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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第四章 30歳から始める学院生活
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アンドロイドは世界統一の夢を見るか


――周りを取り囲む幻影を次々と斬りとばす。


流石のサルガタナスの顔にも焦り……ではないなアレ、何だあの微妙な表情?


次のセリフ忘れましたみたいな顔するな。



「師匠は『叡智』だけど……、別に演技が上手いとかじゃないからね。むしろ人の表情とか伺うの下手だし」



華麗に右腕から出した魔力の剣で幻影を吹き飛ばしつつ、ヒナが教えてくれる。


ある程度斬り飛ばしたら横を抜けていった方が良いのだろうか。



「ウィード君、あんまり時間をかけると見失っちゃうよ!」


「確かに!向かうか!」



「あっコラ!待て!……うーん、もうおらんかの?」



周囲を確認しながらセリフを紡ぐサルガタナス。叡智なのに結構雑な対応である……。





「……気をつけろ、死ぬなよ」




通り過ぎざまに、サルガタナスがそう言った気がした。







―――





「おにいちゃん!こっち!」



そう指されたのは最初に出てきたところとはまた違う砦である。

おそらくサルガタナスの拠点の一つかと思っていたのだが、この様子では違うらしい。




「げぇ!もう着たのか!?」


「はぁ~、教授を撒いてきたっスか、やっぱりタダもんじゃねぇッスねぇ……」




先ほどの赤装束たちはいるが、ユユ達の姿がいない。

……遅かったか!




「ユユ達は中か!?」


「ああ!そうだ!」


「ボルドーさん、そこ正直に言わなくてもいいんですよ」


「いや、こいつらに嘘とか無駄だろう……なんとなく」




ヒナの情報を知ってか知らずか……ボルドーと呼ばれたリーダーらしき男の発言は的を射ている。


ヒナのチャームがあれば嘘等無駄なのだが、使う手間が省けたというか、ある意味防いだか?


こちらとしては困惑や魅了など、十傑としてのボロが出るような技はあまり使いたくない。


王都から離れているとは言え、十傑である事がバレたら王都神聖騎士団との前面戦争になりかねない。




「ありがとう、それでは……力ずくで通らせてもらうぞ!エ……」



「待ぁぁぁーった!!」



!?



いきなりなんだ?それで攻撃を止められると思っているのか?


それともまさか、他に手がある―――、



「ウィード君!何か来るッ!」



「……!?」




思わず後ろに飛ぶと、俺達の目の前に勢い良く()()()が飛来してくる。




その鉄の塊は……この世界観に似つかない、鈍色の体躯、そしてむき出された



モーター、



ギア、



バックパック。




ギラリと光る赤い眼は、LEDか何かだろうか。


怪しくこちらを睨みつける「それ」は、おおよそ俺の知る異世界ファンタジーには登場し得ないはずのものであった。




「さ、サイボーグ……!?」




『その呼び方は正しくないね、()()()()()()()()()()




「しゃ、しゃべった……!?」



俺に続いて、トーラスも驚きを隠せないでいる。


ヒナでさえ、あまりに異質なそれに眼を奪われ、腰が退けている。



電話越しのようなノイズがかった声が聞こえる。


この口調、そしてこの態度――――、こいつは、()()()()()




『こいつは自立駆動型兵器、ロボット、アンドロイド、ヒューマノイドと呼ぶのが正しいよ。

サイボーグは人間の体を一部機械に置き換えたものだからね』



「お前は……!?ユユをどうするつもりだ!」



『うむ、自己紹介がまだだったね。私の事は所長とよんでくれたまえ。この研究所で世界をよりよくするための研究をしている』


「世界をより、良くする……?」


『ああ。この世界は争いが多いと思わんかね』


「いや、まあ、それはそうだろ……。そういう世界なんだし」



『   違   う   !!』



キィィン、と、ハウリングがするほどにスピーカーから音を響かせる所長。



『わかるかね!この世界はおかしい!どこもかしこも略奪だの、戦争だの……そんな事をやっていて国が発展すると思うか!?

いやしない!確かに戦争が科学技術の後押しをする事はあった!だがそれはなくても良いものだ!平和に統治された世界であっても、科学技術の発展はなるはずだ!』



音割れするほどの大声で力説する所長を前にして、俺は思わず剣を降ろしていた。


―――正しい意見だ、少なくともそう感じてしまっていた。



『だからこそ私は立ち上がった。神などという非科学的なもの、どうしたって信じられん。この世界は人によって統治されるべきだ。

私は魔術というこちらの世界式に科学を学び、より強固な技術体系を得ることができた』


「……いや、この世界になら、神はいるぞ」


『いない!』


「何故そう言い切れる!」


『君は本当に現代人か!?中世ヨーロッパあたりで思考が止まっているんじゃあないだろうな!神などあるか!

この世界に存在するものは全て計算によって導く事ができる。ラプラスの悪魔は神が作り出した魔物ではない。全てを計算し尽した極みに立つ人間なのだ』



確かに俺も神はいるなどと思ってはいなかった。

しかしながら、実際に会って話した以上、いないと言い切ることはできない。

俺という存在が例外であるとしてもだ。




「所長、貴方の言ってる事はおおよそ正しいんだろう。きっとこの世界の争いは止められるべきだ。

…………だが、ここを通るために、潰させてもらうぞッ!『魔術付与(エンチャント)』、『二律背反(アンチノミー)』!」




『………野蛮な』




地面を蹴り、素早く距離をつめる俺であったが、

途中で勢いを殺される。


その原因は自分の右足にあることを、数秒経ってから気がつく。



「ああ……あ゛ッ!!」



右足の太ももから大きく出血している。

恐らく銃弾を受けた右足は、既に動かせないほどの痛みと熱さを持つ。



「お兄ちゃん……!!こ、の……!!『困惑コンフューズ』!!」



ヒナの困惑コンフューズが発動するも、所長は何事もなかったかのように平然としている。


ヒナにはわからないかもしれないが、アレは機械兵であり、所長本人ではない。


脳が在る、意識を持つ動物にしか困惑コンフューズは判定がなかったはず。




「う、そ……!?」



ショックで次の詠唱すらできていないヒナに、なんとか声をかける。



「ヒ……ナッ!アイツにそれ、は……効かない!トー、ラス……頼む!」


「わ、わかったよ!行け!騎士よ!あの変なゴーレムを倒せ!」



白銀の騎士が機械兵に向かって突撃する。


その隙を見て逃げようとするが、足が動かず、這うような情けない格好をして距離を取る。




『―――だから、無駄だと言っている』




どのような馬力を備えているか知らないが。


白銀の騎士は機械兵の蹴り一発で吹き飛ばされる。




「流石所長だ……!圧倒的すぎる!」


「最初から所長が来てくれればよかったんですけどねぇ~」




赤装束のやんやが聞こえる。お前らはギャラリーかよ……いいご身分だな!




『君たちも研究所の一員になってもらいたい。なあに、少し特殊な映像を見てもらうだけさ。害はない』


「それを日本語で洗脳って言うんだよ……!」


『そういう口が利けなくしてやろう』



ギュギッ、というモーター音と共に、

突如目の前に迫る機械兵。






――――瞬間




地面が隆起し、機械兵を吹き飛ばす。



20mほど先に転がる機械兵と、広がる土煙。



右足に暖かい感触。




「走れるか!立て!」




凛とした声が響く。




右足は―――、動く!




「今は一旦引くべきだ!行くぞ!」



やわらかい手に引かれ、俺達は走り出す。



「でも、ユユが……!」


「今深追いするべきではない!お前達まで捕まったら、誰が助けに向かうというんだ!あれの攻略法を考えてからでも良い!」



このスキを突いてでも、研究所に押し入りたい気持ちではあったが、


俺は声の主を信頼する。



「ヒナ、トーラス!……すまん!」


「わかった!」


「お兄ちゃん、大丈夫!?」






―――――




10分くらい走ったであろうか。俺達は洞窟の一つで身を潜めていた。


黒を基調としたローブ、肩にかかる長い黒髪。ツンとした目つきからは意思の強さが感じられ、ルビーの様な真紅の瞳には美しさがある。



「――無事か」


「あ、はい……ありがとう、ございます?」


「いやいい、それよりも攫われた生徒達を奪還せねばならん」



きびきびとした話し方は、おおよそ少女のそれに似つかわしくないものであったが、

不思議と調和しており、個性の一つとして受け取れた。



「ん……?この、魔力」


「ヒナ、もしかして知り合い……?」


「や、何か知り合いに似ているというか……感じたことがあるというか……」


「リーズベルトさんの知り合いなんですか?」



「――いや、知り合いも何も、先ほど会ったばかり……あ、そうか」




ぬるり――という音がして。


いや、音がしたような感覚と、黒い得体の知れない何かがうごめき、形を形成する。




そして現れたのは、忘れもしない――、




「エドワード・アレクサンダー!?」



「先生をつけなさい」


「あ、スミマセン……」


「いや、すまないな、この姿はまだ『奴ら』に見られてはいない。そのため先ほどの――」



また 「ぬるり」という感覚と共に、姿を変える。



「この少女の姿であるほうが都合が良かったのだ。こちらならば一度、見られている。

もう何度見られようと同じだ」



「エドワード先生、貴方は……変身の魔術が使えるんですか?」



トーラスがおそるおそる聞く。しかし、変身の魔術、とはどういうものなのか。

そういえばドラクエでも似たような呪文はあるが、この世界では見たことがなかったような……。




少女はばつが悪そうに呟く。




「あー……そうか。そういう……。すまない。一から説明する。私は『エドワード・アレクサンダー』であって()()()()()()




体の一部をぬるり と変形させ異形の首と頭を形成する。




「私の名前はハルモニー。魔人十傑が一人、『変容』のハルモニーだ。よろしくな、学院の生徒と、来訪者、後は『惑わし』か」



「あ」




「ええええええ~~っ!?」



俺とトーラス、二人の驚きがこだまする。


ヒナはというと「なるほど」みたいな顔をしていた……。

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