父母祖父母会。
別室にてサイリとリリスは灯の事を説明した
エクスとアルが王国へ行き、それにエルも着いて行った
帰り道、森の中で絶体絶命になり駆け付けた灯達に救われ、目的地は魔法国ということで同行し、その過程で灯とエルが意気投合
エクスとアルがその様子を見て「まさか」と思っていた所、灯に獣人化の兆候が現れて来た為に急ぎ公爵邸へと帰って来て・・・
リリスの父母カインとメリア、サイリの父母エドワルドとシルフィールは事のあらましを聞き驚いていたが、この際過程などはどうでも良かった、いや良くはない、知りたい事は知りたいが大切な所はそこではない。
エドが口を開く
「エルとシルフィ、メリアさんとのやり取りを見た所、アリィは現実を見ているようだが、大丈夫なのか?」
この「大丈夫」には沢山の意図が込められた
当初、灯が来た頃にサイリとリリスが心配した事と同様の思いが祖父母達にもある
即ち、前の世界の思い出に引き摺られ今の世界の人生を生きているのかどうか
現実を認められず親許から失踪、拒絶、自殺さえも有り得る
貴族の家と知り身持ちを崩す者、権力、地位、名誉、金銭に目が眩み傲慢に振る舞うようになる
どれも歳を重ねた分だけ見覚えのある事だ
特に貴族の家は何かと誘惑が多い、異界還りの者となると他世界の知識を求めて利用される事も少なくない
何人か異界還りの者で貴族の家に入った者を見たが、あまり幸せとは言えない事が多かった
それらを引っ括めて「大丈夫か?」
エドとシルフィもサイリとリリス同様
「貴族の家の事など最終的にはどうでも良い、子供達が幸せになれるのならそれで構わない」
と思っているので、純粋に灯個人を心配した故のひと言。
「大丈夫、アリィは権力や地位に縛られないし自分を知っている、そもそも一流の冒険者だから既に莫大な資産と力を持っているしね」
灯は性格的に権力は振るえない、そもそも使用人に様付けされている現時点でも落ち着かない生粋の庶民だ
利用しようとする者が居たとしても、金や貴重品では釣れない
灯自身が二十億以上の現金を持っている上に、魔法鞄の中には現金以上に価値のある超レア素材の数々と伝説級装備
公爵の娘ということで下手に脅す事も出来ない、実力行使などは以ての外、破滅を招きかねない
ここまで交渉のしにくい相手も居ないだろう。
唯一、灯を動かす手段は「情」に訴える事だが
サイリとリリスの掌中にある珠に対して単独で接触も現段階では無理
今後、学園に通う事になればそれなりに言われる事も
リリスは今の内にしっかりと教え込むつもりである。
本人は「貴族なんだ、へえー」位の考えであるし
サイリ、リリス、エクス、エルを家族と認めている
使用人達との関係も良好とあって、今の所は特に問題は無い。
それらの説明を受けてエドは安心したのか、ひと息吐いた。
「そうか、幸せに暮らしているなら良いんだ」
「うふふ、エドったら貴族の家が嫌なら一緒に領地で、とか言っていたのよ」
「アリィは今幸せだから」
自分の届かない所に行かせはしない!とサイリは言い切る。
「あの、ひとつ良いですか?」
カインとメリアが質問した
「なんでしょう」
「エルちゃんが言った婚約者って・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・そうだ、サイリどういう事だ、何処の馬の骨だ、貴族か?潰すなら手伝うぞ」
「エド!」
「・・・いや、可愛い孫を貴族の馬鹿どもになんか渡せるか、どうせ公爵家との繋がりか容姿と付加価値しか見ていないのだ、唯一絶対の条件はエルとアリィを幸せに出来る奴だ」
父親ズは娘の婚約について同感のようで、エドが物騒な事を言い出した
シルフィには頭が上がらないから後ほど灸を据えられる事になるが・・・
「それに関しては大丈夫、瞬君という冒険者でアリィの幼馴染で想い人だから」
「貴族でなくても好きな人と一緒になれるのならいいわね、ううんアリィちゃんの経緯を考えると相手は貴族じゃない方がきっと良いわ、それでエルちゃんの婚約者は・・・?」
「・・・、瞬君です」
「?」
「?」
「?」
「?」
祖父母の頭上に「?」が出現した、部屋の空気が凍る。
シルフィが疑問そのままサイリに言った
「アリィの婚約者と同じ名前ね」
「はい、同じ人物ですからね・・・」
「?」
「?」
「?」
「?」
祖父母が皆「コイツ何言ってるんだ?」とばかりの視線をサイリに突き刺した。
貴族の家の姉妹二人を一人の所へ嫁に行かせるなど中々無い、疑問を持つのも無理はなかった
両祖父母から見たことの無い視線を送られてサイリは黙り込む
「・・・」
「お祖父様、お祖母様、エルもアリィも婚約者が同じ瞬です」
リリスはその様子を見て苦笑、エクスが補足する
「本気か?」
「もう陛下に貴族登録も婚約者の正式書類も通して貰ったのよ」
カインとメリアが顔を見合わせて
「そのシェン君?、もしかして・・・」
「途中で会ったかもしれないわねカイン」
「なんですって?」
「いやあ、先程のアリィちゃんの幼馴染達の特徴が、ねえ?メリア」
「ええ、領地から馬車でこちらへ向かう途中で車輪が深い轍に嵌ってしまって・・・」
「手が足りなくてね、立ち往生していたら丁度通り掛かった馬車が居たからお願いして手伝って貰ったんだ、御者が身の丈2mを超える大男に、馬車からは赤み掛かった黒髪と青み掛かった黒髪の青年、銀髪の女の子が出て来て」
「ゴリさん、どうしたの?」
「ん?馬車の車輪が嵌って動けないそうだ」
「大変だね、手伝おっか瞬」
「だな」
ぞろぞろと馬車から出る瞬、陸、鈴
グレゴリも降りて馬車の横に着く
「鈴は馬にヒール掛けてやってくれ、疲れてるっぽい」
「任せて」
無理やり轍から出ようとして足掻いた結果、馬は疲労困憊息が上がっていた
「陸と俺で押すので、グレゴリさん持ち上げられます?」
「任せろ」
「せーのっ!」
「という事が有りましてそれぞれが、シェン、リューク、スージィ、グレゴリと呼んでいたのですが・・・」
「シェン、リューク、スージィ、グレゴリだな、間違いない」
カインとメリアには日本名は何とも言い難いらしく、カタカナ発音と考えると恐らく瞬、陸、鈴、グレゴリの四人だろうと思えた。
「どういう子でしたか?」
「そうですね、お礼をしようとしたのですが、大した事はしていないからと言ってそのまま立ち去って行きましたよ、私達の事も恐らく貴族と気付いていたと思いますが、媚びる様子もなく普通の青年達でした」
「ふむ」
「邪な子達では有りませんから、アリィとも幼馴染のまま関係性は変わりませんでしたし人柄に関しては本当に普通の子ですよ」
「彼等は、アリィもそうですが貴族や地位の無い国から来たようで恐らく私達の事もアリィのお父さんお母さんとくらいしか思っていません」
「それは、良いのか?いやアリィにとっては見知った人が居るだけでも幸運な事だな、この際細かい事は何も言うまい」
異界還りの者が最も己を見失う原因は、世界を越えて独りになってしまう事だ
赤子の内に帰ってくる分には良い、物心付いた時には自分の世界はこちらになっている
しかし、物事の判断が付く年齢になってから「独りぼっち」でこちらに来ると、どうしても世界の違いに馴染めない者が居る
諦め、絶望、悲嘆
異世界に来たぜ!ひゃっほー!なんて言う能天気は極一部に過ぎないのだ。
「エルちゃんもアリィちゃんも好きな人に、という事として受け取って良いのですね?」
「ええ、不本意ではありますが二人が選んだので・・・」
サイリは未だに言う、恐らく結婚式を挙げるまで言い続ける
リリス、メリア、シルフィの女性陣は苦笑い
エド、カインの男性陣は気持ちは分からないでも無いが妻の手前何も言えない
エクスは曖昧に笑って誤魔化した。
その後、神龍の瞳、冒険者S+等々は些事だとして流された
皆、引退したとは言え貴族家の者だ
事の違いこそあれ、何かと目立つのは仕方ないと思っていた。