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夕食。

黙々と食事を進める、ふと視線を感じて視線を上げるとカインおじいちゃんがニコニコ顔で見ていた。

「?」


食事に戻る、次々にサーブされるのだけどみんな食べるのが早い、いや私が遅いだけかとちまちま食べ続ける

再び視線を感じて視線を上げる

今度はメリアおばあちゃんがニコニコ顔で見ている

「??」


何故か思いきり見られている・・・



本人は意識していなかったが灯は食事を口に運ぶと

(んー!!おいしっ)

満面の笑みと尻尾に全て感情が表れているので、皆微笑ましく見ていた。

孫に興味津々の祖父母達がその姿を見て笑顔になるのは無理もない

マナー的にはあまり褒められたものではないのだが、公的な場ではない家の中なので細かい事は言わない


何よりちょこちょこと一生懸命食べる姿が可愛らしく

なんなら自分のも食べるか?と勧めたかった。

因みに灯のメニューは量が多い

獣人化の影響で代謝が高くエネルギーが必要になっている

特別灯が食べる速度が遅い訳では無かった。


灯にとっては不可思議な夕食の時間が終わり

皆ゆっくりと紅茶を楽しむ

灯の視界が回復してみたのは父方の祖父母エドワルドとシルフィールは金髪の獅子の獣人

母方の祖父カインも金髪の獅子、祖母メリアが白狐の獣人で狐の耳とふかふかの尻尾、それ等が白毛であった。

白髪(しらが)ではなく白毛、透き通る様な輝きが有るので白銀と表現した方が正確であろうか。

母リリスの母親とあって、それなりに歳をとっている筈なのだが、どう見ても四十代・・・、いや三十代で通じる容姿。

メリアに限らず祖父母達は皆若々しい、四十代には収まるであろう容姿だった。

そう言えば、リリスとサイリも17の息子と14の双子の子供を持っている割には若い・・・

エクスの年齢を考えると三十代に入っているのにどう見ても二十代の様子、獣人はみんな若い期間が長いのかな?


「どうしたの?」

「え?あ、いえ、」

「アリィちゃん尻尾、触る?」

「・・・は、、うん」

考え込んでいたのは違うのだがそれはそれ、再び狐尾を堪能する

今灯はカインとメリアに挟まれて座っていた

「白と黒の対比が美しいな」

傍から見て白銀に輝くメリアと艶々の黒髪の灯、下手をすると母娘にさえ見える

「そうですね、所でケイン君は・・・」

頷き、エドはカインの息子ケイン、リリスの兄にあたる現クオルツ家当主の事を口にした。

その瞬間穏やかな空気を纏っていたカインとメリアが固まる

「予定が合わなくて来れないみたいですよ」

すかさずサイリはフォローした、エドも内心

(すまん、迂闊だった・・・)

と謝る、灯から見て叔父にあたるリリスの兄ケインはお披露目にも出ていないし、こういった私的な場にも呼ばれていなかった。

血縁を考えればリリスが呼んでもいいようなものだったが

実はサイリ、リリス自らケインの招待は除外している。


灯の異界還り、公爵家娘の帰還、貴族承認などの発表時に挙って灯に婚約の話が舞い込んだのは記憶に新しいものだが、大量の申し込みの中にクオルツ家からのものもあった・・・

サイリとリリスは溜息をつきガッカリしていた

「もう、お兄様・・・」

「リリス、すまないけど」

「分かっています、私はルナリア家の者ですし、そうでなくても子供達の事が最優先ですから」

という事があり、先程公爵邸にカインとメリアが到着した時にも話をしている。

その際、カインとメリアもエド達と同様に領地で完全に隠居していて現当主、自分の息子ケインとは連絡をとる前にこちらに来たと言い。

恐らくはケインから協力の手紙(はなし)は行っていると思われるが完全に行き違いになっていて、お披露目の時にケインが招かれなかった事、その経緯を聞いて驚いていた。


カインとメリアも、エド、シルフィ、サイリ、リリスと考えを同じくしており

「子供の幸せ優先」が第一だ、その姿勢は貴族としては異端であるのも承知の上である。

灯は貴族としては右も左も分からない生まれたての赤子のような存在で、そんな子供を利用しようとする姿勢は貴族庶民関わらず、人としてどうなのだと思う。


灯の存在を公表した段階で来た手紙の中で婚約に関わる物は全て一蹴。


娘息子を話し相手にお友達にと言う手紙は現状保留、焦らずとも学園には行く事になる。


我先にと行動した者達はふるいに掛けられ、賢しい者達は祝いの言葉のみに留めて機会を窺っていたのだが

それもお披露目で婚約の発表をされた事で気を逸したのであった

徹底的に余計な物は排除する、サイリ、リリスの行動は一貫して子供の幸せの為に

そして、この事が灯の耳に届く事はない。

将来貴族の道を選ぶとなった時に初めて話す事になるかもしれないが。



「アリィちゃんは獣人の尻尾が好きなの?」

「そう言えば、私と会った時も触りたがったよね」

「あ、うん、好き、です・・・」

獣耳に尻尾なんてファンタジーの代名詞、モフりたいと思うのは当然だった。

元々動物は大好きで特に猫や犬は撫で回していた

野良猫を一匹撫でていると何故か次から次へと集まって来て猫に囲まれたりしていたのは、もしかしたら獣人(仮)の影響があったのかもしれない。

白狐尾をぎゅっと抱きしめる、そんな灯を愛おしそうにメリアは見ている

「そうそう、渡したい物があるのだけど受け取ってくれるかしら」

「受け取ってほしいもの?」

「ええ、これなのだけど」

控えていた侍女がメリアに渡し、それを灯に手渡した

「手編みレースの、ショール?」

「あっ!」

「エル?」

「気にしないで続けてて!マイラちょっと手伝って」

差し出されたショールを見てエルが何か思い付いたのかマイラを引き連れて部屋を出て行った


「他にも、子供用のドレス、ベール、靴、これって・・・」

無言で微笑むメリア、そこに慌しくエルとマイラが帰って来た

「アリィ、これ!」

「えっ?同じ手編みのショール、ドレスも」

「どうしても諦められなくてね、ずっとエルちゃんに贈る時にアリィちゃんのも取っておいたの」

「あ・・・」

ふと母リリスの方を見ると涙ぐんでいる


実はリリスも同じ様な事をしていて

オーダーでドレスや靴、下着、アクセサリー等をどんどん買い与えてきて灯は慌てて止めた時があった、すると

「これはアリィのものなのよ、エルの分と一緒」

リリスが言うには、これまでエルに使っていたお金の額そのままをアリエット・ルナリアの為に積み立てていたそうで何も問題ない、とのことだった。


リリスの母、祖母メリアも同じ事をしてアリエットの無事を祈り、帰って来る事を待っていた。

「子供ものばかりで使えないのだけど、受け取ってくれる?」

「うん、ありがとう、嬉しい・・・」

祖母の心遣いに感激していると、もう一人の祖母シルフィが手持ちの荷物から何やら取り出す

「うふふ、考える事は一緒ね」

「え?」

シルフィの手にはリボン、それも普段使っている様なロールのリボンではなく、蝶の形をした幼い子供が着ける大きなリボンである。

「あ、マイラ!」

「はい、こちらに」

先程エルと共に部屋を出て行ったマイラが似たリボンを取り出した、それぞれのプレゼントは全てエルとお揃いか対になるものばかりで、やはりと言うべきか、シルフィも同様に灯の為の贈り物を持っていた、帰って来るかも分からない、顔さえ見たことの無い孫を待っていた。


胸が熱くなる

灯からすれば自分は故郷を失っている、今ではこの公爵邸がサイリとリリス達が居る此処こそ家と思っているのだが

両親、祖父母からしたら灯こそ行方不明になってしまった存在だ。

地球で言う神隠しの如き現象、地球に関しては瞬兄の話から自分達の存在は無くなっている、それを考えればやはりこちらの世界が主体であると結論付けるのが自然な流れで、灯が地球の父と母に会えない事を寂しく思う様に

みんなも同じ寂しさ悲しさに暮れていたと気付く。


14年も待ち続けた、帰還の保証も無い娘を、孫を

それでも今、貴女を待っていた

おかえりなさいと優しく受け入れてくれた想いに涙が溢れ出た

泣いた顔を見られたくなくてソファから立ち上がり、エルの胸に抱き着いて顔を隠す

「う、・・・ぐぅ」

「わ、アリィ?」

灯はプルプルと肩を震わせ、無言でぎゅっと力を込めた

「どうしたの?」

「・・・みん、っな、・・・・・・、待っ、ひぐっ、、・・・嬉し、、」

「うん、・・・うん」

ひきつって上手く言葉が続かない

でもエルには通じる、エルはよしよしと幼な子をあやすように灯の背中を撫で付ける、繋がりの強さが頼もしくてやっぱり嬉しい

「私、ぐ、・・・ヒック、」

「うん、大丈夫分かってる」




「エル、アリィはどうしたの?」

皆、突然泣き出した灯を心配している

代表してリリスがエルに聞いた

「みんな優しくて、ずっと居場所を作ってくれてたのが嬉しくて我慢出来なくなっちゃったって、泣き顔見せたくないんだって」

顔をエルの胸に埋めたまま頷く

「そう・・・」

その話を聞いてホッとしたリリスは灯をエルと挟み込む様に抱きしめた

「アリィ思うまま泣きなさい、この場に居る人は誰もあなたを笑ったりしないわ、嬉しくて泣く事もあるものね」

「うう・・・」

リリスの言葉にコクコクと頷く、言葉は涙に邪魔されて完全に出せなかったが想いは通じていると信じられた。



一度シンとしてしまったが思い出話に花が咲く

三歳の時にエルが・・・

その時私は・・・

嬉しかった事、楽しかった事、頑張った事、みんなの事、地球の両親の事

何でも話した、目蓋は腫れて目も真っ赤になっていたと思うけど構わない

私の家は此処なのだと心から思えた。




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