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編入試験①

騒がしくも楽しい日々を送っていた灯

遂に魔法学園への編入試験の日を迎えた。

勉強は間に合っていない、と言うよりも

貴族の子供が小さな頃から積み重ねて来たものをたかだか二、三ヵ月でどうにかしようとするのが到底無理な話である。


前日の夜、既に緊張し始めていた灯に声を掛けるリリスだが、反応は乏しい。

「アリィ大丈夫よ、誰も完璧を求めていないの、貴族登録から今日までの期間でどれだけ身に付けたかを確認するだけだから」

「うん・・・」

流石に前日からこの様子では本番ではどうなってしまうのか・・・



当日灯は驚いていた、みんな居るのだ

サイリ、リリス、エクス、エル、エドおじいちゃん、シルフィおばあちゃん、カインおじいちゃん、メリアおばあちゃん、セバスさん、マイラ、リトラ、アル・・・


しまいにはマーガレットとマールまで居る

此処は学園なのに何故か面識のある人物の大半が来ている

「なんでメグとマールちゃんまで居るの・・・」

呆然と疑問を口にする

「アリィの事だから緊張しているでしょうし、発破掛けようと思って」

「メグさんに呼ばれて・・・」

当たりだった・・・


「なんじゃなんじゃ、皆ガン首揃えおって」

「ネル爺・・・」

もう一人増えた。

「む?儂は監督官じゃからの、仕事じゃよ?」

「ネルス様、これはどういう事ですか」

「知らん、みんなアリィが好きなんじゃろ」

適当に言うネルスだったが、実の所はほぼ正解の状況である。

何故か高位の者ばかりが集まっている謎の状況を聞いた女性の名前はフィーネ、明るい茶髪のメガネを掛けたエルフで学園の教師

「アリエット嬢ですね?私はフィーネ・ノース、本日の試験の担当をします」

「初めましてアリエット・ルナリアです、今日はよろしくお願いします」

「試験の名を冠してはいますが、単純に貴女の能力の確認をするだけです、気負わず力を見せて下さい」

「は、はい・・・」

「午前中は学力試験、午後は魔法実技と模擬戦となります、運動に適した服は、」

「大丈夫です、持ってきています」

「よろしい、では早速始めましょう、ネルス様」

「ほいほい、では皆の衆試験を始めるから隣の部屋に移りなされ」

ぞろぞろと部屋から出て行く、フィーネとネルス、灯、そしてリトラを残して。

貴族なので学園に従者や侍女を連れて来ても問題ない

リトラは一礼して部屋の隅に移動した

「科目は国語、歴史、数学、魔法学、時間は午前中いっぱい、好きな順番で取り掛かって構いません、質問は?」

「ありません」

「では、疑問があれば都度確認するように、はじめ」


試験が始まった

取り敢えず名前を書いて、問題を解き始める

内容は解る、が、書けない・・・

単語を考え、綴りを思い出し、文を構成、言いたい事と書き出したい内容が中々一致しない

数学は良い、数字は地球と一緒でローマ数字であるし

法則性も同一、そのまま解答出来るのだけど

国語、歴史、魔法学、全て文章問題で、こちらの文字と言葉に慣れていない灯にとって、内容は理解出来ても書き出す力が不足していた。

それは少し前、マーガレットとやり取りをした手紙の拙さからも判明していたのだが、一石二鳥で身に付くものでは無かった・・・

5分以上かけて漸くひとつ解答を書いた

続けて二問目、中々文章がまとまらない

苦戦しながらも10分程使って書いた



試験官のフィーネは答案に取り掛かっているアリエット嬢を見て様子がおかしい事に気付いた

(遅い、そんなに難しい内容ではない筈・・・)

試験内容は本当に基礎的なもので、いくら異界還りした者と言ってもそこまで苦戦する内容ではない

頭が悪いのか、習っていないのか

習っていないのは有り得ない、あのサイリ様とリリス様の事だから子供の為になるのならしっかり教える筈だ

ならば、やはり頭が悪いのか

気になって側に近寄って答案を見た

(ふむ・・・)

一問目、正解

二問目も正解だ


(だけど、言葉選びが子供そのものだ、拙い、何故・・・)

考えるフィーネ、そして思い至った

「あ」

「え?」

横から見られていると思ったら突然声を上げた教師フィーネに灯は顔を上げる

「アリエットさん、三問目、()()してくれますか?」

「は、はい、えっと、・・・・・・であるが、・・・・・・と、・・・・・・・・・を答えよ」

「うん、では解答を口頭で」

「・・・、・・・とあるので、・・・と思います、なので・・・・・・、です」

正解、なるほど。

「宜しい分かりましたアリエットさん

以降、問題を音読、口頭で答えなさい、書く必要はありません、良いですか?」

「は、え?、良いんですか?」

「構いません、書く事が不得手なのでしょう?

今回の試験の本質は貴女の事を知る事です、書けない事くらいで貴女の力を判断などしませんから」

「は、はい、ありがとうございます・・・」

「喉も乾くでしょうから、アリエット嬢に飲み物を」

「はい」

リトラはその場で魔法鞄から茶道具を取り出し

魔法でお湯を準備、紅茶を容れてくれた

「ありがとうリトラ」

笑顔で応え、再び隅へと控える

「数学は?」

「あ、大丈夫です、数字は分かります」

「良いでしょう、では、どうぞ」

「はい」


そうして数学以外は口頭での解答作業となった

読み上げ、答える、答案にはフィーネが自ら書き込んでいく

「ほっほ、なるほどの・・・」

にこにことネルス翁はその様子を伺っていた



「・・・です」

「はい、分かりました、ではこの場で答え合わせの解説と点数を出します、あとから答え合わせをしても身になりませんからね、間違いはスグに正しましょう」

「はい」

「数学と魔法学は申し分ありません、しかし国語と歴史は



「・・・と、アリエット嬢、総合で貴女の学力は平均を少し下回るくらいでしょう」

「は、はい・・・」

「勉強期間を考えると十分です、良く頑張りましたね」

「え?」

「こちらに来て数ヶ月、公爵家に復帰して三ヶ月程、それでこの結果ならば十分努力の痕跡が伺えます、そうですねネルス様」

「ほっほっほ、そうじゃのう、元々魔法開発の会話では学園のレベルを超えておるからの、魔法学と数学は高水準、対して国語と歴史はあまり芳しくない、と言っても勉強していなければ0解答も有り得るのでこれだけ答えられたならば十分じゃろ」

「しかし知識があって話せても、書けないと困る事も有るでしょう、その辺りは今後に期待ですね」

「うむ、アリィの事だからこれまでも頑張っているじゃろうし、このまま継続していけばそれで良いと思うぞ」

「はい、頑張ります」

「良し、では面談も完了、と」

「え、今ので良いんですか?」

「事前説明にあったじゃろ、人となりを掴めればそれで良いのじゃ」

「あ、そうなん、だ・・・」

「と言っても、午後は魔法実技と模擬戦となります

気の緩みは怪我に繋がりますので引き締めるように、午後は14時から開始となりますので、食事と着替え、準備運動も終わらせておくように」

「はい」

「訓練場は付き添いの、・・・皆さんが知ってますね

遅れないように、では午前中の試験はこれで終わりとします」

「ありがとうございました」

「はい、お疲れ様でした」

ふー、と一息付く灯、テストは久し振りだった

「お疲れ様ですアリィ様」

「リトラ、お茶ありがとう、緊張してたけどいつものお茶で落ち着けたよ」

「それは何よりです、では行きましょうか」

「うん」


隣の部屋では各々が会話していた

「なるほど、では・・・」

「ええ、ふふ・・・」


「所でエリューシア、課題終わったの?」

「も、もう少し・・・」

「エルちゃん・・・」


「ほう、マーガレット王女か、大きくなったなぁ」

「そうですねえ、アリィと仲良いみたいですよ」

「隣は?」

「ほらカイン、フォース辺境伯家の、」

「ああ!マリルーシェ嬢だったか、子供の成長は早いね」




カチャリ・・・

「アリィ!終わったの?」

「うん、なんとか・・・」

「どう?出来は?」

「数学と魔法学は大丈夫、国語と歴史はちょっと・・・」

「でしょうね、書けなかったのでしょう?」

「うん、問題は分かるのに文にするのに時間掛かっちゃって、ってよく分かったねメグ」

「あなたからの手紙を見れば察しはつくわよ、ねえマールさん」

「う、うん、でも一生懸命書いているのが分かるから良い手紙だと思うよ」

「う、私の手紙そんなに怪しい?お父さん達には一度見てもらって大丈夫って言われてたんだけど・・・」


大丈夫(意味は通じるよ)

良い手紙ね(今これだけ書けるなら問題無いわ)


と、言う意味であった

基本的に褒めて伸ばす方針のサイリとリリスは子供のやる事にあまり口を出さない。

失敗から学び取る事こそが大事で、手紙の内容に関しても

リリス達が口を出して書き直させる事は容易なのだが

その言葉は「アリエットの手紙」ではなくなってしまう、まして友達に贈る手紙となれば余計に本人の力のみで書いた物の方が良いとして、余程礼を失する事を書いていない限りは口を挟まなかった。


受け取った側のマーガレットとマールも灯からの手紙を馬鹿にした事は一度も無く

マーガレットに到っては宝石箱のひとつを空けて、その中に大事に仕舞っている程度には大切に想っていた。

少しずつではあるが文字も綺麗に、内容も良くなって来ている手紙は灯の努力が見て取れたから・・・


今も周囲の大人達はにこにこと子供達を見守っている


「細かい事は良いのよ、意味は通じるし、私は形式めいた手紙より数百倍アリィの手紙の方が好きよ」

「うんうん」

「そ、そう?でも書くのはもっと頑張るよ」



「さて、アリィ、まだ11時くらいだけど?」

「あ、早いけど昼食摂ろうかな、14時に訓練所で実技らしいから、着替えと準備運動を考えると・・・」

「そうね、今から食べれば12時には食べ終わって実技試験の時間にはお腹も落ち着くでしょうし」

「うん」


空き部屋から食堂へと移動、まだ一部建て替えの終わっていない学園校舎なので人は居ない

テーブルと椅子を拝借して、ターニャ、リトラ、マイラ達とセバスが食事の準備をササッと終わらせる


昼食後、灯は眠気に襲われる

「アリィ、昨日あまり眠れていないでしょう?

先に着替えて仮眠なさい」

「ん、うん」

リリスに言われて応接間のひとつを借りてドレスを脱ぎ、獅子獣人の戦装束・改に着替える

見た目は同じだが灯に素材提供をされて作り込まれた装束は実戦闘でも一線級の装備となっていた

「髪はどうしましょうか」

「うーん、魔法実技は兎も角、模擬戦もあるんだよね

解けないように髪紐で縛ってポニーテールかな?」

「はい」

真後ろに髪をまとめるのが一番動きに支障がない

サイリ達による格闘術の手解きで髪型をサイドポニーにした時は、髪を流した方向に動くと視界を塞いでしまう事があった。

色々と試行錯誤した結果、ポニーテールが一番良いと結論付けられた


とは言っても髪紐で縛るだけなんてリトラは許さない

縛った上からリボンやシュシュを巻いたり、祖母から贈られた手編みのレースを使ったりと戦闘を行う格好でもオシャレを妥協しなかった。

そして、そんなものを使われては灯も汚せないと考えに考え、全身に神の盾(アイギス)を纏うように工夫しだす・・・


父サイリの様に気の扱いに長けていれば、グローブのショックスライムの破裂の時のように汚れを弾いたり出来るのだが、灯はそれに気を取られると他の何かがおざなりになってしまって隙が出来てしまう

今、気で出来ることは肉体強化と治癒気功のみ


ならばと、扱いに慣れている魔力を使う

あろう事か自身最強の盾魔法、神の盾を応用しだした

神の盾で身体と衣服を覆い、防御魔法ではなく個人に掛ける支援魔法に変えてしまった

結界魔法を防御魔法に変えて、更に汎用性を持たせた

神龍の瞳(カミィ)なしでも魔法発動時間短縮する様に地道に改良、無詠唱ノータイムで発動とまではいかないが

実用的な所まで完成度を高めている

「アリィの魔法は本当に凄いね」

などと手放しでサイリは褒めていたが

魔法研究者が見たら泡を食う程の魔法が続々と創られつつあった・・・




髪をまとめ終わった辺りにリリスが応接間に来た

簡易ベッドをリトラが設置し、いざ仮眠というタイミングだ

「どうしたの?」

「仮眠をとるのでしょう?ほら来なさい」

リリスは簡易ベッドに腰掛けて灯を側へと置いた

「でも、ドレスが皺に・・・」

「良いから、実技試験の途中で体調崩したら大変だし、気にしないの」

と、寄り添って暖かい気に包まれる

「ありがとう・・・」

「ええ」

そっと横たわり、リリスが優しく抱きしめた。

リトラがブランケットを掛ける、程なくして灯は寝息をたて始めた

すー・・・、すー・・・

寝入りはとても良かった、昨夜あまり眠れなかった事と

半分は試験が終わり肩の力が抜けた様だ

「リトラ」

「はい、1330に参ります」

「ええ、お願いね」

パタン・・・、静かに扉を閉めてリトラは出て行った。


「おやすみなさい、アリィ」

愛しくおでこにキスをしてリリスはいつまでも灯を撫で続けていた。




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