終幕 出立の時、新たな仲間との出会い
『ア……アア……!!よ、くも……!よくも……!』
もはや崩れ落ちたゴーレムのなり損ない、無茶苦茶な魔力を周囲を撒き散らすモンスターと化した所長は、
最初に見た知的な面影はもうどこにもなかった。
「すみません、アーガイルさん、パトリックさん、横入りするような真似をして」
「横入りだって!?とんでもない……!この化け物を押さえつけてくれていたのは君だろう?」
「リーズベルトさんもそうだが、特徴的な魔力だったからね……すぐにわかったよ、君たちが戦っている事は」
「そうだったんですか」
なるほど、確かにこの世界では顔や声よりも魔力で特徴をつかんだ方がわかりやすいのかもしれない。
いまだに俺は判別まではできる程ではないのだが……練習すればできるようなものなのだろうか。
『ク……ソッ……!ここ……まで、か……』
「ローツレス殿、止めを」
「はい……少しだけ、いいですか」
「構わないよ、君の手柄だ」
「カンザキさん、貴方は何故……何故、こうなってしまったんですか」
――どうしても、聞いておきたかった。
彼の生い立ちというか、事の顛末は聞いている。
しかし、しかしどうしても、自分の口で聞いておきたかった。
同じ異世界人として。なんなら同じ人間として。
『何故……だと?フフ、何故だろうな。お前さえいなければ、こうはならなかった、しかし……』
「しかし?」
『心のどこかで私は、止められるのを望んでいたのかもしれん。ただ妻と……子ども達を奪われた……その憤りだけでここまで走ってきた』
「子ども達……まさか、カイメラ達は……」
『君なら察しているだろう。あれは私の子ども達の亡骸を元に作った人工生物だ。ひとつ前の実験で失敗はしたが、
彼らは概ね成功だったと言えるだろう。元々短い寿命ではあったがね』
「……やっぱり、そうだったんですね」
『彼らは生贄になる事を自ら望んでいた。私も彼らが望むなら――、と事を進めた。
だが、心のどこかで私は……これが間違っていることを、理解していたのかもしれんな』
「カンザキさん……」
そう語る彼の表情は、どこか満足げだった。
「お兄様……終わった、です……?」
「……ああ」
おそるおそる近づいてきたユユ達に、言葉を返す。
赤装束たちもすっかり鎮圧され、もはやこちらに立ち向かう気力もないようだ。
国を挙げ、国王を失ったが――、この戦争は、俺達の勝利だ。
「…………勝った、のか」
胃の中のものがずっと残っているような、気持ち悪い感情。
疲弊感、倦怠感。むせ返るような血と煙の臭い。
「これが、戦争……。勝負に勝って、こんなに気持ちの良くないものがあったとはな」
――そういうもの、なんだろう。
俺は初めて経験したが、この国ではきっと過去にもあった事だ。
そもそも戦争や紛争は、過去の時代、いや俺がいた現代であっても、他の国では珍しいことではなく、
日常的なものだ。戦争を感じない今時分こそ、平和で恵まれていると言えよう。
そこには所長の『成れの果て』が落ちていた。
彼の表情は安らかで、眠っているようにも見える。
「どこかに、埋めてやってもいいでしょうか。できれば、空がよく見えるところに……」
「あ、ああ……構わないが、それはゾンビ化したりしないのか?」
「いやたぶん大丈夫じゃないかと……」
そういえばそういう感覚だったな、ここ。
――――俺達の戦いは、あっけない幕切れを迎えた。
―――
――――
―――――
エメリアの戴冠式を終え、俺達は出立の準備をしていた。
「もう行ってしまわれるの……?」
グランディア女王となったエメリアは、護衛もそこそこに下町の宿屋に来ていた。
流石に身分考えてほしいなと思ったが、今回ばかりは仕方ないだろう。
「ああ、波は超えた……とは言え、まだこの世界でやることがありそうだからさ」
正直、それが正しい事なのかはいまだにわかっていない。
結局俺も所長もやっている方向性は同じで、それがたまたま益になっているかどうか、という所がある。
「過ぎた力は自らを滅ぼす、か……」
ユユの中に宿っていた神は、再び眠りについたようで、
今はあの力は使えなくなった。むしろ使えたら俺が災厄にもなりかねない規模なので、ある意味ではありがたいが。
それでも俺の力……というか勢力は強大だ。
今回の件でそれを証明してしまったようにも思える。
「自らの力に怯えるか。お主にも人間らしいところもあるんじゃな」
「サルガタナス、お前もここに残るのか?」
「まあの。店の経営もあるし、次の任がなければしばらくはここで過ごすつもりじゃ」
「そうか」
「それこそお主も残ればよいのではないか?十傑としての席が空いているが……」
「いや入らないってば……」
「なんで!」
ヒナが横から入ってくる。
「何でも何も、俺は魔人じゃないし、ただの一般人だぞ。何でそんな強大な組織に入らなきゃならん。
責任が重過ぎるだろ」
「え、お兄ちゃん、今更……?」
「今更じゃの」
「今さらだなあ」
いつの間にか魔王まで来ていた。お前ら、もしかして暇?
「魔王……どうだ?世界の様子は」
「特異点はない。今のところはな……でも、お前が心配するような事態はたくさん起きているから安心しろ」
「全く安心できないな……」
魔王はその特殊能力によって、全世界あらゆる場所を「観測」することができる。
しかし、全て観測「できる」というだけで、常に観測しているわけではない、というのがミソだ。
「飢餓、紛争、伝染病……そんなものは日常茶飯事だ。人間は魔物に食われるし、
亜人族は故郷を焼かれて家畜になるし、いちいちそんな事までかまけていたらキリがない。
お前はそれを全てなんとかするつもりでいるのか?」
「……いや、とてもじゃないがそれは無理だろうよ」
「だったら、やっぱりお前は十傑に入るべきだ。そして来るべき次の特異点に備えた方がいい」
「それでも、俺は行きたいんだ。俺がこの世界にいる証みたいなもんでさ」
「……ふっ、面白いな、お前。お人よし、というよりも、お前のエゴという奴か」
エゴと言われれば、そうなのかもしれない。
これが俺の生き方というか、30年ずっと続けてきた事だから――、
「ずいぶん……『変わった』な、来訪者」
「へ?」
「お前はただ言われるがままの人間だった、今までのお前には意志がなかった。
しかし今のお前はどうだ、周りの大切な意見も聞き流しやがって、わがままの塊か?」
「わ、わがまま……!?」
30年生きてきたがそんな言い方をされたのは始めてだ。
この、事なかれ主義を貫き、常に回りに合わせてきた俺が……わがまま?
「―――だが、そっちの方がいい。人間とはそういう生き物だ。独自性があるから、生き残り、
変異性があるからこそ、ここまで繁殖したんだろうな。願わくば、次世代まで生物をつないでくれ」
「本当、星の管理者みたいなこと言うな」
「みたいな、じゃなくてそうなんだ」
相変わらず生物を超越している。
この視点は一生かかっても理解できない気がする。
準備が整い、さあ出かけるぞ、という所で足元が光っていることに気がつく。
「これは……!」
「お兄ちゃん?」
ヒナが気づくのが早いか、俺の意識は別のところに飛ばされていた。
――――――――
「……あ、お久しぶりです!」
可愛らしい金髪の女性、そう、俺をこの世界に送り込んだ張本人……『女神』だ。
「すみません、今回は色々お手間をかけてしまって……ありがとうございます、『彼』を止めてくださって」
「やっぱり、神絡みの案件だったんですね。異世界人には異世界人を――、って感じですか」
「その通りです。私とは別の『外なる神』の一人が……。
本当に、申し訳ないです……」
「やはり、他の神が……」
思ったとおり、俺達は神達のいざこざに巻き込まれてしまっていたらしい。
「本当は私が直々に彼女の悪行を止めたいんです。ただ、私達が直接世界に介入することは、基本的には不可能。
それゆえ、貴方のようなイレギュラーの力を借りるしかないんです」
「まあ、今回は無事に終わって良かったですよね。ええと、私はもしかして、元の世界に戻れるんですか?」
「え?いや違います……今回はせっかく、貴方に神性がたまったので、こうしてお話しようと思ってきてもらいました」
「ああそうなんですか……」
普通の展開ならここで返してもらえるんだけど、そうでもないみたいだな……。
「はい、今回『彼女』の目論見は成功し、各地の魔法陣はその効力を発揮するに至りました。
彼女は、今回の件を発端とし、世界に『種』をばら撒き、最終的に自らを召喚する計画です。
この計画は、ルシフェルさんもまだ理解していません。貴方が宣託を持ち、人々を導いてください」
「……は?」
「え?わかりませんでしたか?」
「待ってください、今の話だと……所長の機械仕掛けの神を利用して、
神がこの世界に顕現しようとしている、みたいに聞こえましたが」
「理解が早くて助かります」
「理解が早い!?」
「そういう事です。そもそも、機械仕掛けの神自体が人の領域を超えた魔術。
魔術によって最高効率となった核融合は、無限に近い魔力を生み出し、概念としての『無限』を達成。
彼女が召喚されるための基盤が揃ったのです」
「は……!?」
「このままでは、あの世界に『外なる神』が召喚され、世界の定義が破壊されていく事でしょう。
貴方には、それをとめてほしいのです」
「規模大きくなってませんか!?流石に俺にはそんな事は――――」
「そんな事は?」
「…………………」
彼らの世界を思い返していた。
今までの冒険の軌跡を。
30年の人生と比べれば、とても短いちっぽけな時間。
しかしそこで感じた経験は、知識は、思い出は、この心にしっかり染み付いた。
「無茶苦茶を言う。貴方も結局はその『外なる神』の一人なんでしょう?どうして敵対するんですか」
「趣味が合わないからですね!」
あっけらかんと言う女神様。
やはり神と人とは相容れない。そういうものなのだ。
「返事は今回は聞きません、貴方の心は決まっているんでしょう?」
「まあね、俺にできる事――、いや、俺がやるしかないでしょう」
「ずいぶんと、立派な言葉を言ってくれるようになりましたね」
「ええ、では―――」
行ってきます。
そう告げる前に、俺の意識は戻った。
「お兄様!?」
「あ、ああ……ユユ、悪いな、急に倒れて、さあ、行こう」
「そ、その精霊様は……?」
「へ?」
ふとみると、小さくて青っぽい女の子が、俺の周りをふわふわ浮かんでいる。
「やっと起きたのね!このウスノロ!さっさと行くわよ!」
「なにこいつ!お兄ちゃんに対してなんて口を!」
「ヒナ、待ってくれ、こいつは……」
この感覚、間違いない。
『こいつ』だ。俺をずっと守ってくれていた、加護そのもの――。
「私は『ミスティ』。神聖さでわからない?純潔の女神アルテミスより分かたれし神性の一部。
そこの童貞を一生懸命守っていた健気な妖精様!」
「お兄ちゃんをずっと……!?じゃあ最初に戦った時のも!」
「そ、アンタのへっぽこ魔術じゃこの童貞には傷ひとつつけらんないからね、ぷぷっ」
「ムカッ……」
「ヒナ、落ち着いてくれ!?」
まさかの展開に驚きばかりで、もはや事態を収めるのに精一杯だ。
だが俺達のやる事は変わっていない。ただ、この世界が少しでも平和になるように―――、
「行こう、ヒナ、ユユ、そして……ミスティ」
「うん!」
「はいです!」
「はいはーい」
まだしばらく俺達の冒険は続くが―――、
この手記は一度ここで終わりを迎える。
願わくば、世界に安寧のあらんことを―――。
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いかかでしたでしょうか『30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス』。
こちらは、ぶっちゃけ最初の構想から大きく物語の軸を外してしまったため、
とにかく好きな要素を好きなだけ詰め込んだ作品になります。
自分自身初めての小説執筆のため、かなり苦戦する部分が多かったのですが、
楽しく書けたなと個人的には思っています。
特に、今回書いた最終部に関してはかなり悩み、二週間くらいかけても良い終わりが思いつかなかったため、逆に綺麗に『終わらせない』方向で完結させました。
彼らの冒険は、ここでは単なるフィクションですが、ここでないどこかで起きた出来事です。
物語に終わりはなく、彼らは世界の平穏まで、旅を続ける事かと思います。
ただ、キャラクターにめちゃめちゃ愛着がわいてしまったので、
またどこかで蛇足かもしれない番外編を書きたいなという気持ちがありますが、
とりあえず本編はここでおしまいです。
次回作の構想は既に完了していますが、投稿はしばらく先になってしまうかと思います。
もしここまで読んでいただいた方がいらっしゃれば、是非感想など頂けると励みになります。
ありがとうございました。




