神に背きし怪物達
―――
来た道を戻っていると、先ほど倒したボルドーと名乗った赤装束がいた。
しかし、まだ本調子ではないようで、よたよたと俺を追ってきたようだ。
「む、お前は確か、ボルドー」
「貴様……!さきほどはよくも……って、その子は……!」
「やっほー、れっどくろす?のひと」
カイメラを見て、かなり驚いた表情をする。
やはりそれなりに重要なポジションだったようだ。
「お前、この子について知ってるのか」
「いいや……詳しくは知らない。研究所でいつも遊んでいる子ではあるがな、ただ……」
「ただ?」
「俺達と『異なる』存在であることだけはわかる。お前は平気なのか?そのめちゃくちゃな魔力のそばに立って……」
めちゃくちゃな魔力……、そういえばこの世界では人を判別するときに外見などではなく魔力で判別していたような。
俺はそういうのに疎いから平気という事か?
「ハルさんはどう……?」
「私も赤装束の少年と近い感想だね。ただ、我々からすればむしろ『同胞』の香りがする。
人間からすれば『異なる』存在になるだろうよ」
やはり、俺が感じられない『何か』を二人とも感じ取っているようだ。
しかしながら、外見だけではどうもふわふわした子だなくらいにしか感じ取れない。
それだけ俺がこの世界ではイレギュラーな感性というわけなのか。
「『終わった』か。いよいよ始まるな」
――遠くで鐘の音がする。
確かこれは、王城にあった鐘だ。しかしながらこの場所まで響いてくるとは、
そういう魔力でも秘められているのであろうか。
「何か知っているのか?」
「敵であるお前に教えると思うか?……そうだな、だがもう頃合か。今更あがいた所でどうにもなるまい。
既に『儀式』は始まっている」
「『儀式』……!?」
「ああ、世界を正しい方向へ導くためのな」
「『儀式』とは何だ、どこでやっている?教えろ!」
「ふ、今教えずともいずれわかる事になる」
「わたししってるよ?」
「え?」
「はい?」
「ん?」
全員の視線が、カイメラに向く。
「カイメラ……様、所長から言っちゃだめって言われてなかったかな~~?や、やめましょうねマジで」
「連れてってくれるかな?」
「いいよ!」
「おい!!何で俺のほうが低姿勢なのにそいつの言うことを聞くんだ!?」
「だってれっどくろす、きもちがめらめらしててこわい」
「うぐっ……」
「この子は心の『形』まで見えるようだね……」
魔力によって人を判断する、その上位版だろうか。
彼女からすれば声や表情もあるが、心の形が魔力となって現れ、敏感に感じ取れるようだ。
「いこ、おにいさん」
「クソッ……待―――、」
いいかけ、ボルドーが自らの剣から手を離す。
俺も気がついていた。今の一瞬、カイメラが豹変した事を。
「…………おこった?」
「ぜんぜん!?ぜんぜん怒ってないですよカイメラ様!あっはっは!ゆっくり探検してきてね!」
「はーい!」
ほんの一瞬、一瞬だけであったが、彼女の眼光は獣のそれと同じく光っていた。
瞳孔が開き、獲物を捕らえる瞬間の鷹のような目。恐らく剣を抜いていれば、倒れていたのはボルドーだったであろう。
「あ、そうだカイメラちゃん、俺先に仲間と合流しなきゃいけないんだけど」
「なかま?」
「そう、一緒に遊びに来た人がいてね……」
「……いまきてるよ?もうすぐそこ」
「え?」
カン、カン、カンと地下への階段を下りてくる音が聞こえてきた。
非常電源にしてしまったせいで部屋全体が暗くなっているが、なんとなくわかる。
言われた通り、ヒナ達が追ってきてくれたようだ。
「ヒナ、それに皆!無事だったか!」
「うん、皆無事…………、ってお兄ちゃん、何、その、子……!?」
「道案内してくれるんだって」
「するよー」
ヒナに続き他の面々も、カイメラを見て青ざめた表情をする。
しかしながら誰も戦闘態勢を取る様子がないので、少しホッとする。
「やっぱり怖いのか?この子……」
「お兄ちゃん、やっぱりズレてるよね……」
当のカイメラはというと、なんだかごめんなさいという雰囲気でうつむき気味である。
自覚はあるのだろうか。
「わたしね、あんまり、あそんでもらえないの。こわいんだって……」
「……むしろこっちこそごめんな、大人ってそういう所あるから」
「おにいさんはやさしいからすきだよ!」
「そうかそうか~……ッ!?」
―――殺気!?馬鹿な、もう新たな敵が!?
「ヒナちゃん!殺気を抑えてです!」
「あっ、ごめん……」
よかった、殺気の正体はヒナか。
いやよくないな。カイメラちゃんも応戦のポーズ取らないでくれ。
ほら仕舞って、その蛇仕舞って。
「ばとるじゃないの……?」
ばとるではない。
先ほどまであった緊迫感がどんどんなくなってゆき、
かなり和んできてしまっている。いいのだろうかこれは。
と、その瞬間、またもや大きな魔力を感じる。
「お兄ちゃん!気づいてる!?」
「俺でもわかるレベルってどれくらいやばいの!?」
「ウィード君がわかるくらいならハリケーンとかの天災くらいやばいやつかな!」
相当やばかった。
しかし大げさな突風が起きるでもなく、魔力の主はひょっこりと姿を現す。
その背に瀕死の王を抱えて。
「お、カイメラじゃないか。そっちの生き物達は……?まさかお前、友達できたのか?」
「うん!なかよしになったの!」
「へえ、そりゃ良かった。皆さん、仲良くしてやってください。僕もそうだけど、この子は友達がいないから」
「ちょ……ちょっと待ってくれ!その、担いでるのは!?」
流石に突っ込みを入れてしまう。
話の流れからして、もう彼の正体はわかっている。
2体目のキマイラ―――、なんなら、カイメラの兄に当たる存在だろう。
グランディア王、つまり聖騎士としての最高の実力者をズタボロのぼろ雑巾にして、
その背中に担ぐということは――、
「お兄ちゃんよりも、ここにいる誰よりも、強い。まともにやりあって勝てるとかどうかじゃなくて……たぶん、勝負にさえならない」
「え……?」
「―――流石。噂に聞く魔人十傑は明察だね。そういう冷静な判断、僕は好きだよ。行こうカイメラ、儀式は始まっている」
「はーい」
魔人十傑を知っている……!?
こいつは……一体……!?




