強化外装 / 絶対戦線
―――
ブレーカーが落ちた瞬間を狙って―――最大限の魔力を、そこに打ち込む!
「……壊れた!」
『無限防御壁』はその名の通り、無限に近い魔力が破壊された瞬間に再構築を行う防御壁である――、と、
道中ドロシーに聞いた。
「つまり、一瞬でもその供給元を断ってしまえば、一時的に破壊することはできる……と、サルガタナス様が」
「流石お師匠様だね……、たった一回の裏切りのためだけに、数年もかけるなんて……」
サルガタナス、彼女は『叡智』の名を預かる魔人十傑であり……、ヒナの魔術の師匠でもある。
彼女の考えた作戦なら間違いないのだろうが……、だからこそ、不安要素はぬぐい切れない。
―――サルガタナスは、所長を殺せなかったのか。
―――もし戦ったら、負けていたのか?
「…………」
それだけの相手に、果たして俺は勝てるのだろうか……?
「―――おにいちゃん!避けて!」
「ッ!!」
何だこれは!?さっきの障壁が地面……いや、天井からも生えてきた!?
ヒナの助言のおかげで、とっさにかわす事ができたが……、ヒナ達と分断されてしまう。
「声は届く……!お兄ちゃん!そっち側に解除できる機構があるはず!なんとか探して!」
「くっ……わかった!」
ヒナ側にはユユ、エフィールさん、ロジーナ、
こちら側には俺、トーラス、ドロシーだ。
きれいに分断されてしまったが、まだ完全に封鎖されたわけではない。
どうやら無限障壁は特定の場所でしか出せないようで、これを使って俺達を閉じ込めるような技はできないらしい。
それをされたら終わりだったが……、おそらく、なんらかの弊害が出るのだろう。
――瞬間、体が反応する。
「ッ!」
襲い来る衝撃波を、魔力の乗った剣圧で打ち落とす。敵襲か!
「チッ……、初撃を躱されるか……」
「お前は……!前襲ってきた学生!」
「学生って呼ばないで下さい!僕はヴィックスという名前を貰っているんです。先の戦いでは遅れを取りましたが……、今回は違いますよ!」
そう言いながら腕を振るうと、またしても衝撃波が発生する。
「まずい、トーラス!ドロシー!」
俺は反射に近い『加護』で防げるがあの二人は一般人だ。
まず二人を守らなければ……!
土煙の中から、白銀の騎士に守られた二人が見える。
「無事だったか、トーラス、ドロシー、少し離れて――」
「ウィード君!先へ行ってくれ!」
「は!?」
「ここは僕が相手をする!君はこの防壁の解除に行ってくれ!そのほうが戦力としては助かるはずだ!」
「トーラス、お前……」
え、そんな勇敢なキャラだったかお前……、と思ったが、
ふと騎士の足元を見ると、守りきれなかったのか、ドロシーの足から少し血がにじんでいるのが見える。
そして、トーラスの足は傍目に見てもわかるほど―――、震えていた。
「……わかった」
トーラス達を振り返らず、走り出す。
「逃がすと思いますか!?強化外装!『コード:п』!!」
突然、ヴィックスと名乗る少年のマントが変形し、土の塊を形成する。
「破壊しろ!」
「守れ!」
飛んでくる土の弾丸は、俺に当たる前に、全て白銀の騎士と、トーラスが新たに呼び出した『盾』によって防がれる。
「ちっ……!強化外装のコードを受けて破壊できないとは……厄介な魔道具を使いますね!」
「それくらいしか取り得がないからね……!」
―――
トーラス達にその場所を任せ、走り出す。しかしながらこの研究所は広く、
部屋も多すぎるため、どこに行けばいいのか全くわから…………ん?
あきらかに俺の影が少し多い。
いや、この姿は―――、
ぬるり、と動き出す黒い液体。
「待っていたぞ。君達がここまで来るのを……む、一人か?」
「ハルモニー!」
「こら、正式名称でよぶな。ハルでいい」
彼……彼女?は『変容』のハルモニー。
魔人十傑の一人で、あらゆる姿に返信できる不定形の生物だ。
スライムのようでそうでない、今のところ一番謎の人物だ。
「私ではこっそりブレーカーを落とすのが精一杯だ。赤装束達と戦闘になってしまっては勝てる未来が見えない。
まずは障壁のコントロールシステムを叩くぞ!」
「わかった!」
「こっちだ、案内する」
ハルモニーの案内に従い、複雑な道を通り抜けて行く。
意外と罠等もなく、カメラもないのが不思議なところだが……。
「油断はするなよ、曲がりなりにもここは敵の本拠地、いつ襲ってくるか……」
「ハル、待った!」
「む?」
「そこにいるな?赤装束!」
「…………いるとわかったら攻撃すればいいものを、君は聞いていた通りのお人よしだな、ウィード・ローツレス!」
「お前は確か……ボルドー!お前こそ、本拠地なんだから遠慮せず攻撃すればいいだろ」
「フ、今の俺にその必要などない!」
やけに自信満々である。何か秘策でもあるのか……?
「正々堂々、ここで打ち倒す!この『強化外装』の力を以てして!」
「強化外装だと……!?」
「フフ……この力は秘密裏に研究されたトップシークレット、知る由もない!」
「ウィード君、あの『強化外装』は所長が秘密裏に研究していた魔法装具の一種だ。持ち主の魔術特性を最大まで引き出す上、
魔力をためておく桶のような役割も担っている。一般人でも一個小隊程の戦力に強化される」
「ちょ……勝手に説明するなよ!秘密のほうがかっこいいだろ!!]
中学生なのかなこいつ……。
「まあいい!我が強化外装の力を存分に味わうがいい!『コード:р』!」
右手からレイピアのような剣が呼び出される。
そして彼を中心とし、円が広がり、何故かハルモニーが弾き飛ばされる。
「ハル!」
「ぐっ、私は大丈夫だ!それよりこの……結界!」
しまった。
いつの間にか俺も結界の範囲に入ってしまっている。
これは相手を拘束するタイプの魔術か……!?
「無駄だ。この結界を出るには、俺を倒す他ない。構えろ、ウィード・ローツレス」
「……これがお前の『強化外装』の効果ってわけか」
「ああ。俺の強化外装、『絶対戦線』は一対一の戦いを強制する。
決着が着くか、俺が倒れるまで解除されない」
「なるほどな。わかりやすくていい」
剣を構え―――魔術を付与する。
「『魔術付与』……」
「フ、馬鹿の一つ覚えか。アンチノミーごときでこの俺が倒せるなどと……」
「『発火衝撃』」
「な!?」
剣を地面に叩きつけると共に、すさまじい量の火花と爆音。
俺は準備しておいた耳栓によって、鼓膜の破壊は防げたようだ。
「な、な……!?」
「結界が……魔力も反射するものかと思ったけど、当たりだったみたいだな?」
『発火衝撃』はその名の通り、激しい衝撃と火花を生み出すエンチャントだ。
破壊力自体はそこまでだが、その音を間近で聞けば難聴になるほどの魔術ではある。一度俺は失敗してユユに回復してもらった。
今まで使わなかったのは、周囲に気を使っていたからだ。ここには耳がそもそも存在しないハルモニーしかいない。
「き、いて……いないぞ……!」
「……言ってないからな」
結界の弱まりを感じる。さて、まず一人をのして……次へ進むとするか。




