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マーガレット②

「さてと、そろそろ帰ろアリィ」

「うん」

「え、もう帰るの?食事して行ったら良いじゃない」

「今日はネル爺に会うって予定でしか来てないの、遅くなるとお母さんが心配するからまた今度ね、マーガレット」

「ごめんね」

「じゃあ、また遊びに来なさいよ」

「それも難しいかも」

「どうしてよ、寂しいじゃない!」

マーガレットも性根は素直、真っ直ぐに思っている事を伝えてくる。

「アリィが忙しいの、学園の編入試験があるから勉強しなきゃいけないし、それ以外にも貴族の方の勉強、常識とか沢山あるの」

「ああ、異界還りって本当の事だったの?何かの比喩かと思っていたわ」

「うん、ごめんねメグ」

「良いわ、それなら仕方ないし私がそっちに行くから」

「え!?」

「ウチに来るの?」

「何よぅ、だめなの?」

勝気な印象が強いメグがシュンと獣耳を伏せた

何、この王女様、実は普通の女の子みたいとエルも灯も内心クスリとした。

「ダメじゃ、ないけど・・・」

「決まりよ、取り消しは無しね!空いている日を手紙で教えて、学園無いから私も暇だし」

「課題は?エルはやってたけど」

「課題?あんなものとっくの昔に終わらせたわ、いつの話をしているのよ、学園が魔法事故で吹き飛んだの四ヶ月前の話しよ?」

「エル・・・、まさか何もしないでエクス達に着いて来てたの?」

「や、後でまとめてやる派だから・・・」

灯がジトリとエルを睨むと、エルは目を逸らして言い訳する

「残りは?」

「・・・」

「エル、終わらせた課題はどれくらいなの?」

「一割・・・、いや二割は終わったわ!」

「エリューシア、貴女大丈夫なの?あまり詳しくないけど貴女座学はあまり良くないわよね?」

「う、多分ダイジョブ・・・」

「メグ、エルの成績知ってるの?話した事ないのに」

「上位成績者二十人までは貼り出されるのよ、エリューシアは公爵令嬢なのに、そこに名前が無ければ逆に目に付くでしょう?」

「そうなんだ、エル勉強苦手なの?」

「苦手じゃないよ、そこそこなだけで悪くはないもん」

「もん、って貴女、そんな体たらくでアリィに安心しなさいなんてよく言えたわね」

「べ、勉強じゃなくて、こう、その、そう!心身を守る的な意味で!」

「・・・ねえ、ひとつ聞きたいのだけど、どっちが姉なの?あなた達双子って話しよね?」

「エルだけど?」

「エリューシア、貴女学園の先輩としてアリィに成績抜かれたら恥ずかしい事になるわよ」

「えっ・・・」

「え、じゃないわよ、妹は異界還りなのに勉強漬けで頑張っているのでしょう?アリィは前の世界で学園行ってた?成績は良いの悪いの?」

「えーと、まあ、そこそこ・・・」

「ほら!アリィだってそこそこって!」

「揚げ足とらない!エリューシアは少し黙ってて、アリィ正直に言って、学園なら試験ある筈でしょ、一学年何人居て何番目だった?」

「120人中20、くらい、かな・・・?」

「っ!」

「そこまで言ったらハッキリなさい、何位なの?」

「最後に受けた試験でなら17位・・・」

性格的に真面目な灯は予習復習をしっかり勉強している

学校に行っていた頃はそれなりに勉強に時間を割いていた

学年順位でも上から数えた方が早い所に位置しているのに

そこそこと評したのは元々の自己評価の低さと勉強に時間を割いている割には、ずば抜けた順位になった事がない為だ。


「ほら見なさいエリューシア!アリィは地頭が良いのだから貴女ぼやぼやしているとあっという間に追い抜かれるわよ!」

「アリィそこそこって言ったのに!」

「貴女のそこそこと他人のそこそこが同じ訳ないでしょ、この子どう見てもテキトーって空気は無いもの、良い機会だし私が勉強教えてあげるわよ」

「げ」

「げ、ってなによ!貴女仮にも公爵令嬢なのだから、もう少し立ち居振る舞いというものを意識しなさいな」

「いいじゃん、公的な場でしっかりしていればお父さんもお母さんも何も言わないし」

「王女を前にしていい度胸してるわね・・・」

「王女が居るけど、今は公的な場じゃないよ」

ブーブーと文句たらたらなエルに、メグは軽く説教し始めた

「前から思っていたのだけど、貴女ね」

「あーあー、きこえないー」

ギャーギャーと先程の口の悪さとは全く違う微笑ましいやり取りだった。

「ふふ、まあまあメグ、人それぞれ得意不得意ってあるから」

「そうだそうだ!」

「エリューシアあなたね・・・、まあ良いけど、じゃあ何が得意なのよ?」

「・・・運動?」

「公爵家の令嬢が運動得意でどうするのよ、ばか・・・」

「ばかって!マーガレットこそ何が得意なのよ」

「勉、」

「勉強はナシ!王女が成績優秀なのは当たり前じゃない!」

「エリューシア貴女がその口でそれを言っちゃう?じゃあ炎魔法」

「へえー、炎魔法!」

「王女が炎魔法得意でどうするのよ、せめて治癒魔法にした方良いじゃない!」

「・・・」

マーガレットの口端がピクピクと引き攣る、エルは自分の事を棚上げして言ってきているので無理もないが・・・

確かに普通の貴族や王族として考えると、公爵令嬢が運動得意でどうすると言うのか、生かせるといえばダンスくらいのものだが。

そしてマーガレットも王女で炎魔法を振るうとなると、どういったものを目指しているのか謎過ぎる・・・

「ふ、ふふ、あははは!」

「な、なによ」

「アリィ?」

「だって、エルもメグもおかしいんだもん、ふ、ふふ」

「そ、それを言ったらアリィだって得意なもの!」

「わ、私?支援魔法・・・?」

「令嬢が支援魔法を何処で使うって言うの、アリィもおかしいわよ!」

およそ両親が高位の地位を持つ娘達会話とは言えない内容だ

三人共互いにおかしな所を笑う

控えていた侍女は普段見たことの無いマーガレット王女の屈託のない笑顔を見て驚いていたが、下手に作った笑顔を義務的に振り撒くくらいならば、今のように歳頃の女の子らしく振舞った方が断然良いと暖かい眼差しで見守っていた。


「でも、三人でパーティー組んだらバランス取れるよね、エルが前衛でメグが後衛、私が中衛で完璧な三人組(スリーマンセル)

「確かにアリィは格闘術と魔法の使い分けで立ち位置変えられるし、でもそうなるとマーガレットの魔法の威力だよねぇ?」

ニマーといじわるそうに笑うエル

「ふふん!聞いて驚きなさい、つい最近遂に爆裂上級魔法(エクスプロージョン)を習得したわ!」

「え!?エクスプロージョン?凄い!」

「一発で魔力空っぽになるけど・・・」

「使えないじゃん」

「んな、エリューシアこそ前衛で何するのよ!」

「私はお父さんとセバス直伝蒼華拳(そうかけん)で粉砕するよ」

「そ、そうかけん?」

「訓練所の外壁も破壊するんだから!」

いや、それは誇っていいのか?

威力を伝えるにしても他に言いようはあるのでは・・・

「そうなるとアリィが不安でしょう?魔法は得意と聞いているけど、その体で前衛は・・・」

「いやいやマーガレット、今この場に居る三人の中でアリィが一番強いから」

「え?いくら黒獅子と言っても、こんなに未成熟ではちょっと」

「未成熟・・・」

「マーガレット、アリィの事は聞いてないの?」

「聞いているけど黒獅子で異界還り、小さい可愛い子、魔法が得意としか聞いてないわよ」

「アリィ、冒険者ランクS+だから」

「は?」

マーガレットの目が点になる

それもそのはず獣人は肉体の成長が早い、エルもマーガレットも灯と比べて成熟しており、身長は灯が140cm台と低身長(まだ伸びてる!とは灯談)で対してエルとマーガレットは160cm台、同じ歳でも10代後半と10歳くらいの見た目の差があった。


「それに見た目に騙されない方が良いから、アリィ手出して、マーガレットも」

「ん?」

「何?」

「ちょっと正面からアリィを押してみなよマーガレット、分かるから」

「・・・」

言われた通りマーガレットは正面から灯と手を組み、グッと押す

マーガレットも王女とは言え王族の獅子獣人、その力は並を遥かに凌駕しているのだが・・・

「ビクともしないっ!え?えっ!?嘘でしょ?」

体格を見れば一目瞭然、体重の差はそのまま膂力に繋がる筈なのに灯は平然と立っていてマーガレットは驚愕した

ドレスを着ていてヒールも履いているから流石に全力で力を込める事は出来ないにしても、それはお互いに条件は同じ、だのに巨木を相手にしているかのように微動だにしないのだ



「アリィ、軽く押したげなよ」

「う、うん」

コツン・・・、手を組み合ったまま灯が一歩踏み出すとマーガレットが後退する

「わ、ちょっ!」

更に一歩進む、灯の歩幅だけマーガレットが押し込まれる

「分かった、分かったわよ!なんなのこの子、馬鹿力!」

「馬鹿力・・・」

「アリィ本当に力強いもんね、お父さん並みじゃない?」

「ええ!?サイリ様並みって化け物じゃない!」

「ば、ばけもの・・・、お父さんは手加減しているから私より格段に強いと思うけど、そんなこと言ってエルだって似たり寄ったりな力じゃん・・・」

「嘘でしょ?どうなっているのエリューシア、アリィは見掛けで判断したけど結局の所は子供でも黒獅子の証って事で納得するけど、貴女は普通の獅子じゃないの?」

「やー、それなんだけど、何故かアリィが獣人化してから力が強くなってて」

「何よそれ・・・」

「双子の片方が黒獅子の子供のケースが初めてらしくて、私が見た目そのまま黒獅子の力を持っているけど、エルは黒くないけど黒獅子の力を持っているかも、って」

「あ、つまり見た目は普通の獅子の獣人なのに、遺伝的には黒獅子と同じだから、って事なの?」

「だと、思う、らしい?」

「でも、それなら元々エリューシアは黒獅子の力を持っていたのではなくて?

アリィが獣人化してから力が強くなったってどういう事なのよ」

「うーん、初めてのケースだから正確には言えないのだけど、私が異界還りして獣人化した事で双子同士に何らかのパスみたいなものが繋がって、力が目覚めたらしい、お医者様によると・・・」

「まあアリィと二人で黒獅子って事よ」

「そ、そう・・・」

黒獅子は規格外な者しか存在しない

それがサイリからエリューシアと灯、二代続けて現れた

しかも双子の黒獅子なんて聞いた事がない

マーガレットは心底驚いていた。


「ま、まあ、いいわ・・・、エリューシア、貴女今年の新緑会参加するのでしょう?

私も交ぜなさい、一度で良いから参加してみたかったのよね」

「マーガレット新緑会参加したことなかったの?」

「ないわ、貴女なら解るでしょう、参加出来ない事くらい」

「まあ、私もないけど・・・」

「ねえ、新緑会てなに?」

「学園で三学年毎に交流会を開くの、初等部三年、中等部三年、高等部三年が学園の期間なんだけど、それぞれ一年生の一の春月(三月)に「はじまりの森」で三泊四日の野営をするの」

「へえ、でも「はじまりの森」ってモンスター出るんじゃ・・・」

「出るわね」

「良いの?それ?」

「実益も兼ねているのよ、貴族でも家を継ぐのは基本長男でしょう?

次男三男、次女三女となれば何処かに嫁ぐか城に勤めるか冒険者をやるしかないもの、だからお互いに親交を深めつつも冒険者志望の人は実地訓練として参加するのよ」

「参加って事は、行かない人も居るんだ?」

「まあ、普通の貴族令嬢だったら他家に嫁ぐだけだから実戦も兼ねている新緑会にはほぼ参加しないわね」

「参加しない人はどうするの?」

「生徒主導でお茶会を開いたり、夜会を開いたりして交流するわ」

「へえー、・・・え?メグは兎も角エルも参加したことないんだ?」

「まあ、間が悪くて・・・」

「そうね、間が悪くてね・・・」

「?」

マーガレットは王女故に実戦を含む交流会に一緒に参加して万が一にも怪我をすれば、同行していた者の責も問われるかも知れないと思われて誰もマーガレットとパーティーを組む者が居なかった

エルも似たり寄ったりの理由で、更には対して親しくもない相手を無理矢理連れて参加しても三泊四日の野営など苦痛にしかならないとして、これまで未参加のままだった。

()()()なのに本末転倒な理由ではあるが・・・

「ふーん」

灯としては冒険してきているのでどちらかと言えばお茶会や夜会の方が興味が強いのだが・・・

「アリィお願い!ランクS+の貴女は今更はじまりの森で野営と思うかもしれないけど、今年が最後の新緑会なの、一緒に参加して!」

「最低三人パーティー組めないと参加出来ないからねえ」

「あ、そうなんだ、良いよ」

「・・・随分あっさり了承するのね」

「まあ新緑会は良いけど、編入試験落ちたらごめん・・・」

「「落ちるわけないでしょ!」」

二人が声を揃えて言う、公爵令嬢が学園の試験で落ちるなど前代未聞だ

異界還りで勉学が遅れているのは当たり前、寧ろその点を補完する為の学び舎なので試験結果が悪くても落ちたりしない。

面接で話して「こいつはヤバイ」と判断されない限りは編入は許可される

灯と話した印象は極普通な子だとマーガレットは見ていた

そして、常に一緒に居るエルにとっては灯が落ちることなど有り得ないと信じている。

「う、うん、頑張るよ、勉強」

「違う、そうじゃない・・・」

「んん?」

「いえ、なんでもないわ、勉強頑張って・・・」

「うん」


今後の学園生活において、心強い友達が出来た

それはエルにとっても灯にとっても、そしてマーガレットにとってもかけがえのない存在となる


魔法都市に来てからと言うもの、幸運にも灯が関わった人物は皆良い方向へと動き始めていた

ただ一人を除いて・・・




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