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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第五章 機械仕掛けの神
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「器」と「力」




ここは……。



神殿……か?



あちこちに立つ女神の像。中心に据えられた雷のシンボル。

ここは教会……または神殿だろう。



以前、竜の棲む島で見た場所に印象が近い。



人の気配……はするのだが、誰も見つからない。むしろ人の中にいるような……そういう感覚だ。



しかし何故俺はこんな所に?


竜の棲む島でユユを助けた後……王都へ向かったはずだ。


ユユ、ユユ……?




…………待て、何かを忘れてないか?



俺はその後どうした?王都に行って……そうだ、王女も助けてて……、



騎士団に行って、それから……それから?



ダメだ、まだ記憶が曖昧だ……。



まずはここから出ないと。いや、出るんじゃなくて……「何か」すべきだったはずなんだが……。





…………!?




突如、振り返ると底には黒い影、浮き出た目玉の魔物。



右手に持っていた剣で切り払うと、その魔物は跡形もなく消えうせる。



「魔核が落ちない……?」



魔物を倒した時は魔核の破壊か、封印までセットだったはず。


霊体系の魔物からは落ちないという事なのだろうか。




―――と、気づけば周囲から魔物の気配が。



ツタを伸ばし襲い掛かる巨大植物


意思を持った火の玉、


石でできたゴーレム、


巨大化した魔狼、


人型のオークとゴブリン、


首無しの騎士―――




「……くそっ!」




数が多い。


さらには足元から骸骨の兵士が次々と湧いて出てくる。


次々と切り伏せ、先へ進む。



さらに表れたるは―――――




「ドラゴン……!」




竜の棲む島で見たもの程の大きさではないにしても、

俺程度なら軽く踏み潰せそうな巨躯。



しかしながら、今は畏怖している場合でも、怖気づいている場合でもない。




「……罷り通る!」



一閃。



ドラゴンにでもこの力は効いている様だ。


素早く背中側に回り込み、尻尾での牽制を剣で弾く。




―――瞬間。



回避行動が間に合わず、火炎のブレスをもろにうける。





「ぐああああああああああああああああっ!」




だが、耐えた。


これが、加護の力だろうか。


まだ生きている。まだ体は動く。




「どりゃああっ!!」



大きく袈裟切り。


真っ二つ―――とまでは行かないが、ドラゴンに深い傷を与えることに成功する。




そして、ドラゴンと一進一退の攻防を繰り広げ、


ついにその剣が心臓を捕らえる。



終わりだ。



静かに沈み込む姿は、少し物悲しさを感じた。


体もずいぶんボロボロになってしまった。どこかで手当てをする必要がある。


初級の回復魔術程度ならば使えるはずだ。



そうして、歩く、歩く、歩く――――



また、「何か」が現れる。



そいつはボロボロの黒い布を纏い、


大鎌を携えてこちらを見据える。



足であるはずの部分にはただ布だけがあり、


顔であるはずの部分には人間の頭蓋骨がある。




そうか、所謂、「死神」という奴か。


ステレオタイプな死の概念。

大鎌を持った亡霊のような存在。



しかし、ここでは異なるのだろう。


何故なら俺は既に神を見ている。故にお前は神ではない。



「神でないなら、殺す事だってできるはずだ」



消えうせろ、怪しい亡霊よ。



大振りの大鎌は当たらなければただの刃物だ。振りかぶったところに回り込み、後ろから一閃。


そのまま地面に叩き落し、布ごと頭蓋骨に剣をつきたてる。



何が死の概念だ。お前が死ね。



次もまた、何かが現れるが――――「そいつ」は何かが違った。


今までのものとは覇気が違う。




「死すら恐れぬとは、存外人間という奴も面白いものかもしれぬな」



からからと笑いながら現れた少女は、どこかで見た姿を―――




「……ユユ!?」



ユユ、正確には、少し成長したユユという感じだろうか。


あのまま大人になったら、このような綺麗な女性に育つ……そういう雰囲気の。




「違う。『器』と我は異なるものだ。この姿は仮初のもの。我に姿などという三次元的なものは存在せん」


「ユユ、じゃない……じゃあ、貴方は、一体……?」



「神。いや―――正確には神の振るう『力』そのものよ。本来なれば人格をもつものではなかろうが、

いつしかこの器の中で形成され、一個の存在となっている。人間には理解の及ばぬものだ」


「ユユは、ユユはどこにいるんですか!?」


「さあてな。汝らはあの子に負担を強いすぎた。心が、精神が悲鳴を上げている。これ以上の無礼は我が許さん。

さっさと消えうせるがいい」




器?神の力……?


何を言っているのか全然分からない。


しかしここで、ここで引くわけにはいかない。



「そうはいきません。俺はユユを……ユユを探しにきたんです」


「………一つ忠告してやろう」


「……?」


「今の汝は精神そのもの。肉体は存在せん。しかしな。精神が滅びれば、当然肉体に帰るものはない。

一生心を失った人形として生きながらえることになるだろうよ」


「それでも――――― ……がっ!?」



右足が吹き飛ぶ。見えなかった。一瞬の間に光線のようなものをぶつけられたか。


バランスがとれず、無様に床に転がる。血が止まらない。



「まだ耐えるか。汝の精神はすでにズタズタではないか?無理はするものでない。

大人しく帰るのであれば逃がしてやろう。傷も治る。さ、早々に失せろ」




「ま……だ、だ、」




「……その体で、立つか」





瞬間、次は左のわき腹を貫かれ、右の肩にも穴が開く。


顔の一部もはじけとび、左耳の感覚がなくなる。



体中から穴が開き、血が噴出す。


本来ならばもう助からないほどの出血量だが、辛うじて意識があるのは精神であるが故か。




「……何故だ」


「……な………ぜ……?」



「何故立つ、何故進む、何故足掻く。もう汝は死んでいてもおかしくはないぞ。今汝を動かすは気力のみ、

それが尽きればこの空間からも永遠に消える、虚無となるというのに」



「……ユ……ユが」





ユユが、待っているから。






「お兄様!」




―――この声は!




「……まさか、汝の声に呼応したとでも言うのか?そんな事が」



「い……ま……たす……け」



「お兄様!もうやめてくださいです!それ以上無理したら、お兄様が、お兄様が……」




「だ……じょ……ぶ……」





大丈夫だ。


俺は何度だって立ち上がり……、




「お前を……守る……から……」



吹き飛んだはずの足の感覚が蘇り、

焦点が定まってくる。



ユユに似た綺麗な女性であろうとも、俺たちの歩みを邪魔するのであれば―――




「斬る!」



大きく助走をつけ、手に持った剣を振りかぶる。


すんでの所で躱されてしまったが、当てられないスピードではない。


このまま続ければ―――、



「待て、汝……この我に剣を振るったのか?我は神の力そのものであると、確かにその耳で聞いておきながら」


「そうだ」


「……………く、く、く」


「何がおかしい!」



「くくく……はは!面白い、面白いぞ人間よ。我もまだこの世界に個として存在する歴史は浅いが、

それでも汝のようなものは見た事がない。異分子にも程があるだろう」


「何とでも言え!たとえここで殺されても!俺はユユを連れて帰る……!」



「……止めんよ。好きにしろ。元より我はこの子を守っていただけだ。

ただ、今回のような目にまた遭うようであれば、それなりの裁きは覚悟しておけ?」


「ぐ……」



「お兄様!」



いつの間にかユユがすぐそばまで来て、傷ついた俺の体を心配そうに見回していた。



「ど、どこから治療すればいいです?あ、足は治ってるです?血がたくさん……」



「……ありがとう。俺の治療はいいから、戻ろう」


「戻る……?」



「ああ、戻るんだ」




どこへだったか―――、それは良く覚えていない。

しかしながら、どこかに戻る、それは良く覚えている。来た道を戻れば良いか。



「ふ。面白いものを見せてもらった。餞別だ。意識を元に戻してやろう。

突然暗転するから、体の制御はしっかりとな」




そういわれた瞬間――


           視点がぐるりと傾いて―――





「……………っ!?」



「お兄ちゃん!やっと戻ってきた!」


「えと、ヒナ……これは……」


「まだ寝ぼけてるんだね……今、結構やばい状況みたいだから、まずは情報を整理しよっか……!

ちゃんとユユちゃん連れてこれた?」



「ヒナちゃん……えっと、迷惑かけて、ごめんなさいです?」


「記憶、ちゃんとあるんだね……でもよかった、心が壊されてなくて」


「ユユ……心配した……!」



ぎゅ、とユユを抱きしめるエフィールさん。

こちらも洗脳は解けているようだ。



洗脳……あ、そうか。


俺はそもそも、ヒナのサキュバスとしての能力を使って、ユユの夢に入り込んだ。

それから……それからどうしたっけ?まあ覚えてないが、ユユの意識は戻せたらしい。



「ロジーナちゃん達のほうがかかりは弱かったから……割と簡単に戻せたよ。

ユユちゃんだけは厄介だったからお兄ちゃんに頼んで正解だったね……」


「ありがとう、ヒナ、それから状況は……?」



「まずい事になってるみたい。トーラス君、さっきの情報を……」


「…………………………」


「トーラス?おいどうした、トーラス……!?」



ま、まさかまた、洗脳に……!?」


「お兄ちゃん、これは違うよ」




「あ、目を覚ましたんですね。おはようございます、お兄さん」




……え?



この気さくな話し方、


トーラスがガッチガチに固まるロリ巨乳は……。




「ドロシー!?」



「はい、ドロシーです。あまり説明している時間はないんですけれども……、順を追って話しますね」


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