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買い出しと出会い。

マリにおすすめの店を教えて貰っていた二人はそこへと向かっていた、グレゴリの肩は灯の指定席である。

「あ、ここかな?」

「こんな店、元は無かったな」

「うーん・・・、なんか色々引っかかるよね」

「まあ、今は判断出来ないし、支度を整えるぞ」

「うん!こんにちはー!」

カランカラーン!

店の扉を開けて中に入る二人、人気はないがマリが勧めたのだ大丈夫だろう。


「らっしゃい・・・」

ムスっとしたお爺さんが無愛想に迎える、その顔は不機嫌を隠そうともしない。

「お爺さんこんにちは、旅用の丈夫で可愛いポンチョください!」

「ん!」

顎をしゃくりあげ店の一角を示す翁

「ありがとう!」

店主らしき人物の態度も気にせず物色し始める灯。

「兄ちゃん、お前もか?」

「あ、ああ」

「おめえさんはアッチだ、でけえ図体だな・・・、いくつだ」

「230cmだが」

「じゃあコレとコレ、あとコレだな、他はサイズがねえ、この中から選ぶか違う店に行きな」

「ありがとう、見せてもらう」

「ふん」

態度とは裏腹に申し分無い品物、良い物が置いてある。

グレゴリに物を勧めると翁は灯の方へと近付いて行く、灯は悩んでいるのか色々手に取っては確認している。

「うーん・・・」

「どうした嬢ちゃん、気に入らねえか?」

「あ、いえ、物は良いんですけど、色が」

「色?」

「汚れる前提なら黒、ううん茶色かなって、でも・・・」

言いにくそうな様子の灯

「可愛くねえかい?」

「え、あ、そのごめんなさい・・・」

「なに構わん、嬢ちゃんおめえの一張羅見せてくれ」

「え?」

「今のは街着、おめえさん冒険者ならあるだろ?一張羅」

現在の灯は薄桃色のワンピースにミュール、街娘としては普通の出で立ちである

そして彼女の一張羅と言えば

「ドレスチェンジ」

ふわりと袖をたなびかせ、黒を基調とした和装に一瞬で着替える

「見た目変えてんな、どれ失礼すんぜ」

翁はじっと灯を見つめる、青い目がほんの数瞬金色に輝く

「ほお・・・、黒龍かい」

「知ってるのお爺さん」

装備を見抜いた翁に驚く、灯は装備の見た目を変えているだけでなく装備自体にも常に隠蔽の魔法を掛けて黒龍装備とバレないようにしている。

それは、まだ実装間も無い装備で黒龍討伐者自体少なく、更には通常15人(フルパーティー)で討伐してドロップするアイテムの希望者同士の奪い合いもある事から黒龍装備一式を揃えている者は極小数で、それを見せびらかすような行為は()()()事を嫌った事からの行動。


短期間で揃えた灯達は少人数で討伐をしている事も然ることながら、皆が違うジョブである事、また()()()討伐する度に手に入れた装備は出て来ない()()に見舞われた事で、最小周回数で皆一式揃える事になる。

それは勿論、灯のLUC1000極振りの結果であるのだが、彼女の装備が1番最後に揃ったのは御愛嬌というものである。


「ああ、だが一式揃ってるのは初めて見たぜ」

「うん・・・、あのっ」

「分かってる、普段からそれを着ないでしかも見た目も変えて隠蔽も掛けている、誰にも話しゃしねえよ」

「・・・ありがとう」

「気にすんな良いもん見せて貰ったぜ、嬢ちゃん気に入ったからこっち来い」

「え?」

翁が楽しそうに言うと裏に通される、そこにはハイクラスモンスターの素材をふんだんに使った見るからに超級以上の品の数々。

「わ、凄い!これレッドドラゴンの革を鞣してる!こっちは雪兎の毛皮?」

ドロップ品では無い、モンスターの素材を使用、加工して()()()()装備。

「まさかこれ作ったのお爺さん?」

「応よ、最近はワイバーン位しか素材が出なくて久しく作ってねえけどな」

「凄い・・・」

アークオンライン廃人級の灯が驚くのも無理はない、ゲーム上ではモンスター素材で装備を作る事は勿論可能であるが、ハイクラスモンスターの素材を使う程その難易度は跳ね上がり、現状黒龍素材は疎か、遥か格下のワイバーン素材でさえも上手く製作(クラフト)出来るものは僅かで、基本はボスドロップ、ダンジョンドロップの装備が多数を占めていた。

「好きな物持って行け」

「良いの!?」

「ああ、嬢ちゃんが「可愛い」と思う奴もあるだろ、保護、維持、防汚、サイズ補正の付与も掛けてあるから旅にもってこいだしな」

「お爺さん付与も出来るの?」

「いや儂が出来るのは装備を作るまでだな、付与は別だ」

「そっか・・・」

言いながら、片っ端から鑑定して確認していく、全てが一級品の装備、付与も完璧で興奮を隠しきれない。

「あ、これ可愛い・・・」

手に取るとそれは、ゆっくりと色が変化していく、薄青から緑、黄色、そして白・・・

「それは億色カメレオンの革で作った奴だな、軽くて丈夫、魔力を通せば好きな色に変えられるぜ」

リボンが着いていて、繊細な刺繍が施されているポンチョ

「お爺さん、これください!」

「おう、持ってけ!」

「・・・?」

「なんだ?」

「いくら?」

「金は要らねえよ、その代わり素材を定期的に卸して欲しい、黒龍殺れる程の冒険者なら何でもいけるだろ?」

「お金払わないのは気が引けるんだけど・・・」

「金には困ってねえ、素材とやり甲斐に困ってんだ」

「うん・・・」

「そんなに気にするなら今何か置いていけよ、暇で死にそうなんだ」

「あ、それなら素材いっぱいあるよ!」

魔法鞄から素材を取り出す灯、黒龍、水龍、火龍、土龍から始まり、オークキング、ゴブリンキング、ワイバーン亜種、変異種、レインボースライム、精霊銀鎧(リビングアーマー)、ありとあらゆる爪、牙、皮、目、血、鱗、核。

最大まで拡張された魔法鞄は底無しだ。


「待て待て待て待てっ!多過ぎて腐らせちまうわ!」

グレゴリはもう慣れたもので話に口は挟まない。

「あー、マジかよ嬢ちゃん」

「まだまだ有るけど・・・」

「身体はひとつしかねえ、定期的にそこそこ卸してくれれば良いんだが、嬢ちゃん何か欲しい物は無いのか?」

「欲しい物・・・」

うむむ、と考え込む灯

「まあ黒龍殺っちまうような人間は大抵持っていると思うが」

その通りで、最高峰装備が揃っている人間に欲しい物と言われても

「あ」

「ん?あんのか?作れるか分からねえが言ってみろ」

「杖、とアクセサリー・・・」

「杖?アクセサリーは兎も角、杖は一級品持っているだろ?」

「有るけど、重くて使えないんです・・・」

灯のステータスはVITと共に、STRも1である

「重くて、って、ちょっと出して見せろ、杖」

「待って下さい、よ、と」


灯が手を突っ込むと異空間、魔法鞄から出てくる杖

「こ、これは・・・」

30cm程の結晶化した蒼き龍眼が空中に浮き上がっているのが見えてくる。

龍眼の中には魔力が循環しており、太陽の光を通して淡く輝いている。

龍は捨てる箇所の無い宝の山と呼ばれていて、中でも心臓と眼球は龍の底無しとも言える膨大な魔力を長年に渡り圧縮結晶化された物で、国を覆う結界をそれひとつで100年は賄うとも言われ、個人の杖として使うにはほぼ無限とも言える魔力を保有している、伝説級素材。

その龍眼に続いて杖部分がその姿を現す、鈍色の輝きを放つそれは

「オリハルコンと精霊銀(ミスリル)の合金か・・・」

神話の時代に造られたと言われるオリハルコン、精霊の御業と言われるミスリル、そのどちらも今は失伝した技術で造られた素材で、それの合金など存在さえ不明とされている、伝説級素材。


と、ゲーム時代にはそういう設定であった代物。

現実になった今、この世界では神器と言って差し支えない物である。


「嬢ちゃん、これは」

「神龍の瞳、1番良い杖何ですけど、重くて振れなくて、コレが使えたら燃費もう少し良くなるんですけど、バラして作り替えるか軽く出来ませんか?」

「・・・」

あらゆる経験を積んできた翁をして尚、絶句する代物の登場。

しかも持ち主はそれを改造出来ないか、と言う

こんなもん儂にどうしろと、正直な気持ち無理だと思った翁。

「と、取り敢えずコイツは置いといてだな、アクセサリは?」

「マヌマヌ猫の御守り、を」

「なんだ、そんなんで良いのか、出来るぜ素材さえ、」

「はい!」

すかさず素材を差し出す灯

「だと思ったぜ、まあこんくらいなら3日あれば出来る、そんくらいはこの街に居るんだろ?」

「はい」

「なら三日後に来てくれ」

「お願いします、あ、適当に腐らない素材置いていきますね」

「ああ、そこら辺に置いといてくれ」

「はーい」

既に仕事に取り掛かり始めた翁の目には灯達は写っていない、グレゴリはカウンターにお金を置いて店をあとにした。




数時間後、仕事に一区切りついた翁は休憩を取る為に顔を上げて心の底から驚く

「うおおおおおっ!?」

素材台に龍の牙や爪が置かれている事に、そして「神龍の瞳」が置きっ放しになっている事に。


「マジかよ嬢ちゃん、コレ、儂に何とかしろって?」


十数年振りに頭を抱える翁であった・・・



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