表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/162

王③

「・・・」

「アリィ、そんな緊張しなくても大丈夫だよ」

王の待つ部屋に向かう途中、次第に無言になっていく灯

見かねたサイリが声を掛ける。

「う、うん・・・」

ゴクリと唾を飲み込む娘に苦笑しながら優しく撫でる

「大丈夫、アレク・・・、王は私と同級生でね、級友なんだ、悪い人間でもないし女の子を泣かせるような事もしないよ、保証するよ」

「同級生・・・」

「ああ、私も居る、怖い事なんて何もないだろ?」

「うん・・・」

「アリィの自己紹介をするだけさ、さあ行こう」


そして見えてくる立派な両開きの扉、左右には騎士が二人立っている。

片方は体格が大きく獣耳を見た感じでは熊?獣人、もう一人は人族の騎士、熊さんがジーッと灯を見る

「・・・」

灯が会釈すると、熊さんは胸に手を当てて腰を折り顔を上げるとニカっと笑いウインクをして来た、意外とお茶目な性格のようだ。

「何をしているんだ・・・」

クインさんは呆れているが、灯は熊さんのおどけた行動がおかしくてプッと吹き出した


笑顔の戻った娘を見てサイリは目を細める、やはり女の子は笑顔が一番だと口許が緩む。

騎士達にとってサイリは鬼教官の一面しか知らないので柔和な表情のサイリを目の当たりにして目を丸くした、クインはそれなりにサイリと接点があるので特に気にした様子は無い。


カチャ・・・

中からルークが顔を出した

「お待ちしておりました、さあ」

ルークに促されて部屋の中へと入る、王の部屋だけあって素人目に見ても高価な家具や装飾品が置いてある、豪奢な物はあまり好まないのか、とても落ち着いた雰囲気にまとめられている。


王は窓際に立っていた、黒い髪の獅子獣人、現在国に確認されている黒獅子が此処に皆集った事になる。

灯を見止めると王は笑顔で両手を広げ、抱き締めようと近寄った

「やあ、やっと逢えたねアリエットちゃん!」

「え?」

寸前でサイリが灯をひょいと持ち上げ王によるハグを回避

「アリィに触れるなアレク」

「何だよ、ただの挨拶だろ減るもんじゃなし」

「減る、だから触るな」

「減るのか・・・、そうか・・・」

減るんだ、私・・・


「何をしているんですかアレク様、名乗りもせずに」

ルークが呆れていた。


「ああ、ごめんごめん、俺は魔法国で王をやっているアレキサンダー・ライオネルだよ」

「初めまして、アリエット・ルナリアです」

サイリに抱きかかえられたままで挨拶をする灯、離してくれないのだから仕方が無い。

「可愛いなぁ、サイリ、嫁にく「断る」」

「・・・」


「・・・嫁に「断る」」

「何故」

「お前にはリィが居るだろ」

「いや、ロウに、」

「あんな阿呆、話にならん」

「王の息子にそれは無いんじゃない?アホだけど」

「お二人共そこまでです、アリエット様に要らぬ誤解を植え付けますよ、事実ですが」

事実なんだ・・・

側近のルークが止めたかと思えば王子に関するフォローは無い、つまり本当にアホなのか

「アリィの婚約者は決まったと言っただろう、番を離す事は許さん」

「アリィって呼んでるのか、じゃあ俺もアリィって呼んで良いかな、俺の事はアレクで良いよ」

「聞けよ、話・・・」

「あ、はい、どうぞアレク様?」

「アレク」

「アレク、さん」

アレクさんは愛称呼び捨てを望んでいるようだが、王を呼び捨てに出来るはずもなく「さん」がギリギリの妥協点。

それにしても気軽な王である・・・


「んー、まあさんでも良いか!番が居るなら仕方ないな、エルちゃんを「断る」」

「・・・なんで?」

「エルも決まったからだ」

「は?エルちゃんの婚約話あれだけ蹴っ飛ばしていたのにどういう事だ!?誰だ、知ってる奴か?」

「ほら書類、承認宜しく」

「ん?」

サイリから渡された三枚の書類に視線を落とすアレキサンダー


一枚目 ペラ・・・



二枚目 ペラ・・・



三枚目・・・



「なあサイリ、アリィちゃんもエルちゃんも相手の名前が一緒なんだが?」

ついでに言えば血判の匂いも同じだ。

「そうだな、同一人物だからな」

「・・・え、お前良いの?」

「ふほ・・・、いや、娘の幸せが一番だからな」

不本意と言いかけたサイリ、正式な書類を出しておきながらも諦めが悪い。

「まあサイリが良いなら良いけどね、っと」

サラサラとサインを書き込み判を押すアレクに更に追加で数枚書類を出した。

「次はこっち」

「登録証か、アリィちゃんこっちに座って」

「はい」

指示されたソファーに座る、横にサイリ、対面にアレク、その後ろにルークが控える。


「ルーク、アレを」

「はい、アリエット様、こちらをお持ち下さい」

アレクに指示でルークがソフトボール大程の大きさの水晶を用意した

「水晶?」

灯が受け取った瞬間、水晶から白く眩い光が溢れ出す

サイリの肩に乗っていた神にゃんは驚いて部屋の隅に行ってしまった

「にゃっ!」

「えっ、何これ!」

「落ち着いてアリィ、これは魂審の儀(こんしんのぎ)と言って魂に全てを問う儀式なんだ、これはその為の道具で光の変化で嘘や真実を確かめるんだよ」

「まあ、形式的なものだ、疑っているわけじゃなくて、アリィちゃんは見た感じ嘘を吐くような子には見えないけど法で決まっているからな、異界還りの貴族限定の儀式でね」

「事前にアリィのプロフィールを提出してあるから、それを確認するだけだよ、正直に質問に答えるだけで良いんだ」

「うん」

確かに言ったもの勝ちで異界還りして貴族だ、なんて人も居ないとは言えない、勿論灯は嘘を吐くつもりも無いし、嘘を吐ける性格でもない。


「名前を」

「アリエット・ルナリア、地球名は灯です」

水晶の光は静かに佇んでいる、嘘発見器のようなものだ。


「こちらの家族は?」

「父サイリウス、母リリスフルール、兄エクセリオン、姉エリューシア」

光に変化はない。


「アリィちゃん、神龍の瞳は君の所有物?」

「はい、おいで神にゃん」

部屋の隅に逃げていた神にゃんが灯の隣にトコトコ歩いて来る、そしてその姿を変えた

宙に浮く30cm程の蒼い龍眼、鈍色の持ち手の杖が現れる

「それ、本物?」

「はい」

「触っても良い?」

「どうぞ」

マジマジと杖を見ながら鑑定するアレク、後ろでルークも興味深げに見つめている

「本物だ・・・、しっかり専属化も施してある」

「アリィが嘘を吐く訳ないだろ」

「いや、こればかりは本物を見るまで信じられないよ」

「博物館、いえ国宝、それ以上の代物ですね」

「ほら、それより儀式」

サイリが神龍の瞳に目が釘付けになっているアレクを促す

「あ、ああ・・・、冒険者ランクを教えてくれるかい」

「S+です」


「黒龍討伐したって本当?」

「はい、単独ではありませんが仲間と何回か」

「な、何回か・・・?」


そうして質問されては答えるを繰り返し続けた、灯の持つ水晶の光が揺らぐ事は一度として無かった。


最後にアレクは軽い態度を改め、真剣な表情で灯に告げた

「うん良いね、アリエット・ルナリア嬢、貴女をルナリア公爵サイウスリ・ルナリア、妻リリスフルール・ルナリアの子と認めます」

「ありがとうございます」


この時から灯はアリエット・ルナリア公爵令嬢として公に認められるものとなった

「アリィおめでとう、お疲れ様」

横に居たサイリが灯を抱き寄せ、頭頂部に優しく唇を当てた

「えへへ・・・」

少しだけ恥ずかしい灯ははにかみ、笑顔を咲かせた

「ああ・・・、本当に外に出したくないなぁ、アリィはずっと私の腕の中に居て欲しいのに・・・」

「子離れしろよサイリ」

「愛しい娘から離れられるか!」

「相変わらずですね、サイリ様」

アレクとルークは呆れながらもサイリと灯を微笑ましく眺めていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ