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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第四章 30歳から始める学院生活
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失踪事件の謎を追え ②






事前にユユ達が放課後どこにいるかは聞いている。あの事件以来警戒をしておいて正解だった。

ユユ達はいつも通りならば空き教室にいるはず、そしてその空き教室からここは近い!


「ヒナ!魔力探知できるか!?」


「今やってる!」


「ま、待ってよウィード君……!足早過ぎない!?」


「悪いトーラス!もう遅いかもしれないんだ……!多分第六あたりの空き教室にいるはずで……」



「……いない!」


「何!?」



ヒナの言葉に驚き、足を止める。


既に遅かったという訳か……!?



「お兄ちゃん、おかしい!ユユほどの魔力が探知できないわけがない……!移動してる!間違いなく!」


「な……!どこに行った!?」


「ちょっと待ってね……逆に魔力が封じられているなら……『ねじれ』があるはず……」



と、足を止めた俺達に追いつくトーラスと、古代魔術同好会。



「私も連れて行って下さい!」


「ええ!?」



いきなりの提案である。

おそらくこの先では誘拐犯達との直接対決になると思うので、なるべく連れて行きたくはない……が、



「もしかしたら……彼女に、ハルに会えるかもしれないもの……!」



ぜえぜえと息を切らす同好会の面々を見て、なんとも断りづらい。

と、ヒナが俺の前に出て、冷淡に言葉を紡ぐ。



「メリーベル会長。お気持ちは嬉しいのですが……この先、貴方達は足手まといになると思います。

それでも良ければ、一緒に来てください」


「……ッ!」



一切の遠慮のない発言だが、逆にヒナの優しさが見て取れる。

実際にターゲットにされているトーラスとは違って、同好会の面々は無関係だ。


ヒナは恐らくこういった状況も予期していたのかもしれない。

入学試験、決闘の儀とヒナの実力を否応なしに見せ付けられてきた今では、自分達との差は明白である事がわかるだろう。



「……ごめんなさい、出過ぎた真似、でしたわね」



その表情は陰り、最初の快活な少女としての面影はない――、


しかしながら、その眼はまだ力を失っていない。



「ですが!私達にしかできない事もある……はず!ご学友の所まで案内致します!わたくしの勘が当たっていれば、ですけれど……」


「えっ……!?メリーベル会長、何か知ってるの!?あっいや、ご存知で」


「ヒナ、別に言葉遣いあんまり無理しなくていいと思うぞ」


「ええ、本来ならば敬語など不要ですのに……リーズベルトさん、ご学友の……ユユさん、でしたわよね?

どうぞ『魔力探知』をお試しになって?」


「ええと……さっきからやってるんだけど、うまくつかめないというか……なんだろ?遠くないはずなんだけど」


「遠くないのに、探知できないの……?ヒナさんが?」



確かに、魔力の扱いに長けているヒナが、大きいはずのユユの魔力を探知できない、というのもおかしな話だ。

放課後別れるまで――、つまり『さっき』までは一緒にいたはずだ。そう遠くには行ってないはず。



「リーズベルトさん、試しに―――、『下』に意識を向けて頂けるかしら」


「下?でもここは一階で……まさか!?」



すぐさま地面に手を着くヒナ、魔法陣が地面に浮かび上がる。



「お兄ちゃん!わかったよ……多分ユユっぽい……大きな魔力が、『地下で移動してる』!」


「なっ……!?」



「ここからは移動しながら話します、着いてきてくださいませ!」



そう言うと同好会の面々は第六空き教室とは全く違う方向に走る。

こちらは大図書館の方向だ。



「元々古代魔術は、我々現代人には難しい魔術なの。当時の資料も断片的だし、中には魔術のために数百年以上前の魔力が篭った、

魔結晶等を用意しなくてはなりません」


「そこで私達同好会は、そういった術具がなくてもできるようなパワースポットがないか、学校中を探し回っていたんですよ」


「なのですぅ」



大図書館横、第二資料室――――――、その部屋の隅の一角に、それはあった。



「……魔法陣!?」



「そう。ここだけ魔力のゆがみがあった。私達みたいな変なの以外は……こんな所、調べて、魔術を起動したりしないはず」



コン、コンとトーラスが床を叩く。木造のはずの床板から帰ってくる音は、さながら金属の様であった。



「ウィード君、これって……」


「そのまさかみたいだな……。『魔術付与(エンチャント)』、『二律背反(アンチノミー)』」



勢い良く木剣を振り下ろすと、ぽっかりとそこには穴が開き、梯子が地下へと続いていた。



「……ローツレスさん、貴方のそれ、何?」


「え?何って……『二律背反(アンチノミー)』ですけど」



ぽかんとする会長たちに説明する。


二律背反(アンチノミー)』自体は、教科書に載っている普通の魔術のはずだが……?



「あー……お兄ちゃんはわかってないみたいだから私が説明するね。これは『二律背反(アンチノミー)』が付与された魔剣なんです。

己の魔力をむき出しにして戦う代わりに、自分の魔力容量以下のものを片っ端から打ち消せる、反則みたいなもの」


「反則だったの!?」


「うん。普通の『二律背反(アンチノミー)』はもっと簡単なもの。変化がかかった対象に触れて詠唱して、

変化を解くとか、そういった使い方がされるの。ここまで暴力的でなんでもアリなのは、お兄ちゃんの魔力があるから」


「しかしここにかかっていた封印も……三工程はかかった強固なものでしたが……その工程さえ無視できるのですか……?」


「そうみたい。お兄ちゃんにはきっと独自強化が入ってるんだと思います。例えば……魔法の存在しない世界で人生を送った経験があるとか……。

それくらいの事ができれば、『魔法』自体に対しての『存在否定』ができたりするってケースもあるとか……」



「……え?魔法のない世界?ふふっ、面白い事をおっしゃるのね、リーズベルトさんも」


「冗談ですよ。うふふ」



……。


俺のいた世界では、魔法は完全に御伽噺の世界であったのだが……。


なるほど、俺の二律背反(アンチノミー)がやけに強いなと思ってたのはそういう訳が。



「でもお兄ちゃん、絶対に無駄打ちしちゃダメだよそれ。無駄にでかい魔力で消費させられたら消耗するのはこっちなんだから。

普段は普通に戦ってね」


「お、おう」


「それじゃ、皆さん、行ってきますね。案内してくれてありがとうございます」


「いえ。こちらこそ……お願いしますわ」


「リーズベルトさん!」



あまり喋らなかった眼鏡のおさげ、コレットが大きな声を出す。



「その、会長のご友人を……、見つけてください……!」


「コレット……、何を言って、彼女はもう、二年前に……」



「いいや」




期待を持たせるつもりはない。


下手な期待はかえって失敗したときのダメージが大きい。


しかし、これは言っておきたい。あくまで予想、推測で、かつ――、もっとも可能性が高いからだ。




「奴らは殺人ではなく誘拐という手段を使った。ならば目的は一つ『生きた人間』が必要だったはずです。

現状洗脳されたか、改造されたかとかっていう物騒な選択肢はありますがきっと……生きている可能性がある」



「――――!」



不安と恐怖はあるものの、彼女の口元はわずかに綻んでいた。



―――――



地下は暗かったが、所々に光る石があったため、一応足元は見えた。

まあなくてもヒナがなんとかしてくれたとは思う。



「意外と広いな……」


「今日は色々準備してきたけど、必要なかったのかな……?」


「まだわからないからな……警戒は怠らないように……」



「――、お兄ちゃん、構えて!」


「ッ!」



素早く剣を構えると、無数の魔力矢のようなものが真正面から飛んでくる。


殆ど交わせず、弾き飛ばしたりもできなかったが、とっさにヒナが展開してくれた防護壁のおかげで事なきを得る。



「――ななな!?」


「トーラス!起動だ!」


「わ、わかったよ!」



先日の銀騎士が再度登場する。記憶を失ったものの、作り方を忘れていなかったトーラスは、

新たにプレートをいくつか調達し、今回のようなピンチのための守りとして導入したのだ。



一旦間をおくかと思いきや、防護壁を力ずくで破ってやるといわんばかりに矢の雨が降り注ぐ。とっさに壁にかくれてやりすごすも、

壁ごと削り取ってくるほどの凶悪な攻撃だ。


このままではこちらの防御が削りきられるのは時間の問題なのでは……!?



「ひ、ヒナ!」


「うん!まかせて!いけっ!!お兄ちゃんボム!!」



「はあああーっ!?」



ヒナに蹴り飛ばされると、腰辺りから風による推進力がついているのか、

俺は一直線に矢が飛んできた方へと飛ばされる!?


思わず剣を構えて矢の雨の中を進み―――、



「きゃあっ!?」



なにかと、ぶつかる!



「な、何!?アローレインを突破したっていうの!?やめっ……な、何、何なの!?」


「それはこっちのセリフだ!」



バチン!と手に持った杖を剣で弾き飛ばす。


熟練の魔術師かとおもったが、案外戦闘慣れしていないようだ。


というか、見た目は普通に学生のようにも―――、待て、この服装……!



「赤装束!」



「ふん、何?私達の事、少しは知ってるみたいね……?でもここでお終い!『隆起せよ――』」


「遅いぞ」


「ぎゃんっ!?」



目の前でちんたら詠唱をするのはアホのやることではないだろうか?


こちらは職業・剣士の前衛ぞ……?



「くっ……!こんなのが来るなんて聞いてない!」



「あっ待て!」


マントを翻し逃げようとする―――よりも早く。ヒナの詠唱が完了する。



「『その枷は絡みつき、拘束する。《捕縛バインド》』」



「ぎゃんっ!?」


「捕らえたぞ。さて、洗いざらい話してもらおうか……?」


「や……やめて……何する気、な、慰み者にするの!?やめてぇえ~~!」



しないよ。



「ウィード君、やったのかい!?」


「いや俺殆ど何もしてないけど」


「とりあえず先すすもっか。あ、その前に……」



「え?え?眼がこわい、なに……」




――――



「そう。私達『赤装束(レッドクロス)は、正しきより良い世界のための世直し団体って感じかな」



ヒナのオリジナル《愛魅了チャーミング》によって完全に下僕と化した女性。

パンジー・モルトングは、元々この魔法学院の生徒であり、2年前の失踪事件の被害者である事がわかった。


これで会長が言っていた「友人」も生きている可能性が高いとわかったのは収穫だ。



「んー……私も計画についてはあんまり詳しくないよ。指定された学生達を攫ってくるだけだし……。

もう他のメンバーは先に行ったよ。もう『研究所』についたんじゃないかな。あそこで魔術刻印が終われば私達の仲間になるし」


「待て、色々突っ込みたいんだが――」


「お兄ちゃん、やっぱりあんまりおしゃべりしている暇はないみたい」


「ひい……!?早く行かないと皆が大変な事に?」


「失礼ね!大変な事ってなによ!皆、所長の素晴らしいお考えを理解するだけなのよ!」


「もう完全にやべー奴じゃねえか!」



軽く聞いただけで学生をさらって洗脳している事がわかる。

しかもこの感じ、手馴れてやがる。二年目以降は失踪者が出なかったはずだが……。



「ぐぬぬ……所長のお考えを理解できないなんて……時代遅れの錯誤者はこれだからっ!」


「むしろどっちが時代遅れの……ん?」


「どうしたの?お兄ちゃん」


「いや……いい、早く行こう。流石に間に合わなくなったら困る」


「そうだねっ」



「ウィード君、これどうやってしまうんだっけ!?」


「……仕舞わなくてもいいんじゃないか?運んでもらったら?」


「なるほど!?」




進みながら、少しずつ先が明るくなっているのがわかる。


この道はどうやら外に続いているようだが……どこに続いているんだ?


再度俺達は走り出す―――。

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