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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第五章 機械仕掛けの神
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変容のハルモニー




「……『惑わし』、この二人にどこまで話した?」


「トーラス君にはまだ何も話してないけど……、お兄ちゃんは大体知ってるよ」


「そうか、面倒だな……」



ぬるり、ぬるりと形状を変えながら、『変容』のハルモニーは複雑そうな顔をする。




「ま、魔人、十傑……!?」



トーラスがわなわなと震え、腰を抜かして後ずさっている。

……しまった!?ここまで来て何も説明してなかった!


「トーラス、ここからの説明、かなり長くなる上にハードだし、

これ聞いたら多分もう後戻りできなくなる感じだけど大丈夫か……?」


「うーん……できれば聞きたくないんだけど、今回の件は僕がきっかけみたいなところもあるし……うん、聞くよ……」


「それでこそトーラス!流石頼まれたら断らない男!!」


「称号が不名誉だ!?」





―――そして説明する事数十分。




「え、ええっと……ヒ、ヒナさんが……魔人十傑……?『惑わし』の……?はい……?」


「理解してくれたみたいだな……」


「イヤ、全く理解できてないんだけど……ええ……?確かに半端じゃない強さではあるなあとは薄々感じてたけどさ……」


「そして先ほどサリンジャーと名乗ったあの女も魔人十傑だ。『叡智』のサルガタナスという」


「はわわ…………」


「トーラス!?気を確かに!キャラがおかしくなってるぞ!?」




―――




やっとトーラスが落ち着いた。



「ヒナさんは魔人十傑、ユユさんは竜の棲む島のエルフかあ……何だかすごい取り合わせだね……。

さらにはもう終末兵器とか女神の神託とか何がなんやらだけど……とりあえず今回の件は世界の危機って事でいいのかな……」


「流石!飲み込みが早い!」


「トーラス君勉強できるから飲み込み早いね!いいじゃん」


「あ、ありがとうございます……」



よっこらせとハルモニーが少女の姿になりながら腰を下ろす。



「さて、それでは話を再開しよう。そも、この件に関しては以前から我々魔人十傑が解決すべき命題として与えられていたのだが……、

おそらく今が好機であろう、という事だ」




かりかりと地面に図を書き記す。




「好機……ですか?」


「ああ。手札が揃った……というべきか。以前から所長の動きには目をつけていた。我々が所長の計画を知ったのは2年ほど前だ。

3度目の……いや、学校がらみでの失踪事件の3度目、か」


「ねえ『変容』、貴方と師匠ならあの『所長』とやらもすぐ殺せたんじゃないの?どうして二年も泳がせるような真似を?」


「関係が洗い切れなかったからだ」


「関係……」



なるほど。誰かに情報を共有していたら、下手に所長を殺す事によってそいつの神経を逆撫でしかねない。

相手が終末兵器を完成させていない事、他に情報共有者がいない事を確実にしなければならない、って事か。



「あの研究所は所長一人で作れるものではない。おおよそパトロンがいる事は理解していた。

それを調べるべく、『叡智』は裏社会から、私は表社会から奴の足取りを辿った。

そして『失踪事件』が奴らと深い関わりにある――、いや、もっと正確に言えば、

奴らは『失踪事件』のたびにメンバーを補充していたという事だ。王都での失踪は3度等ではない。

学外の人間も含めれば数十回にも及んでいる」


「そんなに……!?」


「そうか、だから先生は失踪事件に詳しい、メリーベル先輩がいる古代魔術同好会へ……!」


「いや、それは違う。何となく顧問は学院生と仲良くなれそうだったからだ。メリーベル君とは……学院生のフリをして会っていた事もあったが、

このままでは彼女も巻き込みかねないと感じてね。距離を置くために顧問という立場に成り代わった」


「ん、それって……」



――「もしかしたら……彼女に、ハルに会えるかもしれないもの……!」――



「……ハル!?」


「どうした?何故呼んだ?」


「ええ!?先生がハル!?マジで!?」


「ちょ、ウィード君どういうこと!?」


「メリーベル先輩が言ってた、3度目の失踪事件の被害者だよ!友人がいなくなった、って言ってたけど……学年までは言ってなかった。

つまり正体不明の友人として度々メリーベル先輩と会っていた先生……いや、『ハル』がこの人なんだよ」


「ええええ!?」


「そうだが……」


「あっさりしてる!」


「お兄ちゃん結構細かいとこ覚えてるんだね……」




まさかの展開である。

こういう状況で、生き別れの友人とかが出てくるのはよくあるが、

まさかスライムで魔人十傑で先生とは……。




「しかし何故、黒髪の少女の姿に……?」


「人間は年下の女性を見ると油断する習性があるようだったからな。利用させてもらった」


「打算的だった」



メリーベル先輩……ハルさんは見つかりましたが、

これを連れて行っていいのかはわかりません。



「ふふ、そうだ。私が彼女と離れて……エドワード・アレクサンダーとして教諭になってからだな。奴らの動きが活発化したのは」


「活発化?人攫いをする時点で既に活発だったのでは?」


「まあ確かに。ただ設備が拡充したと見える。我々も多重に張られた結界やらのせいで奴らの拠点を探せなくてな。

予定を変え、『叡智』に技術員として潜入してもらう事になったという訳だ」


「それがサリンジャーって事か」


「ああ。そして教授と呼ばれる程だ、おおよそ拠点も把握できている頃だろう。頃合だ。

最後に王都内のパトロン……支援者を探す必要があったが、それはお前が一役買ってくれたようだな、来訪者」


「あ、あーー……」


「ウィード君、何かやったの?」




――そう。ここに来て早々、エメリアのお付の問題解決のために共食カニバリィと戦った時。

その際に現れたのが『赤装束』の面々だった。


赤装束の一人を捕らえ、ヒナの洗脳によって秘密を喋らせた結果、支持したのは王都の権力者ルイドス。

現在は城内の牢獄に捕らえられていると聞くが……。




「全員洗えたわけではない、ないが……叩くなら今だろう。ちょうど当面の問題解決に必要な人材が揃ったと見える」


「必要な人材、ですか……?」


「ああ、奴らの謎の『自動人形』だが、アレは中々どうして魔術への耐性が高い。しかしながら物理攻撃にも耐性があるようだ。

攻略は困難だろう。しかし来訪者よ、お前はアレを知っているな?」


「知ってるも何も、俺のいた世界では普通にあったものだし……」


「お兄ちゃんの記憶で見たことあるかも、魔術なしで動く鉄人形……」


「アレは俺達の世界ではよく……『ロボット』とか言われてるものだと思う。最初はサイボーグか何かだと思ったけど。

所長は『アンドロイド』とか呼んでたって事は、自立思考型じゃないかな。AIが積まれてるのかも」


「アンドロイド……?ロボット?サイボーグ……?エーアイ……?」


「お兄ちゃん、私達はそういうよくわかんない言葉並べられても分からないよ……」


「いや、もう単純な話をするなら、あれはそのまま鉄人形でいいぞ。おそらく魔術的な要素が込められているだけで……

俺の『二律背反』が入ればそのまま壊せそうだな。いくら魔術でカスタムしているとは言え、結局はICのはずだ。

燃やせば壊れるし、水でも壊せる。殴って壊せるかどうかはわからんが、叩けば不具合は出るだろ」


「結構対策は多いんだね」


「むしろそっちはトーラスのほうが強いかもな。一体回収してトーラスに調べてもらえば、こちらの兵隊にできるかも」


「そ、そこまでできるかな……!?」



おそらくできるだろう。

トーラスの技術は傍から見ていても優秀なほうだと思う。これが成績に反映されないのはいささかかわいそうと感じてしまうくらいだ。

「学校では評価されない項目」って奴なんだろうな。



「あとは『惑わし』、お前がいてくれるのが心強いな」


「私?」


「ああ。奴らは謎の洗脳魔術を使っている。長時間効力が切れない上、解除系の魔術が効かなかったようだ。

あのサルガタナスの解除が一度失敗したというくらいのものだ。かなり高等な魔術なのだろう」


「それ、本当に魔術かな」


「……何?」


「洗脳、催眠術……映像を使ったものはこっちの世界でもいくつかあった。

解除の魔術ではそもそも意味がないかもしれない」


「……なるほど、魔術ではなく、技術の一つというわけか」



奴は間違いなく現代技術に詳しい。心理学の中には相手をコントロールする技術もある。

サブリミナル映像による刷り込みの他、特定の行動や映像によって洗脳するやり方もある。

こちらの世界で一からロボットを製作できるほどだ、生半可な知識ではないだろう。

サルガタスではないが、『教授』と呼ばれてもおかしくない立ち位置か。



「ユユさえ奪還できれば……、大分有利に戦えると思う」


「件のエルフか。すまないな、助けられず……」


「いや、先生は悪くないよ。敵の戦闘力も未知数だし……今こうして情報をもらえているのがありがたい」


「そう言ってもらえると助かる。ああ、この姿の時は『ハル』と呼んでくれ」


「わかった、ハル。まずはユユ達の奪還……それだけを目標にしよう。

敵の全滅は厳しい。何より所長の能力が未知数すぎる」


「どこかで師匠と合流できるとありがたいよね」


「確かに……」




そうして、俺達はユユ達を奪還するべく、作戦会議を行うことにした。

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