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編入試験③

灯の模擬戦の様子を見ていた皆の反応は様々だ


公爵家の面々は

「アリィは強いんだねえ」

「ね、可愛くて強いなんてモテちゃうわね!」

「ふむ、アリエット様は実戦の方が向いてますね」

「そうだね、今のを見ると対人戦は余程加減していたね」

「エクス様、現時点でもう勝てないのでは・・・?」

「・・・、い、妹と戦う兄がどこに居るんだ、俺は兄貴、妹を守る存在だぞ」

と、元々サイリのせいで強さのバロメーターが壊れ気味な武闘派だけあって概ね和やかな空気だった


王アレクと王妃サーシャは

「やっぱり強いなあ、いい子だし、お嫁さんに来てくれないかなぁ」

「あら駄目よ、恋人を引き離すなんて(アレク)が許しても王妃(わたし)が許さないわ

それに今のロウには勿体ないわよ」

「分かってるさ」

と、のんきに話している


口を開けて放心しているのがひとり

マーガレットである

「・・・」

「アリィちゃん強かったですね、メグさん」

マールは辺境伯家、こちらも優しい面立ちと性格に反して武闘派なので大して驚いていない

寧ろ、冒険者ランクS+の灯の実力が見れると楽しみにしていた程だった。

「なに、あれ・・・」

「え?アリィちゃん?」

「あんなに強いの?あの子・・・」

「だって冒険者S+だから」

「そのSが分からないのだけど・・・」

「えっと、冒険者には実力に応じてランク分けされているんだけど、1番上がS+、順にS、A、B、Cとランクは下がって行くんだけど、Aで超一流、Sで英雄って呼ばれてるくらい」

S+は見ての通りだったが、これでも灯の実力のすべてではない

神龍の瞳を使用しての集団戦闘が灯の本領なので

後にマーガレットは更に驚愕する事になる。

「何してるの?マーガレットもマールも行こ」

エルは特に気にした様子もなく階段を降りて灯の元へと向かう

森で助けられた時の戦闘を見ているので驚かないし

ここ数週間は一緒に手合わせしていた為、これくらいは普通の感覚になっていた。

「あ、待って!エルちゃん」

「待ちなさい、行くから!」



「アリィお疲れ様!終わったね」

「わ、うん、」

エルが後ろから手を回して灯を抱きしめる

肩に顎を乗せて頬ずりした

「帰ってお菓子食べよ、これで学園始まるまではゆっくり出来るね」

「待ちなさい!アリィには課題があるでしょう、書き取りを何とかしないと困るわよ」

「マーガレット空気読めないね、終わった直後にそんな事言って」

「な、んですって!」

「エルちゃん本当の事言ったらダメだよ、もう少し言い回しを考えないと」

「・・・マールさん」

「え?」

「マールちゃんも意外と言うね・・・」

「私、空気読めてないの?」

「え、えっと、その、そう!アリィちゃんお家に帰って来てから今日まで勉強頑張ったんだから、たまには遊んで気分転換も大事、だよ?」

「そ、それは、そうね・・・」

「だから、少しくらいは、ね?」

「ええ、じゃあ私もまぜてね、遊びって何するの?」

「お茶を飲んでお喋りしたり、街を見て歩いたり、兎に角勉強から離れるの」

「アリィ、そう言えば冒険者ギルドに用があるって言ってなかった?」

「あ、うん、登録してる個人情報が大幅に変わったから訂正しにいかないと・・・

急ぎではないからいつでもいいけど。」

登録名は灯のままでも良いが、立場がかなり変わった

上位冒険者には稀に指名依頼と言われるクエストがあり

断りにくい。

今、灯の冒険者としての立場は王国のギルドから行方不明となっていて、あまり長期間放置すると登録抹消されてしまう

特にこだわりはないが一応身分証明にもなるギルドカードはあっても困らないので、生存報告と個人情報更新、指名依頼の停止をしておかなければならなかった。


「あら、冒険者ギルド私も気になるわ、行きましょう!

新緑会の為に登録も必要だし、この際事前に行って登録しておきましょうか」

「そうなの?」

「うん、新緑会の参加要項に冒険者ギルドに登録する事ってあるからね、はじまりの森とはいえモンスターの居る所で野営をするから・・・」

「マールは冒険者登録してるんだっけ、私も登録してないから教えてよ」

「うん、良いよ一緒に行こ」

「決まりね、みんなで行きましょ」

既に仲良し四人組となっているので、何をするにも四人で集まっている。


「今度はお出掛けかい、マーガレット」

「楽しそうね」

「お父様、お母様、みんなで街を散歩して来ても良いでしょ?

私とエリューシアはギルド登録、アリィとマールさんを街案内してあげたいの」

「ああ、気を付けて行っておいで」

元々止めるつもりは無いアレクだったが、今の灯の戦闘を見れば安心して送り出せるというものだ。

護衛は付けるが見える所に居るかそうでないかだけでも気持ちは変わる、最近特に伸び伸びとしている娘マーガレットにはもっと自由に過ごして欲しい、そんな親心がある。


「ありがとう、お父様!」

無邪気な笑顔はアリエット・ルナリアと出会ってからのものだ、アレクら心からこの出会いに感謝していた。


「アリィ、今日はどう?」

「んー、今の所なんともないかな」

「アリィちゃん何かあったの?」

「何も無いよ、ただいつも体力気力魔力を使った時にガタッと来る事が多いから」

「そうなんだ」

「うん」

「それにしても貴女達、隙あらばくっ付いて仲良いわね」

エルが灯の後ろから腕を脇の下を通して抱きついている姿を見てマーガレットが言った

見慣れた光景なのだが、姉妹にしてはやはり距離が近い

「あ、これもねちゃんと意味があるんだ」

「獣人化の安定には家族の中でも血の近い人の気が一番身体に良いの、お父さんやお兄ちゃんでも良いけど私やお母さんが一番かな」

「じゃあ一緒に寝たりとかもそう言う事だったのね」

「うん」

「少しずつ落ち着いてはいるんだけどね、どうしても不安定な部分はあるよね」

「じゃあ新緑会とか誘ったけど危ないんじゃ・・・」

野営中に体調を崩してはいくら「はじまりの森」とはいえ

スライム、コボルト相手に命を落とす事になりかねない

マーガレットが心配そうに顔を歪める

「まあエルが居るし、誰か傍に居れば・・・

一人歩きは今もしていないしね」

「そう、なら私とマールさんにもしっかり頼りなさい、同じパーティー、それに友達、でしょ?ね、マールさん」

「勿論!」

「ありがとう、メグって結構面倒見良いよね」

「あら、私は王女よ?国を大事に想うのだから、その国民の一人や二人支えてみせるわ?」

「うん、頼りにしてるよメグ」

「任せなさい!」

ふんすっ!と胸を張るマーガレットはとても頼もしかった

「でも、野営に関してはマールとアリィの方が頼れるよね、マーガレットはどうするの?」

「エリューシア、貴女だって大して変わらないじゃない」

「私は二週間くらい旅して来たもん、料理も少しは出来るし」

「ぐ・・・、火付けて、水出せるわ!料理はやった事ないけど、だからこそチャレンジする良い機会なんじゃない!」

「そうです、ね、私は国境隊のみんなと訓練に参加していたから、アリィちゃんと私が別々に、エルちゃんとメグさんがそれぞれやった事ない事に挑戦するのは良いと思います」

「あ、そう言えば新緑会って食料はどうしてるの?三泊四日なんだよね」

「魔法鞄持ちを一人パーティーに入れて、出来合いの物を持って行く事が多いわね」

「冒険者志望の人は敢えて何も持って行かないで森で調達したり、堅パンとか干し肉とかを背負っていったりしてるの」

「じゃあ野営地を決めて、あとはどうするの?」

「毎日一人一体モンスターを倒す事を義務付けられてるの、間引き、みたいな・・・

定期的に騎士団の新人が森からモンスターが溢れないように狩りに行っているみたい」

「へえー、色々考えられてるんだね」

今後の事を話し込んでいると、見学に来た皆も集まって来た

「詳しい事は学園に入ってからね、今日はお疲れ様アリィ、また手紙頂戴こちらが予定を合わせるから」

「私も、基本的には空いているから都合の良い日教えてね」

「うん、じゃあまたね!」

「また!」

アレク、サーシャ、マーガレットは笑顔で話しながら帰る

マールも侍女ケイナと帰って行った


「お疲れ様、アリィ」

「エドおじいちゃん、シルフィおばあちゃんも」

「サイリとリリスは少し打ち合わせがあるようだよ」

「え?」

ネルスとフィーネ、サイリとリリスは何やら話をしていた

「ええ、・・・の、・・・はい」

「なるほどの・・・」

「で、あれば」



「アリィちゃん強いのね驚いたわ、ねえカイン」

「ああ、とても凛々しくて強い獅子だね」

カインおじいちゃんとメリアおばあちゃんも来た

「えへへー」

「カインおじいちゃんとメリアおばあちゃんは知らないと思うんだけど、アリィは魔法の方が強いんだよ」

「おお、そうなのか」

「凄いのねアリィちゃんは」

灯を撫でる祖父母達は歳を重ねた経験故なのか

割と容赦のない灯の戦闘を見てもにこにこと笑顔で動じていない

「あ、そうだ、カインおじいちゃんとメリアおばあちゃんに、これ・・・」

「ん?」

「なあに?」

灯は魔法鞄から二つ編まれた紐を取り出す

それはミサンガだった

「あの、シルフィおばあちゃんにレース編み教えて貰って、それで作ってみたんだけど

誕生日のプレゼントのお返しに・・・」

「あらぁ、ありがとうアリィちゃん、嬉しいわ」

「ありがとうアリィ」

「あのね、この紐はミサンガって言って、足首か手首に巻いて、切れた時に願い事が叶うっていうお守りみたいなものなの、簡単にだけど保護の魔法を付与しているから・・・」

「あらあら、そうなの?なら私達のミサンガは絶対切れないわ、ねえカイン」

「ああ、そうだな」

「え?」

「もう、願いは叶っているもの」

「アリィが帰って来た、ってね」

「あ、ありがとう・・・、おじいちゃんおばあちゃん」

「うふふ、アリィちゃん着けてくれる?」

「うん!」

カインとメリアの手首にミサンガを着ける

勿論、エドとシルフィの手首にもミサンガは巻かれていた

エドとシルフィに渡した時は

「じゃあ、アリィとエル、エクス、みんなが幸せになるように」

と言われた。


このミサンガ、公爵家では大流行していた

侍女達が目敏く見つけ、灯に詳細を聞くと

「可愛い!」

「ワンポイントになるし」

「切れた時に願い事が叶うなら、恋人同士で着けるのは?」


「あ、そうだね、恋人とか家族で着けるのも一時期あったよ」

「早速作りましょう!」

侍女にとって編み物は手馴れたもので次の日には屋敷中の使用人が付けていた

そして、定期的に訪れるドレス職人ベルの目にとまり

「アリエット様、これは売れますよ!」

「え?」

「どうです、私に任せて貰えませんか?

恋人同士、夫婦、姉妹兄弟、手首でも良いし足首ならどんな場面でも邪魔にならない、時間に余裕のある庶民でも副業に・・・、ああ、切れるとなれば固定層に売れ続けるし、貴族には上質な糸を使って魔法付与して高級志向の・・・」

「ベルさん?」

「アリエット様、お願いします!悪い事はしませんから!しっかりと売買契約も結んで売り上げの・・・」

「ええっ!?」

「あら、いいんじゃない?」

「お母さん?」

「ほら、貴族学で教えたでしょう?」

「雇用の創出?」

「ええ、アリィはあまりお金に執着しないみたいだけど、売上を孤児院や教会、病院に寄付しても良いし」

「はっ!そうか、孤児院でのお仕事にすれば貴重な現金収入に!小さな子でも安全に稼げるし、少額でも労働と対価を学べる!リリス様流石です!」

「あ、じゃあベルさんにお任せします」

「はい、ありがとうございます!孤児院のシスターと知り合いなので直ぐにでも!」

「でも、真似されたら困るわね」

「購買層を一般と貴族に分けてしまいましょう

一般の方は孤児院のミサンガを、貴族の方を付加価値を付けた高額品にして商人の方に、孤児院の物は「寄付」の形を取れるので雑貨屋や商店に間借りして置いて貰えますし、他の者が同じ物を作って売り出しても孤児院のミサンガを購入する人の方がきっと多いです。

大手で孤児院の商売を潰す様な事はしないでしょう、彼らは利に聡い、孤児院の支援は主に貴族がしていますから少額な物を取りに来て虎を怒らせる事はしません、あ、この場合は獅子ですね」

「良いわね、後ろは任せなさい」


「あとは価格設定ですね、アリエット様はおいくらで考えてますか?」

「えっと、二本セットで100え、・・・100カネーかな?」

「ふむ、そうなると原価が・・・、で、一本辺りの・・・」

「あ、ベルさん待って、私は何も要らないから」

「良いのですか?」

「うんいいの、私は今十分幸せだし、お金が必要なら手持ちの素材売ったり竜の一匹でも倒せばそれで済むから」

「そ、そうですか、流石ですね・・・」

公爵令嬢の収入がモンスター討伐なんて前代未聞だ

だが確かに竜を討伐すると莫大な収入になる、安く見積っても数百万、個体によっては数千万になるので間違ってはいない。

「では全額孤児院に入るように手配致しましょう」

「え?ベルさんは」

「アリエット様が受け取らないのに私が受け取れませんよ、それに最初から私も寄付するつもりでしたから」

「ありがとうベルさん」

「いえ、大した事ではありませんから」


灯としては教会や孤児院の収入になるのならそれで良いと思っていた程度だが、情けは人の為ならず、まわり回って縁は築かれて行くのだった。




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