それぞれの思惑
―――
「……ぶはっ!」
「今のすごい魔術ね……流石お師匠様」
「い、今のは一体……?機械仕掛けの神って……?」
ドロシーが持ってきた「記憶共有」の魔術によって、俺たちへの共有は一瞬で終わったものの、
時間としては非常に長く感じた。
だが、これでますます奴の計画を止めねばならないという事ははっきりわかる。
ただひとつ、気になるのは―――、
「『機械仕掛けの神』を起動したら……何が起きるんだ?」
「すみません、それは、私にも……」
「あっ……そうだよな……すまない」
「いえ、おそらくサルガタナス様も遅れてこちらに到着する予定ですし、その際に聞けばよいかと」
一緒に来ないのは何か理由があるのだろうか。
今回の件に魔王が来ないのも不思議だが……魔王は魔王でほかの仕事がありそうだし。
『機械仕掛けの神』がやべー魔術で多分現状出てきた中で最強、というのはわかるが……、
具体的な脅威と対策についてはなんの情報もなかった。これは魔王たちにもまだその情報はないという表れなのだろうか。
とかく、発動する前に止めるのが最も良さそうなのはわかる。
「急ぐぞ!」
「お兄様、これ以上はスピードが出ないと思うです……?」
「……そうだよな」
急がば回れ。まずは潜入計画の振り返りを行う事にした。
―――
「『儀式』にはもう少し準備が必要だな……。ベンジャミン、王女を丁重に保護し、保管室へ連れて行け」
「はっ!」
ピッ ピッ
「ん……?」
「どうされました?」
「いや、研究所周辺のセンサーに反応がある……、これは……まさか!」
―――ウィード・ローツレス。私と同じ異世界人……!
しかし何故!奴らはディアブロウスと交戦中のはず……!
「所長!大変です!」
「どうした!早急に報告しろ!」
「は!騎士団との交戦中、突然現れた竜人族によって、ディアブロウス様が攻撃を受けております!」
「竜人族……だと!?」
そんなものはこの王都のデータにはなかったはず……!
おのれ、ウィード・ローツレスめ……、なんらかの策を講じたな。
つまり竜人の攻撃によって、ウィード一派を足止めし損ねたという事か。
だが、王女はこちらにある……!まだこちらの有利は変わっていない!
「やはり……あの時殺しておくべきだったのか……?」
いや、彼は私と同じ日本人だ。
きっと私の偉大な発明を理解し、共感してくれるはずだ……。
正しき導きに耳を貸してくれるはずだ……、日本人ならば、対話で解決できるはずだ。
「捕獲用の自走兵器を出せ、彼らも恐らく……良い『素体』となるはずだ」
―――
「お兄ちゃん!前から魔力反応!」
「もう出てきたのか!流石に早いな……!」
複数体の機械兵……!
同時に複数を相手にするのはキツそうだ……!
「皆、とりあえず作戦通りに一体ずつ……!」
「まってお兄ちゃん、後ろからも魔力反応!?」
「な!?」
後ろ……!?
まさか、ディアブロウスが―――!?
瞬間、先頭の機械兵が地面に叩きつけられる。
そのままモーターが激しく回転し、駆動を止める。
「あの魔術は……!」
「エフィールさんです!」
後ろから来た馬車がこちらを追い抜き、止まる。
こちらの馬車もこのまま強行突破は難しいと考え、いったん停止させる。
「ユユを……また、危険な所に連れ出して……」
「え、エフィールさん!?ユユは自分の意思で来てるですよ!」
「それにしたってローツレス君!水臭いよ!ここまで巻き込んでおいて置いていくなんて……!」
「ロジーナも……!」
流石に危険だと思ったので、今回こそ巻き込まないようにと思ったが……、
余計なお世話らしい。まったく、良い友人に恵まれ………………、
ん!?
まて!?
今何した!?
「エフィールさん!?ちょっと待って!こいつらは魔術にある程度の耐性があるはずだ!
何故今……機械兵を押しつぶせた!?」
「魔術への……耐性……?ごめんなさい、難しい事は……」
「お兄ちゃん!また来る!」
「やべっ……!『魔術付与』、『二律背反』!」
「……遅すぎるわ」
みしり。
また機械兵が地面にめり込み、駆動を停止する。
「え……!?」
効いているどころの話ではない。
全く魔術への耐性がない程……あっけない?
「そうか!あの魔術は『独自魔術』だから……!」
「独自魔術なら勝てるのか?」
「ううん、私の『魅了』は効かなかったから……、でもアイツらが対応できるのは、一般的に知られてる魔術だけのはず!ならば!」
ヒナが魔法陣を両手に作りながら解説してくれる。
「堕ちろ、地上にある物よ。沈め、その地に触れるもの―、『深遠泥沼』!」
走ってくる機械兵の足元が次々と沈み込んでゆき、機械兵達は地面に飲み込まれてゆく。
「すご……!」
道ができた。これならば突破できる……!
―――
「報告です!自走兵器達が地面に沈められて……!賊一派、研究所内に侵入します!」
「なんだと……!?」
馬鹿な、ありえない。自走兵器には改良を加えた魔術耐性装甲があったはず。
あらゆる文献から防御魔術の要素を取り入れ、非常に微細なチップにして組み込んだはず……!
それがこうも簡単に突破されるとは。
「仕方ない、各員、戦闘準備!ありえないとは思うが……奴らなら無限防御壁も突破しうる恐れがある……!」
無限防御壁はその名の通りの防御壁である。
あのエネルギー源は核融合ににた魔術融合反応によって起きている。
単にこの研究所を動かすだけならばそれこそ1000年は持つエネルギー量だ。
それを一介の魔術師等が削りきれるとは思わない。
動力源が駆動し、システムが駆動する限り……永久に防御壁は破られない。
「……!」
爆発音が轟く。
奴らが防御壁に攻撃を始めたか。
しかし無駄だ。その防御壁は強固なのではない。無限に湧き出るのだ。
何度魔術をぶつけようと、何度打消しを行おうと無限に生成される。
こちらは時間さえあれば―――、儀式さえ完了してしまえばよい。
せいぜい時間を稼がせてもらうぞ。
―――ぷつん。
瞬間、部屋の明かりが消え、
また明るくなる。
「ッ…………止めろォ!!!」
たった今、今、何者かによってブレーカーが落とされた。
これは予備電源が起動した証!
すなわち、膨大な電力を使っていた無限障壁は、一時的に消える!
「報告です!賊一派、侵入しました!」
「聞かなくてもわかっている……!捕縛だ、最悪殺してしまっても構わん。強化外装の使用を許可する。
まとまって戦うな、再起動した無限障壁を使って分断しろ。各個撃破だ」
「強化外装!……宜しいのですか!?」
「なりふりかまっている場合ではない。私も準備する!」
誰がブレーカーを落としたか―――、そんな事は今考えている場合ではない。
問題は奴らだ。なんとしてでも王女の奪還を阻止せねばならない。わが計画のために……!




