最終決戦中だけど、心の整理をさせてほしい。
『グッ……小癪な真似を……ッ!!』
機械仕掛けの神と一体化した所長はヒナによる『痛覚共有』魔術を受け、
胴体を真っ二つにされた苦痛をもろに受け、半分浮いていた体が地面に落ちている。
ユユに宿る『神の力』のバックアップを受けた今の俺ならば、奴の圧倒的防御を突破し、
一撃を加えることができるはずだ。
はずだが……。
「さあお兄ちゃん!行こう!私たちの未来のために!!」
ツヤツヤになったヒナは、今までの怪我もなんのそのと言わんばかりに俺の手を取る。
だが待ってほしい。先ほどまでの甘い展開を忘れていないだろうか。
確かに今は割と世界の危機だ。所長はなんかグランディアを基点として世界を支配しようとしているし、
機械仕掛けの神を止めるはずが地味に成功したせいで割とどうしようもない相手になってしまった。
わかる。それはわかる。
確かに今は世界の危機だ。しかし俺の心の中も確かに世界の危機なのだ。
何だあの蹂躙するような接吻は。
あれを受けた男の気持ちも考えろ。以前ヒナの母の前でやったキスとはわけが違う。
俺の平和な平野はもう荒地だよ。完全に支配されたよ。忘れられるかよあんな衝撃的なもの。
行こう!じゃないんだよお前何をそんな少年マンガみたいなノリで片付けようとしてんだよ。
さっきまで何してたか覚えてるのかよ。
皆すごい顔してるじゃねーかよ。ユユとかゆでタコみたいに赤くなってるじゃねえかよ。
クソ……、サルガタナスからの「キスくらいで何顔真っ赤にしてんじゃ?お主は童か何かか?」みたいな目が苦しい。
立たねばならないのか、流石に下半身も落ち着いてきたし、そろそろ剣を持つときが着たか……!
「所長ーーー!!!大変です!!」
『どうした!』
「はっ、そのお姿……成功されたのですね!……あっ、そうです!研究所の近辺に大量の敵兵が!」
『何だと……!?』
敵襲?
この場合の敵という事は、俺たちにとっての味方……?あ、まさか……!
「敵は騎士、魔術師の他に……竜騎士もいます!何故かはわかりませんが、大挙して押し寄せてきております!」
『グッ……仕方ない!どけェッ!!』
魔力のエネルギーをそのまま射出、俺たちへの無差別攻撃とともに、所長は俺たちが来た入り口側へ飛ぶ。
「させないッ……!」
しかしエフィールさんの魔術はオールレンジ、多少距離があっても確実の所長の動きを止める!
『この程度!』
無理やりの魔力放出で何かがはじける音がし、エフィールさんが弾かれたように後ろへ飛ぶ。
「『二律背反』……!」
「俺が良く使ってるやつ……!」
あんな使い方はしたことがないが、俺にもできるのだろうか。
「お兄ちゃんのとは大分やり方が違うけどね、所長、無詠唱を完璧に会得してる……あのままじゃ来てるって人達も皆危ない!」
「そうじゃ!何をボサっとしておる来訪者!ああなった今、奴を止められるのはお前しかおらん!」
「わかってる……!すぐに向かう……ってサルガタナス、俺が覚醒した時いた……?」
「は?わしはさっき来たところじゃ。大方死にかけるかなんかして、そこの小さいエルフの中にあった神が覚醒したんじゃろ?
それでお前に力を供給しているとかそういう感じじゃろて」
「大方というか全部合ってるが!?」
何だこいつ、こえーぞ!?
「そりゃあそうじゃろ。何のためにわしが苦手な茶番まで打ってあの子を攫わせたと思ってる。
記憶改ざんや精神汚染があれば解決策はリーゼフォンの精神介入になると思ってな。
お前さんが介入にはもっとも適してそうじゃし、うまく行けば『力』の覚醒になるかの~くらいの気持ちじゃったが、
ここまでうまく行くと嬉しいのう」
「全部わかってたのか!?」
「……?わし、『叡智』じゃぞ?」
わかってて当然だが?みたいな顔するのやめろ。
まさかこんなタイミングであの時の茶番の謎が解けるとは思わなかった。
というかお前は何を見て何を予想して行動してるんだ、怖くなってきた。
「お兄ちゃん、お師匠様は昔からこういう人だから……」
「お前の師匠マジで怖い」
気を取り直し、走る。もはや赤装束の妨害は今の俺には無意味だ。敵意を向けた瞬間に加護が働き自動で無力化してゆく。
強すぎるし、いわゆる異世界チートとはこういうことかと思ったが、ここまでしてなおいい勝負の所長はいったいどれだけの力を得てしまったのか、逆に怖くなる。
「奴が完全に覚醒してしまう前に、叩く……!」
「おう、そうじゃの、頑張るが良いぞ」
「サルガタナスさん!?何か軽くない!?」
「わしの仕事は終わったようなもんだからの。なあに、見ていればわかる」
今までもこいつの言うことはだいたい正しかったし、
おそらく今回も何らかの『秘策』があるのはわかるが、
それにしても楽観的すぎなのではないだろうか……。
入り口のバリアも既に消滅しており、来た道を戻るだけだったので、
思ったより早く戻ってこれた。
「……これは!」
そこには、見渡す限りの武装した人々。先陣を切っているのはヴォルカニクスが率いてた竜人部隊、そして王都神聖騎士団、王都神聖魔術師団の面々だ。
ワイバーンか?ドラゴンに乗って武装し、確固に指示を出す少年の姿。
あの美しい外見は遠めでも間違えるはずがない……魔王だ!
赤装束の面々は完全な連携をする連合軍に押されがちであり、
そろそろ研究所への防護壁も突破されようとしている。
『させん!させんぞ!!』
もはやスピーカーを通さずとも轟くような爆音となった所長の声だ。
魔術師団たちの攻撃魔術をものともせず、全て打ち消している。
しかしながらそこは魔王の支援が入る。打ち消しの打ち消し―――打消し合戦だ。
魔王は本当なら自分が先陣を切ったほうが強いだろうに、こうやってサポートに回るところからその狡猾さが見える。
流石にサルガタナスが賢人と呼ぶほどだ。
「これなら……!」
「ああ、いいところに来てくれたな。来訪者。といってもまあ、やることはあまりないと思うが」
「うわっこの距離で聞こえるのか!?」
「そういう魔術だ。音も結局振動だからな」
異世界の知見も得られるとはいえ、こいつは何でも詳しすぎるのではないだろうか。
「奴の力は無限大に近づきつつある。もはや僕たちでは立ち向かえない程になってしまった」
「え……!?」
その割には今、かなり有利な状況に見えたけど……?
「そういう魔術なんだよ。機械仕掛けの神はさ。
あらゆる事を強制する。事象を捻じ曲げて実現する。因果律に反する究極の魔術だ。
本来なら成功しないそれを、『完全なる核融合』という無茶苦茶を使って実現しやがった」
「そんな、じゃあ俺たちに勝ち目はないのか……?」
「そうは言ってないだろ」
「どういう事だ……?俺にもわかるように説明してくれないか?」
そこで、すっ、とサルガタナスが横に出てくる。
こいつは俺のあの全力疾走を平気な顔して併走していたので、
実はかなりのアスリートなんじゃないかと思う。
「見ておればわかる」
「うおおおおおおおおおおおおッ!!我が国の……我が騎士団の誇りであった!
グランディア王の名誉のためにッ!!」
神聖騎士団団長、アーガイルさんだ。
非常に強力な騎士であることは知っているが、王亡き今、彼の加護は消えているか、それかエメリアに移り、
弱くなっているはず。流石に機械仕掛けの神と一体化した所長相手では部が悪すぎる。
「アーガイルさん!!まずい!!」
がし、と腕をつかまれる。
「まあ見ておれ」
「サルガタナス!何すんだよ!!離してくれ!」
――と、俺が言い切る前に、アーガイルさんの斬撃は大きな衝撃波を発生させ、
ゴーレムのような所長の肩を大きく傷つける。
『グゥッ……!!人間ごときが!神であるこの私に傷をつけるか!』
「……え?」
まさか、絆の力でアーガイルさん超絶パワーアップした感じ?
エメリアに代わって一気に覚醒と、強化が……?
「不思議そうな顔をしておるな、ゆっくり解説してやろう」




