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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第四章 30歳から始める学院生活
42/71

古代魔術同好会へようこそ

――――




「き、記憶操作!?」


「声がでかい」


「あ、ごめんね……」




教室では誰かに聞かれているかもしれないため、

一旦中庭の空きスペースにて、トーラスと昨日の件について話した。




「トーラス、銀のプレートについてどこまで覚えてる?」


「プレート……?ああ、確かに、皆と一緒に作って……あれ?あれって、もう、渡したんじゃなかったっけ……?」


「一応記憶はあるみたいだな……そいつが今回、敵に持ち去られたんだ」


「嘘!?」


「本当だ」


「……記憶、勝手に操作されたって言うより、『自分で勝手に補完しちゃってる』みたいだね」




この時代にはまだ脳科学等は発展していないが、ヒナは中々鋭い推測をする。

おそらくその通りだ。脳は記憶の混濁が起こったとき、ほかの記憶を使って勝手に補完したりする事がある。


たとえばテレビCMや広告で見たものを実際に見たり触ったりしたと誤認したりするのがそれだ。

夢の中で出てくる景色や風景も、実は実際のものではなく、ドラマからだったりする事がある。



「また作らなきゃだなぁ……とほほ」


「そこなんだよな」


「……そこ?」


「なんであいつらは、あそこまでしてトーラスのプレートを盗んでいったのか」


「……確かに、僕のプレートなんて取っても大して強いものじゃないような」


「そうだね。簡単に起動もできたし、そう強力な魔術も付与されてなかった。何より銀って時点で限界がある」



しかしながら、あいつ等は学院に潜入し、授業に紛れ込み、

一人を犠牲にして、さらには空間隔離や、魔術道具の妨害魔法陣、

そして黒い騎士を召喚する魔法陣まで使ってのけた。


どう考えてもプレート一枚に対してアレは赤字だ。

そもそもトーラスは今回銀に魔術を付与したが、ミスリルのプレートを今も持っている。

盗むなら絶対そちらのほうが価値が高い。


目的はプレートそのものじゃない、って事か……?



「でも、お兄ちゃんの話だと、黒幕が出てきてプレートを回収してたんだよね。

お兄ちゃん達を殺しもしなかったみたいだし、やっぱプレートが目的であってるんじゃないかな」


「確かに……」


「ううーん……僕はなんかそのレベルの相手に唐突に何故か狙われてるのが非常に怖いんだけど……」


「いやまあ、これいずれ通る道だし」


「ごめんねトーラスくん、諦めて!」


「軽い!」


「これからはトーラス、攫われないように注意しろよ」


「注意しろってレベル!?」



そういわれても、四六時中見張っておくわけにもいかないので、

あくまで自衛メインで頑張ってもらいたい。ガンバレ、トーラス。



「は~……失踪事件の話もあるし、本当に怖いなあ……」


「待ってくれトーラス、失踪事件?」


「え?うん。君達が来る前の話だよ。何度かあったんだよね……」


「詳しく聞かせてくれないか?」


「や、僕もそんな詳しくないけど……」




―――




「失踪事件の話ですか?」




というわけで、学内の事情に詳しそうなガーネット先生を訪ねてみた。

彼女も敵だったら詰むには詰むが、まあ可愛いしヒロイン寄りだろうという判断だ。


一番可愛いのが元々最強の敵でしたみたいなのは今おいておこう。



「珍しいですね……何かあったんですか?」


「いや、何かあるかもしれないんで来たという感じですね」


「何かあるかもしれない……!?」



詳細はあまり話せないが……先生は事件の目撃者でもある。

記憶も消されてないようだ。



「ああ、先日の事ですか?大変でしたね……不審者が進入したって話ですけど」


「あの件が、その昔の失踪事件と関係あるかもしれないんです」


「な、なるほど……私もあまり詳しくはないのですが、確かに、この学校では過去数回、失踪事件が起こっています」


「…………」


「状況も様々、時期や、性別、年齢もばらばらだったので、完全に別の事件として処理していましたが……

ローツレス君は、それが同一人物の犯行だと考えているんですね?」


「そういう事です。かなり長期的な犯行で、相手は何らかの目的があってやっています」


「目的について、何か思い当たることがある顔ですね……?」


「…………はい」


「……わかりました。情報室の資料を一部提供します。決して、他の生徒には見せないようにしてくださいね?」


「ありがとうございます!」




―――




資料は魔術によって封印を施されていた。


解術の都合で、図書室の閲覧場所でしか見られないというのは少し辛いが、まあ見られないよりマシだろう。



記録されていた内容は3件。



2年前の失踪事件、5年前の失踪事件、そして8年前の失踪事件だ。

失踪していた人物も、場所も、人数もバラバラだが、全てこの学院関係者である事だけが共通している。


学院関係者であるという事は、魔術の適正がある事、そして家が裕福であるか……そうでないにしても学院に通うくらいはできる立ち位置にあるという事だ。



「関連性は見出せない、か……」


「だね……僕も去年の入学だし……2年前の件すら噂で聞いただけだから……」


「上級生の人なら知ってるかもね」


「あまり聞き込みは行いたくないが……仕方ないか」


「上級生の人と話せる場所……うーん、どこだろう?」


「……あ」


「どうしたヒナ、何か思いついたのか?」


「うん、あるかも、上級生がいて、ついでに古代魔術を知ってる人についても調べられそうな場所……」




―――





「見学に来ましたー」



「はいはーい、新入生の人?ゆっくりして……いッッ!?」


「会長!いきなり大きな声ださッ……!?」


「はわっ、はわわわわッ!?!」




「ヒナ、いいのか、阿鼻叫喚の有様だぞ」


「いつでも見学に来てね!って強く言われてたから……本当にいつでもいいのかと思って」




古代魔術同好会。そういえばこの学院にはそういった会もあったのをすっかり忘れていた。

もちろんこれ以外にも様々な同好会がある。同好会は将来的な横のつながりのためにも役立つ。


ただ、ここ古代魔術同好会は、かなりマニアックな部類らしく、会員数も少ない。

今日出席しているのは3人だけのようだ。



「り、リリリーズベルトさん!きっ来てくれたのね!かかか歓迎するわッ!

私は会長のアンヌ・メリーベルよ!古代魔術には詳しい……つもりだったのだけれども最近あんまり自信ないの……」


「会長!?早速自信を失わないで下さい!新規会員獲得のチャンスですよ!?

あ、私はコレット・クレンドル、3年なので……貴方がたよりは先輩ですかね?」


「はわわわわわ……」


「はわわじゃない!エマも自己紹介!さ!」


「はわわわ……エマですぅ……」



「ありがとうございます。先輩方。私の事はもうご存知でいらっしゃるかもしれませんが……、

ヒナ・リーズベルト、古代魔術に興味がありまして、先輩方の知見をお借りしたく参った所存です」



「ヒッ!礼儀正しい!」


「はわわわ……!!いいところのお嬢様ですぅ!?」


「会長!エマ!落ち着いてください!私達も貴族!いいところのお嬢様ですよ!?」



「賑やかですねここ……」


「あっ、もしかしてローツレスさんとフィガロスさんですね?ようこそ古代魔術同好会へ!」


「え?俺達の事も知ってるんですか?」


「ええ!リーズベルトさんの交友関係はだいたい!」



ストーカーかな?



「しかし何で、そこまでヒナの事を……?確かに入学試験の時のドラゴンはすごかったかもしれませんが……」


「リーズベルトさんの凄さは四大元素龍などではないわ。あの魔術は難しいとは言え、修練さえ重ねれば習得できる。

そんなものより……、その『底のなさ』がすごいの……!もう!なんというか!すごいのッ!」


「会長、リーズベルトさんちょっと引いてます」


「はっ!?ごめんなさい……」


「底の、なさ……?」


「ええ、我々古代魔術同好会は、当然ながら古代魔術の研究をしている。その中には『古代の魔力を使った魔術』も存在するの。

それ故、古代魔力というヘンテコなものを集めて、使い続けてた私達は……魔力の『色』をなんとなく感じることができるようになったわ」


「確か会長ぉ、リーズベルトさんすごかったんですよねぇ」


「ええ!リーズベルトさんの魔力色は、この時代のどこでも見たことがないもの……まるで百年前に溜め込んだ魔力を使ったかのような……!?

そんな美しくも、妖しい色をしていたわ!先日も決闘も美しくて……アアッ、ヒナちゃ……すき……」




厄介オタクみたいになってる……。

ヒナへの愛情をちょっとこじらせ過ぎだろ。



「…………」



あっ ヒナすごい引いてる……。



「会長!!リーズベルトさんの顔がグレースライムみたいになってます!!」


「あっ、ごめんなさい……」


「ははわはわわわ……」




個性的な三人組なのはすごくわかった。




「ええ~っと……私に興味を持ってもらえるのは嬉しいんですけど……、どちらかといえば今日は古代魔術について興味があって」


「あ、あ、そうよね!そうわよね!エンッ!な、何の話からしましょうか!」


「会長紅茶どうぞ」


「ありがと……」


「まず、古代魔術をどうやって学んでいるんですか……?」


「え?普通に本とか……」


「後は顧問の先生が教えてくれますよね」


「ですぅ。先生は古代魔術の専門だと聞いてますぅ」


「古代魔術の専門……?」


「ええ、エドワード先生は古代魔術の研究においては、王都でも非常に高名な方で……」


「エドワードだって!?」


「えっ?」



エドワード、エドワードという名前だけなら一般名詞としてよくある、良くあるのだが……。




「まさか、その先生は、エドワード・アレクサンダー……、そんな名前じゃないか……?」


「え、ええ……エドワード・アレクサンダー先生であってるけど、それが……?」


「やっぱり……」


「お兄ちゃん、何か知ってるの?」




エドワード・アレクサンダー……いや、アレイスター・クロウリーは俺達でも知っているくらい、

魔術関連では有名な人物だ。


ライトノベルの登場人物としても有名ではあるが、そもそもこの人物は実在した人物。

イングランド出身の黒魔術師……!



……黒幕なのでは!?






「…………ククク、客人かな?」



「……誰だ!?」




「あっ、先生、こんにちはー」


「こんにちはー」


「こんにちはですぅ」




こいつが、エドワード……、いや、アレイスター・クロウリー……!


190cmはあるであろう長身、

白髪の短髪ではあるが、かなり鍛えられているであろう体は服の上からでも察せる。


ヒナの表情を見る限りでも、高い魔力を内包している事は明らか……!!



「―――君達、クッキーは好きかな……?」


「へっ?」


「厨房で焼いたものが在る。口に合えば良いのだが……」


「え?これ先生が……?」


「魔術とは、料理によく似ていると思わんかね。これも修行の一貫なのだよ……ククク」



コト、と机においしそうなクッキーが置かれる。

綺麗に焼きあがっており、一度二度作ったという訳ではなさそうだ。


「ありがとうございます、先生」



きゅ、とブローチを握ってから食べ始める会員達、

ここでは頂きますの代わりみたいだ。




アレイスター・クロウリー。

高い身長に強力な魔力。

威圧的に見える外見だが、その態度からはこちらを推し量るようなものはない。


名前とか元ネタだけみれば完全に黒幕よりなのだが……この男は一体?

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