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城内④

「早めにお披露目もしないとね」

「う、うん・・・」

やっぱりやるんだお披露目、と気は重い灯

父と母からは自身の存在を知らしめるお披露目の必要性は説かれているので従うしかない

自分が主役で貴族を招いてパーティーを開く

庶民として生きてきた灯には何とも言い難い気持ちがある


一度、主要な貴族に顔を見せる事で後は口々に話は広まる

アリエット・ルナリアと存在が知らしめる事が出来れば下手な態度を取る貴族も居なくなるので、必ず通らなければならない道だ。


「アレク、帰るよ」

バルコニーを見上げて声を掛けるサイリ、声を張り上げなくとも会話が可能なのは獣人の耳が良いからこそ出来る芸当だ。

「ああ、また来いよ」

「気が向いたらな」

「アリィちゃん、またね」

「はい、また・・・、また?」

ヒラヒラと手を振り室内に戻ってしまったアレク、また会うの?王様に何度も会えるとは思えないけど・・・

「さあ帰ろう、リリスも首を長くして待っているよ」

まだ昼前だけど、朝の出発時の母を考えると玄関で待っていそうな程の様子ではあった

「うん、あ、侍女さんは・・・」

「クイン」

「はい、私の方で医務室に運んで治療を受けさせます」

「でも、クビって・・・」

「アレクが見ていたから悪くは扱わないよ、城、もしくは信頼出来る家に行けると思う、大丈夫」

「そうなんだ、良かった・・・」



サイリに抱えられたまま馬車止めまで移動する

途中、警備の騎士さんに手を振ると一人は振り返し、もう一人は口元を押さえて顔を伏せた

「?」

「・・・アリィ、騎士にまで愛想振り撒かなくても良いんだよ」

「愛想!?」

「意識してなかったのか、下の者にも優しいのはアリィの美点だけど、そうだな家の中だけにしようか、このままでは勘違いした人が沢山出て来てしまうからね」

そうか今のでさえ愛想振り撒いている事になるのか、自分が他人から見てどう映っているのか元々知らなかった灯にサイリの指摘は目からウロコだ。

「うん・・・」

「瞬君が優しいからと言って、そういう風に振舞って女の子に囲まれて居たらイヤだろう?

それと同じでアリィが知らない男の子に囲まれていたら瞬君も良い気はしないと思う」

「そっか、うん、気を付ける・・・」

「優しいのは良いんだ、これまでもこれからもね」

「ん」

サイリは「いい子だ」と言わんばかりに腕の中の灯に顔を近付ける、灯も「分かった」と応えるように顔を近付け頬を擦り合わせた

言葉を交わし一緒に過ごす以上に、多くの触れ合いを大切にする獣人の挨拶である。



「待たせたねクロード」

「・・・いえ」

クロードは変わらずむっつりと御者台で待機していた、そして抱っこされたまま馬車に乗り込む

程なくして馬車はゆっくりと走り出した、行きと同じで灯はサイリの膝の上に収まっている。

「城はどうだった?」

「図書館でネル爺に会って少しだけ魔法について聞いたの、近い内に話したいけど・・・」

「ネルス翁か、何とかしてあげたいけど貴族として認められた以上は当分忙しいかも知れないよ」

「うん、だから魔法でのやり取りはどうかなって思ったんだけど・・・」

ネル爺は大丈夫なのかどうか灯には解らない、サイリならば信頼に値する人かどうか分かるだろうと聞く。

「ネルス翁なら問題無いと思うけど、一度私が直接話を通すから待っていてくれるかい?」

「分かった、ありがとうお父さん」

「あまり根を詰めないようにね」

「うん」

素直に頷く灯だが性格上無理はしやすい、サイリもそれは理解しているので本人の見えない所でしっかりフォローしないといけないなと考えている。


そんな事を思って間も無く、灯は既にコテンと頭を傾けサイリの胸に寄り掛かって眠っていた、疲れていないと言ってもこれだ。

未だ無理の効く状態ではない、やるべき事、やりたい事、やらなければならない事、あまりに多すぎる

もっと気楽に生きてもいいだろう、焦ることは無い・・・

それこそアリィに抱かれて眠るカミィのように、気ままに寝て過ごすのも悪くないとサイリは思っている。


「クロード、ゆっくり頼む」

「・・・」

クロードは小窓から室内をチラリと見て小さく頷く、馬車は速度を落とし出来るだけ揺れないようにゆっくりと帰路に着いた。




遠くからゴトゴトと音がする・・・

一定の振動がとても心地良い・・・

体を包み込む温かいもの、力強く、そして優しい・・・

「ん・・・」

もっと近くに、そう思って温かいものに擦り合うと

ぎゅっとされて満足する。

ごろごろ・・・

ああ、気持ちいいなぁ


そんな幸せな気持ちでウトウトしていたつもりの灯

ピタリと振動と音が止まる

「ん、くぁ・・・」

「アリィ起きたかい?」

「ううん?おとーさ?」

近くから聴こえてきた父の声に寝ぼけ眼、舌足らずに答える

「着いたよ」

「んえっ!?」

体感的には五分も経っていないけど、いつの間にか思い切り寝てしまった?

「よく寝てたよ、午後はゆっくりした方が良い」

「ん・・・、」

寝て起きたら疲れが表面化したのか体が少し重い

くしくしと目を軽く擦る、寝起きで足下は怪しいので馬車を降りるのは父サイリに甘えた。

地面に降りると流石に自分の足で立つ

「大丈夫かい?」

「うん、お父さんありがとう、気持ち良く寝ちゃった」

「私こそ姫の寝顔は役得だよ、いつでも言ってくれれば膝と腕を貸そう」

サイリは灯の頭を撫でて腰に手を回しグッと支えた

屋敷へ向かい歩いて行くと途中で神にゃんの耳がピクピクと動き、起き出したと思えばサイリの肩に移る。

「神にゃ、っふぅっ!?」

突然柔らかくて温かい感触に灯の頭が埋まった

「アリィ!」

リリスが文字通り飛び掛って来て、髪もドレスも崩れるのもお構い無しにギュウギュウと力の限り抱き締めた、柔らかいものはリリスの胸だった。

「おかあ」

「アリィ、おかえりなさい」

リリスは今にも泣きそうな顔で言う、やはり恐れているのだ目の届かない所に灯が行ってしまう事が

「・・・ただいま」

「よく帰ってきたわ、いい子ね・・・」

小さな子供に言うような事を言うリリス、わしわしと灯の獣耳と髪を撫でる

当然だが髪はボサボサとなり解けた、今日はよく髪が解ける日だ・・・

「リリス、食事は?」

「待ってたわ、一緒に食べましょう!」

サイリは苦笑しているが揉みくちゃの娘に関しては何も言わない、リリスの心情を慮っているし当人の娘も嫌がらずにハグを受け入れているから。


「お昼なんだろ」

「白身魚よ」

「魚!」

白身魚と聞いた途端に灯の尻尾がピンと伸びる、魚が好きで特に公爵家で出て来た魚料理はいくらでも食べられる程に大好きなメニューだ。

分かりやすい反応にサイリとリリスはくすりと笑った

「その前に髪を少しまとめましょ、ごめんなさいアリィ、勢い余ってぐちゃぐちゃにしちゃったわね」

「大丈夫!」

「来なさい、簡単にまとめて食事してからゆっくり直すから」

「うん」

リリスに連れられて衣装室に入る、玄関から一番近く更に食堂にも近い部屋。

此処は多面鏡が複数ある広い部屋で隣にドレスや宝飾品が保管してある女性の為の部屋である。

灯も髪が長いがリリスとエルもかなり長い、普通に座ると床に髪が着いてしまうので腰高の椅子がある、座面が高く背もたれが無く、座っても床に髪が着かない為のもの。

ちょこんと飛び乗るとリリスがブラシで髪を梳かした

「三つ編みにするわね」

リリスは慣れた手つきで灯の髪に触れる

後ろに髪をひとつにまとめ、刺繍の入った長いレースを髪と一緒に三つ編みにする

全体的に緩くして、ふんわりとボリュームを持たせた

「今の流行りでは無いんだけど、レースアップどうかしら」

「可愛い!」

「アリィの髪はストンと下に落ちるから綺麗に映えるわね」

三つ編みは簡単な手法だがおしゃれにするには中々難易度が高い、特に髪質によっては散らかって見える事もあるのだが、灯の髪は長くストレートで癖が付きにくいので髪が横に広がらずに綺麗に見える。

簡単にまとめてとリリスは言ったが、これでも十分な手の込みようであった

「ありがとう」

「良いのよ、さあみんなで食事にしましょう?」

「うん!」


大好きな魚を食べて、午後はゆっくり過ごした

リリスと刺繍を刺しエルに勉強を教えて貰い、お昼寝をする

何か忘れている様な気もしたが

「まあいいか」

と、完全に自分の家となった屋敷は、今や灯にとってとても居心地の良い空間となっていた。




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