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格闘術②

「さて準備運動はこれくらいにしてアリィは私と、エルはセバスとやろうか」

「はーい」

「アリィ、また後で」

「うん」


「アリィ、まだ手加減しているね?」

「う、はい・・・」

灯は元々殴る事には向いていない、相手を慮って手加減は当然の行動だった。

「良いかい、()には情けは不要だ、アリィはきっとこう思っている「自分だけが痛い思いをする分にはいい」とね、でもねアリィが傷付いたら私達は悲しむよ、それにアリィのその優しさが味方を危機に晒す可能性だってあるんだ、分かるね?」

「うん・・・」

「責めてるんじゃない、でも時には実力行使も必要な事だと理解して欲しい」

そっと頭を撫でて言い聞かせる

「うん」


「あと、手加減以外に力を抑えているね?

一度自分の全力を知ろう、私の頑丈さはさっきので分かっただろ?」

「分かった・・・」

灯は手加減をふたつしている

ひとつは相手を傷付けない手加減

ふたつめは獅子獣人の身体能力を完全に持て余していて、自分がコントロール出来る範囲に抑えている手加減


サイリとセバスでそれぞれ別れて教える事にした理由がそれだ。

エルは生まれながらにして獅子の獣人、自分の力のコントロールが出来ていて戦闘経験は無い

セバスによる実戦的な指導が良いと判断した。


灯は獣人化したばかり、自分の力のコントロールが出来ないが戦闘経験は十分過ぎるほどある

同じ黒獅子のサイリが力の制御を教えて、身に付ける方が良いと判断。


「来なさい」

「はい」

お父さんを信じて全力で。


ドガンッ!!ガラガラガラ・・・

灯は全力で踏み込んだ、その瞬間訓練場の外壁が大きくへこんだ


サイリは娘の突進を回避出来た

十分対応可能な速度だったが、アリィにとっては完全に制御外の力のようでぶつかる寸前に目をつぶっていた

このまま躱すのは容易い、が後ろにある外壁に娘を突っ込ませるのは流石に可哀想だ・・・

多分、怪我もしないと思う、戦装束には強力な防護付与が施されている上に獣人自体が頑丈だ


しかし!娘の抱擁を避ける父親が居るだろうか、否!断じて否!

と謎の父性愛を発揮。


そうしてサイリは灯を受け止め、勢いを出来るだけ殺して外壁に激突したのだった。

外壁が少し砕けた、上から石材が落ちてくるのもなんのその

「あっ、ご、ごめんなさいお父さん怪我は!?」

「娘のハグを受け止められない父親は居ないよ、アリィ」

心配そうな顔をする娘をそのままぎゅうぎゅうと抱きしめて安心させる、なんともないのだ気にする必要はない。

そんなサイリを見て灯はホッとした

「良かった・・・、でも壁が」

「老朽化していたから建て直しも考えていたし、それにほら」

サイリが指を差した方向を見ると、


「やあああっ!」

「エリューシア様、大振りが過ぎますよ」

ドガーンッ!ガラガラガラ・・・

エルが飛び蹴りをしてはセバスが難なく躱し、逸れた攻撃が外壁を破壊している。

「にゃーっ!」

「もっとコンパクトに、巨人や竜を相手にする訳では無いのですよ」

ゴゴゴゴ、バキバキバキバキ・・・

エルが振りかぶって力の限り右ストレート(テレフォンパンチ)を放っては、やはりセバスは回避する

その度に外壁が瓦礫の山と化していた。


「・・・や、アレはどうかと思うんだけど」

「解体する手間が省けるね!アリィも気にせず破壊するといい」

「ええ・・・」

「まあ冗談はさておき私も気が利かなかったね、アリィ相撲をとろう」

「相撲?」

「距離を置いて全力で駆けては似た事になりかねないからね、パワーと瞬発力を見るなら組み合っても十分さ」

「ん」

外壁から離れて、サイリが適当な大きさの円を描いた

「さあ、押し出してみよう!」

「よし!」

円の中央で灯がサイリに抱きついてグッと力を込め、押し始める

「んんんんーっ!」

顔を真っ赤にして自分に抱きついている灯をサイリはデレデレな顔で見ている

「ほら、もっと!ジワジワ力を出すんじゃなくて瞬間的に力を入れるんだよ、さっきの壁に突進したみたいに一気に!」

「はあっ!」

ドンと地面を踏み締める

ピシ

灯の踏み込みに耐え切れず、石畳に亀裂が走った

それでもサイリはビクともしない、体重差は恐らく倍程度の筈。

獣人の膂力を持ってすれば100kg前後なら問題にはならない筈、なのにっ!

「ほらほら、もっともっと!手加減は無用だよ!」

抱きついている腕に更に力を入れる、今の灯は並の人族なら鯖折りで骨を砕く程の力を発揮している、それでも尚微動だにしないサイリ。

「はあっ!はあっ!はっ、はっ、」

一度力を抜き、息を止めていた身体に空気を取り込む

「集中して、遠慮は要らない」

「はー、はー、・・・うん」

ふうーと呼吸を整え、正真正銘全力でサイリを押した

ゴンッと石畳が割れる

そうしてなんとかサイリが動いた

ズズ・・・

動いた!一気に押し込む!

「ああああっ!」

ザザザ・・・、やっとの思いでサイリ円の外へと押し切った。

「はぁっはぁっ、ぜえーぜえー・・・」

「うん、いいねアリィ、良くやった」

「う、ん、はあはあ・・・」

「今の力を全力の10とした時に5と1の力は意識的に出せる様にしよう、全身の力をコントロール出来るなら、後は殴るも蹴るも似た感覚だからね」

「わか、、った、はあ・・・、おと、うさん、なんでこんな、に、重いの・・・」

「それは気を使っていたからだよ、これもおいおい教えるから先ずは力の加減を身に付けようね」

「うん、はぁ・・・」


セバスはエルにコンパクトな立ち回りと身のこなしを

サイリは灯に力のコントロールを

アルとエクスは模擬戦を

各々の課題を指導されている

「みんな元気ね」

そんな家族を紅茶を楽しみながら見守るリリス

訓練場の一角に結界を張り、リリス、侍女頭でリリス付きの灰色猫獣人ルウ、エル付きの侍女茶トラ猫獣人マイラ、灯付きの侍女キジトラ猫獣人リトラが居る。


「健やかで良い事です」

にこにこと答えるのはルウ、マイラとリトラはハラハラしている

訓練と言っても二人の担当は公爵令嬢、珠のお肌に何か有ってはと気が気では無かった

獅子獣人の身体能力が高い事は知っているが、物凄い勢いでサイリごと外壁にぶつかって行くアリエット、無邪気に外壁を破壊する攻撃を放ってはガラガラと崩れる所に立つエリューシア、それはもう堪らない心境で居る

訓練が始まってあまりの激しさに即座にヒールポーションを準備させたのも無理はなかった。

着替えと湯浴みの準備を終わらせ、結界内で控えている


観ればサイリと灯はド派手な手合わせでは無く、話しながら時折組み合う程度で安心するリトラ

対してセバスとエルは、

「うりゃあ!」

「・・・」サッ

「ぎゃーーー!」

ドォン!ザリザリザリ・・・

大振りを繰り返すエル、いなすセバス、勢い余って転び周囲の物を破壊する、というなんとも令嬢の手解きらしくない展開が繰り広げられていた。

「エリューシア様細かく繋いで下さい、貴女のお力を考えれば軽く急所を撃ち抜けばそれで決着します」

「良いから当たってよセバス!当たれば終わるなら一撃でドーンとした方が気持ちいいじゃない!」

「嫌でございます、どうしても言うのであれば先ずは手を出さずに私の動きを観察して・・・」

「はああーっ!」

バキバキッ!話の途中で飛び掛ったエル、完全に頭に血が上っている。




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