買い出し。
マリに締め落とされ掛けた灯。
眠りについた時間から昼に起床し、長話になった事もあり買い出しは明日行く事になった。
「灯、いい事?辛い事は辛いと言う!我慢なんて必要無いのよ!」
「あ、はい・・・」
何かスイッチの入ってしまったマリはずっと灯を構い倒していた。
「お姉ちゃん」
「何!?」
ビク、あまりの勢いに引き気味の灯だが要件を伝える
「消耗品を補充したいんだけど」
「良いわよ、何が欲しいの?」
「あの、ちょっと大量だから、在庫だけ教えて欲しいの」
「そんなに?まあ大抵の物は数あるから大丈夫だと思うけど・・・」
「えっと、ヒールポーション100、マジックポーション300、」
「待って、、300?」
「300」
「そんなに必要なの?」
「うん、私燃費悪くてさ、マジックポーションはいくらあっても足りないの」
「ヒールポーションは?灯って魔道士よね?」
「美味しかったから買い溜め?」
「うーん・・・、ごめん灯、ウチでヒールもマジックも月に捌くのが平均して200程なの、だから、」
「あー、在庫食い尽くすのも良くないよね、売れる数の最大は?」
「ヒールが30、マジックがそうね、50出すわ」
「ありがとう!十分だよ、ヒールは保険だし、マジックも何とか保ちそうかな、あとは・・・」
「まだあるの!?」
「ちょっと龍倒した後だから消耗品使い切っちゃてて・・・」
「龍ってあなた、いえ、空から降りて来るぐらいだもの、並の冒険者な訳無いわね、いいわ何が欲しいの?」
「えっと・・・、」
店の物を買い尽くす勢いの買い物に次第に引き攣っていくマリであった・・・
「最後に、霊薬、置いてる?」
「有るには有るけど、高いわよ?」
霊薬はエルフ族秘伝の技術で作られている物で、効果は抜群全回復する代物、一説には死者さえも生き返らせる程と言われているが流石に死者蘇生は出来ない。
当然価格は高く、エルフが偶に人里へ卸に来る少数品が市場に流れていた
「いくら?」
「1本1000万カネー、2本在庫有るけど、ウチで売れた事は無いわね、まあ商人の意地みたいなもので置いているだけよ」
「買うよ!2本!」
「2本!?ウソでしょ!」
「貴重品だからね、ある時に買うよ」
「お金は、ある・・・」
「はい」ドンッ、ジャリッ!
「のね・・・、他の物は店頭に並んでる物もあるから時間頂戴」
「うん、急がないし、明日は他に買いに行く物あるから、出発までに揃えば大丈夫」
「全部で2037万カネーだけど、2030万で良いわ」
「わーい、ありがとう、宿泊代も払うよ」
「良いわよそんなの、この買い物だけでどれだけ利益出してると思うのよ、もう」
「そう?じゃあ遠慮なくお世話になります」
「俺はヒールポーション3個、くれ・・・」
大商談の後で気まずいグレゴリは小声で買い物をしていた。
次の日、上着を買いに2人は街を歩いていた。
「はあ、はあ、・・・」
「なあ、いくら何でも早過ぎるだろ疲れるの」
「だ、って、おかしい、こ、れ」
「仕様変更か?」
「ひーひー、疲労要素って改悪だよね、コレ」
「歩いて五分でこれは話にならんよな」
「ゴリさんは全然、疲れないよね、なんでだろ」
「俺と灯で差がある所、体力か?」
「え、もしかしてVIT値依存なの、この疲労度!?」
「俺はVIT1000だが、灯は?」
「いち・・・」
小さな声で言う灯
「なんだって?」
あまりの数値に耳を疑うグレゴリ、聞き返すのも無理はない。
「いち!1!2の手前、いち!」
「嘘だろ?そこらのビギナーでも100は振るぞ?」
「特化型なの!私は!」
顔を真っ赤にする灯、信じられないものを見るような視線を放つグレゴリに必死に抗議する。
「聞いていいか?ステ振り」
「MAG、MND、LUC1000」
それを聞き額に手を当て天を仰ぐグレゴリ
「ありえねぇ・・・」
こいつマジかよ、と喉まででかかった言葉を飲み込んだ。
「一応聞くがな、ステ振りのセオリー知ってるか?」
「知ってるよ平均800ラインでしょ、ジョブ対応ステに800振って、残りを上手く割り振る」
「それ知っててなんで極振りしてんだよ、VIT1なんてそこらの雑魚につつかれたら瀕死じゃないか・・・、いやMAGとMNDは良い、なんでLUCに振った、恩恵無いだろ・・・」
「恩恵は有るよ、ドロップが被らない、確定ドロップ枠が増える」
「それは数こなせば解決出来るだろ」
「まだあるよ、乱数にプラス補正が掛かる」
「・・・どういう事だ」
「同じ敵を同じ条件で殴って、同じダメージ出る?」
「出ないな・・・」
「それは乱数が設定されていて、ダメージ計算式の中に不確定数字が含まれているからなの、ここまでは?」
「大丈夫だ」
「その不確定数字はアークオンラインの場合、約0.9~1.2倍値なのね」
「ふむ」
「で、LUC値によってその数値が上がったり下がったりするんだけど、LUC値1だと大体0.9で固定されるのよ、小数点二位以下は分からないけど、で、LUC1000だと逆に1.2でほぼ固定されるのよ」
「なるほど、つまり俺が殴った場合は0.9倍の結果だが、灯が殴った場合は1.2倍の効果がほぼ保証されている訳だな?」
「そう、で、この乱数は物理攻撃に限らず、魔法の成功率や効果値にも設定されているの」
「なら、セオリー通りLUCに全く振っていない奴らは皆、」
「0.9倍の効果しか知らないわ」
つまり灯の魔法に関しては他の者と比べて0.3倍分効果が高いと言うことになる、実際LUCに振る者は少ないのでそこまで差がある事が判明していない事になる。
「いや、待て俺は攻略サイトとか検証サイトも見るが、そんな話聞いた事ないぞ?何故そんな事を知っている」
「私が自分で調べて公表していなかったから」
「それは、その、灯を疑う訳では無いが正しいデータなのか?」
「多分間違って無いと思う、サブアカ作って検証、LUC1と500と1000で試行回数も十分こなしたし、最終的にお父さん達に見せたら「まあ間違い無いだろう」って言っていたし、そりゃあ開発元に問い合わせした訳でも無いから絶対とは言えないけど・・・」
「それにしてもVIT1は無いだろう・・・」
「う、それはそうだけど、LUC800で検証しようとしていたら今回コレだし・・・」
なるほど、ステータスの境目800でも似た効果があるなら、LUC800でVITに200は振る予定ではあったのか、と納得するグレゴリ。
「仕方ないな、ほれ肩、乗れ」
「良いの?」
「構わん、灯のバフの効果は高いからな、それの代償と思えば安い物だ、それ程効果は高い」
「えへへ・・・、ありがとう、でもどうせなら検証したいから、また疲れたら肩乗せて」
「分かった、無理はするなよ貧弱なんだからな」
ニヤリと笑うグレゴリ、頬を膨らませながら灯は
「むうー、ゴリさんみたいな体力バカと一緒にしないでっ!」
「はっはっはっ、体力バカで結構!即死級にも耐えた鋼の肉体さ」
「え、あの話ゴリさんだったの!?都市伝説かと思ってたよ」
「追撃で落ちたけどな!」
仲良く歩く姿は親子のような二人、凸凹だがとてもバランスの取れたコンビである。
その後、検証の結果VIT1で1000歩動ける事が判明、グレゴリはVIT1000なので1000×1000で1000000、100万歩動ける事が分かり「体力バカ」の称号を獲得する事になる。
尚、灯が歩いては疲れ、休憩後歩いては疲れを繰り返し、休憩中の灯はグレゴリの肩に乗っていたのだが、鎧を脱いでいたグレゴリの肩に、歩いて体温の上がった灯が触れて、1人で「直に体温が伝わってくるっ」とドギマギしていたグレゴリに「むっつりスケベ」の称号がこっそり追加される事になったのは本人以外誰も知らない事実であった。




