城内②
図書館を後にする、本は次の機会でも良い
神にゃんは置いて来た方が角は立たないだろうけど、どうしたものか・・・
「アリエット様は魔法が得意なんですね」
「はい、支援魔法が大半ですけど」
「凄いですね、獣人ですから身体能力も高いですし、かなりお強いのでは?」
「どうなんですかね、力は以前より強くなったと思いますが」
「あ、そう言えばまだ安定化していないという話でしたね、お身体は大丈夫ですか?本日は結構歩いていると思いますが異変はありませんか? 」
「大丈夫、今日は調子が良いみたい、と言っても急変する時も有るので何とも言えませんけど」
「なるほど、念の為この先に庭園が有るので少し休憩しませんか?」
「うん、ありがとうございます」
獣人化してから屋敷を初めて出た灯、今日は城に来てからかなりの距離を歩いている。
以前は数分歩く内にヘトヘトになっていたが、身体が獣人になった事で身体能力が上がっていた、優れている獅子の中でも特別な黒獅子になったので、これまでの灯とは比較にならない力を有している。
多少力強くなったかな?と思っている程度、今はまだ本人も理解していないのだが・・・
今もこれといって疲労は無く、神にゃんを抱えて元気に歩いてついて行く
「こちらが庭園になります、丁度あそこが先程の王の私室なんですよ」
クインが城の一角を見上げて指を差す、そこはバルコニーになっていて庭園が一望出来るようになっていた
「あ、こういう道の繋がりなんですね、此処とアレクさんの所だけなら何とか覚えられそう・・・」
「その内城内も覚えますよ」
「あはは・・・、そんなに覚える程来るかは分かりませんけど」
「恐らくですが、黒獅子の紅一点という事で何度か訪れる事になるとは思います、現状では陛下とサイリ様、アリエット様しか居ませんし、御二方は既婚、アリエット様は未婚で歳頃ですから色々と・・・」
「黒獅子だと何かあるんですか?」
「それなりに・・・、聞いた話しか知りませんが陛下とサイリ様が学園に通っていた頃は女性からのアプローチが凄かったそうです、次期国王と次期公爵で更には特別視される黒獅子でしたから」
「婚約者居たら大丈夫?」
「いえ、当時の話ですとそれも関係無くアプローチする女性が多かったそうです、獣人は一夫多妻が可能ですから」
「女性に婚約者、恋人居ても?」
一夫多妻制が可能と言っても対象が男性と女性では話が違う
結果的に言えばどちらも一人しか娶らなかったが、アレクやサイリを狙うならば複数娶られる妻の一人になればいい
と考える事が多かった。
対して灯は女だが、多妻の内の一人にするにしてもルナリア公爵の娘を第二第三夫人にするなど絶対に認められない、仮に第一夫人として迎えるにしても公爵家との関係を考えると第二第三夫人を簡単に迎える訳にもいかなくなる、地位の低い貴族の娘や愛人を妻に迎えるのとは訳が違うのだ。
「アリエット様には婚約者居るのですか?なら大丈夫だと思いますよ、多妻の一人に収めるにはルナリアの名は大き過ぎます、ならば第一夫人として迎えるしか有りませんが、そもそも男性と違って恋人や婚約者の居る女性獣人に手を出す事は庇護者に喧嘩を売るのと同義です」
庇護者、つまりサイリが娘の婚約者を認めているのにそれを無視する事は
公爵に対して「お前の都合など知ったことか」と言っているようなものだ。
サイリの家族、特に妻、娘に対する溺愛ぶりは有名で、見えている最強の獅子の尾を踏むような愚か者は流石に居ない
「あ、そうなんだ」
「ええ、」
貴女に手を出そうとする人など居ませんよと言おうとして止めたクイン、ついさっき王子に絡まれたばかりだ・・・
「ん!コホン、それより庭園を案内致しましょう」
クインは気を取り直し庭園を案内し始めた
石畳で仕切られ整然と区切られている
今は冬で少し彩りが寂しいが、温暖な気候のこの国では多種多様な草花が育つので春先には見事な庭園を鑑賞する事が出来る
「綺麗ですね」
「はい」
そう、冬と言っても10℃以下にはならない魔法国
芝が青々と生い茂り、噴水の周りにも花が咲き、緑の木々
には小鳥が止まって美しい調べを奏でていた
サーっと風が抜けてとても気持ちが良い。
とっておきの花もある
「アリエット様、見せたいお花がございます」
「何ですか?」
「見てのお楽しみです、きっとお気に召すと思います」
とある一角へと案内する、そこには白い花を付ける生け垣
「凄い・・・、白い、薔薇?」
「はい、こちらは鏡薔薇と言う薔薇で、ちょっと見て下さい」
「え?」
クインが鏡薔薇の花弁にそっと触れる、すると真っ白な薔薇が一瞬で黄色に染まった
「え!?何ですかこれ!」
「鏡薔薇はその名の通り、鏡、人を写す薔薇なんです、触れるとその人の魔力に反応して、それぞれの色に変化するんですよ」
「へえー面白い、色はこのままなの?」
「いえ、すぐに、ほら」
花から手を離す、数秒後には黄色に染まった薔薇がまた白い色になった。
「すぐに魔力が抜けて白に戻ります」
「そうなんだ、面白いですね!これ私が触っても色変わるのかな」
「はい、魔力の波長は指紋のようなものなので一人一人違う色になりますよ」
「じゃあ・・・」
灯が指で花弁に触れる
「あれ?」
「おや?」
色が変わらない、白いままの薔薇だ
「色、変わりませんね?」
「まだ安定化してないとかは、」
「関係無いと思います、今もアリエット様は魔力を帯びているのは見えていますし・・・」
「じゃあなんでだろう・・・?」
二人で頭を傾げていると、片手で抱かれて大人しくしていた神にゃんがもぞりと動いた
「にゃっ!」
くるりと尻尾を鏡薔薇の茎に巻き付ける神にゃん、薔薇は
青く染まる、龍眼の色と同じ透き通った青だ。
「あっ、神にゃん棘で怪我するから離して!」
「大丈夫ですよ、棘は処理されていますから」
「あ、そうなんですか、でも神にゃん危ないから勝手に動いちゃダメだよ」
「にゃあ」
茎に尻尾を巻いたままなので、離そうと尻尾を軽く握る
その時、意図せず灯の手が鏡薔薇に触れた。
透き通った青色の鏡薔薇が瞬時に白くなる
「あれ?戻るの早い?」
「いえ、これはアリエット様の魔力に反応したのでは?」
「でも元の白に・・・」
「もしかして、白色に染まったのでは?」
なるほど、元々白い鏡薔薇が魔力に反応して白に染まる、白いキャンバスに白の絵の具を塗る様なもので気付かなかったのか、と合点がいく。
「白・・・」
「珍しいですね、私は初めて見ます白なんて」
「あはは、でも実質色は変わりませんね?」
「いえいえ、これは逆に凄いですよ、誰もが触れれば染まる鏡薔薇が何色にも染まらない、素敵です!」
「クイン、さん?」
クインが興奮した様子で話しだした
「アリエット様が鏡薔薇を男性に贈って貴方色に染めて、なんて純白の薔薇が男性の色に、とか・・・、キャー!」
「クインさん結構ロマンチストなんですね」
「ハッ!し、失礼致しました!」
「ううん、そういうの好きなんですね、あ!悪い意味じゃなくて」
「はい・・・、お恥ずかしながら」
黙り込み顔を赤くしたクイン、くすくすと灯は笑う
「ふふ、別に恥ずかしくないですよ、私も恋愛漫画・・・、小説みたいなの読んで、好きな人にこんな事言われたらなあ、なんてドキドキしたり・・・」
するとクインは解る!とばかりに首をブンブンと縦に振る
「わわ分かります!」
目を輝かせて同意する様子は先程まで礼儀正しく灯を案内していた姿とは程遠かった。