友達③
「そうだマールさん、新緑会参加なさい?私も参加するから四人で丁度いいわね」
「んえっ!?」
「フォース家なら、「惑いの森」で鍛錬してるのでしょう?
はじまりの森くらい鼻歌で歩けるくらいには」
「え、マールちゃん戦えるの?」
「アリィ、マールは辺境伯家の一人娘だから、実質的に次期当主だよ」
「あ、そうなんだ!」
「あら?アリィ、辺境伯は分かってるの?」
「流石に爵位は一番最初に教えられたもん、爵位に縛られない国防の要、国の盾にして剣、でしょ?」
「そうよ、フォース辺境伯家の一人娘で王国と接している森の管理と国防を担っている、だから強いわ!
よね?マールさん」
「い、いえ、強いかどうかは分かりませんけど、惑いの森でもキャンプ出来る程度には・・・」
「へえー、惑いの森って何処?」
「アリィ、あの森よ」
「あの森?出会った所の?」
「うん、あそこ」
「じゃあ赤人狼とか森狼を抑えてるんだ?」
「う、うん、ただ私は索敵専門だから直接戦闘は足止めくらいしか、本当に強いのは国境隊の皆だから・・・」
「謙遜が過ぎるわよマールさん、惑いの森のモンスターを足止め出来るだけでも並の騎士より強いじゃない」
「は、はい、光栄、です・・・」
「という事で決まりね、この四人で新緑会参加よ!」
「あ、そうだ新緑会だけど、メグ水魔法って使える?」
「使えないけど、なんで?」
「炎魔法得意って言ってたけど森の中で火は危ないから、水魔法覚えて欲しいんだけど」
「あ、そ、そうです、ね、火の取り扱いは細心の注意を・・・」
「めんどくさいわね・・・、誰か水魔法使えないの?
と、言いたいところだけど良いわよ、覚える」
「え?良いの?」
「何?アリィが言い出したのじゃない、おかしい?」
「ううん、そういう訳じゃないけど・・・」
「・・・新緑会参加の条件にお父様とお母様に水魔法の習得を約束させられたのよ、勿論同じ理由をこんこんと説明されてね」
「あ、そうなんだ」
「ええ、対モンスターにはとても強いけど、火は財産も生命も容易く奪う、使い所を見極めなさい、水魔法を覚えない限りは参加は認めない、とね」
アレクさんも王妃様も同じ懸念を抱いたようで先に言っていたようだった
「うん、火は本当に危ないの、大切なものまでなくなっちゃうんだから」
王国のホームが火竜によって全焼したのは記憶に新しい
まだ物はいい、だけど火と煙に巻かれて人が死ねば取り返しはつかないのだ。
そんな想い、感情の昂りに反応したのか灯の瞳が薄く金に輝く
「アリィちゃん眼が・・・」
「眼?なに?」
「金色になってるわよ」
「アリィ、お父さんに眼の事言った?」
「そう言えば言ってないかも、昨日はメグの事しか」
「お父さんに言ってコントロール覚えた方良くない?なにか思い出したの?」
「う、うん・・・、王都にホーム有ったんだけど、火竜の炎で全焼しちゃって・・・」
「貴女も苦労してるのね、でも火竜ってどういうこと?アリィのここまでの道中気になるわ」
「マーガレット、アリィは本当に波乱万丈よ、多分一生分の冒険がここ数ヶ月に詰まってる」
「なにそれ!話なさい!」
「私も気になるな・・・」
「えー、あまり面白くは無いと思うんだけど・・・」
「面白いかどうかはこっちが決めるの、勿体ぶらないで話なさいよリーダー!」
「なんでリーダー?」
「当たり前じゃない、冒険者ランクS+のアリィ以外に誰がやるって言うの?」
「え、S+!?」
「あれ?マールに言ってなかったっけ?社交界に噂流れてない?」
「聞いてないよ!私が知っているのは、アリィちゃんが異界還りで戻って来て、獣人化してルナリア家に入った事、神龍の瞳の所有者って事、婚約者が居る事だけ」
「神龍の瞳は知ってるんだ、社交界じゃ殆ど珍しい杖らしいとしか言われてないし、黒獅子の話が先行していて知られてないかと思っていたけど」
「国境を預かる辺境伯としては血筋や姿形よりも武力の方が大切だから、強力な杖の話の方がインパクト強かったよ
まあ、辺境で政治的な話は関係無いからこそだけど・・・」
「まあ、土地柄どの情報が重要視されるかは違うから当然と言えば当然よね」
「アリィちゃん強いんだ・・・、、こんなにちっちゃいのに・・・」
後の方は小声で言ったマールだが、しっかり聞こえている
「や、私単体は弱いからね?支援魔法特化の魔法学士だから、それにそこに居るカミィ居ないと大した事ないし」
「カミィ?そこの猫がなんで?」
近くの空いたソファーに丸まって寝ているカミィこと神龍の瞳
「見せた方が早いね、おいでカミィ」
呼ばれて耳をピクリと動かし灯の元に歩いて来ると光に包まれて杖の姿となる
「そ、それっ、神龍の瞳!?」
「へえー、コレが、意外と地味ね・・・」
マールは飼い猫だと思っていた猫がまさかの神龍の瞳で驚き
マーガレットは高級品を見慣れているのか興味が無いのか
フーンといった具合だった。
「神龍の瞳が無いと強い魔法使えないし」
「アリィ、それは獣人化前の話でしょ?
今の身体能力なら単独でもかなり強いんじゃない?」
「あ、まあ、そうかな?」
訓練では父サイリにも執事セバスにも軽くあしらわれているので、ここでも灯の自己評価はあまり高くない
そもそも神龍の瞳が無くても魔法使いとしては相当なレベルにあり
ただ比較の対象が悪過ぎるだけなのだが・・・
「何はともあれ楽しみね、ふふふ・・・」
「マーガレット何か企んでるの?変な笑い方して」
「え?そんな笑い方していたかしら?特に何も考えて無いけど、ただ単純に楽しみなだけよ」
「今の笑い方だと悪巧みしてそうな様子ではあったよ、メグ」
「そうかしら?」
チラリとターニャに視線を送るマーガレット、するとターニャが答えた
「姫様は誤解されやすいですから、皆様今のは本当に楽しみなだけの顔ですよ」
「わ、私、誤解してました、マー・・・、メグさん学園だと顔が怖くて近寄り難い印象でしたけど、こんなに柔らかい方だったんですね」
「あ、それは、まあ色々あってね、これからこんな感じだから宜しくねマールさん」
「は、はい、宜しくお願いします」
「で!アリィ、道中は!?」
話が逸れて忘れたのかと思っていたが忘れてなかったようで、灯は掻い摘んでマーガレットとマールにこれまでの事を話しだす・・・
「・・・で、空から落ちて」
「ええっ!?死んじゃうじゃない!」
「メグさん、アリィちゃん此処に居るから・・・」
「オークコロニーのど真ん中で、」
「死んじゃうの・・・?」
「マーガレット、これ物語じゃなくてアリィの体験談だから・・・」
「お姉ちゃんがギュッとして」
「良い人ね、御礼しなきゃ!」
「ハジッコは遠いよ・・・」
「雪山で・・・、気付いたら山を降りてベッドの上に・・・」
「傷は?残ってない?大丈夫?痛くないの?」
「うん、おばあちゃんが治してくれたから」
「アリィの命の恩人ね、絶対お礼に行くわよ!」
「でね、ゴリさんが青汁を・・・」
「あっはははは!そんなにエグい味なの?気になるわ!」
「あるよ、飲む?魔法鞄に入れてるから劣化はしてないし」
「飲みたいわね、くれるの?」
「わ、私は遠慮しておく・・・」
「マーガレット、止めといた方が良いわよ・・・」
止められるのも構わずコクリと口に思い切り青汁を含む
「あ」
「うわ」
「・・・」
青汁を口に入れたマーガレットの顔が赤くなり、青くなり、白くなる・・・
そして小刻みに震え出した
「メグ!?吐いても良いよ!?」
「ひ、姫様!?」
「んー!んー!」
そんな無様、マーガレットは王女としてのプライドが許さないのか、嫌だとばかりに首を横に振る、その顔は白から土色になっていた
ゴグリ・・・、嚥下した音が部屋に響く
「ぶあっ!アリィ私を殺す気!?」
「ええー・・・」
話の流れでゴリさんが噴き出した話をしたのに、なんて理不尽な事か。
「王女様が、ぶあっ!って・・・」
「マーガレットの顔、百面相していたね」
「ふ、っく・・・」
ターニャとクインが顔を伏せて震えている、職務上王女を笑ってはいけないと我慢しているようだ
公爵家侍女マイラとリトラは手をミシミシと握りしめ必死に無表情の仮面を被っている
マール付きの侍女ケイナは壁の方に体を向けて全身を震わせていた
こんな王女の姿、笑うなという方が無理がある勘弁して欲しい。
「あはははっ!メグ、凄い顔してたよ、ほら、口拭いて」
「きいー!謀ったわねアリィ!」
怒りながらもハンカチを受け取り青汁が着いている口を拭くマーガレット。
「ゴリさんが噴き出したって言ったじゃん!」
「不味いとは一言も言ってないわよ!」
「言ってないけど、吐く程不味いとは思わなかったの?マーガレット」
「ぶあっ!って、ぶあっ!って・・・」
ぎゃーぎゃー言い合う中、マールは自分の膝に顔を埋めてピクピク笑っていた
この集まり、魔法国の最高位の娘達の集まりと誰が思うだろうか・・・