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事件。

翁の店を出て食事をする為に商店街を目指して移動する

「灯、気付いているか」

「何が?」

灯はのんきに聞き返すがグレゴリの表情は厳しいものだ。

「どしたの?怖い顔して」

「マリもベルも、さっきの店の翁もだが彼らは本当にNPCか?」

「何?NPCじゃなかったら何なの?」

「これはあくまでも仮説だが、俺達はアークオンラインに閉じ込められたのではなく、アークオンラインが現実になり、この世界に生きる事になったのでは無いか?」

「え・・・」

グレゴリの仮説に灯の表情が消える

「思えばこれまで疑問は有った、あのダンジョンでの怪我、痛み、手に伝わるモンスターを潰した感触、匂い、全て作り物とは思えなかった」

「・・・」

「そもそも「痛覚」など技術的に可能でも問題があるとして、業界では暗黙の了解で実質禁止されていたのではなかったか・・・」

「・・・」

「そしてマリ達だ、皆の動き、対応、話し方、あそこまで臨機応変に対応するAIでは無かった筈だ、翁の対応、NPCはゲームで設定外の行動はしない、なのにあの翁は灯と交渉した、金は要らない素材をくれ、買い物のAIなんて物を持って金を払うだけだっただろう」

「・・・」

「そして昨日のマリだ、灯の話を理解して()()()()、AIはストーリーの都合上感情を出す事はあっても臨機応変に人の話を聞いて笑ったり泣いたりしない、あれは・・・」

一度言葉を切る


「そう、あれは人間そのものだ、皆生きた人間で、此処は現実の世界になったのではないか」


ずっと考えて来た事を全て言ったグレゴリ

ふと気付く、途中から灯が何も言わなかった事に

「灯?」

肩に居る灯の顔を見る、顔色が真っ青だ

「灯、顔色が悪い、どうした?」

返事の無い灯に再び声を掛ける

「あ、えっと、ちょっと酔っちゃった、ごめんなさい降ろして・・・」

片膝を着いて屈み降ろしてやるグレゴリ

「大丈夫か?」

「大丈夫・・・、歩いていれば落ち着くから、ご飯食べに行こ?」

表情が晴れない灯を心配しながらも、酔ったしまったらこんなものかと大して気にしなかった

その事を後に激しく後悔する事になる。


良さそうな店を見つけて中へ入る

「らっしゃい、何人だ?」

「二人だ」

「じゃあそこに、メニューは日替わり定食A肉、B魚どちらか、飲み物は好きな物を頼みな」

「俺はAで、飲み物はノンエール」

「私はB、オレンジジュース下さい・・・」

「あいよ!AB一丁!ノンエーオレンジ!」

「「ありがとうございます喜んでー!」」

夜は酒場、昼は食事処といったところでとても活気のある店である。

周囲からは話し声が聞こえてくる

「あそこの旦那がよ・・・」

「この間、オークが、」

「あいつ、いつかぶっ飛ばしてやる、」

ガヤガヤ・・・

「へいお待ち!ABノンエーオレンジだね!」

ドン!乱暴に置かれるが、匂いと見た目はとても美味しそうで早速食べ始める。

「旨いな」

「うん」

「・・・」

「・・・」

すぐ無言になり話が続かない、グレゴリは口数は少ない、不器用な事もあり気の利いた話も振れず、いつもなら灯がアレコレ話すのだが翁の店を出てから様子がおかしく、言葉少なだ。

会話が少ないのですぐ食べ切ってしまう、物足りないグレゴリは

「親父、B定食とノンエーひとつ」

「あいよ!」

すぐ運ばれてくる魚に手を出し食べ尽くしノンエールを飲み干す、灯はまだ半分食べきった所でちびちびと食べている。

その姿は微笑ましいもので、一口大に取り分けては口に運ぶ、一生懸命食べる彼女の容姿も相まってとても愛らしい。

グレゴリの視線を感じたのか

「何?ゴリさん」

「いや・・・」

「?」

「食べ切れるのか?」

「うん大丈夫」

「そうか」

またすぐ会話が途切れるが、タイミング良く隣のテーブルの会話が聞こえてくる


「しかしよぉ、まさかあんな近くにゴブリンとオークのコロニーが出来るなんて」

「近過ぎるよな、ギルドの連中は何をしてんだか」

「それが、これまで請け負っていた冒険者の数が激減したんだとよ」

「はあ?早めにコロニー潰さねえとキングやクイーンが生まれてめんどくせえぞ」


何やら物騒な話をしている

「灯、ここでゆっくり食べていろ」

「?、うん、ゴリさんは?」

「話を聞いてくる」

「いってらっしゃい」


親父にエールを3つ頼み、それを手に隣のテーブルへと行く

「よう兄弟」

突然現れた2mを超える大男に警戒する二人

「な、何だおめえ・・・」

「ひっ」

「まあまあ、俺はただ話を聞きたいだけだ、お近付きの印に1杯やってくれ」

エールを差し出し出来るだけ軽い態度で話す、只でさえ誤解されやすい容姿は、グレゴリ自身百も承知である。

警戒した二人も顔見合わせ、グレゴリに敵意が無い事、そしてエールの差し入れを確認して

「お、おう、ありがとよ」

「貰うぜ・・・」

グッとエールに口を付けるのを見計らって話をする

「で、だ、今話をしていたゴブリンとやらのコロニーってなんだ?」

「あ?知らねえのか、この街の近くに森があってよ、そこにゴブリンとオークの共同コロニーが出来たんだ」

「森は近いのか?」

「近い、と言ってもここから数kmは有るが、森の傍を街道が通っていてな」

「まだ犠牲者は居ねえが、このままだと時間の問題だな、って話しさ、ほれゴブリンとオーク共なんて・・・」

「止せよ、酒が不味くなる・・・」

「規模は、大きいのか?」

「詳しくは知らねえ、ギルドなら把握しているかもだが、冒険者の手が足りねえんだとよ」

「なるほど、助かったありがとう」

手を挙げて立ち上がる

「なに、こっちこそごちそうさん」

「行くんなら気を付けろよ、コロニーと報告が上がる位だ、少なくとも100は居るぜ」

「ああ、分かった」



必要な情報を聞きテーブルを離れる

と、灯の居るテーブルを見ると、人集りが出来ていた

「お嬢ちゃんこっちも食べな、食べないと大きくなれないよ」

「ありがとう、いただきます」

「そんなむさい野郎のより、こっちの方がうめえぞ」

「ありがとう」

「ねえ、ウチの息子の嫁に来ないかい?」

「あはは、ごめんなさい旅をしているので」


ナンパ?お見合い?

テーブルに戻ると、灯に集まっていた者達は

「ひ、巨人!」

「オーガ!?殺される」

「ああああっ」

蜘蛛の子を散らすように居なくなった・・・

「・・・、何を」

「ご飯食べてたらお兄さんが差し入れくれて、それ食べてたら他の人もいっぱい持って来たの」

テーブルの上には空になった容器がずらり、ひと皿ふた皿では済まない量で

(これ、俺より食べてないか?)

「灯」

「ん?」

「全部食べたのか?」

「うん」

「そうか・・・」


あんなちびちび食べていたのに、この小さな体のどこに収まると言うのだ、驚愕のグレゴリであった。



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