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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第五章 機械仕掛けの神
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仲良しトリオ奪還作戦


赤装束の面々にユユ、エフィールさん、ロジーナが攫われたため、実行犯を追いかけていた俺達であったが、

途中、「研究所長」を名乗る男の操る機械兵を前に撤退。魔人十傑の一人である『変容』のハルモニーと合流し、

態勢を整え、再度研究所に向かうこととなった。


作戦は非常にシンプルなもので、機械兵を物理的な力で止めているうちに、研究所内に進入、

そして三人を奪還するというもの。


機械兵はもとの世界にあったロボットとはことなり、魔術的な要素が働いており、

魔法攻撃をある程度弾くという情報を得た。通常のロボットであれば配線系の一つでも焼ききってやれば停止するため、

この剣と魔法の世界ではかなり貧弱な部類に位置するが、そう一筋縄でいく話ではないようだ。


そのため、使い捨てではあるが一度に大量展開ができ、かつ足止めに丁度いいマジックプレートを準備。

元々用意してあったトーラスの魔術道具を改造したものだ。


トーラスはこの数日でかなり上達したようで、ハルモニーもヒナも驚いた表情をしていたのが新鮮である。





「……よし、見張りはいないか?」


「気をつけて、お兄ちゃん、何らかの魔力を感じる……敵かも」




正面以外の入り口を見つけられなかったため、

バカ正直に正面から突入する事に。扉を最小限の力で破壊し―――、



「危ない!」



ヒナに突き飛ばされる。幸い、ヒナ自身も怪我を負っていないようだが、

ここで攻撃がしかけられたという事は、一つしかない。

普通に待ち伏せされたのだ。



「やっぱり強行突破しかないか」



最初の想定どおりである。

結局機械兵との戦闘は想定している。あとは手はず通りにトーラスの魔術道具を起動させて―――





「かわしたんだ。やっぱり只者じゃないよね、ローツレス君て」




「―――ッ!?」




この聞き覚えのある声は。




「ウィード・ローツレス……貴方が来る事はわかってた」



「お兄様、大人しく先輩方の『お話』を聞いて頂きたいです!そのためならば!ユユは心をオーガにするです!」




無詠唱で手の上に魔力を紡ぐ二人。





―――そう、ロジーナ、エフィールさん、ユユの三人が、


敵としてたちはばかっているという事だ。



「予想より早く会えたな。僥倖だ」


「ふ、ふざけてる場合じゃないですよせんせ……ハルさん!あの人たちはおっかない強さなんです!」




ここではヒナが一番強いとは言え、向こうはそれぞれが個別の得意分野を持つ上、

単純な遠距離戦なら魔術師が強いというのは、王都が国を挙げて魔術師を養成する事からも明白だ。


どう戦うか、まずは作戦を立て直さなければ―――、




「遅いです!『雷撃フォルグア』!」



「ぐっ!?」




ユユの雷撃が飛ぶ。

前回と違い、加護の反射が効いた。雷撃フォルグアは速度が人間の反射を超えているため、

発生のタイミングで回避行動を取らなければ必中という鬼みたいな技であり、

かつユユの得意技だ。ユユの恐ろしさはその雷撃フォルグアを無尽蔵に打ち出す事ができるという事。


ならば先手を取ってユユを無力化するのがもっとも効果的なはず。

ユユとヒナでタイマン勝負をさせるのはあまりに危険だ。どちらかが致命傷を負ってもおかしくない殺し合いに発展する。



「『魔術付与(エンチャント)』、『二律背反(アンチノミー)』!行くぞッ……!」





「……動かないで」




―――瞬間。俺の動きが静止する。


正確には時間や動きを止められたのではない、とてつもなく、体が重いのだ。


走ろうとする足がでない、振ろうとする手もでない、そして眼前には、



「『防壁ウォール』!!」



雷撃フォルグアが発生するほんの数秒前にヒナの防壁が発動。


間一髪、雷撃をそらすことに成功する。



「ローツレス君は知らないのね!エフィールさんのあだ名の由来を」


複雑な魔術を展開しつつ、ロジーナが話してくれる。



「彼女の魔術はあだ名から水系統を予想されがちだけれど実際は違う。

彼女の専門はどちらかといえば地、闇、光……、『物体の動作を鈍くする』というのが彼女の強みなのよっ!」



バーン!という音が出るくらい明白に説明してくれるロジーナ。

いつものクセなんだろうけど、今は敵同士なのでダメなんじゃないのか?



「というわけでエフィールさん!?ローツレス君なんて構ってないでこっち助けて!?

とっても強い!これ私勝てない!」



そうか、俺一人にユユ、エフィールさんが参戦したらロジーナ側はヒナ、トーラス、ハルモニーか。パワーバランスぐちゃぐちゃじゃん。

ロジーナちょっとかわいそう……。



すると俺の動きが戻った。あの距離から静止魔法――、いや、まだここでは概念が確立されていないのか、

これは恐らく『重力魔法』とジャンルすべきものだ。あらゆる物体を静止させる、というのならばそれは力を加えるもので、

風の圧力や凍らせるなど方法は多々あれど、見た目に反映されないのは重力くらいのものだろう。

本気だったら潰されていたので助かった。



「エフィールさん、ごめんっ!」



クラスメイトへの発砲はまだ慣れないか。


わざわざこちらを向いていたエフィールさんに気づかれるような事をしてまでトーラスが魔術銃を打ち出す。


銃の歴史は古く、1600年ごろでも普通に使われていた。この魔術銃は俺のアイデアが入っており、

火打ち石と鋼鉄の代わりに、火魔法を起動にして発砲するタイプだ。



「……無駄」



銃弾の速度さえも超える無詠唱の恐ろしさか。

弾はピタリとエフィールさんの眼前で停止する……




のは、計算どおりだ。




「『破裂クラッシュ』!」



トーラスがあらかじめ決められたキーワードを叫ぶと、

その場で銃弾が破裂する。


無論、銃弾一発が眼前で破裂したところでダメージは少ない。

問題は――――そこではない。




「く……!?」


「効いてる!やった!」



そう、これはスリープマッシュ、眠気を誘う成分を持つ茸の胞子が込められた、

名づけて『レスト・イン・バレッド』自分で試したときは気絶するように眠ってしまい、

翌朝ヒナが起こしに来るまで完全に熟睡していたほどだ。


エルフに対してどこまで効くかは不明だが、クスリやタバコ、体に害のあるものをやりなれていないであろう事から想定した作戦だ。

少なくとも慣れてはいるまい。



「数秒もらえれば十分!『その枷は絡みつき、拘束する、《捕縛バインド》!』


「させないです!『雷撃フォルグア!!』



ユユとヒナの詠唱はほぼ同時、それならば恐らく到達時間はユユの方が早い!




―――ならば!!



「お兄ちゃん!?」



「よ、読んでたぜ、ユユ……、お前がヒナを阻止するために雷撃フォルグアを使うことはな……!」



ブスブスとこげた臭いがするが、何とか体は無事のようだ。


加護様様と言った所か……。



「お兄様……ぐっ!」



捕縛バインド』は確実ユユの体を拘束する。

エフィールさん、ユユを拘束したため、あとはロジーナだが、めちゃくちゃ普通にハルモニーとトーラスに圧倒されていたので無視した。

そうだよね、そういう力関係だよね……。



――瞬間、拘束したはずのユユ達から殺気を感じる。


「ヒナ!」


「わかってる!『閉じ込めよ球体――、ッ!?」



地面に強く叩きつけられ、詠唱が中断されてしまう。


この魔術――エフィールさんか!



「……ユユは、私が助ける」


「ヒナ!大丈夫か!?」


「……全然大丈夫じゃない!お兄ちゃん助けて!」


「助けるってどうやって……」


「殴って!」


「は!?」


「いいから!二律背反(アンチノミー)で私を殴って!」


「そうか……ごめん!」


「いたい!」



ヒナの重力が解除された。

その瞬間、雷撃が俺を掠める。


ユユもエフィールさんも、どちらも拘束されたままでありながら、

無詠唱ノーアクションで魔術を放ってきている……!



「化け物かよ……!」


「化け物だよ!『防壁ウォール』!でも今の精神状態は本領発揮じゃないみたい……。

全然連続で飛んでこないし、確実に精度が落ちてる!」



防壁でユユの雷撃を弾きつつ、拘束された二人に迫る。



「ウィード君!これを!」


「お、おう!?」




投げられたのはシルバーのプレート。白銀の騎士が刻印されているはず……。



「トーラス、これは……!」


「役に立つかもしれない、試してみて!」



白銀の騎士の戦闘力は高くはない。

あの二人相手に通用するとは思えないが……そうか!



エフィールさんがこちらを睨みつける、と同時にプレートを起動させる。


「『我が身を守りたまえ!白銀の騎士よ』!」



白銀の騎士は召喚されると同時に、姿勢が崩れ、膝を着く。



「やはり……!」



エフィールさんの重力魔術はまだ重力という存在そのものが理解されていないことから、

精度や対象が雑な判定である――そう仮説を立てた。


さらにヒナに重力をかけた後、俺に対しての重力攻撃がなかったことも怪しかった。

おそらくあの魔術は難しすぎるがゆえに、「対象を同時に一つしか取れない」とみた。


ならば囮として白銀の騎士に重力をかけてやれば……!




「……ッ!」



焦っているようだ、さすがにあれだけ高度な魔術、連発はできまい。


「『閉じ込めよ球体よ!《球檻クラウン》』!」



ヒナの収監魔術が成功し、エフィールさんを今度こそ完全に捕縛する。



「でもあれ、また無視して魔術放ってくるんじゃ……?」


「あの状態なら魔力が乱反射して精度が悪くなるはず……だよっ!もう一度!『閉じ込めよ球体よ!《球檻クラウン》』!」



続いてユユの捕縛にも成功する。

凶悪な無詠唱組二人の捕縛に成功、あとは洗脳を解くだけだ。



「……て、ヒナ、どうしたらいいのこれ」


「……ん、『奥の手』を使うしかないね!」



あるの!?奥の手!?



「私の『魅了チャーム』だと下手しユユちゃんを廃人にしちゃうかもだから……」


「そういえばそうだったな……それじゃあどうするんだ?魔術を解除すればいいんじゃないのか?」


「ううん、これは魔術だけじゃない……本当に心理を揺さぶるような……認識のズレを起こしている。

お兄ちゃんが直接心を揺さぶってあげないとダメみたい」


「さすがにそんな能力はないんだが……」


「お兄ちゃんにはなくても、私にはあるよ」


「な……!?ヒナ、そんな裏設定が……!?」


「いや、ウラセッテイっていうのは良く知らないけど……私の種族、忘れた?」




ヒナの種族?


そんなものずっと前から話して…………………、



…………あ。




「……サキュバス!」


「もしかしてお兄ちゃん、忘れてた……?」


「いや、忘れてたというより、当たり前すぎて意識していなかったな……サキュバスといえば――」


「そう、私は他人の夢に入る事もできるし、人を入れる事もできるの。『開放され、その体を休めよ、《安息リラックス》』」



「う……ねむい……です」



眠りに落ちるユユ。本来ならこのままつれて帰っても良いが、

どこかで拘束が外れて戦闘になってはたまらない。危険ではあるが、ここで決めてしまわなければならない。



「本当は私も一緒に行きたいけど、夢の中に入ったら意識を失う。

お兄ちゃんを守りながら、エフィールちゃんを見張っておくね」


「わかった。俺はどうやって夢に入ればいいんだ……?」


「準備はいい?お兄ちゃんも寝るだけ。私が夢を繋げるから――『開放され、その体を休めよ、《安息リラックス》』」



「あっ……」




この 感覚は  久しぶり―――……




そうして俺の意識は薄れ、

暗闇に落ちていった。

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