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家族の家族

ある日の事、全てお休みの日。

エルと一緒に庭園の東屋のベンチでウトウトと日向ぼっこしていた

そんな所にトコトコと神にゃんが歩いて来たのだが

「神にゃん、おいで」

「・・・」

つーん、とした様子で寄ってこない、あれ?と思っていると

「どしたの?カミィおいで」

「にゃあ」

エルがカミィと呼ぶとひと鳴きしてエルの膝に乗る神にゃん、これはまさか・・・

「神、にゃん?」

「・・・」

「カミィ?」

「にゃあ」

「・・・えー」

どうやら家族、いや屋敷内では神にゃんと呼ぶのは私だけで、皆カミィと呼び内に名前をカミィと認識したようで神にゃんと呼んでも微塵も反応しなくなった・・・、みたい。

日向ぼっこ気持ちいいし、まあいいやと眠気に負けてそのままエルに寄り添って眠ってしまった。


どれほど経ったのか肩を揺すられる、目の前にはリトラ、いつの間にかブランケットが掛けられていた

「アリィ様エル様も、お風邪を召しますよ、お部屋で眠っては?」

「う、ん?今何時?」

「14時の少し前ですね」

「うー、おやつ?」

エルは少し寝ぼけている、私は視界が霞んでいた

「んん・・・」

クシクシと目を軽く擦っても変化はない、寝起きで目がぼやけているのではなく久し振りに発作の症状だった。

「アリィ様、目が?」

「うー、うん、また久々だねえ」

「失礼します」

リトラが灯の眼を覗き込む、エルとリリスを除けばリトラが一番灯の傍に居る時間が長い、不調にも何回か立ち会っていたので焦ることなく症状を確認する。

これは毎度の事であるが、獣人化の副作用だと思って実は別の病気と言う可能性が一番危険である

免疫が落ちているかどうかも判断は出来ないので必ず医学の知識のある使用人が確認する様にリリスから指示されていた。

当然だが灯付きの侍女リトラも医学の知識はあるし、エル付きの侍女マイラも持っている

「舌を」

「あー」

手際良く診察して、一先ず何ともなかったのかリトラはホッとした表情になった。

「取り敢えずは他に異常は無いようですね、お部屋に行きましょうか」

「うん」

隣でポヤポヤと半眠り心地のエルと中庭から移動するのも名残惜しいがリトラに迷惑も掛けたくないし、お母さんも心配するからと素直に頷く灯。


「何してんだ?」

「エクス様」

「エクス?」

そこに丁度エクスが通り掛かった、勿論偶然通り掛かった訳ではなく

姿の見えない妹二人を探して邸内を歩いていた。


「アリィ様が御不調に・・・」

「ああ・・・、目か?ほら、よっと」

「わ!?エクス?」

声の方に顔を向けてはいたが灯の様子がおかしい事に気づいたのだろう、ブランケットが掛かったまま背中と膝裏に手を差し込み持ち上げる。

「ほらエル、部屋行くぞ」

「うー?アリィ?」

エルは名前を呼ばれ寝ぼけてポケーと立ち上がった、すかさずリトラが寄り添って手を握り誘導する。

カミィはトトンとエクスをよじ登り灯のお腹に乗った

「・・・ありがとエクス」

「おう・・・、か、かわ・・・」

返事したと思ったら次の言葉を告げずに固まるエクス、かかわ?

「・・・可愛い妹だからな、兄として世話するのは当たり前だろ」

照れてフイとそっぽを向きながら言った

「ん、ありがとう」

エクスの首に手を回してスリスリと頬を当てる獣人式のお礼をした。


部屋に戻ると灯をソファーの上に下ろすエクス

「くぁ・・・、アリィお茶にしてから寝よ、今寝ちゃうとおやつ食べ損ねるから」

「ふふ、そうだね」

「お兄ちゃんも一緒にお茶にしよ」

「お、良いのか?」

「いいよ、何か予定あるの?」

「無いけど」

「?」

チラっと灯を気にする様子のエクス、灯は視界が霞んでいるのでそれには気付かない

「じゃあ決まり、リトラお願いね」

「はい、かしこまりました」


エルが食い気を出したので付き合う

カミィは足下でサクサクと焼き菓子を食べていた、魔法生物の様な存在なので何でも食べる

結構視界が霞んでいてもお茶をする事もあるので何とかなる、それにエルが居るので、

「はいアリィ、熱いよ」

「ありがとうエル」

エルがマグカップを持たせてくれる、中身はいつもの紅茶だが灯の視界が悪いのに手元が怪しくなるティーカップは使わない。

「はい、あーん、美味しい?」

「ん」

クッキーを口に運んでくれて、サクサクとクッキーを楽しみコクコクと頷く。

エルは何かと世話を焼いてくれる

紅茶も一杯飲み切って新しく入れてもらう、すると

「紅茶にジャム入れる?」

「うん」

「匙半分だよね」

「ありがとう」


「お前達恋人みたいだな・・・」

「「え?そう?」」

「・・・、まだ会ってふた月とちょっとくらいだろ」

「「まあアリィ(エル)だから」」

見事にシンクロしている、ふと見合わせるのも同じ動きだった。

「わざとやってる、訳じゃない、よな?」

「「違うよ」」


「「あれ?」」


「「エル(アリィ)?」」

その様子を見てリトラとマイラが堪え切れずにクスクスと笑いだした。

「申し訳、ございませんっ、ふ、ふふ・・・」

「くっくっく、こんなの見せられたら笑うしかないよな」

「「・・・」」

おかしい、何故か今日はやたらと息が合う

「エル」「アリィ」

「「先に良いよ」」


「「・・・じゃあ私が先に、」」


「「・・・」」


「ははははっ!!笑わせるなよエルもアリィもっ!」

どうにかしてお互いに話をズラそうとしているのにシンクロが全くもってズレない、二人はもう黙るしかなかった

エクスはお腹を抱えて大爆笑、マイラとリトラも横を向いて肩を震わせていた。


すー、ふー、深呼吸して心の中で想う

(エル、先に良いよ)

(うん)

「アリィはね私の半身なの、だから過ごした時間は関係無い」

驚いた、自分が言おうとした事を一言一句違わずエルが言ったのだ。

「ふむ、まあ双子の繋がりというものだろうな、何かと結び付きが強いからそういう事もあるか」

「ん」

コクリと頷く、理屈ではない

地球では双子と言えどそこまで寄り添う事も無いだろう

しかし此処は魔法世界、地球では有り得ない強いシンパシーがあっても不思議では無かった

出会った時から自然と惹かれあい、今では離れる事など考えられない大事な存在。

エルに身体を預けると、同じくエルも私に身を預けて来た

そう、この気持ちは

「「愛してる」」

顔を上げる、視界は霞んでいるままだがきっとエルも見つめ返している、おでこをコツンと合わせてクスクスと笑い合った。

家族を想う気持ちでもなく、瞬兄を想うような気持ちでもない、だけど確かな繋がりを感じられた


そんなあたたかい空気の中、外から

バガラバガラっ!ヒヒィーーンッ!

と馬の嘶きが聴こえてきた、どうやら馬車が凄い勢いで乗り付けて来たようだ。

「ん?客か?」

「誰かな」

「本日はお客様の御訪問の予定は有りませんが・・・」

「予定が無いのにここまで乗りつけられる馬車なんて限られているぞ」

門扉の目の前に屋敷は建っていない、門から数百m程走らないと公爵邸には辿り着かないのでアポイントの無い馬車が突然ここまで来るのは稀だった。

衛兵が常に数名は待機している、そこを通って来たとなれば身内か王家なものだが


「ちょっと見て来る、エル、アリィを頼むぞ」

「うん」

バァンッ!!扉の開く音が聴こえた

「げうっ!」

「お兄ちゃん!?」

「エクス様っ!」

「え、なに?」

何となく音と様子で察するが、多分エクスが思い切り開けられた扉で打たれた?

「アリエットは此処ね!?」

「えっ!?」

「おばあちゃん?」

「おばあちゃん!?」

「シルフィ様・・・」

完全にオウム返しにしかならない、視界が悪いから仕方ないけど・・・

のんきに考えている灯、祖母シルフィはエルの隣に座る黒髪の獅子獣人の灯を見付けると走り寄って抱きしめた

「んぎゅう」

「おおおぉ・・・、良かったアリエットっ」

誰かも分からない祖母?らしき人物に抱きしめられて困惑はしたが、不思議とイヤな気分にはならない

父と母の時と同様に暖かい気持ち、優しい匂いに包まれて幸せな気持ちが湧き上がった。

「おばあちゃん、おばあちゃん、落ち着いて?今アリィは眼が・・・」

「エル久し振りだねえ、アリエットは眼が見えないのかい、私に任せなさい必ず治してあげるからね」

「や、そうじゃなくて」

「いつつ、お祖母様久し振り、だけど痛え・・・」

エクスが鼻を押さえながらも立ち上がった

シルフィは灯を抱きしめたまま喉を鳴らす、ゴロゴロと灯にも伝わって来るそれは本当に嬉しい気持ちの現れ


「あの・・・」

「なんだいアリエット」

「えっと、おばあちゃん?」

「ええ」

「こんにちは、初めまして」

「私とした事がごめんなさい、初めまして私はシルフィール・ルナリア、サイリの母親よ」

「お父さんのお母さん」

「そうなの、それでどうしたの?」

「眼は大丈夫です、獣人化がまだ落ち着いてなくて、偶に眠くなったり、視界がボヤけたりするだけで」

「あら、そうなの?良かったわ・・・」

ほっとしたのか、シルフィは再び灯を抱きしめ今度は獣耳を毛繕いし始めた。

「ん・・・」

「やっぱりエルにそっくり、それに本当に美しい髪」

「へへ・・・」

髪の事は本当に嬉しい、祖母の毛繕いを黙って受ける

「おやおや仲良しさんだね、私も仲間に入れておくれよ」

サイリに似た声、歳を重ねて落ち着いた声が聴こえてきた

その物言いはまさに父と同じ口調で

「お爺ちゃん!」

「エド、ふふふ、この子がアリエットですよ」

「ああ解るとも、エルにとても似ているし、何より獣人の本能がそう言っているよ、私の孫娘だとね」

「お父さんのお父さん?」

「ええ、アリエット、貴女のお爺ちゃんよ」

「初めましてアリエット、エドワルド・ルナリア、サイリの父です」

「は、初めまして、お爺、ちゃん?」

お爺ちゃんと呼んでも良いのかと、疑問系で聞き返し首を傾げた灯

それを見たエドワルドはカッと目を見開き、グッと拳を握り締めガッツポーズになった

「最高だ、愛しいエリューシアに、愛しいアリエット・・・」

「愛しいっ!?」

「相変わらずだね、お爺ちゃん」

「お祖父様・・・」

そう、エドワルドは孫娘のエリューシアを溺愛している、サイリと同様に猫可愛がりしていたのだ

子は宝を地で行くサイリ、その性根を持ったのはシルフィールとエドワルド両親の影響が大きい

当然エリューシアと双子の姉妹アリエット、灯もその対象となるのは自明の理。


丁度そんな所にサイリとリリスが現れる

「やっぱり此処か・・・、父さん母さん」

「シルフィ様にエド様も、もしかして手紙届いてスグに出立なされたのですか?」

「可愛い孫が異界から帰って来たとなれば駆け付けるのは当たり前ですサイリ、リリスも良かったわね」

「孫娘、宝・・・」

サイリとリリスも駆け付けたが更に来客は続く、セバスが来て言った

「サイリ様、お客様です」

「このタイミングだと大体察しがつくけど誰だい」

「リリス様の御両親、カイン様とメリア様で御座います」

「あら、お父様とお母様も来たのね」

「千客万来だな、リリス」

「ええ、行くわ」

「父さん母さんは」

「此処で待ってるわ」

「孫娘とお茶してる」

見れば、シルフィとエドは既にソファーに陣取っていて

エドは灯を膝の上に乗せていた

そんなエドの右隣にはエルが座り灯の世話を焼き

反対側にはシルフィが灯の頭を撫でている

完璧な布陣が敷かれていた。

「・・・程々に」

自分の事は棚上げにしてサイリは言う、自分こそもっと娘に構いたいのだった・・・

サイリが微妙な表情をしていると横からエクスが灯の状態を説明した。

「父上、今アリィは眼が、獣人化の・・・」

「あー・・・、そうだな、カインさんとメリアさんも多分アリィに会いに来たのだろうし、事情を話して少しだけ顔合わせしよう、今日はアリィを休ませて明日ゆっくりと」

「そうね、お父様とお母様も解ってくれると思う、アリィもう少し頑張れる?」

「うん、殆ど見えないけど、大丈夫」

灯の視界の不調は、光を感じる程度まで視力が落ち込む

人影や輪郭をギリギリ捉えられる位の世界になるのだが

流石に何回も同じ症状となれば、落ち着いたものだ。

最初の頃は瞬達も居なくて目も見えないとなれば不安な部分が大きかったが、サイリ、リリス、エクス、エル、そして使用人達の努力で灯は屋敷を我が家としてリラックス出来るようになっていた。




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