決戦、『壊滅』のディアブロウス
「アイツは『壊滅』のディアブロウス……、私も直接見るのは初めてだけど……多分間違いないと思う」
「壊滅ってまた物騒な名前だな……!?」
「この物騒な二つ名は、アイツの実績から来てるの。様々な軍隊を単独で壊滅させてきたその実績から……!」
単独で軍を壊滅……、魔人十傑を見てるとそこまでおかしい話ではない気がしてきた。
「『壊滅』の二つ名を持つそれは、数多の手をもち、人間の心を掌握する事を得意とする。
人を傷つけ、血を啜る事。それがすなわち反逆の条件である――、って言ってたと思う。今の奴の攻撃とピッタリ……、
それよりもあの禍々しい魔力は、魔人十傑か、それに連なるものでなければ出せない……!」
「そうか、あの触手を使って兵を操り、同士討ちさせることによって滅ぼしてきた、って事か……」
「おそらく。でも理由はわからないけど……アイツは何年か前に魔人十傑を……魔王軍を抜けてるの。
それからの行方は知らなかったけど、まさかこんな所で出くわすなんて」
聖騎士団の攻撃がやまず、俺達は防戦一方を強いられている。
「二律背反」で殴れば元には戻るが、いかんせん数が多すぎる。
「まずいよウィード君!バレットが底を尽きそうだ……!」
「マジか!」
このままではジリ貧だ――、それなら……!
「ヒナ、頼みがある!俺に強力な『魅了』をかけてくれ!」
「は!?」
「お兄様!?突然何を言い出すです!?」
「考えがあるんだ、とにかくやってくれ!」
「いいけど……廃人になっても知らないよ!?『愛魅了』!」
「ぐっ…………!?」
心臓が脈を打つ。
体中の血液が巡っていくのがわかる。
彼女、ヒナへの想いが強くなっていくのがわかる――、
しかし、それでも―――――、
「ありがとう!行くぞ……!」
「へ!?効いてない……!?至近距離なのに……!?」
いや――、
しっかり効いている、とは思う。
聖騎士が弾き返せるのは基本的に「悪意」や「害意」であり、
今のヒナの『愛魅了』にそんなものは混じっていなかった。
俺が動けるのは全く別の理由からだ。
「カカ!単身向かってくるか。その蛮勇は褒めてやろう。しかし甘いな。戦場を舐めすぎである」
多数の触手が俺を取り囲む!
流石に剣で弾ける本数ではない。
「お兄ちゃん……!」
ヒナ達の支援も間に合わない。
「ぐああああああっ!!」
――触手の襲撃を受ける。
致命傷は避けた。まだ動ける。
しかしながらかなり傷をつけられてしまった。つまり奴の発動条件を満たしてしまったという事になる。
「カカカ……貴様も傀儡子となるがよい」
俺の傷に向かって赤い魔力の糸が伸びる。
これが「パス」となって相手を制御していたのだろう。
「う……」
俺はゆっくりと立ち上がり―――
そのまま後ろに剣を投げつける!
「―――何!?」
剣は触手を貫通し、ディアブロウスに突き刺さる!
「莫迦な……!貴様、確かに傀儡にしたはずでは」
「されたさ……だがその前に、俺はヒナのより強力な魅了を喰らったのさ!」
素早く近づき、剣を抜き取る。
そこから続いてもう一度切りつける。
思わぬ抵抗に操っていたはずの騎士団達の動きが止まる。
やはり、洗脳した相手の制御をする際は、自分自身の攻撃や防御ができない。
洗脳系の敵あるあるだ。
「魅了されておいて平静を保っていられるわけがないであろう……!貴様、何者だ!?」
「フ……俺は既にヒナに魅了されている!だから魅了魔術を受けてもいつもと変わらなかったという事だ!」
「猪口才な……!そのようなとんちで我を出し抜くか!」
「どこでもルールは同じだって事だな?同じ洗脳系が混在する体には、より強い洗脳が勝つ!という理論だ」
「我が直接手を下すまでもないかと思っていたが……考えを改めよう。貴殿は強者であると!」
瞬間、触手がディアブロウスの体に戻り、それと同時に右腕から鉄塊のような棒が出現する。
「なっ……!」
「ムンッ!!」
鉄塊に思い切り殴りつけられる。
とっさに剣で防いだが、衝撃をそのまま受け、後方に吹き飛ばされる。
さらに続けて、地面に触手を突きたて、その反動で跳躍、一気に距離を詰めて再び殴りかかってくる。
「《球檻》」!
とっさのヒナの防御が間に合い、鉄塊はギリギリのところで止まる――、が、
「無駄である!」
「な!?」
《球檻》を叩き割り、そのままもう一度振り下ろす!
なんて力だよ……!?
なんとか剣で受けるが、剣に違和感がある。みしみしと音を立て、剣が折れかけている。
「やべっ……!」
防御が、間に合わない―――
「良い腕であったぞ、人間よ……!」
「くそッ―――」
―――瞬間、
爆炎と共に、俺とディアブロウスは吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた俺の懐からは、いつか貰った銀の勲章が零れ落ちる。
強い輝きを放つそれは、何かから魔力の供給を得ているようにも見えた。
「いつまで油を売っている。来訪者よ」
……この声は!?
「えっ……まさか……!?」
「懐かしい顔であるな。しかし貴様と会うとは思わなんだぞ……『煉獄』」
――そう。甲冑に身を包んだ竜人族。
俺が最初に刃を交えた、『煉獄』のヴォルカニクス、その竜人だ。
「魔王様から呼びつけられてな。お前ほどの者が苦戦する相手がどんな奴かと思ったが……まさかこいつと再会する事になろうとは」
「『煉獄』……丁度良い。我も貴様とは決着をつけておきたいと思っていたのである」
「魔王様を裏切った罪は重いぞ、『壊滅』。その罪、お前の首で償ってもらおうか」
「今日は自慢の竜騎兵団はいないか――、カカ、我を恐れたか?」
「知れたこと。お前一人の首を狩るのに、わざわざ軍を動かすまでもないという事だ!」
火柱が立ち上がり――炎の斬撃がディアブロウスを襲う。
「早く行け来訪者!とっくに人質は奴らの拠点に運ばれている!
そこの麻袋の中身はこいつの触手だ!」
「もう気づいたか……!グ、ググ……!」
「あ、あれ……?」
「ここは……?」
「姫様の、護衛……?」
次々と騎士団の面々の洗脳が溶けていく。
ヴォルカニクスの猛攻に、騎士団の洗脳を維持するほどの魔力すら割けなくなった様だ。
「急ごう!ヒナ!位置を……!」
俺達は再び、敵の拠点へ向かう。
位置は魔力追跡を使えば簡単に特定できるはずだ。




