格闘術
戦装束が出来上がった。
やはりパンツの尻尾の部分は逆三角になっていて、ギリギリお尻の割れ目が見え、見え・・・、
「・・・」
自分では見えないけど尻尾の下に手を入れると割れ目の感触が・・・
「どうしたのアリィ?」
「や、お尻見えてない?」
「尻尾垂れてれば見えないから大丈夫」
「尻尾上がってたら?」
「見える」
「見えるんだ、やっぱり」
「戦闘の服を着ている状況で淑女のお尻を眺める奴が居たら蹴っ飛ばして良いのよ、気にし過ぎると逆に目を引くから堂々としていなさいアリィ」
「そうだ、そもそもどんな服を着ていようが不躾な視線を感じたら蹴っ飛ばして構わない、私が許す」
「そうですね、少なくともそんな視線を送る者は紳士では有りませんから問題有りません」
「やれ、アリィ」
「アリエット様、気にする必要は有りません、そしてその時の指南も勿論致します」
リリス、サイリ、アルさん、エクス、セバスさん、みんながみんな口を揃えて武闘派発言、獣人ってみんなそうなの?
「アリィは勿体ないのよ、身長は小さいけどスタイルは良いのに体型は隠すし、地味な色を好むし」
「でも、脚を晒すのは端ないんじゃ」
「それはドレスの時よ、ロングスカートを穿いているのに脚を晒したとしたら、その時は大きくめくれ上がった時でしょう?」
「うー・・・、じゃあこのタンクトップとショートジャケットは?」
スポーツブラを兼ねているタンクトップ、その上にレザーのショートジャケット、ジャケット自体の革も薄めでサイズは小さ目にフィットしていて身体のラインが出る。
胸を強調するようなデザインと、何よりもへそ出し・・・
「動きやすさ重視よ、身体のしなやかさを生かすのと格闘術の為に可動範囲を確保するの」
確かに戦装束作る時に股割りを無理矢理やられたけど、身体は本当に柔らかい
しかもどんな体勢になっても体幹が恐ろしく強いのか、全くバランスを崩さないし平衡感覚も保たれている。
「へそ出しは?肌出してたら怪我しない?」
「獣人の格闘術はシンプルにやられる前にやれだからね、敵の攻撃を受ける前に先手必勝不意打ちで終わらせるんだよ、それに全て回避するのが前提だから」
「つまり、一撃必殺で戦闘にもならない暗殺スタイルになるんだ・・・」
「そうだね」
でも戦闘思想は合理的なのに、やっぱりへそ出しはないと思うなあ・・・
「さあ、お喋りはここまで!始めよう」
「お願いします」
「さ、来い!」
「・・・?」
「・・・?」
「サイリ様、せめて最初位は御説明を・・・」
「あ、ああ!エル、アリィ、獣人の格闘術に厳密には型は無い、そもそも私と比較しても体格も体力も全く違うのだから同じ型に嵌めても力を発揮出来ないだろう?」
「うん」
「そういう訳で、組手をして自分の型を見つける事が格闘術になるんだよ」
「実戦で実践して覚えろ、と」
「ああ、という事で、さ、来い!私は特別頑丈だから全力で来なさい、手加減は後から覚えよう、先ずは全力で動いて何が出来るのか色々と試せば良い、どんな手を使っても良いから今日は私に一撃入れたら終わりにしようか」
「エル」
「うん」
拳を握り、二人でサイリに突撃した
「へ?」
「にゃっ!」
公爵邸の訓練場は広い、半径50m程の円形に石造りの外壁が築かれている。
その中央付近で飛び掛った灯とエルは空を舞っていた
と言っても、二人の意思で飛び上がった訳では無い、サイリに綺麗に投げられたのだ
勿論地面に叩き付けるような投げ技ではなく、空へと10m以上の高さを舞っていた
「高っ、高い!」
灯は青ざめた、この高さ地面にそのまま落ちたら無事では済まない
優しい筈の父の容赦無さに驚き焦るも数瞬
身体が勝手に動き空中で体勢を整える、地面を下に確認出来たと思ったら、
スタ・・・
普通に着地、エルも同じ様に無傷で地面に立っていた
「え」
何これ人外?いや獣人か・・・
エルは特に気にした様子もなく父に突っ込んでいるし、これが獣人の普通なんだ。
「アリィ!手伝って、当たんない!」
「あ、うん!」
エル一人でサイリと対峙しても全く歯が立たない
灯は回り込んでエルの反対側から殴り掛かる
「ほい」
サイリは背中に目が付いているのか、こちらを見ることも無くポンポン投げ飛ばす。
最初の時点で多少の高さは着地出来ると分かってはいるのだが、それでも10m20mと放られてお腹の下辺りがヒュンとする
「むうう!遊ばれてる!」
エルが次第にムキになって行った、私は少し距離を取っては観察しようとしたが
「エルは突っ込み過ぎ、アリィは距離を取り過ぎ」
と言われては瞬間移動の如く距離を潰され、ポイポイ宙を舞う。
「お父さん速すぎ!」
「はっはっはっ!ほらほら!」
「ぎゃーーっ!!」
サイリによる娘のお手玉状態だ。
「うわ、父上容赦無いな・・・」
「そうですか?エクス様の時なんて問答無用でボコボコだったじゃないですか」
「・・・覚えてない」
エクスの身体が言葉に反してカタカタと震えていた
「あまり張り切り過ぎるとエルにもアリィにも嫌われるわよ、って忠告したのに」
「お二人と遊べて楽しくなって忘れていますね」
傍から見ると中々に酷い絵面だった、最強の父が娘二人をポイポイ投げ飛ばして笑っているのだから。
「それにどんな手を使ってもって言ったって、父上に一撃なんか初日に入る訳ないだろ・・・」
「まあ、何かお考えがあるのでしょう」
「ないわね、じゃれあいが楽しくなってるだけよ」
「・・・」
「ほっほっほ」
これは埓が開かない、こっちは少しずつ息が上がってきているのに父は大笑いしながらピンピンしている
元気な状態でさえ遊ばれているのに、ヘトヘトになったらそれこそお話にならない
「アリィ!」
「ん」
互いに父を挟んでアイコンタクト、それだけで意図は全部分かる
(アリィ、アレやってみてよ)だな。
「やっ!」
サイリに向かって思い切り突っ込む、当然軽々といなされてお空へと飛び上がる
「あ、うっ・・・」
投げ飛ばした娘の様子がおかしい事に気付くサイリ
見上げると手と足をバタバタと動かし、空中姿勢が崩れたまま焦っている、まさか・・・
「アリィ?」
「助けて・・・」
サイリはハッとして地面を蹴る、発作かと慌てて空中で灯を掴まえて着地した、しかし
「ごめんね?」
「あ」
舌をペロッと出して謝る灯の言葉にしまったと思うも手遅れ、謀られた!とエルに意識を戻そうとした瞬間
ズドンッ!!
「隙ありーっ!」
完全に遊ばれていた事で少しイライラしていたエルは手加減ゼロの踵落としを脳天へと叩き込んだ。
サイリの足下の石畳がボゴンと陥没する、そんな強烈な一撃を繰り出したエルに灯は慌てた、いくら何でもやり過ぎである。
「ちょっ!?エル手加減!」
「あ、つい、えへへー」
「お、お父さん、大丈夫?」
恐る恐る父の顔を伺う二人だが
「はっはっはっ!いやあこんなすぐに一撃入れられるとは思ってなかったよ!」
笑ってる!?
「・・・効いてないね」
「うん・・・」
この人頑丈過ぎない?
体力に男女差があると言っても、エルの蹴りで石畳へこんだんですけど・・・、とサイリの堅さに呆れるエルと灯だった。