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格闘術③

「やあっ!」

ズン、鈍く重い音を立てて灯のぶちかましを受け止めるサイリ

ズルズルと押し込まれ円から出た

「全力は使い方分かってきたようだね」

「うん」

元々全力を出す出さないの話は灯の精神的な面が大きい、サイリの頑健さがズバ抜けているからこそ安心して思い切り力を振るえる。

「次は半分、5の力」

「うんっ!」

ドスン・・・

半分位の力で押し込む

「うーん、それは4位かな、もう少し強く」

「これくらい?」

探り探りにググっと力を込める

「そうそう半分はそれくらい、覚えておいて、じゃあ全力で殴ってみて」

「う、うん・・・」

グーを作るけど、やっぱり殴るのは抵抗がある

いくらお父さんが頑丈と言っても・・・

そんな灯の逡巡を見抜いたのかサイリが言った

「アリィ、そのグローブ柔らかいだろう?」

「え?うん、ふにゃふにゃしたもの入ってる?」

今身につけているグローブは指抜きで、丁度拳の当たる部分に低反発素材のような物が仕込まれていた

「そこの中にはショックスライムが入れてあるんだ、慣れていないのに思い切り殴って拳を傷めたくないからね」

ショックスライムとは中級スライムの一種で文字通り衝撃にトコトン強いスライムである

まず物理攻撃では倒せない程の物理衝撃耐性を持っているスライム、魔法でならどんなものでも一撃で倒せる程HPは低い。

「アリィの手を傷めない事と同等に相手に与える衝撃も相当緩和する様になっているから、少なくとも私やセバスにはダメージは通らない、安心して打ち込んでご覧?」

「うん!ありがとう」

気を取り直し、ぎゅっと拳をつくりサイリに打ち込んだ

踏み込み、勢いをそのまま脚から腰、背筋へと流れを連動させて父の腹筋へと拳を縦にして打ち込む、正拳突きとは90°拳の向きが違うのには特に理由は無い、ただこちらの方が動かし易いと思ったからである。


「ハッ!」

ドパァン、びちゃびちゃ・・・

「うにゃっ!?」

「お?」

インパクトの瞬間スライムが力を逃がし切れず、グローブのレザー諸共弾けた、相当量を圧縮して入れられていたのか灯に大量に降り掛かるスライム。

「うべ、ぺっぺっ!」

ねっとりとした粘液を被り、突然弾けたので口にも入った、全身ヌメヌメである。

「うええ、なんで・・・」

顔に付いた粘液を拭って一歩踏み出したが、それがいけなかった

スライム粘液に足を取られ、滑り、踏ん張ろうとしたがサンダルが脱げた

ズルッ!!べチャリ・・・

「ぎゃんっ!」

「アリィ、大丈夫かい」

「うう、うん、大丈夫」

手を差し伸べてくるサイリだが何故かサイリには粘液が付いていない、灯は土と粘液でドロドロなのに。

「あ、サンダル・・・」

立ち上がって脱げたサンダルを履こうと見たら靴底がべロリと剥がれていた

「グローブもサンダルもどうやらアリィの力に耐えられなかったみたいだね」

「ええっ!?」

何となくそんな気はしていたけど、やっぱり凄い力なのかと判明、本当に力加減は気を付けないと大惨事になってしまう。

「気にする事はない自分の力を知る為の訓練だ、私の時は衝撃干渉なんて考えなかったし、サンダルは女性用規格だからそこまで本格的な造りをしていないからね、黒獅子の力を加味して作り直ししよう」

「う、うん・・・」

「今日は終わりにしよう、濡れてしまったし風邪を引いてしまうよ」

「ん・・・、わ!?」

サイリがいつものように灯を抱き上げた

「あ、お父さん汚れちゃうから、私ドロドロっ」

「ははは、裸足のアリィを歩かせられないだろう、汚れなんて洗えば落ちるんだから気にしない気にしない!」

「あうう、ありがとう・・・」

サイリは変わらない笑顔でネチョリと糸を引いている灯を気にも止めず歩き出した


リリスがお茶をしている結界まで戻り、灯は降ろされた

「アリィ!どうしたの?怪我?」

「あ、はは、グローブとサンダル壊れちゃった・・・」

ドロドロの格好でサイリに抱き抱えられて戻って来たので怪我をしたのかとリリスの顔色が変わる。

「大丈夫だよリリス、スライムが飛び散って汚れたのとサンダルの底が剥がれたから運んで来たんだ」

「そう、良かった・・・」

説明を聞いて安心したリリスは侍女が持っていたタオルを手に取り、灯を拭こうと近付く

「わー、お母さんドレス汚れるから!自分で拭くから良いよ、んぐっ!?」

ドレスはスカートがふんわりと膨らんでいる、近寄ればドロドロの灯に当たってしまうので止めようとしたがサイリと同じくリリスも気にとめた様子も無く近付きタオルで灯の顔を拭った。

「この子は本当につまらない事を気にして・・・、服は洗えば良いの、いいからじっとしてなさい」

「ん、うん・・・」

土と粘液で汚れるのも構わず自分を拭ってくれるリリス

「お母さん・・・」

「ん?なあに?」

「ありがとう、大好き・・・」

「っ!もう!本当にこの子はっ!」

突然好意を伝えて来た灯に息を呑むリリス

だがすぐに嬉しそうな顔で粘液塗れの娘を抱きしめた。

「えへへ・・・」

「もう!もう!」

「ははは、ほらエルも戻って来たよ」


「ただいまー、アリィどうしたの?」

ドロドロの灯を見て言うエルも同じく土埃と汗でドロドロになっている

「おかえり、エルこそ・・・」

「二人して、ほらエルこっちに来なさい」

リリスは違うタオルで今度はエルを拭い始めた

「んっ、お母さん汚れ、てるね・・・?」

既に粘液ドロドロの灯を抱き締めたのでリリスのドレスもドロドロになっている

「ほら、エルも顔真っ黒よ」

仕方ないわねと言いながらも優しい声色でエルの顔も拭う


「リリス様、湯浴みの準備は終わっているのでお屋敷に、アリエット様もエリューシア様も風邪を引いてしまいます」

「ええ、行くわよ二人共」

「「はーい」」

侍女頭の言葉にひょいと灯を持ち上げてリリスは屋敷へと向かった、エルもそれに続く。



サイリとセバスが話始める

「どうだセバス」

「エリューシア様は女性の獅子獣人の平均を軽く超えておられますね」

「ふむ、アリィの力は黒獅子だからおかしくはないけど、エルもか」

「推測ではありますが、アリエット様と()()という事でエリューシア様も黒獅子と同様のお力を持っているのでは・・・」

「なるほど「黒」に限らず、か」

「ええ、何事も例外は御座いますから」

獅子の獣人の例外である黒獅子、絶対数が少ない為に記録は残っていないが黒獅子の力を持つ黒髪でない獅子が居ても不思議ではない、か。

「早急に装備は作り直させないといけないな」

「ですが男性獅子が使う戦装束の素材は今市場には無いようです」

「アリィはそろそろ魔法もいけないかな?」

灯の魔法鞄には膨大な量のS級素材が眠っている、その素材を使って黒獅子の力に耐えられる戦装束を作ろうということだ。

実際、黒獅子のサイリ、同等の力を持つセバスの戦装束は希少な素材を使用して作られている一線級の装備だった

灯とエルの戦装束は一先ず格闘術の手解きの為にと、一般的な力の女性獅子獣人と同様の素材で製作された物だったので今回力に耐えられず壊れてしまったのだった。


「そう言えばアリエット様は歴戦の勇士で御座いましたね」

身体の安定まで魔法禁止にしていたが今ならば問題は無いように思う。

「あんなに可愛いのに強いなんて、我が娘達は人気者になってしまうな」

容姿、家柄、強さ、一般的な理由と貴族的な理由、そして獣人的な理由全てにおいて羨望の的だ・・・

「ほほ、それも獅子の貴族の定めです、それにいいひとは既に居るので何も問題はないでしょう」

「くっ、瞬君か、それはそれでっ!」

まだ嫁入りは早いとサイリは往生際悪く嫌そうな顔をした。






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