もしもまた出会えたら
瞬間、俺は全力で駆け出していた。
「所長…………貴様ッ!!!」
『二律背反』を纏った刀身が眩く輝く。
助走をつけて飛び、勢い良く剣を振り下ろす。
しかしながら俺の剣は空を切り、その体ごと後ろに吹き飛ばされる。
『そこでゆっくり観ていろ!君は歴史の目撃者になるのだぞ』
「お兄ちゃん!私がアイツの魔術をなんとかするから、その隙に……なんかうまいことして!」
「わかった!」
「ヒナちゃんもお兄様に似てきたです!?でも……、お兄様のためなら……!『暴風』!!」
「私達も手伝うよ!」
「おそらく……攻撃が通用するのは……貴方くらいよ」
「ウィード君、僕なにしたらいい……?」
「皆……!」
トーラス、何か道中で覚醒したっぽいのにぜんぜんパワー出てない気がするのはアレ?
ドロシーがピンチじゃないから??そういう感じ?
「お兄さん、気をつけてください。今は科学者と名乗ってこそはいますが、彼は魔術の天災。
たった一人で帝国を壊滅させた『大災害』、むしろ本業はこちらと言っても過言ではありません」
そういえば、術式を壊せばよい、くらいの軽い気持ちでいたが、
そもそもアイツに勝てるのか……?
単純に魔術の実力で既にヒナを超えているならば、ここで勝てる目はないんじゃ、
「だから、私達がいる……!」
エフィールさんが右手に魔力をこめると、一気に所長周辺の空間がゆがむ。
重力魔術の力によって、空間ごと魔力がゆがんでいるのだ。
『なっ……!?馬鹿な!こんな魔術を……ッ!』
「苦しんでる!今!」
「おおおおおおおおおおおおッ!!」
再度、走り出す。
この剣は全てを無力化する、言わば還元の剣。
二律背反はさらなる段階へ進む。
新たな、力を―――!
「『魔術付与』!!、『原点回帰』!!」
「……ごめんね」
え…………?
「カイ……メラ……?」
恐らく蛇の頭であろうものからの高速の殴打。
あまりの速さに全く受身すら取れず、先ほどよりも激しく、無様に床に叩きつけられる。
『……それでいい』
「カイメラ!何を……!?そいつはお前を生贄にしようとしているんだぞ!シメールも、二人とも……!」
「ウィードさん、もういいんだよ」
「シメール……!」
「気持ちは嬉しいよ。正直、カイメラ以外であんなに普通に話したのは初めてだったかもしれない。
所長……いや、父さんと数えて二人目かな」
「だったら」
「でもね、僕らは『このために』生まれてきたんだ。それはわかる」
「何だよ……このためにって……そんなのは、ないだろ!もっと他に、やりたい事だって、お前ら……」
「ありがとう、僕らの代わりに怒ってくれて。泣いてくれて……人間はそういうの、自由で、羨ましいね」
「ありがとね、おにいさん」
「待って……待ってくれ!まだ……!!」
「もしもまた出会えたら―――」
「―――そのときはいっしょにあそびにいこうね」
「ああああああああああッ……!!!」
二人が光に包まれ、柱と一体化する。
もはや彼らの面影は無い。ここにあるのは完成した魔術式だけだ。
これより、機械仕掛けの神が降臨するだろう。
しかし、しかしだ。
そんな事は―――、
「知ったことか……俺は個人的な感情で!お前を殴るぞ!所長……!」
『フ、君は冷静て知的なのが取り柄と思っていたがね。彼らの昇華で何故激昂したかは知らんが……今の君は恐るるにたらんね』
今、自分が感情的になってしまっている事くらい理解できる。
会って数時間しか経っていないであろう、カイメラやシメールに、自分を重ねてしまっていた。
何もできず、何者にもなれずただ日々を過ごしていた自分を。
彼らにはまだ、やり直すだけの時間があった。
たとえ寿命が短くとも、まだこれからを生きることはできたはずなのに。
「おおおおおおおおおおおッ!!」
「『暴風!』」
「『魔力霧散』!!」
ユユやヒナ達が援護してくれ、途中で所長の攻撃に吹き飛ばされず、
全力の剣が光の柱を斬り付ける!
しかし、その剣は鈍い音を立て―――、止まる。
「なっ…………」
『ハハ……ハハハハハ!!!!起動した!ついに起動したぞ!!我が願いを叶えよ……
機械仕掛けの神よ!!』
光の柱から現れたものは、人とも、ゴーレムとも、機械とも言いがたい。『何か』。
自分の世界の言葉では形容できない、人の形をした『何か』が佇んでいる。
その姿は上半身のみのようにも見え、人間でいう腰から下の部分は光によってよく見えない。
高さ4mほどのそれは、無機質な顔のようなものを使い、俺達を見渡す。
「―――承認 了承 アドミニストレータを確認 言語変換 が 完了しました」
『私の声が聞こえるか、機械仕掛けの神よ。お前は私によって、生み出された私の子。
さあ、父親と共に世界を平和に導くのだ』
「―――了承 アドミニストレータ ご指示を」
「まずい、このままじゃ……」
「待って、お兄ちゃん!」
『機械仕掛けの神!我が問いに答えよ!我に絶対の力を!全ての戦争の根絶を!!』
「―――了承 アドミニストレータ 貴方のステータスを書き換えます」
『力が……力がみなぎってくる……!!』
所長までもが光に包まれ、圧倒的な魔力によって気分が悪くなっている。
まるで捕食者に睨まれた草食動物のような気分になってきた。
「ヒナ!何で止めた……!」
「私も詳しくは無いけど、機械仕掛けの神は行動中のあらゆる阻害を許さない。
お兄ちゃんが逆に消滅してたかもしれない」
「ッ……」
「お兄様、落ち着いて下さいです。お気持ちはわかりますが……」
「クソッ……!」
落ち着いてる場合ではない。
すぐにでもアイツをなんとかしなければならない。
今ならまだ、二人は戻ってこれるかもしれない。
「『魔術付与』!!、『原点回帰』!!!」
「ローツレス君!危険だ、その魔術は連発するものじゃない……!」
「ハルさん、あれがわかるの?」
「あれは私が研究していた黒魔術の一つ。アンチノミーよりも更に強い『否定』の魔術。
対象の根源を否定して、その発生を『なかった事にする』……!」
「え、じゃあ今回の相手にはぴったりなんじゃないですか……?」
「いや違う、相手が発生した膨大なエネルギーを見ろ!アレを打ち消すとなると……逆にローツレス君が消滅してしまってもおかしくない」
「……ッ、お兄ちゃん!」
『頭を垂れろ』
「ッ……!!」
―――そこには、機械仕掛けの神と融合しつつある所長の姿があった。
強力な重圧に、思わず膝をつき、思わず両手をついてしまう。
『「原点回帰」、私も知っているよ。
それを使おうと試みたのはよかった。魔力さえあれば、本当に機械仕掛けの神を元に戻しかねない魔術だ』
「き……さま……!」
『しかし君はてんで駄目だな。見てわからないのか?機械仕掛けの神は膨大な核融合のエネルギーから発生している。
それを人間一人の魔力で打ち消すことができるわけないだろう。それこそ神でもあるまいし」
「だまれ……!だま……れ!」
『まだ喋る元気があるか。君とは仲良くなれると思ったが……残念だ。そろそろ仕舞いにしよう』
所長が右手を振り上げると、そこには光の刃が完成していた。
「だめッ………!!」
ヒナが間髪いれず魔力による斬撃を射出するも、無駄と言わんばかりに余裕をもってはじき飛ばす。
『私の子ども達と仲良くしてくれてありがとう
――――死ね。』
剣が、振り下ろされた。




