、読書でもとね」

「そう」

「ああ・・・」

サイリは対面のソファーに座り、視界の中にリリスと灯を捉えたまま読書に耽る

リリスは愛しい眼差しを眠る灯に送り続けた


二時間ほど経っただろうか

リトラが戻って来た、何やら食欲を唆る香ばしい匂いがする

匂いが鼻に届いたのか、灯の獣耳がピクピクと動きだした

「ん・・・、お煎餅の匂い・・・」

「おはよう、アリィ」

「え、あれ?お母さん?」

体を起こしボーッと周囲を見渡す灯、目の前には母リリス、向かいには父サイリが居た

掛けられていたブランケットが足下に滑り落ちる

「・・・おはよう、」

「ふふふ、アリィ顔に跡がついてる、ほら」

ムニムニと頬を揉まれる

「あ、お母さん膝ありがとう・・・」

「いつでも貸すから良いのよ、いい匂いで起きたのね丁度お茶の時間よ」

「うん」

「嗅いだことのない匂いだけど、これは?」

「リリス様サイリ様、こちらはアリィ様のもうひとつの故郷、地球のお菓子だそうです、アリィ様料理長がオショウユとオミソを作る事が出来た様なので後程確認を、オセンベイは試作品ですが・・・」

「わ、やった!そっくりそのままだよ」

以前料理長に何か食べたいものはないかとリクエストを尋ねられたので

料理では無いけど醤油と味噌の事を聞いた灯

洋食メインのこの国ではやはり無いとの事で作れないかとなったのだ。


チーズの様な発酵食品があるので、大豆の発酵食品である醤油と味噌の話をすると出来るかもしれないとなり、お願いしていた。

併せて醤油や味噌を使う料理のレシピも書き出して料理長には渡していた

煮物、味噌汁、生姜焼き、魚の味噌焼き・・・

醤油と味噌があればなんでも出来る、煎餅もそのひとつであった


パキッ!


いい音を立てて煎餅を口にする灯、ぼりぼり・・・

口の中に広がる醤油の風味

「ーーーーっ!リトラ!」

「はい」

「完璧!ううん、私の知るお煎餅より格段に美味しい!」

それはそうだ、プロの、しかも貴族に仕える料理人手ずから焼いた煎餅、自家製醤油、不味くなる筈がなかった

「料理長も喜びます、伝えておきますね」

「後で私も直接言いに行くね、お父さんとお母さんも食べてみて」


「どれ、本当にいい匂いだね」

「そうね、お菓子の匂いとは思えないけど」

パキ!パキ!ポリポリ・・・

「うん、美味しいね!」

「そうね、保存食みたいだけど格段に美味しいわ」

公爵家、貴族の頂点の二人が醤油煎餅を食す光景はかなりシュールだった

サイリは兎も角として、リリスは家着と言ってもドレスを着ての煎餅・・・

キャミソールとショートパンツ姿で煎餅を食べる灯が一番見合う格好である。

しかし流石に肌の露出が多い、リトラは奥の部屋から丈の長い上掛けを持って来て灯に羽織らせた

「アリィ様、サイリ様が居ますから・・・」

「あ、ありがとう、そうだね・・・」

指摘されて今更自分の格好に気付き赤面する

父とは言え男性の前に出る格好ではない

しかも余裕のある緩めのショートパンツで、下着をつけていないから色々とアウトだ。

「レディが寝ている所にサイリが来るのも悪いわね」

「えっ!?いや、私も幸せのお裾分けをだな・・・、ごめん・・・」

確かにそうなのだが、リリスがアリィに膝枕をして静かに過ごす部屋の空気、あんな幸せ空間自分も居たい!

リリスだけアリィに膝枕してずるい、だが確かに女性が眠る部屋に居座るのもマナーが、ぎぎぎ・・・

と、サイリはシュンと耳と尻尾を下に向けてしまった

「ふふっ、冗談よ」

「リリス・・・、く、私も女性だったらアリィと寝たり、お風呂入ったり!」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

サイリの言いように皆、流石に黙ってしまった。


そして良い匂いを嗅ぎつけたのか続々とエクス、エルも部屋に集まりみんなで煎餅を食べる事になった。

公爵一家が醤油煎餅をお茶の時間に食す、灯はおかしくなって終始クスクスと笑っていた




「ねえ二人の誕生日どうする?」

一の春月(3月)はエルの誕生日、つまり双子の姉妹の灯の誕生日でもある

「そうだな、身内だけで良いと思うけど」

「お父様とお母様、あとはマーガレットさんにマールちゃんかしら、二人の両親は?」

「アレクとサーシャはどうだろう、誘えば来るかな

辺境伯は分からないな、でも・・・」

「何だかんだで来ないかしらね」

「そうだね」

エルとアリィが娘マリルーシェと仲がいいと知っているからこそ、恐らく辺境伯本人は公爵家には近付かない

ルナリア公爵家は中立、フォース辺境伯も中立、そしてライオネル王家

これらの家の娘が急接近、親同士も近付き出したとなれば何かと勘ぐる者も出てくる

勝手に思うのは構わないが学園の中で余計な派閥争いをされたらエルとアリィ、更には仲良くなったマーガレットとマリルーシェも堪らないだろう

辺境伯は国境から基本的には動かない、となれば今現在マリルーシェと共に魔法都市に居るのは辺境伯夫人

夫人ならば問題ないか?いやしかし・・・





色々な思惑が有るが、子供達の最善となるよう親達はそれぞれ心配りをしていた。




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