相談。
父サイリがネル爺と話をして来た、異界へと移動する魔法の開発は何かと問題が多く必ず顔を合わせて話をする事になった。
情報は機密扱い、紙や物に残る形での保存は必ず私の魔法鞄に保管する
詳細は王様にさえも明かさない事
と決まった、考えてみれば当然の処置
私と瞬兄達だけが必要とする訳じゃない、それこそ異世界侵攻したりされたりも可能とする魔法の開発は本来ならば禁じられてもおかしくはない
それを私達の為にお父さんが何とか許可をもぎ取った
私達は勿論悪用するつもりは無いのだが、世界を繋げる可能性のある魔法は扱う人次第で大変な事になる。
そしてお城へと向かった、今日はエルと一緒に行く
お父さんお母さん、エクスはどうしても都合が付かなくて、おじいちゃんおばあちゃんは「隠居した身がホイホイと王城に行くのも良くない、ごめんなさいアリィ」という事であまりお城には行きにくいようだ、かと言って何かと不慣れな私一人で出歩く訳にもいかない
通常の令嬢なら侍女を連れて歩けば済む事だけど、話の内容を考えるとそれも難しい
「アリィの大事な用事なんでしょ?私が行くよ」
「良いの?」
「良いよ、魔法に関しては何も力になれないけどね」
「ううん、一緒に来てくれるだけで頼もしい」
「決まりね」
「おやおやエルも一緒に来たのか」
「ネルス様お久しぶりです」
「ほほ、アリィにも言ったがヌシらならネル爺で構わんよ」
「じゃあネル爺、アリィの事よろしくね、私は隣の部屋で課題やってるから」
「うん、今回はそこまで時間取らない筈だから」
「じゃな、まあ簡単な打ち合わせだけじゃ」
いきなり逆召喚や送還魔法の開発は出来ない
異世界間の移動をどうするか、肉体のみを飛ばすのかゲートを構成して通るのか、またその問題点は
基本的なことを決めてそれから問題の洗い出し、参考書物の準備、場合によっては専門家の追加招集もある
但し追加招集は情報管理のハードルが高くなるので、やはり魔法全般に深い造詣のあるネル爺だけに頼るしかない。
「私はゲート式かなって思うんだけど」
「そうじゃなあ、肉体のみだと服の再構成式の開発も加わってより複雑になってしまうからの、ワシもゲート式で良いと思うぞ」
「だよね、世界渡ったけど全裸でしたなんて・・・」
「じゃのう、特に女性には耐えがたかろう」
「うん」
服の再構成式を組み込む位なら、こちらで無難な服を仕立てて着てゲートくぐった方が楽だ
勿論手荷物の制限を科す事も必要となる、未知の素材を他世界に持ち込むのは何が起こるか分からない
例えばこちらのドラゴンの生素材を持って行って、地球の大気組成で謎のウィルス発生とかしたら、とんだバイオテロだ。
「問題は世界の座標と存在の定義じゃな、ヌシ達の話が無ければ行ってお仕舞いとなっていたが、己の存在が認知されておらんのじゃろ?」
「うん、少なくともこちらの世界に来た私と幼馴染二人は居ない事になっていた・・・」
「その事なんじゃが、儂の考えではヌシらがかの世界に戻っても知る者が誰も居ないのでは無いのかの」
「そう、だね、でも「選べる」って事が大事だと思うの・・・」
恐らく地球にこのまま戻っても親の居ない無戸籍な存在になる可能性が高い、それでも地球の日本に帰るか、こちらに残るかの選択肢はきっとあった方がいいのだ。
私は獣人化した事で無意識下の部分がこちらのものに塗り変わった気がしている、今ではそこまで望郷の念は強くない
勿論、今の家での生活が幸せだという事も一因だと思うのだけど・・・
瞬兄達はどうだろうか?
話し合いをする前に別れてしまったから、再会した時に話すしかないのだけど、陸は帰るのかな、鈴姉は帰るのかな、瞬兄は・・・?
「そうじゃなあ、それはその通りじゃ、諦めた結果なのか自身で選んだ結果なのか、正しいか間違ったのかは別問題として人生の中で心のしこりはあまり作らん方が良いな」
「心のしこり?」
「簡単に言えば後悔しないように一生懸命毎日を生きるって事じゃよ」
「うん、・・・うん」
色々と方針を決める
問題点は大きく三つ
対象の世界に上手く行けるか
存在の定義
ゲート式で魔法構築するには莫大な魔力が必要
現状、世界の座標は私達の縁を頼るしかない、つまりゲートを作って行ってみないと分からない
存在の定義、神の御業やイタズラに類するものだ、どうにもならない
そもそも何故こちらに転移したかも謎、これも行ってみないと分からない
莫大な魔力、これは私が神龍の瞳の力を使ってゲート構築する
魔法を行使する都合上、私は地球へは行けない
地球には魔法が無く私が世界を渡った瞬間にゲートがどうなるか分からないのだ、強力な魔力で作ったゲートが突然
制御を離れて暴走しないとも限らない、龍眼の魔力を取り込んでゲートが拡がり出すかもしれないし、ただ消えるかも知れない、リスクを考えると当然私はこちらに残る。
私以外の人がゲートを構築する方法だと術士の根本的な技量が必要になる、この国で最高の魔法使いネル爺でも神龍の瞳は扱いきれないとの事なので、これは決定事項となった。
「よいのか?アリィは帰らなくて」
「私は前から決めていたから、お父さんの、お母さんの、エルの、ついでにエクスの傍に居る事を、此処が私の世界だって今ではそう思っているの」
「そうか・・・」
「それに、まあこれは後付けだけど、地球には獣人居ないの、だから」
地球で唯一の獣人として存在したらどうなるだろうか
珍獣扱い、絶滅危惧種扱い?
研究対象、監禁、捕獲・・・
仮に瞬兄達と一緒に地球に帰っても、離れたら二度と会えなくなると思う
たった一人の獣耳と尻尾を持つ種族なんて恐らく自由はない、都合のいい事に無戸籍ともなれば・・・
先の事を考えると私はモルモットになるのが目に見えているのだ。
「なるほどの」
ネル爺も察してくれたようだ
「こっちの理由は本当に後付けなの、よくよく考えたらそうだなって」
「うむ、心のままに決めて良いんじゃ、家族と離れたくないのじゃろ?それで十分な理由じゃよ」
「うん、ありがとうネル爺」
「ほっほっ、なあに」
基本方針を決めて、後は必要な書物と技術
その辺はネル爺に心当たりが有るらしいのでお願いする
「ネル爺良いの?これに強力しても公表出来ないよ?」
「ん?ああ、気にする事はない、儂にも十分旨みのある話じゃからな」
「そうなの?」
「うむ、儂が求めるのは知識欲じゃからの、新魔法を作り上げるだけでも満たされるし、それにアリィ、お主の技術を傍らで見れるだけでも勉強になるからの」
「私の?」
「魔法構築方法じゃな、今では事実上誰にも出来ない失われた技術に近い、上手くいけばこれまで行き詰まっていた研究にも光が差すから十分な報酬じゃ、勿論ゲート魔法構築式関連は使わぬし情報も漏らさぬから安心しておくれ」
「あ、」
そう言えばそうだった、ハジッコの街でもマリお姉ちゃんに言われたっけ
何かとウッカリしがちな灯、この魔法に関してはしっかりしないといけない、気を引き締める。
アレコレと打ち合わせし終わり、隣の部屋に行くとエルがうんうん頭を悩ませていた
「どうしたの?」
「課題、分かんなくて」
「ふむ、どおれ?」
「ネル爺?」
ネル爺が横から覗いてきた
「おお、これはな、ちょうどこの本棚に参考が・・・」
そう言ってネル爺は本を一冊取り出して、迷いなく決まったページを開いてエルに見せた。
「あー!そうか、ありがとうネル爺」
「なに、学園を任せられる者の一人としては当然の事よ」
「え?ネル爺って学園関係者なの?」
「うむ、一応学園長の座に着いておるぞ、名ばかりじゃがな」
「へえー」
「アリィは今度編入試験受けるのじゃったか、儂は立会人じゃからよろしくの」
「あ、そうなんだ、よろしくお願いします」
「うむ」
「よっし!課題終わり、帰ろうかアリィ」
「うん、じゃあネル爺また」
「うむ、まあ簡単に進む魔法じゃないから、編入試験に集中しておくが良いぞ、魔法の方は何冊か見繕って公爵邸へ送るから読んでみるといい、それからまたと言うことで」
「はい、よろしくお願いします」
無言で道案内する侍女さん、こちらの方はビジネスライクな雰囲気で話し掛けてもあまりいい気はしなさそうだから黙っておこう・・・
途中、中庭に通りがかった時
「あっ」
「え?何?」
「ごめんアリィ、ちょっと待っててネル爺の所の資料が混ざってたから返して来る」
「一緒に行くよ?」
「良いから、そこの中庭のベンチで待っててすぐに戻るから!」
そう言ってエルは走って行ってしまった
えー、この無言な侍女さんと一緒なの・・・
気まずさを覚えていたが侍女はきっちり仕事と割り切っているのか、ベンチの上にハンカチを広げて置いてくれた
座れという事だろう。
「ありがとうございます」
お礼を言って座ると、侍女さんは会釈をして少し離れて控えた
「・・・」
「・・・」
うーん、無言・・・
まあ、片道五分そこそこ位として往復10分程でエルも戻るしいいかと、ぼーっと中庭を眺めて待つ。